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第六十話 張角って一体…


 さて、前回から引き続き張角との面談です。

 ジンちゃんかフクちゃんのどっちが良いかな……?

 一応、ここはジンちゃんに任せてみるか……。

 

「成程。張角殿の経緯は理解致しました」

「ハハハ。まぁ、儂も色々とあったんだよ」

「ところで、ちとお聞きしたい事がありまして……」

「何ですかな?」

「蒼天已死、黄天當立、歲在甲子、天下大吉」

「それが、どうかしたのかな?」

「意味が分らないでおります。これは、やはり『漢室を滅ぼし、太平道が天下を取る』という意味ですか?」

「貴殿はどう思うかね?」

「私も当初はそう思っておりました。ですが張宝殿の話を聞くと、どうも合点が参りませぬ」

「ハハハ。そうだろうねぇ」

「私はちと頭が足らぬ故、どうかご教授して頂きたい」

「では、ハッキリと申そう。大した意味はない」

「……は?」

「聞いていなかったのかね? 『大した意味は無い』と言ったのだ」

「……意味が分りませぬ」

「ハハハハ。それで良い」

「……良い訳が無いでしょう?」

「いや、それで良いのだ。下手に儂がクドクドと申したところで、どうせ下々に伝わらぬからな」

「……何故、そんな事を?」

「それは『自分には学がある』と自惚れている連中が勝手に解釈するからだ。それだけの事よ」

「……はぁ?」

「つまりだな。その辺の不平不満を持った民衆を焚き付けるのは、そういう輩だ。それは理解出来るかな?」

「まぁ、何となく……」

「そうなると都合が良いように解釈出来る文言で充分なのだよ。黄帝がどうとかは、本当にどうでも良いのだ」

「……ど、どうでも良い?」

「そうだ。どうでも良い。言葉や思想なんぞは紆余曲折で、どうにも変化するものだしな」

「………」

「ハハハハ。そんな事をぶっちゃけてしまえば、威厳が感じられないだろ? だから小難しい文言を並べ立てる。そういう物だよ」

「……しかし、そんな事を言ってしまうと」

「うむ。バレてしまうと上の者は統制が取りにくい。だから、そんな事は言わない。言う奴は儂みたいな変わり者ぐらいだな」

「………」

「おっと。あくまでだが、ここだけでの話だぞ。だが、主義主張なんて物は方便みたいな物だ。貴殿も為政者なら、少しは分かるだろうがね」

「ええ、まぁ……」

「下々の連中は兎角、権威とやらに弱い。例えその権威が幻想だとしても信じたい連中よ。それで上手く世の中が回るのだから致し方ないがね」

 

 なんかイメージが全く違うんですけどね……。

 因みに途中からジンちゃんは引っ込めました。

 じゃないと暴発しそうなので……。

 

 言っている事が少し無茶苦茶なような気もするけど、元からこういう人なんだろうね。

 ちょいとした反権威的な思想を持った面白い爺さんみたいな。

 それでいて、世捨て人な感じも出しているし……。

 でも、逆に俗人ぽさもあるんだよね……。

 このゲームの世界では、こういう人格って事なんだろうけどさ。

 

 だけどねぇ……。

 こういう性格だから、どう切り出して良いものか、逆に分らなくなっちゃった……。

 かといって、ジンちゃんに託す訳には行かないし……。

 試しにフクちゃんで行ってみるか……。

 そう思った時、張角はまた口を開いた。

 

「それと貴殿は『漢室の為に』と公言しているらしいが、荊南を発展させればさせる程、漢室を衰退させているのに気づいているかね?」

「え? 今、何と?」

「ハハハ。今、言った通りだよ。それに貴殿の下には王儁、蔡邕らも居るだろう?」

「……はい。それが、何か?」

「貴殿は荊南に名士らを、これからも招き入れたいかね?」

「当然です。それが荊南の発展に繋がります」

「そうだろうなぁ。そして、それが漢室の権威の失墜を加速させるだろうよ」

「何故ですか?」

「当然ではないか。民衆らが『名士らが漢室を見限って都落ちし、荊南に逃れて来た』と思うからだ。両雄並び立たずだよ」

「………ああ、成程」

「本当に知らなかったかね? 儂はそれを見越していたと思ったがね」

「……いえ、本当に気づきませんでした」

「朝廷というか、佞臣どもに狙われている名士も多い。張倹、何顒かぎょうらも受け入れるであろう?」

 

 ……その二人は分りません。

 なので、一時的にジンちゃんにバトンタッチ!

 

「しかし、何顒殿は宮中にて何大将軍(何進のこと)と……」

「いいや。先頃、既に官を辞した。そのせいで更に何進と十常侍どもが密になったようだぞ」

「……そ、そうでしたか」

「……して、両名とも受け入れるであろう?」

「当然です。名のある張倹殿と何顒殿を遇しない訳には参りませぬ」

「だろうな。貴殿の下ならば、その両名も喜んで参るであろうよ」

「光栄の至りですな……」

「そして増々、漢室は衰退する。それでも受け入れるのかね?」

 

 ……ヤバい。ジンちゃんが爆発しそうだ。

 ここでフクちゃんにバトンタッチ!

 

「ハハハハ。流石は張角殿だ。いや、恐れ入りました」

「……はて? 急に随分と人相が変わったな?」

「いやいや。気のせいでしょう」

「……ふむ。成程な。そういう事か……」

「何が『そういう事』なのです?」

「貴殿が多重人格であるのが分ったからだ。成程なぁ……。道理で読めぬ訳だ……」

「ハハハハハ。これは手厳しい」

「しかし、珍しいな。多重人格を使い分けるとは……」

「何故、張角殿がそのような事を?」

「儂は一応、医者の真似事もしておるからな」

「しかし、普通は他人や死者の魂魄が云々とかでは?」

「ハハハ。その方が信じられる世の中だからな。あくまで老荘の教えは人生の方便だよ」

「成程。確かにそうですな」

「……ふむ。まぁ、そんな事は良いか。話は逸れてしまったが、用件は何かな?」

「実は陳国の豫州王君から青州牧を拝命したことを告げに参りました」

「それだけではないだろう?」

「はい。印璽は豫州王君も造るようですが、それではちと面白みに欠ける」

「面白み?」

「正式な青州牧の印璽が手に入れば、朝廷も慌てますからな」

「……文挙(孔融の字)から受け取れというのか?」

「張角殿は孔融殿とお知り合いですかな?」

「……以前、宮仕えをしていた時に少しな。そ奴の父、孔宙の家で幾許いくばくか議論した事がある」

「成程。その時に知り合ったのですか」

「まぁな。しかし、文挙は強情者だぞ」

「しかし、孔融殿は今や青州牧としての任を果たしておりませんからな。それに獄中から出せば、恩義に感じましょう」

「……狙いはやはりそこか。成程。ついでに鄭玄らも救うつもりだな?」

「如何にも。当然ですな」

「そういう事なら、断る訳にもいかないな。喜んで手を貸そう」

「有難き申し出」

「で、どうやって助けるのだね?」

「青州で少し軍勢を動かして頂きたい。なるべく引き付けて欲しいのです」

「何の意味があるのかね?」

李膺りよう竇武とうぶを騙る陳勝と呉広を捕える為です」

「……陳勝、呉広だと?」

「はい。騙りの上に騙りとは奇妙なものですがね」

「……そうか。あいつらが」

「お知り合いで?」

「うむ。恥ずかしい話だが、その者達は元黄巾党の者どもだ。天帝教に鞍替えしていたとは聞いておったが……」

「では、連絡を……」

「いや、それは無理だ。あ奴めらは己の野心のみに忠実な輩だ。有能だと思い、取り立ててやったのだが……」

「ハハハ。飼い犬の手を噛まれましたか。しかし、陳勝と呉広を名乗るということは……」

「元からその名なのか、後からあやかって変えたのかは分らんがね。だが、一筋縄では行かぬぞ」

「その口ぶりですと、かなりの曲者のようですな」

「うむ。役に立つと思い、今まで自由に泳がせていたのが失敗であった。だが、些か浅慮だから、つけいる隙はあるな」

「既に連中の隠れ家は検討がついております。その隠れ家から兵を移動させたいのです」

「成程。それで連中と鄭玄や孔融らと交換する訳か」

「御意。さすれば必ずや成就しましょう」

 

 張角は意外とスンナリ受け入れてくれた。

 これで蘭陵城を攻略出来る。

 

 劉寵が東の軍勢を引き付け、張角が北の軍勢を引き付ける。

 蘭陵周辺には、それでも兵はいるだろう。

 けど、直に援軍を送れないのであれば、造作もない事だ。

 

 問題は陳勝、呉広らを捕まえた後だ。

 この二人を捕えたまま、徐州から逃亡しなくてはならない。

 陳平や彭越らが攪乱してくれると思うけど、やはり追手となる陶謙や天帝教の軍勢は少ない方が良い。

 

 僕がそんな事を考えながら政庁を出ると、一人のガタイの良い若者が声をかけてきた。

 見ると頭上に「!マーク」が付いている。

 これは最近になって付随された機能で、登用可能の人材を知らせるマークだ。

 もっと早く付随してくれれば、色々と楽に登用出来たのに……。

 

 でも、そんな事を言っても仕方がない。

 まずはパラメータチェックしてみるとするか。

 

太史慈 字:子義 能力値

政治5 知略7 統率8 武力9 魅力7 忠義8

固有スキル 弓兵 歩兵 看破 豪傑 帰順 水軍 鉄壁

 

 えっ!? 太史慈!? マジで!?

 何でこんな所に!?

 こんな機会は滅多にない!

 早速、登用してしまおう!

 

「司護殿とお見受けいたしました。某……」

「待っておりましたぞ。太史慈殿」

「えっ!? 何故、某の名を!? まさか!」

「そう。そのまさかだ。夢のお告げですよ」

「……真であったのか。かねがね噂は聞き及んでおりましたが……」

「貴殿がご助力して下さるとは有難い。正しく天佑です」

「いや、驚きました。それでは某もご同行致します」

「ついでに荊南にもご同行願えるかね?」

「あ、いや。その儀はちと……」

「貴殿のような英傑が我が陣営には必要なのだ。何卒、お願いしたい」

「し、しかし既に鐘離昧殿や周泰殿といった万夫不当の猛者が居るではないですか」

「いやいや。確かに彼らは万夫不当の猛者ではあります。ですが、足りないのです」

「そう言われましても……」

「太史慈殿。貴殿はこの漢でも稀有の勇者です。どうか、この司護にお仕えして下さい」

 

 はい。ここでまた土下座。

 ジンちゃん……。もう土下座は飽きたよ……。

 でも、これで来てくれるのなら、安い物か……。

 頭下げるのはタダだしね……。

 

「司護様! 困ります! 頭をお上げください」

「太史慈殿! お願いです!」

「この若輩者の某にこのような……。分りました! この太史慈、司護様に忠義を尽くします!」

「おお!? 貴殿のような勇者を手に入れた事は、真に吉日です!」

「ハハハハ! 同じような事を鐘離昧殿にも言われたのですかな?」

「……え? あ、いや……」

「ハハハハハ! 本当に噂通りのお方だ!」

 

 ……もうね。このパターンは正直、僕も飽きていますよ。

 ……でもね。やっぱり戦場には出たくない。

 ……そして早く帰りたい。

 マジで、その一心だけですよ。

 

 面と向かって殺し合いなんて、やっぱり僕には無理な話です。

 異世界に行ったからって「超人になって無双する」なんて無理ですって……。

 元々、僕は極平凡な一高校生にしか過ぎないんですから……。

 

 けど、太史慈が味方になったのは、かなり心強い。

 僕と太史慈は周倉と合流し、再び徐州の東海郡蘭陵県へ目指した。

 范増らが下拵したごしらえをしている事を祈りつつ……。

 

 クヨクヨしていても仕方ない。

 太史慈も仲間になったんだし、もうひと踏ん張りだ。

 鄭玄や孔融も連れて荊南に帰るぞ!

 ……いやいや! 本当に帰るべき場所は現実世界だけどね!

 

 そして、途中の宿屋で宿泊した時の事だった。

 寝ようとしたその時、頭の中で声がした。

 フクちゃんの声だ。

 何の用だろう?

 

「おい。ボンちゃんよ。念願の太史慈まで来たってぇのに、随分とおセンチじゃねぇのかい?」

「そんな事を言ったって……」

「シャッキっとしてくれよ。俺もお前と一蓮托生なんだからよ」

「分っているよ。でも、不安なんだよ」

「何が不安なんだ?」

「考えてもみてくれよ。今までは負けても、直に退却出来ると思ってやってきた。しかも、戦場の経験なんて片手の指で数える程だよ」

「それがどうした?」

「そりゃ『どうした?』と言われるかもしれないけどさ……」

「范増、陳平、彭越に太史慈と許褚がいるんだぞ? 何を贅沢な事を言ってやがんだ」

「そりゃ、そうかもしれないけど……」

「全くよ。曹操の娘も劉寵の娘も『はい。そうですか』と貰っておきゃあいいのにさ」

「……ソレとコレとは関係ないだろう?」

「いいや。関係あるね。劉寵の娘を正室に、曹操の娘は側室にしておけば問題ねぇさ」

「……でも、会った事ないんだよ?」

「そんなもんだろ。姻戚外交なんだから」

「で、でもさ……」

「気に入らなかったら、ガキが孕むまで性交だけして、後は他の女と寝れば良いじゃねぇか」

「ぶっ!? ちょ!?」

「待て! この凶賊!」

「……なんだ? 腐れ儒者か……。お呼びじゃねぇよ」

「そのような破廉恥極まりない発言を許す訳には参らぬ!」

「どこぞのヒステリー婦人団体関係者か三角眼鏡をかけたPTA役員のバカ親みてぇな事を言いやがって……」

「黙れ! この凶賊め! 今日という今日は、もう許さんぞ!」

「ああ! もう! どっちも黙ってよ!」

「主君……いや、ボンちゃん殿。君は破廉恥な事は……」

「だから、しないって!」

「しかしよ。現実世界に行ったところで、女とはほとんど無縁なんだろ? だったら仮想空間でハーレム作ってもバチは当たらんだろ?」

「そういう事じゃないんだよ……」

「流石に曹操の娘も劉寵の娘もブスって事はねぇと思うぞ。あいつら美人じゃなければ手を出さないんだからよ。母親もそれなりなら娘もそれなりだろ?」

「美人だから良いってもんじゃないんだよ……」

「いいじゃねぇか。ボンちゃんが好きだっていう『萌え展開』とやらに繋がるかもしれねぇしよ」

 

 違うんだ! そうじゃないんだよ!

 正直言うと、僕は怖いんだ!

 僕は女性に対し、凄く臆病なんだ!

 そんな事はとっくに自覚しているさ!

 

 もうね! ハッキリ言うよ!

 画面じゃないと駄目なんだよ!

 だって、その辺の町娘とかでも話すと皆、それぞれ違うんだよ!

 その辺の感覚が現実と変わらないから、どうして良いのか分らないんだ!


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