第七話 ここ掘れ、キンキン
10月上旬の政略フェイズの前に韓曁という人物を長沙で探すことになった。
何でも父兄の仇をとるため、日雇い人夫をしているとか……。
それで王儁や陳端も登用しないでいたのかな?
夕暮れ時に方々の居酒屋で王儁を連れて探していると、質素な食事だけをしている者がいた。
王儁は「この者が韓曁です」と僕に耳打ちし、僕は韓曁に話しかけてみることにした。
「失礼。貴殿が韓曁殿で宜しいか?」
「如何にも韓曁は私です。貴方様は……?」
「これは失礼。余は司護という者です」
「あっ!? これは長沙府君でしたか!? 失礼仕りました!」
「いやいや、畏まらなくても宜しい。実は貴殿に頼みたいことがありましてな」
「私のような者に頼みたいことですか?」
「うむ。区星の根城をお教え頂きたい。それと是非、我が陣営に招きたい。この二点です」
「……わざわざのお越し恐縮ですが。……ちと、その儀はご容赦願いたい」
「何故ですかな?」
「いや、区星の根城はお教えしましょう。しかし、仕官の儀は……」
「仇を討つまでは……ということでしょうか?」
「ああ、知っていたのですか。ならば、話は早い」
一応、パラメータを見てみよう。
楊松クラスならいらないからね。
韓曁 字:公至 能力値
政治8 知略6 統率4 武力3 魅力7 忠義7
固有スキル 冶金 名声 発明 採掘
知らない固有スキルが三つもあるぞ!?
さっさと出て来い!
「……お主『さっさと出て来い!』はないじゃろう……」
「これは水鏡先生。では早速、とっとと教えて下さい」
「……お主、爺扱いが随分酷いことになっているのぉ」
「それもよしよし」
「これこれ、爺の台詞をとるでない。まずは『冶金』じゃが、これは鉱山から出る金を三倍にすることが出来る。つまり鉱山からの収入が三倍になるのじゃ」
「鉱山って……何処にあるんです?」
「それは採掘していないからじゃろう。その『採掘』も固有スキルじゃ。それがないと鉱山を発見出来ぬぞ」
「ええっ!? じゃあ、韓曁って結構チートなキャラじゃないか!」
「チートの意味が分らぬが……。最後の固有スキル『発明』は、ある一定の金額を使用すると新兵器を造ることが出来るものじゃ」
「すげぇ……ちなみに鉱山って毎月どれくらいの収入があるんです?」
「金山は千。銀山は5百。銅山は百じゃ」
「それの三倍だから………金山を採掘すると一気に毎月3千!?」
「そういうことじゃの。では、の」
……韓曁君。君には長沙にいなくてはいけない理由が出来たようだよ。でも…
「仇討ちなんて不毛なことはやめてさっさと配下になりなさい!」
……なんて説得出来るかなぁ……?
「……随分と何か独り言をおっしゃっているようですが、区星の根城はですね」
「いや、その前に聞きたいことがあります」
「はぁ? 何でしょう?」
「お幾らほどあれば仇を討つことが出来ますか?」
「……用立ててくれるというのですか?」
「はい。貴殿のその精神にはこの司護、感服しました」
「……そう言ってくれるのは有難いですが、金を集めても助太刀を頼める者を探すのに時間を要します」
「いやいや。その儀には及ばない。余の配下に丁度良い猛者がおります」
「……何ですと?」
「鐘離昧、張任、厳顔。その三名を連れて行きなさい。そして、仇を討ち果たすのです!」
思わず凄いことを言ってしまった……。
けど、韓曁が来るなら、それぐらいしてもお釣りがくるしなぁ。
「よ……宜しいのですか!? その三名がいなければ区星の根城を落とすことは……」
「王儁殿。そんなことは後回しで良い。余は韓曁殿の力になりたいのだ」
僕は驚きを隠せない韓曁を半ば強引に城まで連れて行き、三名に会わせた。
三名は思いの外やる気満々で、鐘離昧なんか目を爛々と輝かしている。
見た目が美人なだけに、より凄みがあるというか……。
韓曁の仇討ちの相手は南陽らしく丁度、黄巾賊と朝廷軍が戦っている最中だ。
そこで僕は南陽の情勢を詳しく知る為に、尹黙と陳端も同行させることにした。
ついでに劉備、関羽、張飛も引き抜いてきてくれると有難いけどなぁ……。
南陽は荊州の北端に近いので、一か月を労するらしい。
となると、留守番の僕、王儁、秦松で政略フェイズという形になる。
鞏志は……別にいいや。
それでは10月上旬の政略フェイズ開始。
農業255 商業483 堤防84 治安86 兵士数24107 城防御287
資金229 兵糧30500
僕と秦松が町造り、王儁が帰順でこうなった。
地道に内政するしかないからねぇ……。
でも、韓曁が配下になって鉱山が出れば一気に変わるぞ!
続いて10月下旬の政略フェイズ開始
でも、同じなんだよな。鞏志を使わないのも含めて。
農業255 商業501 堤防84 治安93 兵士数25007 城防御287
資金412 兵糧30500
随分、発展してきたよなぁ……。
あとは韓曁が無事、仇討ちを成就させて、陳端が三兄弟を持ってきてくれればいいんだけど。
ついでに曹操とか孫堅でも……ってそれは無理か。
僕がそんな妄想に等しいことを考えていると、待望の韓曁が帰ってきた!
「御主君! この韓曁、四名のお蔭で仇を討ち果たして参りました!」
「おお、そうか! ん? 一人多いが……それよりも御主君ってことはつまり……」
「はっ! 謹んで末席に加えさせて頂きます!」
「そうか、それは良かった。誰も欠けてはいないようだな。……ところで尹黙はいるか?」
「はっ! 尹黙はここに!」
「南陽はどういう状況だ?」
「黄巾の賊将、張曼成は副将の波才と共に宛城で頑強に抵抗しております」
「朝廷軍に劉備とかの義勇兵はいないのか?」
「義勇兵などは見かけませんでしたが……」
「そ、そうか。おかしいな……」
あれ? ここで劉備と曹操が出会う筈じゃなかったのか?
じゃあ、劉備は何処にいるんだ?
劉備はどうでもいいけど、関羽と張飛、ついでに趙雲も配下に加えたいのに……。
「……太守殿?」
「あ、いや。しかし、張曼成がそこまで手強いとはな……。既に討ち取られても良い筈だが……」
「……陳端が言っていたことは真であったのか」
「……? 何か余に言ったか?」
「……あ、いや。実は思わぬ援軍が張曼成の軍勢と合流いたしまして……」
「……思わぬ援軍?」
「同じ黄巾賊の馬元義という者です。彼奴め、洛陽で車裂きにされたとの噂でしたが、車裂きにされたのは偽物のようでした」
「何だと!?」
「その馬元義が数万の賊徒を率い、朱儁殿、皇甫嵩殿らは一旦、汝南へと撤退した模様です」
「小説やアニメとは随分違うようだな……これもゲーム世界だからか?」
「……今、何とおっしゃられた?」
「……い、いや。他愛のない独り言だ。余の悪い癖よ。ハ、ハハハハ……」
「………」
「……し、しかし、宛と言えば洛陽からも近い筈。洛陽は大丈夫なのか?」
「抜擢された袁紹殿、曹操殿らが虎牢関にて布陣している由にございます」
「おおう。やっとビッグネームがきたのう……」
「……ビッグ…何です?」
「あ、いやいや。気にするな。で、汝南の方はどうなんだ?」
「汝南では張温殿を総大将に陶謙殿、劉岱殿、張邈殿らが既に汝南への黄巾党と交戦しております。しかし、賊の抵抗は激しく、袁術殿が援軍として近頃赴任し討伐にあたっております」
「袁術か……。あまり期待は出来なさそうだな……」
「太守殿は袁術殿とご面識があるので……?」
「……い、いや。あまり良い噂を聞く人物でないのでな。野心は人並み以上にあるらしいが……」
「左様ですか……。汝南は黄巾勢の兵糧庫と言える程、食料が豊富のようです。そこで食糧の補給を絶つための手段に思えます」
「で、肝心の汝南の方の戦況は?」
「袁術配下の孫堅殿が先鋒となり、優勢とのことです」
「…そ、孫堅? 袁術の配下なのか?」
「……殿は孫堅殿もご存じで?」
「……いやいや、これも噂しか知らぬ」
「……そうですか。ちなみに劉表殿の動向ですが、荊州平定しか考えておらぬようです。その為、宛や南陽への進軍は一切ありませぬ」
「江夏を既に占領し、江陵、柴桑辺りも視野に入れておるのであろう……」
「はい。そして、その先のこの長沙も……とのことです」
「何? この長沙も……か?」
「はい。どうも隣の武陵太守曹寅が帝に言上し、それを利用しようと企んでいるとのことです」
「……どういうことかね?」
「……失礼ですが、殿は正式な長沙府君ではありませぬ。そこで『どさくさで旗揚げをした太守気取りの賊』という扱いらしく……」
「………」
おのれ! 曹寅! 恩義を仇で返しおって!
でも、鉱山見つかったら宦官に賄賂でも贈るしかないかな……?
ああ……そうやってズブズブと汚職まみれになっていくのか……。
「尹黙…江陵はまだ劉表の手中ではない筈だな……」
「はっ。そのようでございます。南郡府君は韓純殿ですが……」
「……誰だ?」
「……はぁ。既に逃亡しておられるようなので、閣下もご存じなくても致し方ありませんが」
「また逃亡か……。もっとまともな者を寄越さぬのか?」
「そんなことを言われましてもな……」
「仕方がない。では、抵抗している水賊を陰ながら支援いたそう。幸い、兵糧はそれなりにあるしな」
この言葉に反応したのは王儁だった。
まぁ、人格者だし仕方ないよなぁ……。
「……そのようなこと、本気で言っておられるのか? 太守殿」
「王儁殿。元は水賊もただの漁民です。無理やり従わせるのではなく、徳で従わせるのが筋というもの。それを劉表殿は漢王室の血筋であるのにも関わらず、都に近い賊を討伐しようともせず、己の勢力拡大しか考えないとは、少しおかしくはないですかな?」
何か凄い長文が言えた。固有スキルの説得が発動したのかな?
それに周泰、蒋欽に恩を売っておけば配下にしやすいだろうしね。
固有スキルの説得が功を奏したおかげのようで、王儁は黙ってしまった。
「閣下。ちと、某に考えがあります」
「おお、秦松か。話してみてくれ」
「零陵の太守張羨殿は劉表殿とは犬猿の仲。おそらく劉表殿は張羨殿を討ち果たしたいと思っている筈です」
「……まさか、張羨殿の首を……?」
「いえいえ。その逆です。張羨殿の首を差し出したところで『次は貴様の首を寄越せ』とか言われるのがオチでしょう」
「……ふむ。では、同盟を結ぶということか」
「左様。そして、まずは双方で武陵の曹寅を討ちましょう。張羨殿を前線に出すことで劉表の目をあちらに向けるのです」
「成程、張羨殿に恩を売るついでに劉表との矢面に立ってもらう訳か」
「今のところ、兵の数もそれなりにはありますが、資金面ではちと苦しいですからな」
「うむ。それが一番の良策のようだ。直に使者を遣わすとしよう。誰が良いかな?」
「この中では王儁殿と尹黙殿が適任だとは思いますが…」
僕は王儁を見たけど、どうも少し納得していない様子だ。
確かに仁君っぽくはないけど、このご時世だしねぇ……。
「王儁殿。余もこのようなことはしたくはない。だが、降りかかる火の粉は祓うしかない」
「いや、分っているのです……。分ってはいるのですが……」
「そもそも、曹寅には『楊松の戯言を信じるな』と暗に言ったのにも関わらず、楊松を重用して余だけでなく、荊南を脅かそうとしているのですぞ」
「………」
「本来であれば協力して漢王朝を再興せねばならないのに、小人の戯言に耳を貸して大局を見ないとは何事か!」
「………」
「まずは区星らを捕え、荊南を安定させるこそ肝要。その為には必要なことなのです。どうか、この司護を信じ、何卒お助け下さい」
最後に僕は王儁に頼むように言った。
固有スキル便利だなぁ……。
こんな言葉がスラスラ出るんだもんなぁ……。
元の日常生活にまで持って行けないかなぁ……。
「この王儁、感銘を受けました。この役目、尹黙殿と共に見事、果たして参ります」
「おお、王儁殿。分ってくれましたか」
「はい。貴殿は孟徳君と同じく、天下をお救いなるお方だ……」
孟徳君って……えええ!? 曹操のことですか!?
僕、曹操と同じ扱いなの!?
でも、いつもゲームでは劉備でしかプレイしたことないんですけどね!
その後、王儁は僕に曹操のことを始め、大勢の「誰?」な人達のことを教えてくれた。
まぁ、その「誰?」な人達は既に宮中の人だから、ノコノコとここに来る訳がないんだけどね……。
袁紹と袁術が騒乱を引き起こすかぁ……うん。確かに合っている。
けど、その前に董卓なんですけどね!
あ~あ……賈詡と華雄と李儒を引っこ抜けないかなぁ……。