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第五十九話 張角の正体

 沛国から出て、まずは東海郡蘭陵県を目指すことになった。

 新たに加えた許褚と農民あがりの侠客連中と一緒にね。

 だけど人数が人数なので、ある程度は分散しておかないといけない。

 怪しまれないように流民や行商人の恰好はさせているけどね。

 

 東海郡蘭陵県は徐州でも、やや海よりの場所にある。

 どうも現在で言うところの山東省の棗荘市そうしょうしにあるらしい。

 現実世界で行った事ないから分らないけどね……。

 

 これが「どうして分ったか」と言うとね。

 最近になって、頭の中でマップが見えるようになったからだ。

 その際、現実世界での位置も見えるんだよ。

 けど、まずはググれるようにして欲しい……。

 

 まずは、ここの城主の事を噂話で聞き出す。

 いつものように知らない人と世間話とかだよ。

 そして、実はなんだけど僕は女性にモテるのだ!

 ………婆さんばっかりにね。

 

 これには理由があって、ジンちゃんが全部対応しているから、年配者に対してすっごく優しい。

 だからモテるんだ!

 ………婆さんばかりに。

 

 でも、その甲斐あってか、まずは蘭陵県の県長で城主でもある人物のことが聞くことが出来た。

 名前は蕭建で、以前は琅邪国の相をしていた人物だという。

 けど、琅邪順王の劉容という人物が抵抗せずに黄巾党から逃げたので、陶謙に召し抱えられたそうな。

 因みに、その劉容という人だけど、今は庶民に落とされたんだって。

 皇族も大変だねぇ……。

 

 で、その蕭建の噂だけど、それなりな人物なのかな?

 特に悪い噂も良い噂もないって感じ。

 でも、だからといって油断は出来ないよなぁ……。

 

 そして、あちこちで何処となく李膺と竇武の事を聞いてみた。

 でも、不思議な事に誰も「見たことがない」と言うんだ。

 ……おかしいなぁ? まさか、范増がガセを掴まされたのかな?

 僕は蘭陵県で二日後ほど経った時、夜の宿屋の一室で范増に聞くことにした。

 当然、フクちゃんモードでだよ。

 

「なぁ、亜父よ。一向に両名の噂が入って来ぬではないか」

「流石にお主といえ、こういう所ではド素人じゃのぉ」

「では、亜父は何か分ったのか?」

「焦るでない。じゃが、お主が焦るのも分かる。理由は交州のことじゃろ?」

「そうだ。だが、分っているなら猶更ではないか」

「こういう事は下準備なぞ入念に行うことが大事じゃぞ。大体、二日でどうこう出来るものではないわい」

「では、どうしろと言うのだ?」

「まず、お主は先に周倉と共に青州へ行け」

「何? 余と周倉だけでか?」

「そうじゃ。儂と陳平は役人どもの買収なぞをしておく。彭越は許褚の連れてきた連中と共に近隣の不満分子を集めさせる」

「しかし、余と周倉だけではな……」

「案ずるな。途中、指定した宿で落ち合う者がおる。その者と行けば良い」

「誰だ?」

「会えば分かる。ホッホッホッ」

 

 普段なら嫌な予感しかしないけど、范増のことだし下手な者じゃない筈だ。

 そう信じないと、やってられないけどね。正直なところ……。

 

 翌朝、僕は周倉と共に北東にある青州の城陽郡を目指した。

 その城陽郡の沂南県ぎなんけんの宿に、その人物が待っているらしい。

 因みにその沂南だけど、これも現実世界において現在でも存在している地名ですよ。

 

 そして、その城陽郡だけど、かなり面倒な事案があるんだ。

 それは元は旧琅邪国の一部なんだけど、何故か徐州ではなく青州へ併合という奇妙な事案が出たんだよ。

 范増や陳平によると恐らく「当時、敵対していた袁術が、徐州牧の陶謙への牽制目的で親族らに働きかけた」という事らしい。

 それで琅邪国は琅邪郡と城陽郡に分かれ、城陽郡は青州へ編入となった。

 現代日本で言えば「静岡から伊豆半島が切り取られた後、伊豆県になり関東に編入した」って感じ?

 まぁ元々、伊豆半島は伊豆って国名だったけどさ……。

 

 そして沂南県に向かう途中、大手を振っている天帝教徒の連中を幾人も見てきた。

 お布施と称しての強請りとかたかりとかを、誰彼かまわずに行っている。

「有難い教えを説いてやっているんだから感謝しろ」

 そんな事をうそぶいて、威張っている連中ばかりだ。

 

 僕は、この「司護しごという人物の過去」という記憶がある。

 凄く迷惑な話だけどね。

 張羨さんの件も含めてさ………。

 

 その記憶でも、やっぱり威張った役人が同じような事をしていたんだよ。

 天帝教は「漢を打倒し、今こそ新時代を」なんて言うけど、庶民からしたら同じだよね。

 だから、領内の住民は面では従っているけど、内心じゃあ快く思ってはいない。

 

 天帝教に対して住民反乱が起きていない理由は近頃、飢饉や疫病とかが無いからだ。

 というのも天災などが起きると、それは「天が政治に対し怒っている」という意思表示と思われているからだ。

 まぁ、それは現実の日本でも明治ぐらいまで同じだったらしいけど……。

 

 そんな訳で領内の住民は大人しく従っている。

 けど、中には当然、不満が爆発している連中もいて、それらが各地で抵抗運動をしているらしい。

 その抵抗勢力に協力して、鄭玄、孔融らを救出するんだけどさ。

 

 因みに僕も途中で天帝教徒の連中に捕まり、カツアゲされました。

 連中は「寄付を寄越せ」とか、ぬかしていたけどね……。

 ええ。大人しく渡しましたよ……。

 でも、後で絶対に吠え面かかせてやるからな………。

 

 沂南県に到着し、急いで指定された宿を探した。

 すると確かに、見覚えのある顔に出くわしたんだ。

 それで僕は思わず声を出してしまった。

 

「おお、貴殿は……」

「はい。先日は母を助けて頂き、真に有難うございました」

「そうか。それは重畳です呂岱殿。しかし、貴殿は豫章に居なくて良いのですか?」

「ハハハ。今は青州との連絡役ですよ」

「なんと。しかし、呂岱殿のような英傑が連絡役とは勿体ない……」

「いやいや。これも重要な役割です。青州が落ちるとなれば、歯止めが効かなくなる」

「……歯止め?」

「今は何処も大きな戦さが無い為、安定しているように思えます。ですが、事が一旦起きれば、瞬時に各地で戦乱が起きるでしょう」

「成程。しかし、黄巾党がそのような事を考えているとは……」

「ハハハハ。確かに私もそう思いました。しかし、それは少し違ったようですぞ」

「どう違うのです?」

「それは張角殿が教えてくれましょう。私が道案内する故、ご同行願いたい」

 

 僕は呂岱の案内で青州の北海郡に行くことになった。

 北海郡は山東半島の付け根に位置し、元は郡ではなく国だった所だ。

 そこの即墨県の臨淄りんしに張角は居るらしい。

 因みにだけど孔融は最近まで、その北海国で相をしていたとの事です。

 

 それと呂岱は手紙を僕に渡してきた。

 見ると竹千代からの手紙だ。

 そこには、また新たな友人が二人も出来たとのこと。

 

 一人は荊北から来た裴君。

 これは恐らく、あの時の裴潜って子だろうね。

 そして、もう一人が并州から来た孫君。

 

 ……これは誰だ?

 ごめん。本当に分らない。

 ああ、ググリたい………。

 マップ機能なんて無くていいから……。

 

 張角率いる青州勢は現在のところ、兗州連合、袁紹、陶謙と戦っていて、今は基本的に小競り合いだけになっている。

 なので、行商人とかも関所での取り調べはあるけど、比較的自由に行き来している。

 といっても、通行税と一緒に「天帝教へのお布施」という名の多額な賄賂を強請られるんですけどね……。

 なんでも「皆が天帝教によって幸福なのだから、お布施は当然である」らしいよ。

 

 青州も通行税はあるけど、微々たる物だ。

 その時に太平道への強制的な寄付の上乗せがないからね。徐州の天帝教とは違って……。

 いい加減、陶謙が目を醒ましてくれないと、色々と面倒ですよ……。

 

 呂岱に案内され臨淄に辿りつくと、最前線近くというのに平和もんだった。

 まぁ、最近じゃあ何処も多少の小競り合い程度で、大きな戦いは無いらしいからね。

 要するに何処も攻めるのに及び腰なんだけどさ。

 

 一応、黄巾党の御膝元ということになるんだけど、黄色い布を頭に巻いている人ばかりじゃない。

 寧ろ割合的には少ないんじゃないかな?

 これも青州連合は黄巾党が主体では無いという事かもしれない。

 あくまで青州の豪族達と青州黄巾党の一揆という事なんだろうね。

 

 そして政庁に着くと、思わず僕は思わず声を上げてしまった。

 凄く地味な上に、ほとんど壊れかけだったからだ。

 徐州では、ほとんど黄色が使われていて無駄にド派手だったからね。

 それでも賀斉の家の方が無駄に派手だったけどさ………。

 そして、そんな僕を見て呂岱は声をかけてきた。

 

「張角殿はここに居られます。さぁ、参りましょう」

「……あ、はい」

「どうかしましたか? 司護殿」

「いや驚きました。特に補修した訳でもなく、所々には瓦礫はそのままですし……」

「ハハハ。政庁なんぞ崩れなければ、どうでも良い場所でしょう」

「いや、しかし……」

「おっしゃる意味は良く分かります。しかし、今はそれどころではない。これも張角殿のご命令でしてな」

 

 これも民の方を優先という事なんだろう。

 僕は増々、黄巾党という存在が分らなくなってきた。

 いや、既に分っている筈なんだ。

 だけど潜在的に小説とかのイメージのせいで、どうも極悪集団のイメージが頭の隅から離れられない。

 

 勿論、あくまでこの世界の黄巾党であって、現実に起きたものや小説、アニメとかとも違うのは確かだ。

 すぐに切り替える事なんて、そう簡単に出来るもんじゃないんだよ。

 何故、僕が今になって、こんな事を意識しているか。

 それは張角という存在が、非常に大きいという事を認識しているからだ。

 

 でも、そのイメージは簡単に覆されたんだ。

 何故かと言えば、呑気に政庁の扉の前で掃除していた初老のおじさんが張角だったからだ。

 始め呂岱は恭しく使用人っぽい身なりのおじさんに挨拶したと思ったら……。

 

 僕はそこで試しにパラメータチェックをしてみた。

 すると………。

 

張角 能力値

政治7 知略8 統率9 武力5 魅力9 忠義5

固有スキル 名声 故事 看破 機略 遠望 開墾 判官 歩兵

 

 やっぱり強いや……。

 けど、見た目からしてイメージ的には蔡邕や邯鄲淳に近い。

 まぁ、范増みたいに陰があるかもしれないけど……。

 それと「妖術」なんて固有スキルは無いのね。

 

「……失礼ですが、貴殿が張角殿ですか?」

「ハハハ。如何にも。……そうは見えぬかな?」

「あ、いや。まさか張角殿のような御仁が、このような場所で……」

「ハハハ。それに張宝や張梁よりも随分と老けているからだろう」

「え? あ……」

「それには理由があるんですわ。詳しくは中で話す故、共に参られよ」

 

 思わず僕は呂岱の顔を見た。

 すると、特に何も言わずにニコニコと微笑んでいるだけだ。

 凄みとか全くない分、逆にそれが不気味にしか思えない……。

 

「ああ、警戒なんぞしないで良い。貴殿に害を加えるような罰当たりはしないから」

「い、いや。はぁ………」

 

 こうなったら覚悟を決めて行くしかないか……。

 一応、ジンちゃんを出して様子を見ることにしよう。

 

 張角は僕に埃っぽい政庁の一室に案内した。

 どうやら謁見室はないようだ。

 僕の所も質素だけど、ここは質素というかマジで汚いとしか言い様がない……。

 

 そして、張角は至って平気な顔をして、自ら茶を出してきた。

 幸いお茶菓子はタガメじゃなくて、餅に蜂蜜をかけた物でした。

 けど、使用人も居るだろうに、黄巾党の教祖ともあろう者が何でまた……。

 僕が予想していなかった事を気付いてか、張角は笑いながら僕に話しかけてきた。

 

「ハハハハ。意外過ぎたようですなぁ」

「い、いや。確かにもっと豪華な暮らしをしているものかと……」

「ハハハ。太平道の教祖ともあろう者が、こんな暮らしはみっともないかな?」

「いやいや。そういう訳では……。それに……」

「ああ、儂と張宝と張梁の関係だな。血縁はないぞ」

「……は?」

「聞いておったのかね? 『血縁は無い』と申したであろう?」

「あ、いや……何故?」

「ちょっと込み入った事情でな……。つまりだ」

 

 つまり、こういう事だった。

 張角は母親の連れ子で、張宝と張梁の父親と再婚したというのだ。

 しかも、その時に姓も変えたっていうんだから驚きだ。

 

 張角は元々、荘角と言い、荘子で有名な荘周の末裔にあたる人物らしい。

 けど、ご両親がその後、間もなく相次いで亡くなったので、張角が二人を養っていたとのことだ。

 齢の差は大体、二十歳以上も離れているのは、そのせいらしい。

 道理で随分と老けている筈だよ。

 

 張角が荘角と名乗っていた頃、帝は前の皇帝である桓帝の時だそうだ。

 桓帝は老荘が大好きで、荘角の事を聞くと地方の小役人から中央に招聘したらしい。

 それがきっかけで中央の官僚になった。

 

 ところが桓帝が崩御すると、後を継いだ現在の帝が路線変更する。

 現在の帝というよりも当時の実権を握っていた宦官の王甫、曹節、侯覧らによって変更を余儀なくされたらしい。

 

 それともう一つ、面白い事が聞けた。

 張陵ちょうりょうという人物と面識があるというものだ。

 張陵は張魯の祖父にあたり、五斗米道の創始者でもある。

 

 この張陵と洛陽で知り合い、随分と議論を重ねたそうなんだ。

 それで五斗米道と太平道には共通項も多いと張角は僕に話してくれた。

 

 でもこれは、あくまでこのゲームの世界での話だからね。

 本当にそうなのかは僕も知りません。

 大体、ググれないし………。

 

 張角の正体というか、素性が分ったのは良いけど、問題はどう協力してもらうかだ。

 さて、どう切り出したものかな……?


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