第五十七話 喜び半分、悲しみ半分
9月になりました。
最近、何処も大きな戦争が無いせいか、飢饉、疫病の噂は流れてきません。
飢饉が無いせいか、戦争が無いせいか、どちらか分りませんけどね。
さて、陳平、彭越が合流したところで、豫州陳国へと向かうことにしました。
ただ、陳平の情報によると、豫州王の劉寵はどうも旗色が悪いようでして……。
「我が君。あまり豫州王は当てにならぬかもしれませんよ」
「どうしてかね?」
「并州牧の丁原が帰ってしまったんですよ」
「ええ!? 何でまた」
「并州で黒山賊と白波賊の連中が蜂起したんですよ」
「何だと?」
「しかも、朝廷は新たに并州牧を任命したそうです」
「……誰だ?」
「何進の弟の何苗です。朝廷も思い切ったことをしたもんだ」
「どうして思い切った事だと?」
「何進と何苗の仲は険悪なんですよ。兄弟といっても血は繋がっておりません」
「……どういう事だ?」
「何苗は連れ子なんですよ。で、何進と十常侍が結託して、何皇后にピッタリついている何苗を追い出したような形ですわ」
「………ここにきて、何進と十常侍が協調路線か。何か動いたのかね?」
「そこまでは分りませんね。ただ、今じゃ弁皇太子しか跡取りはいませんからね」
「成程。何進に十常侍が擦り寄ったのか……」
「そういう事でしょうね。それに鴻都門学の州牧連中は殺されるか、逃亡するかで、帝は輪をかけて酒色に溺れているようですし」
う~ん………。劉寵はピンチかぁ……。
でも、今なら張角との同盟には飛びつきそうだなぁ。
問題はどうやって張角を青州牧にするかだけど……。
そこで今度は范増に聞くことにした。
一応、フクちゃんモード……。
いや、ここは僕自身でいこう。
「なぁ、亜父よ。今の青州牧は誰だ?」
「一応、孔融の筈じゃが……。それが、どうかしたか?」
「ああ。以前、余に張機殿が長沙太守の印璽を渡したことがあっただろう」
「……まさか、孔融から青州牧の印璽を取り上げるつもりか?」
「いや、力づくじゃあない。快く渡して貰おうと思ってね」
「無理だと思うがのぉ……。噂では相当な頑固者じゃぞ」
「……陶謙から助け出せば、少しは融通が利くと思うが……」
「それはそうと、どう助けるのじゃ?」
「……う~ん。そうだなぁ……。陳勝、呉広の居場所は判明したか?」
「恐らく東海郡の蘭陵県じゃろう。ほぼ、間違いあるまい」
「何だ。では、まずはそこを襲えば良いじゃないか」
「……連中をどうするつもりじゃ?」
「人質交換に使うんだよ」
「人質交換じゃと?」
「ああ、そうだよ。一応、李膺と竇武との交換って事になるしね。陶謙は二人を崇めているんだから、必ずや応じる筈さ」
「……ふむ。そういう手か。しかし、何じゃな」
「何かね? 亜父?」
「……お主、いつもと口調が違うぞい」
「そ、そんな事はなかろう?」
「いや、確かにいつものお主ではない……」
何か。まずい!?
フクちゃんカモン!
「余の何が違うというのだ? 亜父よ」
「……む? いつものお主じゃな」
「当たり前だ。まさか『偽物がすり替わった』とでも言うつもりか?」
「……い、いや。奇妙な事もあるものじゃ」
「亜父の方が奇妙だが……。まぁ、良い。兵はどれ位、必要になりそうだ?」
「簡単にここで雇える訳がなかろう」
「当たり前だ。だから張角に協力を要請するのだ。劉寵は、それどころでは無さそうだしな」
「しかしじゃな……。張角も、それどころではないぞい」
「兵の数は必要ない。ちょいと借りるつもりではいるがな」
「どうする気じゃ?」
「それには一度、現場を下見せねばなるまい……」
「……ふむ。確かにここで、あれこれ考えても机上の空論にすぎぬのぉ……」
「そういう事だ。まずは陳国に行き、東海郡を経由して青州に向かうとしよう」
という訳で、ぶらぶらパラメータを見ながら陳国に向かう。
途中で寄った頴川郡は、かなり開けていて活気がある。
そうそう、この頃は許昌ではなく、許という一文字の都市なんだって。
……初めて知りましたよ。
ああ、ググりたい………。
そんな事を思っていたら、陳平が話しかけてきた。
「あ、そう言えばここは……」
「どうかしたか? 陳平」
「はい。陳紀殿の家の近くですよ」
「何? 陳紀殿?」
「陳寔殿の御子息ですよ。字は元方と言い、中々の人物らしいです」
……陳紀って袁術配下の雑魚じゃないのか?
まぁ、いいや。本当は大活躍していたのかもしれないし……。
取りあえず、会うことにしよう。そうしよう。
陳平の案内のまま、僕は陳紀の家に向かったんだ。
陳紀の家もこれまた広いけど、質素な造り。
田舎の農家って感じだね。ほぼ、そのまんま。
名士の類って、質素な方が好きなのかなぁ……?
だからと言って、賀斉みたいな家もちょっと……ね。
「すみません。誰かご在宅か?」
「あ、はい。何でしょう?」
僕が家の門の前で声をかけると使用人が出てきた。
パラメータで確認したので、間違いなく使用人Aです。
「陳紀殿はご在宅ですかな?」
「失礼ですが、どなた様で?」
「これは申し遅れた。司護。字を公殷と申す者です」
「ええっ!?」
「陳寔殿の喪も明けたようですし、こうして参りました」
「ちょちょ……少々、お待ちください」
使用人Aは逃げ出した。
いや、慌てて奥に入っていった。
暫くすると、温和そうな中年男性が出てきたので、ここでパラメータチェックです。
陳紀 字:元方 能力値
政治7 知略6 統率2 武力1 魅力7 忠義7
固有スキル 商才 判官 名声 教科
なんか全然イメージと違うなぁ……。
下手な武官より、よっぽど使えるけどさ。
「おお。貴殿が司護殿ですか。お噂はかねがね聞いておりましたぞ」
「これは陳紀殿。失礼とは思いましたが御拝顔したく、こうしてお伺いする事をお許し願いたい」
「ハハハ。私など父の足元にも及ばぬ」
「いえいえ。ご謙遜を……」
「ところで、どのようなご用件で?」
「では、率直に申します。是非、荊南の地へお招き致したい」
「……待たれよ。そんな性急なことを」
「いえ。是非とも陳紀殿には、お越し願いたい」
「困りましたなぁ……」
「頴川派の学問を是非、我が領内に広めて頂きたいのです。宜しくお願いします!」
ここでジンちゃんにタッチ。
もう、土下座でも何でもいいから、お願いします。
その後、執拗なジンちゃんの猛アタックが功を奏し、陳紀は来ることを承認してくれた。
地面に頭を叩きすぎて痛いですけどね……。
で、その際「家族も一緒に」って話になったんだけど……。
その子供が……。
陳羣 字:長文 能力値
政治9 知略8 統率6 武力3 魅力8 忠義7
固有スキル 商才 和解 判官 看破 登用 人相 説得
出たーーー!?
まだ成人して間もないけど、文句なしの人物!
流石、歴史の教科書にも載るほどだ!
そういう訳で陳紀、陳羣親子を衡陽にご招待。
幸先良いぞ! このまま良い空気で突き進もう!
本当はもっと探し周りたかった。
けど、陳平が僕に気になる新情報を入手したんだ。
だから仕方なく、急いで陳国に向かうことにしたんだよ。
それで、その新情報っていうのは、宿屋で僕が寝ようとしていた時のこと。
陳平が少し青ざめた様子で、僕の部屋に飛び込んで来たんだ。
「我が君。大変です」
「どうした? 陳平よ。荊南で何か異変でもあったのか?」
「交州にて、朱符が討たれました」
「なっ………。誰にだ?」
「それが不明との事。恐らく区連だと思われますが、その区連も少しきな臭くなってきました」
「きな臭く?」
「はい。どうも、天帝教と連絡している模様です」
「……ううむ」
「それと同時に会稽の賈琮と南昌の張宝、そして山越の部族王らが南海郡へ攻め込みました」
「……やれやれ。これで急がねばならなくなったな」
楊州から攻め込んだ理由は、やはり天帝教の連中が周辺で略奪を繰り返していたらしいからだ。
区連は今の所、天帝教の連中と行動しているけど、どうなるかは分らない。
南海郡は桂陽郡の東南から南かけてまである広大な所だから、暫くは戦闘が続きそうだ。
あまり来ないとは思うけど、桂陽郡に避難民が来た場合に備えて、僕は桂陽の李通に使いに手紙を出した。
避難民は保護して、周辺の開拓村に居住させるつもりだからね。
小規模な場合は内政値も訴訟もあまり出ないけど、常日頃から気を配るのが肝心なんだよ。
陳国の政庁のある陳に着くと、やたらと背が高くてハンサムな文官っぽいのが役人に対して指示していた。
誰だろう? 一応、パラメータを見てみるか……。
荀彧 字:文若 能力値
政治9 知略9 統率7 武力3 魅力8 忠義8
固有スキル 商才 登用 人相 機略 看破 説得 名声
ぎゃーーー!?
何でお前がここに居る!?
折角、お前を狙いに豫州まで来ていたのに!?
道理で見つからない筈だよ……。
一気にテンション下がったけど、こればかりは仕方がない。
しかし、曹操ではなくて劉寵に仕えているとはなぁ……。
見えない大ダメージだろうな……。
まぁ、僕もそうなんだけどさ……。
でも、そんな事を言っても仕方がない。
僕は劉寵に仕えているであろう荀彧に話しかけることにした。
「失礼。貴殿は荀彧殿とお見受けいたしましたが……」
「はい。荀彧は私ですが……。貴殿は?」
「司護。字を公殷と申す者です?」
「……偽りではないのか? あの司護殿が、ここに居る訳がない」
「ハハハ。何時も皆にそう言われます」
「……本当に司護殿か? まさか……」
「そのまさかです。実は豫州王君に面会したく参上した次第」
「……何故です?」
「何故と申されましてもな……。その理由があるからです」
「……理由?」
「はい。詳しくは豫州王君にお会いした時に話します。どうか、面会を取次いでもらいたい」
「……ふむ。もし、貴殿があの司護殿というのなら取り次ぎましょう。しかし、確たる証拠はありますまい?」
「証拠なら……。これで御座います」
そんな時の為に蔡邕先生直筆の書状がある。
しかも、長沙太守の捺印付きだ。
「荀彧殿。これで如何でしょう? これ以外には残念ながら証明しようが御座いませんが……」
「……ふむ。確かに偽物には見えませぬな。いや、失敬致した。貴殿が方々でお見かけする噂は聞いておったのですが……」
「ハハハ。そうでしたか」
「笑い事ではありません。貴殿の名を使った詐欺も御座いますぞ」
「え!? ええっ!?」
「まぁ、他愛のないものばかりですがね。騙される方も問題ある事案ですから……」
「……しかし、どんな詐欺なのです?」
「大抵は若者に対し『君は麒麟児だ。家族と共に荊南に参り働いてくれ』とか申して、そのまま家族ごと拉致して奴隷ですな」
「………」
「真の仁君なら、もう少し配慮なさって下され。この荀彧、無礼を承知でお願い申す」
そう言って荀彧は頭を深々と下げた。
で、でも、僕はどっちかというと被害者だし!
……てかさ。ゲームの世界でも、そんなのあるのかよ……。
念のため、荀彧相手はジンちゃんに任せるか……。
「……それは申し訳ない。そのような噂は耳にした事が、今まで無かったものですから……」
「ハハハ。荊南ではそうでしょうな。だが、この辺は荊南のように安定している訳ではないのです」
「……はい。私もそれで心を痛めております」
「何故、貴殿が心を痛めるのです?」
「民に境目は御座いませんぞ。荀彧殿。貴殿ともあろう者が、そのような事を分らない筈が御座いますまい」
「……む。確かに軽率な発言でしたかな。ご容赦下され」
「いやいや。荀彧殿が謝る必要は御座いませぬ。悪戯に兵を動かす者どもが悪いのです」
「おお。左様ですな。いや、ここで立ち話もなんですし、近くで食事しながらお話しましょう」
荀彧は僕を誘い、近くの居酒屋に行くことになった。
范増、陳平、彭越は少し遠めの席で雑談ということで……。
雑談? 悪だくみにしか見えない……。
周倉はすぐ隣の席だけどね。
お互いに席に着くと、荀彧は僕に話しかけてきた。
どういう意図があるのやら……。
「司護殿。私なんぞに付き合わせてしまい、申し訳ない」
「いえいえ。名高い荀彧殿と御同席になるのです。喜ばしい限りですよ」
「ハハハ。噂通り、司護殿は世辞が上手いですな」
「ハハハ。本心なのですが、どうも誤解されるようです」
「ハハハ。まぁ、それは置いておきましょう。貴殿の真意を知りたい」
「……真意ですか?」
「はい。何のために豫州王君に拝謁するのか、その真意を知りたいのです」
「それは『申さない場合は拝謁出来ぬ』と捉えて宜しいのですかな?」
「はい。司護殿なら申せる筈ですぞ」
「……実はですな。豫州王君に同盟を結んで頂きたい」
「……同盟? 楊州王君ですか?」
「それもあります。それと、もう一つ」
「もう一つ? はて? 周辺には心当たりが……」
「青州の張角殿を青州牧に任命し、同盟を結んで頂きたい」
「なっ!?」
「如何でしょう? 豫州王君にも悪い話では……」
「正気ですか? 張角を青州牧とは……」
「はい。正気です。そうすれば少なくとも包囲網の一画は崩れましょう」
「貴殿は仁君と聞いておったが……」
「ハハハ。変仁君の間違いでしょう」
「貴殿は何を申しているのか、分った上で……?」
「当然です。既に張梁殿や張宝殿は、双方ともに太守ですぞ。問題ありますまい」
「そういう事ではない。私が危惧しているのは……」
そういうと荀彧は黙ってしまった。
………何だろう?




