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第三十一話 黄巾との会談

 6月も半ばを過ぎ、また汗ばむ季節となった。

 元々、僕は暑いのが苦手なので、気がめいる季節でもある。

 ……寒がりでもあるんだけどね。

 けど、それ以上に気がめいる理由は張梁との会合なんだけどね。

 

 場所は向こうから指定された長福寺というお寺。

 日本にもありそうな名前だなぁ……。

 現実世界に戻ったらググってみよう。

 

 けど、太平道って仏教も受け入れているの?

 確か道教の筈じゃ……まぁ、いいか。

 宗教はそこまで興味ないしね……。

 

 そうそう、そういえば洛陽から、この長沙に一人の僧侶が来ているらしい。

 なんでも偉いお坊さんだとか……。

 ……と、こんなことを考えていたら「噂をすれば影」って本当なんだねぇ……。

 

 僕は衛兵Aに呼ばれ、謁見室へと赴いた。

 そうしたら、黄色い袈裟を着たどうみても中国人じゃない人がいる。

 見たところ、インドかその辺の人かな?

 顔の彫はとても深くて、目も大きい。

 そして、精悍そうな見た目が四十代の人だった。

 

「余が司護である。聞けば三蔵とのことであるが、余に何用か?」

「お初にお目にかかります。拙僧は支婁迦讖しるかせんと申し、主に経典を訳す者です」

「わざわざ都から参ったとか……。して、この長沙へ来た目的は?」

「都はどうにも世俗の臭いで充満しており、落ち着きません。当初は襄陽にて翻訳をし、布教もするつもりでしたが……」

「………が?」

「どうも劉刺君は、あまり仏教に関心がありません。それどころか、警戒しておられるようです」

「確かに劉刺君は儒学者でもある。それに近くの漢中には、五斗米道なるものが流行っていると聞く……」

「はい。それに加え太平道です。それでこの国で歴史の浅い仏教は、どうも好まれていないようです」

「うむ。して、この長沙で布教したいと申すか?」

「布教が許されなくても、静かな庵さえ与えて下されば有難い。ただ、それだけです」

「ふむ。民は何かにすがりたいもの。布教も許しますし、寺院の建立も認めましょう」

「有難うございます。司護様に御仏のご加護があることでしょう」

「いやいや。余は儒教であろうが、道教であろうが、民のためになる教えであれば保護するつもりです。仏教もその一つにしか過ぎません」

 

 僕は仏教の布教を許し、寺院を建立することも約束した。

 この寺で鑑真が修行し、後に日本へ渡来することになる……。

 ……なんてね! そんな訳がない。

 大体、支婁迦讖しるかせんなんて「そんなの、シリマセン」だし。

 ……本当にごめんなさい。

 

 寺の名前は僕につけて欲しいというので、吉穣寺きちじょうじと名付けた。

 まんま吉祥寺だと、なんかね……。

 理由? その近辺の高校に通っているから。ただ、それだけ。

 本当は慰慕寺いぼじだの紗摸寺しゃもじだのにしようと思ったけど、バチが当たりそうなのでやめました。

 

 扁額へんがくは蔡邕に依頼して、あとは完成を待つだけ。

 それと、お布施ということで金300を提供しました。

 自分のお金じゃないから使うけど、自分のポケットマネーだったらやらないなぁ……。

 

 でも、ゲームの世界なのに、こんなイベントまであるんだねぇ……。

 萌え要素は0のくせして……。

 

 さて、それではまずは6月後半の政略フェイズ。

 武陵は厳顔が補修。

 桂陽は灌嬰が町整備。

 長沙は劉度、尹黙、秦松、趙儼、繁欽、顧雍が街の拡張。

 杜襲、徐奕、桓階、是儀、張紘、陳端が開墾。

 王儁が帰順。蔡邕は吉穣寺の扁額制作で、韓曁は採掘。

 僕と陳平、張昭、李通、范増は長福寺に出向く。

 なお、鐘離昧が念のため、長福寺近くで兵2千を駐屯。

 

長沙パラメータ

農業1191(1200) 商業1500(1500) 堤防92 治安100 

兵士数52973(+2000) 城防御589(600)

資金2280 兵糧68000


桂陽パラメータ

農業697(1000) 商業757(900) 堤防100 治安95

兵士数40182 城防御120(500)

資金3590 兵糧47000  


武陵パラメータ

農業1200(1200) 商業800(800) 堤防100 治安100

兵士数44345 城防御333(500) 

資金2467 兵糧55000

 

 さて、僕は相談役として陳平、張昭、范増。

 そして、護衛役として李通を伴い長福寺へと向かった。

 いざとなれば鐘離昧が雪崩れ込んできて、助けて貰えると信じて……。

 

 数日かけて郡境に来ると平穏な村が見えてきた。

 少し前までは荒れていたらしいけど、確かに村民は穏やかで田んぼにも水が行き届き、稲が実り始めている。

 この辺から大量の難民が、長沙に雪崩れ込んでいたなんて信じられないくらいだ。

 

 長福寺に来ると、境内は既に黄巾の兵が警備をしていた。

 その黄巾の兵の中には山越人が多く占めており、太平道がそれなりに山越にも浸透しているのかが分かる。

 村民はそんな黄巾の兵を警戒しておらず、お参りに来る人々も互いに会釈をしているぐらいだ。

 呆気にとられている僕を見て、陳平が話しかけてきた。

 

「あのお参りに来ている婆も奴らの仲間かもしれません。警戒は怠らないように」

「……うむ。しかし、そうは見えぬがね」

「司護殿は甘すぎます。いざという時は、老若男女皆殺しにするぐらいの気概がないと……」

「……余は確かに甘い。だが、そのようなことをしても、乱世なんぞ終わりはせぬ」

 

 僕はそう言って陳平を嗜めた。

 いや、別にゲームの世界なんけどさ……。

 流石に惨いのはドン引きですよ……。

 まぁ、そういってもアクション系では、誰にでも銃を乱射していますけどね……。

 

 境内に入ると壁などは幾つか壊されてはいるものの、綺麗に掃除されている。

 太平道は特に仏教を弾圧とかはしていないらしく、僧侶にも黄巾の兵達は敬意を払っている。

 だから僕は増々、黄巾党というものが分らなくなってきた。

 

 御堂に入ると、既に威厳のありそうな髭を蓄えた人物が席に着いていた。

 両脇には波才と呂岱の二人がいる。

 恐らく威厳のありそうな髭の人物が張梁だろう。

 

「良くぞ参った。貴殿が司護殿だな。ささ、入られよ」

 

 張梁は僕のために自分から席を立ち、椅子を引いてくれた。

 身長は僕よりは低いけど、それでも180センチメートル以上はありそうだ。

 体型はマッチョというよりも、あんこ型といっていい。

 僕は立ったままでまずは頭を下げ、そこで挨拶をした。

 

「姓は司。名は護。字を公殷です。貴殿が張梁殿ですか?」

「如何にも儂が張梁だ。貴殿のご高名は、かねがね伺っておりましたぞ」

「いやいや。私なんぞに力はない。皆が私を盛り立ててくれているだけです」

「そんな事はないでしょう。波才や呂岱からも聞いたが、貴殿はそれだけの御力がある」

「ハハハ。お世辞は言われ慣れてないもので、何と言えば良いか……」

「まぁ、まずは座られよ。御付きの方々もささ……」

 

 張梁はいやに低姿勢だ。

 よっぽど三者同盟を結びたいんだろうな。

 そうすれば南昌の兵を、ほぼ総動員することが出来るしね。

 

 着席すると、張梁は配下の兵を呼び、酒とつまみを出してきた。

 つまみはタガメじゃなく小魚だったので、まずは一安心。

 そして僕が胸を撫で下ろすと、張梁は空かさず話しかけてきた。

 

「いやぁ、こうして司護殿とお会いすることになるとはな。夢にも思いませんでした」

「私もまさか人公将軍殿とお会いするなど、夢にも思いませんでしたよ」

「いやいや。ところで貴殿は先日、左豊とかいう宦官を怒鳴りつけたと聞いたが」

「はい。絵に描いたような佞臣でした。あのような者が宮中に居れば、世が暗くなるのは当然です」

「おお! 正しくその通り! 司護殿は話が分かる!」

「……しかし、それを糺すのが真の忠臣です。官位はありませんが、漢の忠臣として生まれたからには糺すしかありません」

「おいおい。酒が不味くなるようなことは言わないでくれ。折角、こうやって和解の機会を得たんじゃないか」

「はい。確かに和解の機会だとは思います。この村や他の近郊の村々を見ても、黄巾党は賊ではないと確信しました」

「おお! それは良かった! やはり誤解は解けたのだね!」

「しかし……です。やはり黄巾党には協力は出来ない……」

「じゃあ、何か? 君は宦官どもが送りつける太守や刺史の意のままになるのか?」

「それはなりません」

「しかし、君が他の地への太守に任命されてみろ。そして、代わりにやってくるのが宦官の縁者どもだったらどうする?」

「……そ、それは」

「ほうら、言わんこっちゃない。今や武陵、長沙、桂陽は宦官どもや外戚どもが、舌なめずりしておると聞くぞ」

「………」

「そして君が去った後に、また民が反旗を翻す。その繰り返しで良いのか?」

「……良い訳がないでしょう」

「じゃあ、もう見限るしかないだろう。『黄巾党に加われ』とは言わない。加わって欲しいがね。だから、せめて対等な立場での同盟なら良いだろう」

「………」

 

 ………困った。非常に困った。

 見た目とは裏腹に、中々の弁達者じゃないか……。

 さぁ、どう反論しよう……。

 

「儂も君とは戦いたくはないのだ。なぁ、分かるだろう? 今こそ民の為に働こうではないか」

「……そうですね。しかし」

「……おお! ……しかし?」

「それにはまず猶予を下さい。もしも漢室が、張梁殿がおっしゃったようなことをするのであれば、私にも民を守る義務があります」

「……う。うむ」

「ですが今のところ、他の地への転任を指示されておりません。ですので、今は返答がしようありません」

「しかし……だぞ。君は明日にでも勅使が来るかもしれぬのであろう?」

「さぁ……聞けば十常侍らは、私を心底嫌っているとか……。都に呼ばれたら梟首かもしれませんし……」

「……君はノコノコ行くつもりかね?」

「はい。ノコノコ行くつもりです。その覚悟がなければ、ここにも来れなかったでしょうし……」

「……そして君が梟首にされたらどうする?」

「その時こそ漢室の終わりでしょう。その時に蒼天に変わって黄天が立てば宜しい」

「……君は正気か?」

「正気です。家臣からはちょくちょく狂人扱いされますがね。ハハハハ」

「………」

 

 うん。分ります。僕は正気の沙汰じゃありません……。

 でも、この暴走癖はどうにもならないのです……。

 すると今度は僕のことを張梁は凝視してきた。

 更に後ろの方では、ごっつい男が隠れながらこっちを睨んでいる。

 しばらく沈黙した後、張梁が急に大声で笑いだした。

 そして、一しきり笑った後、僕にこう言ってきたんだ。

 

「こいつぁ、参った。ここまで言われてしまったんじゃあ、お手上げだ」

「納得して頂けましたか……」

「いや、納得はしちゃいねぇ。だが、アンタを少し見直した」

「どういうことです?」

「こっちとしちゃあ、アンタが都で梟首になるのを望むしかねぇ。そういうことだろ?」

「本心では梟首なんぞ、ごめんですがね……」

「おう。だから今日のところは免じてやる。安心して酒を飲んでくれ。毒なんぞ入ってちゃあいねぇよ」

「それが生憎、下戸なもので……。茶を頂けませんか?」

「何!? ハッハッハッ! こいつは面白い!」

「ついでに、こちらも免じてくれた礼をしましょう」

「何だ?」

「漢室から官位がない以上、こちらからも攻め込むことは出来ません。つまり……」

「……ん? おお。成程な。そうか、そいつぁ有難い!」

 

 ああ……何とかなったようだ。

 鴻門の会みたいに双方とも剣の舞もないし、まずは一安心。

 ついでに言えば、南昌からはこちらから手出ししない限り、攻めてこない訳だ。

 これであとは零陵次第だな。

 

 ついでに密約の一つとして、豫章の交易ルートを打診した。

 山越族が領有する交易ルートで襲わないという密約だ。

 そして、黄巾党が僅かな通行税をとることを条件に、その密約は交された。

 これで長江が閉鎖されても、長沙郡、豫章郡、会稽郡の道筋は確保した。

 行商人にとっては死活問題だからね。

 あのお婆さんの恩義もあるし。

 

 僕はしばらく張梁と雑談した後、帰路へついた。

 雑談しても張梁は気さくな人物で、意外と教養もあった。

 聞けば張角も張宝も元は地方の県の役人だったそうで、張梁自身もそうだったらしい。

 で、その雑談の中で分ったことなんだけど……。

 

 黄巾党はそもそも疫病に苦しむ民を救う所謂、ボランティア団体と同じだったらしい。

 張角は薬草学の知識もあり、薬湯の中にお札を入れ、病人をその気にさせて治癒させたことに成功したらしいんだ。

 今で言うところのプラシーボ効果ってやつだね。

 それで民衆が続々とお札を買い集め、張角はその資金でさらに薬を買い、さらに病人に施していった。

 

 そこに目をつけた賄賂好きの県令が張角を脅し、法外な金額を要求した。

 当初は仕方なく、その県令に金を渡していたが、怒った信者達がその県令を殺してしまった。

 それで信者となっていた役人の馬元義が洛陽に乗り込み、このことを帝に直訴しようと企てた。

 

 これを金に目が眩んだ部下の唐周が密告し、事件が発覚。

 事前に防がれてしまったというんだ。

 馬元義だけど、彼の勇気ある部下が馬元義の偽物に成りすまし、まず唐周を殺してから自分が身代わりとなって車裂きの刑で死んだ。

 

 一番まずかったのはその後で、十常侍らが同時に張角の金に目が眩んだことだ。

 というのも、張角には様々な富豪らも献金していたらしく「張角には莫大な財産がある」という勝手な憶測もあり、張角を捕えようとした。

 とうとう堪忍袋の緒が切れた張角は信者らを扇動し、これで黄巾の乱が勃発した。

 

 当然、張梁の一方的な話だから、何処まで信じて良いか分らない筈だ。

 けど、僕には便利な固有スキル看破がある。

 戦場だけでなく、政治的な嘘にもそれは発揮するんだよね。

 それで楊松の讒言を看破することが出来た訳だから……。

 

 困った……。本当に困った……。

 もう何が正しいのか既に分らない。

 黄巾党が本当に残虐な賊だった方が、どれだけ有難かったか分かりゃしない。

 

 僕は帰路の途中、あれこれ悩んでいた。

 そうしたら脇にいた張昭が僕に話しかけてきた。

 

「我が君。これからどうなさるおつもりで……?」

「……余も分らぬ。まずは正式に太守に任命されたらだ」

「張梁が言っていた通り、参内の命が下された場合、本気で上京するつもりでないでしょうな?」

「いや、それは本気だ……」

「なりませぬぞ! それだけは!」

「だが、断れば賊のままであろう? 確かに、このまま賊太守でいた方が良いのかもしれぬがな……」

「しかし……そういう訳にもいきませぬな……」

「……うむ。故に官位を賜った際には参内し、現状を帝に直訴するつもりだ」

「……十常侍どもが黙って見過ごす筈がございますまい」

「……だろうな。流石に車裂きの刑はないとは思うがね。恐らく、宮中で……」

「宮中で……? 幾らなんでも、宮中を血で染めようとは彼奴らも……」

「……いや、彼奴らはやる。余には分っておるのだ」

「……まさか、それも夢で?」

「……う。それは……」

 

 僕はその時に乾いた笑いをした。

 本当になんて返して良いか分らなかったからだ……。

 


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