第四十話 竹千代の竹馬の友
187年となりました。光和十年です。
そろそろ霊帝が崩御する年ですが、そうなるかは分りません。
まぁ、ゲームの仮想世界ですしね……。
大体、州王って何だよ?
意味が分りませんよ……。
「ほいほい。明けまして目出度いのぉ」
「……って、うわぁ!?」
そう言って、水鏡先生がいきなり背後から現れた。
刺客の件があってから、気が気じゃないのに……。
「いきなり後ろから現れないで下さい!」
「ホッホッホッ。よしよし」
「良くない! ちっとも良くない!」
「お主のその口癖も随分と根付いたのぉ」
「……うう。それで今回は何の用件です?」
「うむ。今年から政略フェイズが変わるぞ」
「………どういうこと?」
「前半、後半というのが無くなる。今年から月一じゃ」
「……何でそんな!? しかも、いきなり!?」
「うむ。人生とは唐突に色々なことが起きるものじゃな」
「てか、人生じゃないし! ゲームの世界だし! これ!」
「よしよし」
「………で、どういう理由で何です?」
「そうじゃのぉ……。『お主が面倒かなぁ?』と思ってな……」
「……絶対、嘘ですよね?」
「うむ。よしよし」
「……白状しろ!」
「仕方ないのぉ……。隠れキャラが横行し過ぎて、この世界が重くなったのじゃよ」
「世界が重くなった……?」
「ぶっちゃけ容量の問題じゃな。そういうことじゃ」
「何だよ……。それ……」
「元々、この世界というか、このゲームは登場キャラが多すぎるのじゃ。それに隠れキャラがいる訳じゃからのぉ……」
「どうすれば元に戻せるんです?」
「元には戻れん。どっちかというと悪化するしかない」
「……は?」
「ただ、悪化の進行速度を緩めることは出来る。『気に入らん者はどんどん殺せ』ということじゃな」
「すげぇ物騒なことを……」
「楊松や博士仁なら躊躇なく殺せるじゃろ?」
「……まぁ、そうですけどね」
「ついでに何進やら十常侍を、とっとと殺して回れば良いじゃろう。よしよし」
「……最初からそのつもりですが、改めて言われると怖いなぁ……」
「気にしない方が目覚めは良いぞ。ではの」
こういうことで、今年からは政略フェイズが月一になりました。トホホ……。
折角、五人も新たな人材が加わった矢先に……。
愚痴を言っても仕方ないので、粛々と内政に勤しみますよ。
そんな事を思いながら新年早々、政務室で篭り仕事をしていると新入りの邯鄲淳がやって来た。
邯鄲淳は恵比寿顔をした初老の少し小太りの男性で、博識なだけでなく話術も上手い。
難しい話でも噛み砕いて冗談交じりに話すので、僕は直に好きになった。
……変な意味じゃありませんからね!
「やぁ、長沙府君。精が出ますなぁ」
「これは邯鄲淳先生。如何なされましたかな?」
「実は、ちと相談がありましてなぁ」
「ほぅ? どのようなご相談ですかな?」
「劇場を造りたいのですわ。皆が楽しめるようにですな」
「……劇場?」
「ええ。何でも天竺より西にある国では、そういった物があるらしいんですなぁ」
「そうですか。それで、どのような演目を?」
「儒学の講堂とかでも良いんですが『小噺を神聖な場所でするとは、けしからん!』とかいう儒者もおりますでな」
「成程。つまり講談などを人々に聞かせたいと?」
「その通りですわ。民衆は、まず堅苦しい説教よりも、笑える小噺の方が良いですからな」
「確かにその通りです。宜しい。早速、手配致しましょう」
「おお!? やはり長沙府君なら分ってくださったか」
「いえいえ。暗いことが続く世の中です。笑い話を聞かせて人々を笑顔にさせるのも重要なことですよ」
「実に有難いことですなぁ。それでは小噺をする者を鍛えますわ」
「それと、ついでに竹千代の指南役になって貰いたい。宜しいですかな?」
「勿論ですわ。この邯鄲淳が長沙府君の後継ぎとして相応しい人物に育てあげてみせますでな」
固有スキルの「教育」保持者がいきなり二人も来たからなぁ……。贅沢な悩みです。
鄭玄先生も来てくれたら、もっと有難かったんだけどねぇ。
何せ今年から政略フェイズが一回だけになっちゃったし……。
邯鄲淳が政務室から出て行くと、今度は同じく新参者の邴原がやって来た。
邴原は張昭と同じく強情者だけど、根は優しい青年だ。
「我が君。今、宜しいですか?」
「おお、邴原。今、邯鄲淳先生と竹千代について話していた所だ」
「それは丁度良かった。実はその事について我が君に申し上げたいことがございまして」
「ハハハ。竹千代に関することなら大歓迎だ」
「実は私は幼い頃に父を亡くし、孤児になったことがございます」
「おお、そうであったか……。それで竹千代にシンパシーを感じておるのだな?」
「シンパ……???」
「あ!? いやいや。……親近感を覚えておるのだな?」
「あ……はぁ。竹千代君に同じ頃の御学童があまりおりませぬ。これでは同年代の者と切磋琢磨することが出来ません」
「うむ。確かに今は蔡先生の娘御含め、僅かしかおらぬか……」
「そこで、どうでしょう? 大きな寺小屋を造ってみては?」
「大きな寺小屋?」
「ここには様々な学問を取得している方々もいらっしゃいます。そこで寺小屋を大きくした学校を造るのです」
「成程。さすれば様々な学問に幼少の頃から触れる機会も多くなろう……」
「はい。竹千代君にもご学友も出来ましょう。後々、竹馬の友になる者もいるかも知れません」
「よし! 民の子らが幼少から読み書きを憶える利点もある。早速、手配を致そう。金は惜しまぬ」
「ははっ! 有難き幸せ!」
「何の……。それに、そこから仲景先生の医術を学ぶ者も出てくるかもしれぬしな」
邴原は満足して部屋から出て行った。
簡単にどんどん認可させちゃっているけど、豊富な資金源なければ教育なんて後回しになる。
本当に「衣食足りて礼節を知る」とは良く言ったもんだ。
このゲームって、基本的にオリジナルの人物は作れないらしいけど、名無しの能吏君もいないとシャレにならない。
政治力が高いからって、全部任命した者だけで出来る訳ないんだしね。
勿論、能吏だけじゃなく、職人、農民、商人といった人々があって、初めて領国経営は成り立つものだ。
でも僕が俯瞰で見られるから、何とか上手くやっているけど、現実世界はこう上手くいかないのも知っている。
その後、一通り政務室での仕事も終わり、周倉を連れだって街へ繰り出す。
周倉は良い人だし、頼もしいけど、流石に毎日一緒だと飽きてくる。
けど、それ以上に周倉には休日なんてもんはないからなぁ……。
ある意味、ブラック企業ですよ。面目ない。
ちょいとある事が気になったので、僕は周倉に聞いてみることにした。
「なぁ。周倉よ」
「何ですかい? 我が君?」
「君は余の警護を四六時中しているが、伴侶を持ちたくはないのか?」
「何を言っているんですよ。そういう我が君だって、奥さんがいないじゃねぇですかい」
「……余は既に息子がいるから必要ない」
「あっしも同じようなもんです」
「……意味が分らぬが?」
「我が君が兄弟みてぇに感じるんですよ」
「……何?」
「あっ!? いけねぇ! こいつぁ失礼なことを!」
「いや、それは構わん。しかし、余が兄弟代わりとして、伴侶は別の問題ではないか?」
「でもねぇ……。如何せん、出会いなんてもんが有りませんわ」
「それもそうか……。すまぬ」
「いや、気にしないで下せぇ」
「そうは行かぬ。家臣の幸せも、君主として大きい顔をする者ならば、考えねばならぬからな」
「凄ぇなぁ……我が君は……」
「当然のことだ。あ、それと気になったことがある。前々から気になっていたんだが……」
「へぇ? 何です?」
「黄巾党は略奪など、行わない筈だったよな?」
「へぇ。ですがね。あっしがいた汝南はどうも違っていたようでして……」
「どう違ったんだ?」
「いや、波才の親分や張曼成の親分は厳しかったんですが、韓忠の親分は違ってましてね」
「どう違っていたのだ?」
「元々、山賊の親分でして、その辺の規則ってヤツが緩かった訳ですわ」
「どうして、そのような者が取り立てられたんだ?」
「そこまでは、あっしも分りません。ただ、あっしが思うに黄巾党の大半は、大概ズブの素人の農民でしたから」
「成程。数で押すには、山賊の連中の手助けも必要だった訳か」
「それに山賊やら水賊、海賊もピンキリです。周泰の旦那や蒋欽の旦那、それにあの甘寧ってのも同じようなもんじゃございませんか」
「それもそうだ。元は農民や漁師だったものが、鞍替えしている者も多いらしいしな」
「大体、ここの兵達も元は水賊、山賊、蛮、山越と随分じゃございませんか」
「ハハハハ! 確かにそうだ。いや、変な事を言ってすまなかった。大体、余は元々、賊だったことを失念していたわ!」
「ハハハ! そりゃあ、違いねぇですや!」
それで僕と周倉は大笑いした。
考えたら朝廷からしてみれば僕も賊だった………。
その後、周倉だけでなく数人の衛兵を連れて、街の中を散策。
やっと漢の民と蛮の民とで雑談している風景が、あちこちで見られるようになってきた。
漢と蛮の子供達が一緒に遊んでいるのを見かけると、僕のやってきたことは間違っていないと思うんだ。
ただ、未だに蛮と漢民との軋轢はあるらしい。
これを取り除かないと本当の意味で「零陵が復興した」とは言えない。
まぁ、こういうものは時間が掛かるから、一朝一夕でどうにかなる問題じゃないんだけどさ。
張羨さんの宿題は重すぎますよ……。
そして散策がてらに蔡邕先生の庵というか、私塾へお邪魔する。
竹千代の様子を見に来ただけなんだけどね。
最近では子供の塾生も少し増えたそうで、竹千代の遊び相手も出来たとのこと。
「あっ! 父上!」
僕の姿を見るなり、竹千代は嬉しそうに近づいてきた。
聡明な感じするけど、上手くいかないと凡将になるのか……。
けど邯鄲淳も来たし、満寵クラスにはしたいところだなぁ……。
ええ、贅沢なのは分っていますよ。
そんな竹千代だけど、既に一人親友がいるらしい。
その親友の子供も僕を見るなり、目を輝かしている。
この子も随分と利発そうな子ですけどね。
「父上! 僕の親友の蒋君です!」
竹千代がそう言うと、少し恥ずかしそうに蒋君と言われた子供は僕に挨拶した。
僕は目を瞑りながら挨拶し、その子のパラメータを見ることに。
………すると。
蒋琬 字;公琰
未成年につき、表示不可
えっ!? 蒋琬!?
良くやった! 竹千代! いきなりの大手柄!
しかも蒋琬と親友なら、絶対に良い影響受けまくりだよね!
「初めまして。蒋と申します。司府君」
「ハハハ。余は太守である前に竹千代の父だ。そう畏まらなくて良い」
「有難うございます。ですが、そういう訳にはいきません」
「律儀なことだ。それに君のような者なら安心して竹千代を任せることが出来る。竹千代を任せましたよ」
「ハハッ! 竹千代君を必ずやお守りしてみせます!」
蒋琬がそう言うと、竹千代は少し膨れさせ、こう述べた。
「僕はもう子供じゃないよ。それに腕力なら僕の方が上です」
「ハハハ! そう怒るな。それに上に立つ者は腕力なぞ必要としない。それに自慢じゃないが、余は腕っぷしなら誰にでも負けるからな!」
僕がそう言うと二人とも大きな声で笑ってくれた。
武力1は伊達じゃないんだからね!
………ええ、自慢出来る事じゃないのも良く分かっていますよ。
一通り散策を終えると、政務室へ逆戻り。
今月の政略フェイズと参りますか……。
でも、二回が一回になったのはイタいなぁ……。
今回から更に内政要員は増えているけどねぇ。
武陵は厳顔が補修。
桂陽は李通が補修。
長沙は韓曁が銀山採掘。
更に長沙の資金で、全ての四郡に劇場と幼年期学校を設立。
合せて金2000を消費。
そして長沙から杜濩が零陵に金2000を輸送。
そしてで、零陵が……。
蔡邕、徐奕、桓階、杜襲、是儀、陳端、張紘、満寵、金旋が開墾。
僕、繁欽、尹黙、趙儼、灌嬰、張昭、秦松、王烈、管寧、劉度が街整備。
顧雍が治水。王儁が帰順。
范増と邴原、劉先が城郭整備。
周倉は引き続き僕の護衛。
邯鄲淳には竹千代の家庭教師。
零陵パラメータ
農業1300(1300) 商業1184(1300) 堤防80 治安92
兵士数51846 城防御217(500)
資金3286 兵糧78400
長沙パラメータ
農業1200(1200) 商業1500(1500) 堤防100 治安100
兵士数34973 城防御600(600)
資金980 兵糧148000
桂陽パラメータ
農業697(1000) 商業757(900) 堤防100 治安95
兵士数30182 城防御240(500)
資金5456 兵糧89700
武陵パラメータ
農業1200(1200) 商業800(800) 堤防100 治安100
兵士数34345 城防御476(500)
資金3667 兵糧150000
新年早々、特に動乱の情報は未だにない。
けど、怖いんだよなぁ……この静けさが……。
現在の位置情報。
長沙
張任、韓曁、杜濩
武陵
厳顔、朴胡
桂陽
李通
零陵
司護、劉度、尹黙、張昭、秦松
杜襲、蔡邕、徐奕、桓階、是儀
彭越、張紘、金旋、鞏志、蒋欽
顧雍、王儁、趙儼、繁欽、鐘離昧
灌嬰、周倉、甘寧、陳端、邯鄲淳
范増、陳平、周泰、劉先、沙摩柯
満寵、邴原、王烈、管寧




