表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/216

第二十八話 やっと黄忠に会えたけど……

 さて、趙儼らに金を持たせ、早速長沙へと渡ってもらうことになった。

 その際、趙儼からある情報を入手。

 それは劉表の下で働く官吏の一人、伊籍の存在だ。

 伊籍なら僕が劉表に捕まったとしても逃がしてくれそうな気がするしね!

 

 そして、酒場が出ようとすると、不意に僕の袖を誰かが引っ張った。

 見るとまだ十歳くらいの童子が僕の袖を引っ張っている。

 僕が振り返ると童子は僕に話しかけて来た。

 

「貴方様があの有名な賊太守様なんですか?」

「ハハ。どうもそうらしいね。賊太守というのは少し引っかかりますけど」

「民は口々に『漢はもう終わりだ』と嘆き、呆れているのに何故、貴方様は漢に忠節を尽くすというのです?」

「それは少し違う。私が漢を立て直そうとしているのは民の為です。今の帝は聡明な方で、必ずやこの大乱を収めてくれると信じているからです」

「しかし、周りには宦官という弊害がございましょう?」

「別に宦官だけではない。宦官にも立派な方はいる。今の十常侍という輩はそうかもしれぬが、宦官だからというのは少し違うと思うね」

「何故です?」

「それは『山越の民や荊蛮の民は皆、粗暴で略奪をする』と言っているようなものです。物事の本質を見極めなければなりますまい」

「成程、それはそうですね。失礼しました」

「少なくとも佞臣の類は排除せねばなりませんが、その為にはまず民を安寧にさせることこそが肝要です」

「流石は賊太守様だ。私の思っていた通りの方です」

「……失礼だが、君の名は?」

「これは申し遅れました。裴潜はいせんと申します」

 

 なんだよぉ……。てっきり孔明かと思ったのに……。

 まぁ、いいや。一応、パラメータを見ておこう。

 

裴潜 字:文行 能力値

未成年の為、表示不可

 

 くっそぉ……やっぱり駄目か。

 でも、こんな感じならそれなりな能力値だろうなぁ。

 楊松みたいな奴とかなら「私が天下取らせるから、期待して待っていてくれたまえ!」とか言いそうだし。

 

「どうしたのですか? いきなり目を瞑ったりして……」

「いや、すまない。『君のような童子にまで国を憂いているとは』と思い、思わず目頭が熱くなってしまったのです」

「アハハハ! 私は憂いていませんよ。ここに賊太守というご立派な方もいらっしゃいますしね!」

「ハハハ。あまりその呼び名は好きではないのだがね」

「これは失礼しました。賊太守様」

「ハハハ。もう慣れたよ」

 

 僕は裴潜という子供と、そんなやり取りをしてから酒場を去った。

 流石にここで拉致するなんて無理だしね……。

 能力値、高そうなんだけどなぁ……。

 

 改めて伊籍の探索に向かうとしよう。

 伊籍は普段は政庁に篭っているらしいが、時折街に出ては不正役人がいないか調べているらしい。

 政略フェイズはここに居ても出来るから、のんびり探索を続けよう。

 他に掘り出し物の人材が手に入るかもしれないしね。

 

 確かにここ襄陽は知識人が多い。

 手当たり次第、片っ端から目を瞑っても「表示不可」になっちゃうんだけどね。

 僕が会話する知識人連中のところで目を瞑りまくるからだろう。

 張任が不思議そうな顔をして僕に聞いてきた。

 

「我が君。先ほどから何をしているのです?」

「何って人物評さ。それがどうかしたかね? それよりも『我が君』はここではやめてくれ。公殷で良い」

「あ、これは失礼。では、何故かね? 公殷」

「私の能力みたいなもんだ。夢と合わせてね」

「そう言えば、我がき……公殷も夢のお告げとやらで拙者らを呼び寄せたのであったな」

「そうだ。お陰で君のような万夫不当の勇者が来た訳だ。私の眼と夢に狂いはない」

「ハハハ。成程、これは一本取られましたな」

 

 さらに僕は張任と談笑しながら襄陽を探索する。

 役人ふうの男がいたら、それも含めてパラメータチェックもする。

 伊籍がいたら、それで分かるからね。

 

 けど、今日はそれ以上、誰も見つからなかった。

 襄陽の人口は二十万以上らしいから、そんな簡単に見つけることは出来ないか。

 まぁ、流石に街は二十万ということはないけど、少なくとも五万人はいそうだしね。

 ということは、あの酒場で出会ったのは運が良かったということだ。

 これも日頃の行いかな?

 

 宿へ戻り、戻ってきた范増と接触。

 色々と情報を仕入れてきたらしい。

 どうやって情報を仕入れているのか聞きたいけど……考えてみれば、これゲームの世界なんだよね……。

 

「おお、公殷よ。今戻ったぞい」

「亜父よ。何か収穫はあったかね?」

「うむ。それなりにはあった。特に聞きたいのは江夏に関してじゃろう?」

「ああ、その通りだ。で、どうなのだ?」

「近日中にさらに援軍を送るらしいぞ。援軍の大将は劉磐じゃ」

「……何者だ?」

「劉表の従兄弟でな。勇猛で知られる男じゃ。劉表とは真逆の武人らしいぞい」

「ふむ。それで軍勢の数は?」

「およそ五千とのことじゃの」

「江陵をおざなりにしてまで江夏へ力を入れるということは、余程劉祥に江夏を取られたくないらしいな」

「それはそうじゃろう。劉祥は袁術の手の者といっても過言じゃないしのぉ」

「袁術の江夏方面の援軍は分かるか?」

「噂程度でしか知らぬが、紀霊と呂範とのことじゃな」

「その二人が来るということは、やはり袁術も本気か」

「汝南とも近いし、袁術は南陽も狙っておるから当然じゃろうな」

「その南陽はどうなのだ? 黄巾党の残党は既にいないらしいが」

「今は復興の最中じゃな。それよりも汝南太守の徐璆じょきゅうが罷免されたぞ」

「何? 何故だ?」

「宦官の讒言じゃろうな。恐らくじゃが」

「して、徐璆殿はどうなった?」

「さぁな。罷免されただけと聞いておるが、これで汝南太守は正式に袁術の手の者になりそうじゃ」

「成程、江夏に近い汝南の正式な太守となれば、是が非でも江夏は押さえたいだろうな」

「黄巾党も我らが動かないのを良いことに、南昌から援軍を続々と送っておる。こりゃあ、見物じゃぞ」

「ハハハ。確かにここまで泥沼化するとは思わなんだ。しかもこれで増々、劉表は私の首を獲れなくなった訳だ」

「そうじゃろうな。今、長沙、武陵、桂陽と荊蛮連中の恨みを買ったら自滅は間違いなしじゃろうのぉ」

ようやく私に運が向いてきたな。あとは張羨次第か」

「零陵さえ押さえれば、後はどうにでもなるからのぉ。しかし、思った以上にあの男も粘るわい」

「なぁに、どうせ時間の問題であろう。その間に我らは全ての三郡を繁栄させれば良い」

「お主も地味だか、仁者だか、梟雄だか分らんな。まるで三人いるようじゃぞい」

「ハハハ。多面性があって良いだろう」

 

 ……范増と会話すると何故か凄く疲れる。

 確かに最近、僕の中にもう一つの別の人格が生まれてきたような気がする。

 嫌だよ。ゲーム世界で精神分裂症だなんて……。

 

 そして、寝る前にここで何故か知らないけど、4月後半の政略フェイズ。

 本当に遠方でも出来るから便利だな……。

 

 長沙は厳顔の城壁補修。

 劉度、尹黙、張昭、秦松が街道整備。

 桂陽では灌嬰が町造り。

 武陵は治水事業が顧雍。

 蔡邕、徐奕、桓階、是儀、陳端が開墾事業。

 王儁、張紘らが長沙へ移動。

 これでよし。


武陵パラメータ

農業1200(1200) 商業800(800) 堤防100 治安100

兵士数44345 城防御300(500) 

資金1967 兵糧55000

 

桂陽パラメータ

農業697(1000) 商業721(900) 堤防100 治安98

兵士数40182 城防御120(500)

資金3045 兵糧47000  

 

長沙パラメータ

農業985(1200) 商業1223(1500) 堤防100 治安95 

兵士数52273 城防御577(600)

資金4025 兵糧69000

 

 これで武陵は、ほぼ完璧。長沙にはさらに趙儼ら三名も入ってくるからね。

 他が勝手に戦争している間に内政を進めるやり方は、僕本来の持ち味なのさ。

 ……いいんだよ。人生地道が一番なんだよ。

 

 翌日となり、またもや襄陽をブラつく。

 范増はまたもや別行動。

 偶に語り合う酒場を見ては、パラメータチェックをする。

 そして、二匹目のドジョウがいないのに溜息をつく……。

 

 そんな事を繰り返していると、巡回中の衛兵に呼び止められた。

 見ると屈強な三十代の眼光鋭い男が僕を見ている。

 その男がどうやら隊長らしい。

 ぼ、僕は怪しい者じゃありませんよ……。

 いや、本当に……。

 

「おい。君。先ほどから見ていたが、色々な酒場を見ては立ち去るのは何故だ?」

「え? あ、はい。人探しをしておりまして……」

「人探しか。その者の名は?」

「伊籍様です。ちょいと用事がありまして」

「なんだ? 伊籍殿なら政庁に行けば良いではないか?」

「いえ、それが政庁に行っても取り合ってくれないもので……」

「……ひょっとして訴訟でも持ちこんできたのか?」

「い、いえ。そんな大それたものでは……」

「ふぅむ……怪しいな。少し、そこの詰所で聞かせてもらおうか」

「え? あ? はい……」

 

 流石の張任もこの状況下ではまずいと思うらしく、特に抵抗はしない。

 そりゃそうだ。多勢に無勢どころじゃないんだし。

 で、試しに僕はその男のパラメータをチェックしてみた。

 

黄忠 字:漢升 能力値

政治4 知略6 統率8 武力9 魅力7 忠義8

固有スキル 豪傑 遠射 弓兵 騎兵 疾風 火矢 騎射

 

 ゲッ!? 黄忠!? 何でここに!?

 おのれ劉表! 僕の黄忠を引き抜きやがって!

 こうなったら、もっと見回って色々と取りまくってやる!

 詰所から出られたらね……。

 

 僕と張任は大人しく詰所へと連行された。

 特に何もしていないから、職務質問みたいなもんだろうけどさ。

 それに黄忠なら賄賂とか関係ないし。

 ……でも今は悪徳役人の方が有難かった。

 

 詰所に着くと、僕は静かに目を閉じた。

 他の衛兵に人材は……いる訳ないよな。やっぱり……。

 そして黄忠は僕に質問してきたんだ。

 

「伊籍殿に用事があると言っていたが、具体的にどんな用事だ? 言えばすぐに保釈してやる」

「はい。長沙の件でお知らせしたいことがございまして」

「長沙の件? あの賊太守の場所からのか?」

「はい。あの賊太守のです」

「で、どんな用件だ?」

「そうですな。貴殿なら信用出来そうだし、良いでしょう」

「何が良いのだ?」

「私がその賊太守です」

「……何をホラ吹いている。いい加減なことを言うと容赦せんぞ」

「それが本当なのです。実は劉使君にお会いしたいのですが、私には伝手がございません。そこで伊籍殿の御噂を聞いて探していた訳です」

「……証拠はあるのか?」

「残念ながら印璽はございません。賊太守ですからな。ですが、これをご覧ください」

 

 そう言って僕は箱を取り出し、塩漬けにされた区星と郭石の首を取りだした。

 うう……やっぱり臭い。そして、気持ち悪い……。

 その首を見せた時、周りが一斉にざわついた。当然だけどね。

 

「それがあの区星と郭石の首か……。本当にあの賊太守か?」

「はい。貴殿は忠義の勇士とお見受けいたしました。どうか、私を政庁まで連行してください」

「い、いや……。うむ。仕方ない。神妙この上ないし、良いだろう」

「有難うございます。黄忠殿」

「……だが、覚悟は出来ているのかね?」

「はい。民のために劉使君と戦さはしたくありませんし、私がこの世からいなくなっても王儁殿もおりますから」

「真に神妙な……惜しい。逃げなさい」

「はい?」

「逃げろと申しておる。貴殿はここで死ぬお方ではない」

「それでは黄忠殿にご迷惑がかかります。それに私は民の安寧の為に参ったのです。退く訳には参りませぬ」

「……ああ。貴殿は何というお方だ。この乱世において、そこまで民のことを思うとは……」

「さぁ、参りましょう。劉使君は仁君と聞いていますから、畏れることはありませぬよ。ハハハ」

 

 ハハハ……じゃねぇ! 何度同じことをやれば気がすむんだ! この僕は!?

 ……って僕に怒っても仕方ないんだけどね。

 黒い人格も出てきているし、どうなっているんだろ?

 

 僕は大人しく縄で縛られ、黄忠と共に政庁へと向かった。

 張任もついて行くと言い張ったが「私の身に何か起こったら范増を連れて逃げよ」と言い聞かせ、先に宿へ帰した。

 お願いします! 劉表様! 僕が思っていた通りの優柔不断っぷりを見せてください!

 

 政庁に入ると、既に噂が広まっているらしく、あちこちから僕の顔を見に集まってきた。

 ……流石にここでは落ち着いてパラメータチェックは出来ませんよ。

 そして、謁見の間へと入れさせられた。

 

 そこには座っているけど、見た目にも長身と分りそうな細身で中年の髭を蓄えた男性がいた。

 僕は紛れもなく劉表その人であると確信した。

 でも一応、目を瞑りパラメータチェック開始。

 

劉表 字:景升 能力値

政治8 知略6 統率5 武力3 魅力7 忠義4

固有スキル 開墾 書家 鎮撫 教科 登用

 

 うむ。中々じゃないか。落ちぶれてやって来たら登用してやろう。

 ……なんて言ってられないよな。

 周りには武官、文官がズラリいるし……。

 そして、ゆっくりと劉表は口を開いた。

 

「貴殿が賊太守殿か。まさかこんな形で会うとはな」

「お初にお目にかかります。劉使君」

「区星と郭石の首を持ってきたそうだが、君には長沙、桂陽、武陵を荒らした罪があるぞ。どう申し開きをするつもりだ?」

「荒らした憶えはありませぬ。それに長沙や桂陽、武陵の太守は逃げてしまいました。その罪まで私にあるとでも?」

「……いや、その者達は漢の恥故、関係はない」

「私は周泰、蒋欽の名誉を晴らすためにここに来ました。二人の名を騙り、江陵を荒らしていたのはこの両名です」

「……ふむ」

「それと民の安寧の為に参りました。私は梟首にされても構いませんが、二人と民のことは宜しくお願いします」

「……な」

 

 それと同時に何名かの武官、文官が僕の目の前にやって来た。

 もう、おしまいだ……。でも、これで現実世界に戻れるのかな? それなら……。

 

「この蒯良! お願いです! この者は近年、稀に見る仁者! どうか、お許しを!」

「同じく蒯越! 梟首などもっての他でございます! そのようなことをすれば世間の嗤い者になりますぞ!」

「この韓嵩も同じです! どうかお助け下さいませ!」

 

 おお、知っている連中ばかり。

 君らも国を追われたら遠慮なくやって来てね。

 ……うう、そんな冗談でも言ってないとやってられないです。

 すると劉表は声を荒げて叫んだ。

 

「もうよい! 余もその者を梟首にしようとは思っておらん! まず縄を解け!」

 

 ……ああ、助かった。

 けど、都へ送られたら同じことだよな。

 まずは首の皮一枚が繋がっただけか……。

 

「司護とやら、面をあげよ」

「はい。劉使君。お助け下さり有難うございます」

「まだ助けたとは決まっておらんぞ。都に護送すればそなたは終わりぞ」

「構いませぬ。ですが、それで宜しいのですか?」

「何がだ?」

「それでは宦官に賄賂を贈ったも同じことです。それに彼らのことですから長沙、武陵、桂陽へ新たに手の者を太守に任命するでしょうな」

「……う、ううむ」

「それに劉使君。私は江夏の民も心配しております。出来るなら江夏にも援軍を送りたい」

「……なんと?」

「しかし、出来ないのです。官位もなければ爵位もない。故に兵を用いて助けることは出来ないのです」

「何故、出来ぬ」

「それでは劉使君にご迷惑がかかりましょう。賊の手によって助けられたと嗤い者になりはしまいか?」

「ハ……ハハハ! 君は面白い人だ」

「……何が面白いのです?」

「そうすれば余が君を推挙すると思っておるのであろう」

「確かにその考えはありました。ですが、ちと遅すぎたようです」

「何が遅すぎたのだ?」

「現在、劉祥殿が袁術殿と共に江夏へ向かっているとか……。これで江夏も安寧になりましょう」

「……そっ! それをどこで!?」

「おや、違いましたか? 聞けば黄祖殿は正式な府君(太守のこと)ではないとのこと。これで漢室も面目が保たれましょう。後は……」

「よせ! もう良い!」

「は……?」

「……ううむ」

 

 それから暫く劉表は押し黙った。

 僕の命はどうなるの?

 都行きは勘弁してよ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ