第四十二話 色町には、まだ早いです……
3月となり、僕は范増と周倉を連れて、南昌へと向かっていた。
張梁を中心とする揚州黄巾党は南昌だけでなく、翻陽や九江郡の柴桑も既に手に入れており、豫章郡の実質的な統治者だ。
兵数も三十万近くいると言われ、容易に攻め込むことは出来ないだろう。
僕は范増にちょっとした相談を持ちかけた。
件の提案について意見を聞きたかったからだ。
「亜父よ。余はある事を思いついたのだが……」
「ほう? 我が君は何をお考えかな?」
「張梁が太守に任じられたら、どうなると思う?」
「……意味が分らんが」
「ああ、聞き方が悪かった。揚州王から太守に任じられたら、どうなると思う?」
「……本気で言っておるのか? それは……」
「本気だ。そうすれば袁術に南昌、翻陽、柴桑は手出し出来まい」
「……確かに、そうじゃが……。張梁が大人しく降伏するかのぉ……」
「降伏ではない。譲歩だ。そうすれば揚州も安定するであろう?」
「しかしのぉ……」
「周勃とやらは元は賊だったらしいが、今は会稽の太守を任じられたそうだぞ」
「黄巾党と山賊では勝手が違うぞい。それに劉繇が認めるかのぉ?」
「双方とも余が説得をする。山越王は黄巾党と結んでいるし、劉繇殿も山越族と結びたい筈だ」
「それは、そうであろうが……」
「それに荊州から揚州への交通路が便利になる。そうすれば行商人たちも喜ぶ筈だ」
「……上手く行くかのぉ」
「やるだけやってみるよ。駄目元でね」
「……命を狙われるかもしれんぞい?」
「張梁殿に限って、そんな無体な事はしないさ。したら自分の首を絞めることになる」
「また無茶を言いだしおってからに。……儂の短い寿命を減らさんで下され」
「無茶ではない。これは天命だ。民の生活を安定させるには、これが一番良い方法なのだ」
「……やれやれ。あの豎子とは違った意味で思いやられるわい……」
ジンちゃんのような行動だけど、これもボンちゃんである僕です。
最近、フクちゃんは僕が「ジンちゃんに感化され過ぎだ!」と怒っていますが、仕方ないんだよ。
だって成るべく戦争は無い方が良いに決まっているもの……。
数日かけて南昌に着くと、かなり大きな都市だ。
でも一番驚いたことは、町娘も黄色い布をつけて商売していることだった。
完全に黄巾党を受け入れているんだよ。
要するに、前の太守が「如何に滅茶苦茶していたか」って事なんだよね……。
僕が政庁に向かう前に南昌を暫く散策していると、誰かが周倉を呼び止めた。
周倉は驚いて声を上げ、その者に話しかけた。
「おお! 誰かと思ったら裴元紹じゃねぇか!」
「お前どうしたんだよ? やっぱり、賊太守の所じゃ窮屈で戻ってきたのか?」
「……あ、馬鹿!?」
「そうだよなぁ……。すげぇ仁君とか噂しているらしいが、張角様の御威光には敵うまい」
「……シッ。声がでかい」
「何だよ。波才の旦那も言っていたが、ありゃあ『超がつく程のド変人だ』とか言っていたぞ」
「だから『声がでかい』と言うのに……」
「それに今まで戦っていたのは、雑魚ばかりじゃねぇか。連れのアンタもそう思うだろ?」
裴元紹は、その賊太守に向かって、そんな事を言ってきた。
僕は噴き出すのを堪えるのに必死だよ!
そして周倉の焦る顔を余所に、僕は更に裴元紹を煽り立てることにした。
「そうですね。私もそう思います」
「な? だろう? 巷じゃ上使君だが、何だか知らねぇが、大人しく黄色い布を着ければ良いのによ」
「全くですね。その通りです」
「おう! でかい図体しているだけあって、話が分かるじゃねぇか!」
「お褒めを頂き、有難く存じます」
「かぁぁ!? いけねぇ! そんな仰々しい言葉はいけねぇよ!」
「いけませんか?」
「ああ、いけねぇ! 呂岱の旦那みてぇだ! アンタ、呂岱の旦那の親戚か何かか?」
「多少、面識はありますが、それは違います」
「そうか? じゃあ、呂岱の旦那と知り合いかい?」
「面識がある程度ですが……」
「おいおい。じれってぇ言い草だな。よう、アンタ。名前は何て言うんだ?」
「司護。字を公殷と申します」
「どっかで聞いた名だ。はて、何処だっけ?」
「さぁ、それは私も分りませんね」
「そんな事ぁどうでもいいか。南昌は初めてかい?」
「ええ、知り合いとなった周倉さんに、ちょいと案内してもらおうかと思っていた所です」
「おう! そうなのかい! なら俺に任せなよ! 俺はこう見えても、今や南昌の部曲長なんだぜ!」
「それは心強い。では、お願いします」
僕だけでなく、范増も吹き出しそうだ。
周倉だけが、ただ蒼い顔をしている。
裴元紹は妙な事に僕のことを気に入ったようで、あちこちに案内してくれた。
いや、案内してくれたのは良いんだけど……。
「おう。司護よ。南昌は今じゃ洛陽にも負けないものがあるんだぜ!」
「……ほぅ? 何です?」
「色町さ! 山越の娘は中々、別嬪が多い!」
「色町……ええ!?」
「俺は常連だから、良い娘を見繕ってやろう。遠慮するな。兄弟」
「い、いや……あの、ちょっと」
「どうした? まさか、女が好きじゃなくて、男が好きとかじゃねぇよな?」
「ぶっ! そんな事は断じてありません!」
「じゃあ、何だよ?」
「僕には、もう既に決めた女子がいるんです!」
「おおっ!? 何処にいるんだ!?」
「故郷に居ます……」
「じゃあ、問題ねぇ。『旅は女の吐き捨て』って言うじゃねぇか」
「それは『恥のかき捨て』だろうに……」
「細かい事は気にするな! 兄弟!」
「いや、気にするわ! いきなり、これはない!」
「おうおう。俺の店が気に食わないってのかい?」
「何? 俺の店だと?」
「そうともよ。折角、格安で良い女を宛がってやろうとしてんのに、断るなんざ男の隅にもおけねぇ」
「困ったなぁ……。おい、周倉」
僕は周倉に助け舟を要請した。
裴元紹とはいえ、僕より武力は数倍高い筈だからだ。
あ、いけね。まだパラメータを見ていなかった。
では、ちょっくら見てやろう……。
裴元紹 字: 能力値
政治1 知略2 統率3 武力5 魅力2 忠義7
固有スキル 歩兵
……懐かしいなぁ。この何とも言えない雑魚感。
けど、博士仁よりかは随分、マシなんだよね。
忠義、高いし……。
まぁ、そんなに変わらないけどさ……。
「おい。よさねぇかって! いい加減にしろ」
「何だよ? 周倉。お前だって好き者の筈じゃねぇか?」
「あっ!? 馬鹿! てめぇ!」
「何だよ!? 本当の事だろ?」
「馬鹿! いい加減、気づけ!」
「何を気づくんだよ? 大体、お前なんぞ『英雄は好色だぁ!』とか言って、同時に五人も相手した強者じゃねぇか」
「てめぇ!!!」
周倉は、いきなり裴元紹をブン殴った。
いやぁ……周倉よ。凄い武勇伝だねぇ……。
人は見かけによらないものだよ……うん。
「いきなり、何をしやがる! 周倉!」
「お前が、あまりにも馬鹿過ぎるからだ! この馬鹿!」
「何を!? 兄弟分だからって黙っていれば、いい気になりやがって!」
「お前が娼婦を床入りさせようしているのは、あの賊太守だ!」
「はっ!? 何を馬鹿な事を……。えええ!?」
「俺は、まだ賊太守の所で働いているんだ! それをテメェってヤツは……」
「ああっ! すまねぇ! 堪忍して下さい! 賊太守の親分様!」
……僕は思わず噴き出したよ。
興味がない訳じゃないけど、いきなりこういう展開はちょっとね……。
あ、四郡でも色町はあります。
僕は一切、口を出していません。
陳平や彭越、甘寧辺りが熱心に注文していたみたいですけどね……。
そして、すっかり大人しくなった裴元紹の案内で政庁へ向かうことにした。
いやぁ、てゆーか周倉って実は凄い遊び人だったのね……。
南昌の政庁に着くと、思わぬ訪問者に慌ただしくなったようで……。
で、慌てて出てきたのは、波才の親分。
今回は以前、会った時と違い、丁寧な接し方だ。
「これは司護殿。今日はまた突然のお越しで……」
「ハハハ。ご迷惑だったでしょう」
「い、いえ。とんでもない。余りにも突然でしたもので……」
「いやいや。私は何せ『超がつくほどのド変人』ですから、無理もない」
「そっ! そんな事は決して!」
「いやいや、気にしておりません。それよりも張梁殿はいらっしゃるかな?」
「はい。直に会談の席にご案内します。少々、お待ちを……」
波才の親分はそう言うと、慌てて奥の方へと姿を消した。
去り際に凄い剣幕で裴元紹を見たのを、僕はしっかりと見ています。
後で随分と絞られるんだろうなぁ……。
通された部屋は謁見室というより、応接室という感じだった。
噂では僕が「何事も質素倹約を好む」と言われているらしく、この方が良いと思われたんだろう。
別に質素倹約を好んでいる訳じゃないけど、贅沢な屋敷だの食事だのは特に興味ないだけです。
どうせ現実世界じゃないし、ゲームや漫画、アニメがあれば本当は良いんだけどねぇ……。
「これは司護殿! よう参られた! 急なお越しだったから、驚きましたぞ!」
張梁が、そう言って僕を歓待する。
豪快そうに笑いながらだけど、内心では色々と勘繰っているんだろうね。
体型からは信じられないけど、意外と神経質そうだし……。
「お邪魔でしたか? 張梁殿」
「いやいや、突然の訪問だったので、驚いただけだよ。まぁ、座りたまえ。茶で宜しいか?」
「はい。頂きます」
「ところで今日は何しにいらっしゃったので?」
いきなり本題に入ってきた。
そりゃあ「ブラリと立ち寄った」って訳じゃないしね。こっちもさ。
「実は、ある提案を持ってきた次第」
「ほう? どのようなご提案かな?」
「豫章郡太守になってみませんか? 元賊太守だった身分としては、出しゃばった形になりますが……」
「豫章の太守に……? どうやってかね?」
「帰順をするんです」
「ばっ! 馬鹿なことを申すな!」
「あ、朝廷にではありません。揚州王劉繇殿にです」
「どちらでも同じではないか……」
「同じではありません。先日、周勃という元賊が会稽太守に任じられたのは、既にご承知の筈」
「……それは知っている。だが、周勃と我らでは……」
「規模が違い過ぎましょう。だから良いのです」
「意味が分らぬが……」
「現在、袁術と劉繇殿は表立って争ってはおりません。ですが、どちらも揚州の覇を競っております」
「……うむ」
「そこで先手を打ち、劉繇殿に帰順するのです。別に黄色い布を巻いていたとしても、問題ありますまい」
「ううむ……。上手く行きますかな?」
「張梁殿のご承諾さえあれば、私が秣陵に赴き、説得してみせますが……」
「貴殿は劉繇殿と面識があるのか?」
「はい。一度だけですが、面識はあります」
「………簡単には承服しかねる。この件は暫く会議した後、返答させてもらいたいが……」
「それでは私は南昌に滞在させてもらいます。その辺の宿屋で逗留しておりますので……」
「い、いや! こちらで宿は用意させます! ご高名な司護殿をそんな……」
「いえいえ。『超がつくド変人』には、そんな事はご無用。アッハッハッ」
「………」
ごめんなさい。裴元紹。
折角なので、利用させて頂きます。
ついでに前回、緊張で忘れてしまったので、パラメータチェックしておこう。
のパラメータは……。
張梁 能力値
政治6 知略7 統率8 武力7 魅力5 忠義7
固有スキル 歩兵 鉄壁 補修 鎮撫 鎮静 看破 伏兵
つよっ……配下にしてぇ……。
まぁ、こっちに流れてきたら、遠慮なく配下にすることにしよう。
一応、宿屋はとったけど、それに伴い黄巾の手練れっぽい兵が数人ほど、僕の護衛にまわされた。
南昌で僕が死んだら大迷惑だろうから仕方ないらしいな。
折角、あちこち巡って人材発掘しようと思ったのに……。
でも、この辺にはいないかぁ……。
僕は宿屋に入り、范増と今後のことを話すことにした。
范増と旅するのは、一番の情報通だからだ。
だから良き相談相手となって適格な助言をしてくれる。
「刺客」という怖いスキルもあるけどね……。
「今日のところは上手くいったみたいだ。張梁殿は承服するかな?」
「半々でしょうな。張角の出方が読めぬうちは……」
「その張角だが、潜めて随分と経つ。何処で何をしているか亜父も分らぬか?」
「あ奴は分らぬ。全くの音沙汰なしじゃ」
「亜父でも分らぬのであれば、致し方あるまい」
「それよりも劉寵の動向が問題じゃ。丁原まで加わったんじゃからのぉ……」
「近々、挙兵すると思うか?」
「涼州次第じゃろう。お互い、洛陽を挟んで牽制しているようじゃ」
「双方が協力して挟撃ということになれば……」
「かなり洛陽は危ないじゃろう。劉岱、劉表の動き次第では、詰む速度も早まるしの……」
「それで……帝は大人しく退位すると思うか?」
「帝の劉宏は退位する気でも、何進と十常侍、董卓、そして影で操る者が阻止するじゃろうな」
「そこで劉寵が動けば……」
「今は藪蛇じゃな。大人しく待ち、洛陽にて変が起きるのを待つのが吉じゃろう」
「成程、それで張角が大人しく静観しているのか……」
「ところで我が君は、帝の退位を望んでいるのかの?」
「当然だ。最早、民は今の帝を主とは思っておらぬ。劉寵殿か劉協の何れかが即位すれば纏まるであろう?」
「フハハハ! 流石は我が君じゃ。婦人の仁に感化されてはおらぬ」
「こう言っては何だが、余は既に帝を見限っておるよ。民の為にならぬ。命まで取ろうとは思わぬが、引退してくれればそれで良い」
「それでこそ我が君じゃ。しかし、黄巾党と劉繇の同盟は、思わぬ事態を引き起こしかねんぞ」
「どんな事態だ?」
「袁術が大人しく引き下がると思えぬ。陶謙を味方に引き込むやもしれんぞい」
「陶謙とは犬猿の仲ではないのか?」
「陶謙も中々の曲者じゃ。注意しておらぬと、どんな動きをするか分らぬぞい」
未だに陶謙は好々爺のイメージあるからなぁ……。
そんなに曲者なのか……。
それじゃあ、今月の政略フェイズです。
南昌で時間食っているから仕方ないけどね……。
武陵は厳顔が補修。
長沙は韓曁が銀山採掘。
桂陽は李通が補修。
蔡邕、徐奕、桓階、杜襲、是儀、陳端、張紘、満寵、金旋が開墾。
零陵は邴原、劉先が城郭整備。
周泰には竹千代の武芸師範役。
陳平が治水事業。
王儁が帰順。甘寧が巡回。
繁欽、尹黙、趙儼、灌嬰、張昭、秦松、王烈、管寧、劉度、顧雍が桂陽に移動。
臨賀郡建設は残り二か月。
零陵パラメータ
農業1300(1300) 商業1300(1300) 堤防100 治安100
兵士数53646 城防御265(500)
資金3860 兵糧78400
長沙パラメータ
農業1200(1200) 商業1500(1500) 堤防100 治安100
兵士数34973 城防御600(600)
資金3980 兵糧148000
桂陽パラメータ
農業821(1000) 商業757(900) 堤防87 治安95
兵士数30182 城防御260(500)
資金5103 兵糧89700
武陵パラメータ
農業1200(1200) 商業800(800) 堤防100 治安100
兵士数34345 城防御498(500)
資金3167 兵糧100000
現在の位置情報。
長沙
張任、韓曁、杜濩
武陵
厳顔、朴胡
桂陽
李通、蔡邕、徐奕、桓階、杜襲
是儀、陳端、張紘、満寵、金旋
劉度、尹黙、張昭、秦松、管寧、
顧雍、趙儼、繁欽、灌嬰、王烈
零陵
彭越、甘寧、劉先、周泰、沙摩柯
王儁、陳平、邴原
出張中
司護、范増、周倉
臨賀郡建設中
邯鄲淳、蒋欽、鞏志、鐘離昧




