第三十二話 僕の中の三国志?
帰路の途中、ある宿屋でのこと。
僕はこれから先のことを考えながら、眠りにつこうと目を瞑った。
このまま漢室を守る方向でいくか、それとも黄巾党と迎合するか、それとも……。
そうしたら枕元に誰か立っていたんだよ!
「ホッホッホッ。夜分、失礼するぞい」
「あ!? ああ……于吉道人様か」
「何じゃ? その反応は?」
「ああ、はいはい。サイコロを……」
「待て。それで来たのではない」
「………はい?」
「ちと、お前さんに謝らなければならんことがあっての」
「……何を謝るんです?」
「うむ。手違いで范増と彭越を遣わせてしまった。代わりの者を送る故、両名を引き取らせてもらおう」
「ええっ!? 拒否権はないの!?」
「……儂の失敗だからのぉ。それはある」
「良かったぁ……。あ、でも韓信と張良ですか!?」
「随何と酈食其じゃ」
「……謹んでお断りします」
「……良いのじゃな? どうなっても知らんぞ」
「その二人だとちょっと……」
「……では、今回は特別に叔孫通もつけよう」
「だが、断る!」
「何っ!? 全く、聞き分けのない……。まぁ、仕方ないかのぉ」
そう言うとスッと跡形もなく消えてしまった。
でも、僕は悪いことはしてませんから!
その三人と范増、彭越のトレードは絶対にありえないでしょ!?
少し目が醒めてしまったので、窓から星空を眺めた。
そして、ウトウトし始めると急に僕の頭の中で声がした。
僕と同じ声で……。
「どうかしたのかい? 僕よ。所詮、ここはゲームの世界なんだぜ。もっと楽に考えろよ」
「……君は? 一体……?」
「僕かい? 僕は『梟雄の僕』さ。君は『思考:仁君』にしていたが、このゲームのアンケート欄に好きな戦国大名三つで誰を挙げた?」
「毛利元就と武田信玄と伊達政宗です……」
「それのせいさ。それで『梟雄の僕』も日増しに出てこれるようになったのさ」
「そうだったのか……」
「ああ、そうさ。けどよ。いっそ黄巾党を利用して天下を取ったらどうだい? 滅多にないチャンスだと思うがね」
「……そうかなぁ?」
「ああ、そうともさ。帝なんぞ女狂いと酒浸りで宦官の言いなりだぜ。ロクな奴じゃねぇんだし」
「……そうかもしれないけど。でも、そろそろ崩御する筈じゃ?」
「しない可能性が高いぜ。何せ、まだ三十歳になったばかりだぞ」
「ええっ!? まだ、そんなに若いの!?」
「そうさ。もし君が劉協を立てるつもりでも、あいつが死んでなければどうしようもない。そうじゃないか?」
「……そうかもしれないな」
「だろ? だったら、いっそ……」
その時、別の声がした。
いや、そっちも僕の声なんだけどね……。
「待て! 貴様! そうはさせぬぞ!」
「おお、仁君気取りの僕じゃないか。どうした?」
「どうしたもこうしたもない! この僕を乗っ取ろうなどと不届き千万! 懲らしめてやる!」
「そんなことを言ったら、君も同罪じゃないかね? 仁君気取りの僕よ」
「何だと!?」
「君は今まで好き勝手に『平凡な僕』を操っていたじゃないか。つまり同罪なのだよ」
「ふざけるな! 僕は仁君として正しい道を『平凡な僕』に示しているだけだ!」
「ちょっ……ちょっとタンマ! 二人の僕!」
僕は頭の中で聞こえる二つの声に叫んだ。
大体、何だよ。これってさ……。
けど、この二つが逆に消えると僕は……。
ああ……どうすりゃいいんだ?
「気にすることはない。早く現実に戻りたいんだろ? だったら大人しくこの『梟雄の僕』に任せろよ。平凡な僕」
「貴様! 主である平凡な僕に向かって、何という口のきき方だ!」
「平凡なんだから平凡で良いじゃないか。そうであろう? 平凡な僕」
「もう、許さぬ! 平凡な僕よ! こやつを今すぐ誅殺しましょう!」
「待て! 待て! さっきからどっちも平凡! 平凡! って僕を馬鹿にしやがって!」
……うん。これは精神分裂症ってやつかな?
現実逃避したくてもゲームの中だもんな。
……もう、どうすりゃいいのよ!?
「さっさと僕に命じ、この腐れ儒者もどきをやっちまえば良いんだよ」
「なりませんぞ! この凶賊め! 平凡な僕を誑し込むなぞ、今日という今日は許さぬ!」
「うるさいなぁ……。この乱世で綺麗事ばかり並べても、ロクなことねぇのが分らないのかい?」
「乱世である現在こそ、仁を尽くすべきなのだ! そうであろう! 平凡な僕よ!」
「だから! 『仁君の僕』も『梟雄の僕』もいい加減にしろ!」
ああ、頭が二つに割れそうだ。
……正確には三つかも……兎に角、割れそうだ。
僕は深呼吸をし、落ち着いてから両者に言い聞かせることにした。
「僕はあくまで僕だ。平凡でも何でも好きに呼んでも構わない」
「ほう……。で、結論は出たのか? 平凡な僕」
「ああ、結論は出た」
「真ですか!? では早速、この不埒な凶賊を!」
「うるせぇ! この腐れ儒者! 消えるのはテメェだ!」
「だから、双方ともやめろ! 平凡な僕には二人の僕が必要なんだから!」
「何ぃ?」
「今、何と申された? 平凡な僕よ」
「双方があってこその両輪なのだ。半兵衛と官兵衛。伏龍と鳳雛。そういうことだ」
「……何を言っているのか、分っているのかい? 平凡な僕。この『梟雄の僕』こそ、君を現実に戻す早道なんだぜ」
「それは違いますぞ! この『仁君の僕』を頼ってこそ、現実でも豊かな心根で生きていくことが出来るのです」
「金もなしで心根だけで生きていけるものか。だから『腐れ儒者は現実を見ない』って言われるんだ」
「黙れ! 凶賊! 君についていけば必ずや、平凡な僕は悲惨な末路が待っているに決まっている!」
「だから双方とも喧嘩をするな! 良いか! 平凡な僕には分っているんだ! 君らはこの平凡な僕次第で消えるんだろう!」
「……う」
「………そ、それは」
「だから協力し合うしかないんだ! 平凡な僕は君ら二人がいなければ、現実には戻れない! 良いかい! これは主命だぞ!」
「……承知した。この『梟雄の僕』は不本意だが従うことにしよう」
「……主命とあれば致し方あるまい。『仁君の僕』も平凡な僕に誓いましょう」
「お白洲はこれまで! 一同の者、立ちませい!」
「……は? 何を言ってるの? 再放送の時代劇の見過ぎか?」
「……立つも立たないも頭の中でしょうに……」
「………う」
兎も角、これで平凡な僕は両方の僕を御することになった。
自分で「平凡」って言うのも、なんか嫌だけど……。
けど、この世界で生きていくには両者を使わないと無理なことぐらい、分っているんだよ……。
そして、平凡な僕は仁君の僕と梟雄の僕に対し、さらに話を続けた。
「……でだね。これ以上、僕は『平凡』と言われたくないから、君ら二人に愛称をつけることにした」
「愛称だと? 無駄なことだと俺は思うがね」
「それが主命とあれば……」
「では、発表します。『梟雄の僕』はフクちゃん。『仁君の僕』はジンちゃんということで……」
「おい……。なんだ? フクちゃんってのは?」
「愛称なんてそんなものだろ? で、僕はボンちゃんね。これで決まり」
「それでは私がジンちゃんですか……」
「そういう事、これで僕も混乱しなくてすむ。宜しく頼むよ。フクちゃんにジンちゃん」
「………俺がフクちゃんかよ」
「……致し方あるまい。主命とあれば……」
これで僕も混乱せずに済むぞ。
あとはフクちゃんとジンちゃんを交互に使い分けて、この御時勢を乗り切り、現実世界に戻るだけ。
萌え要素0のド硬派な世界なんて、面白くもなんともないからね。
そして翌日のこと、李通が心配そうに僕に訊ねてきた。
「親分。昨日は凄い寝言でしたぜ。大丈夫ですかい?」
「ん? ああ、大丈夫だ」
「黄巾党の連中の口車に乗せられたからじゃねぇでしょうね?」
「あれは口車などではない。彼らの本心であろう」
「ですがねぇ……親分。あっしらも黄色い布を巻くってのは……」
「おいおい。それには及ばない。余が必ず、あの者達から黄色い布を徳によって外させるつもりだ」
「……すげぇなぁ、親分。大した自信だ」
「その親分というのは……まぁ、余も賊だから仕方ないか」
疲れた……。本当に疲れた。色々な意味で……。
癒してくれる萌え要素は全くないし……。
本当に転生ものなら、恋愛SLGだったらどんなに良かったか……。
僕は疲れ果てながらも長沙へ戻った。
そして政庁に戻ると「客人が来ている」と衛兵Aから言われた。
都から脱出してきた貂蝉とかなら大歓迎だけど……。
しかし、その目論みというか妄想は、直に音を立ててガラガラと崩れた。
謁見室に入ると如何にも若い文官がいたんだ。
仕方ない……パラメータチェックでもするか。
金旋 字:元機 能力値
政治6 知略5 統率5 武力4 魅力5 忠義5
固有スキル 開墾 治水 補修
……金旋かよ。けど、そんなに悪くじゃないか。
あの時、陳端が逸材と言っていたのは嘘じゃなかったのか……。
ごめんよ。陳端……。
ということで、遠慮なく登用することにしよう。
ひょっとして韓玄や趙範もそれ程、悪くないのかもなぁ……。
「お初にお目にかかります。司護殿。某は姓を金。名は旋。字を元機と申します」
「……うむ。して、何用かな?」
「はい。零陵の使いとして参りました。司護殿にお願いの儀がございます」
「……零陵の? ということは張府君のか?」
「いえ。正式には張府君ではございません」
「……どういうことだ?」
「実はお恥ずかしい限りですが……」
金旋から聞いた話によると、張羨は刑道栄を誅殺することに失敗。
怒った刑道栄は乱を起こし、張羨と楊齢を殺害した上、零陵に陣取った。
さらに賊軍の觀鵠と蘇馬らがこれに合流、零陵蛮らと抗争に入ったとのことだった。
さらに韓玄と趙範は、鮑隆と陳応を従えて蒼梧郡に逃走。
蒼梧郡の督郵である士壱に助けを求めに行ったという。
そして、金旋はというと、僕に頼って来たという訳だ。
「話は分かった。しかし、余も賊太守と呼ばれている身ぞ」
「……存じております。私も韓玄と共に都から県令として出向く途中で、この長沙にも寄りましたから」
「……何? 都から?」
「はい。まだ若輩ですが、私もこう見えても金日磾の末裔。私の目に狂いはないと信じ、長沙に来た次第です」
「おお、前漢の良臣である金日磾殿の縁の者であったか……」
「今や零陵は他三郡と比べものにない有様……。どうか、零陵をお助けください」
「うむ。承知した。早速、軍議をした上で零陵に向かうことに致そう」
「有難うございます! これで零陵は救われます!」
「うむ。君も是非、我が陣営に加わってくれ。しかし……問題は交州の軍がどう出るかだが……」
「それには及びません。交州は未だに安定しておりませんので……」
「……ならば問題はないか。よし! 早速、軍議を開くぞ!」
予想とは違ったけど、結果オーライ。
これで堂々と零陵へ進軍出来る。
零陵は凄く疲弊しているらしいけど、長沙も武陵も最大値だし、問題はない!
ということで、7月前半の政略フェイズ。
金旋の話だと敵の軍勢は4万とのこと。
今回はかなりの激戦になるに違いない。
城攻めも覚悟の上でいかないとね……。
そこで僕は桂陽、武陵にも使者をだし、双方からも1万ずつ兵を出すように指示した。
桂陽には李通を向かわせて城代とし、灌嬰、周倉に出陣してもらう。
武陵からは杜濩、朴胡、沙摩柯、鞏志、蒋欽らを出陣させる。
更に桂陽と武陵からは輜重隊も編成させ、それぞれ金2000と兵糧20000を零陵方面に輸送。
主力の長沙からは兵を2万出陣させる。
留守は張任と陳端に任せ、他は総出で向かうことになった。
なお、長沙からも輜重隊を編成し、金2000と兵糧30000を零陵方面に本隊と共に移動させることにした。
内政としては武陵では厳顔に城壁補修。
長沙では陳端に開墾をさせ、韓曁は銀山採掘。
……これで陣容は整った。まずは荊南四郡の統領になるぞ!
長沙パラメータ
農業1200(1200) 商業1500(1500) 堤防91 治安100
兵士数34973 城防御589(600)
資金2980 兵糧28000
桂陽パラメータ
農業697(1000) 商業757(900) 堤防100 治安95
兵士数30182 城防御120(500)
資金2147 兵糧22000
武陵パラメータ
農業1200(1200) 商業800(800) 堤防100 治安100
兵士数34345 城防御344(500)
資金1267 兵糧30000
輜重隊の輸送合計 金6000 兵糧70000
長沙から兵20000
桂陽から兵10000
武陵から兵10000
現在の家臣状況
長沙
張任、陳端、韓曁
武陵
周泰、厳顔
桂陽
李通
出陣中
長沙から
司護、劉度、尹黙、張昭、秦松
杜襲、蔡邕、徐奕、桓階、是儀
彭越、陳平、張紘、金旋、鐘離昧
顧雍、王儁、趙儼、繁欽、范増
武陵から
杜濩、朴胡、沙摩柯、鞏志、蒋欽
桂陽から
灌嬰、周倉
現在家臣33人




