第二十六話 ゲームの中で現実逃避
3月となり段々寒さも和らいできた。
まぁ、緯度的には亜熱帯に近いから左程、寒くはないですが……。
江夏が黄巾党に随分と苦戦しているらしく、助ける義理はないけど、やることをやりますか……。
まず范増が区星、郭石らの根城を突き止めた。
場所は江陵と江夏の丁度中間地点と、長沙から東北にある長江川岸とのこと。
さらに周泰、蒋欽の名前を騙らせることに成功した。
これで区星、郭石らを討伐することが出来る。
まず、区星と郭石らの兵数は合わせて5千。
これに対し鐘離昧、周泰、蒋欽らにそれぞれ兵5千を持たせ一気に殲滅させる。
次に零陵方面。荊南蛮達への支援だ。
沙摩柯、杜濩、朴胡に各3千。全て異民族の兵として編成した。
そして范増と張任に千の兵を持たせる。
范増と張任の兵はあくまで三名の退路確保の為だ。
零陵への出陣はあくまで支援なので、占領が目的ではない。
下手に占領して逆賊の汚名がこれ以上、上がらないようにする為だからね。
それと堂々と進軍すると益州と交州の介入の可能性も出てくる。
僕としては、それだけは避けたいんだよ。
以上で南北に別れ軍勢が動き出した。
あとはまず3月前半の政略フェイズを行おう。
ちなみに双方とも一か月かかるので兵糧25000を消費と……。
念のため陳平に長沙から金2000と兵糧30000を輸送させるか。
長沙は厳顔の城壁補修と韓曁の採掘。
桂陽は灌嬰が町造り。
武陵は治水事業が顧雍。
僕、尹黙、張昭、秦松、劉度が町整備。
蔡邕、徐奕、桓階、是儀、張紘、陳端、王儁が開墾事業。
武陵パラメータ
農業959(1200) 商業757(800) 堤防88 治安93
兵士数25516(25000は出陣中) 城防御300(500)
資金2567 兵糧65000
桂陽パラメータ
農業697(1000) 商業685(900) 堤防100 治安96
兵士数40182 城防御120(500)
資金2027 兵糧47000
長沙パラメータ
農業985(1200) 商業1162(1500) 堤防100 治安100
兵士数52273 城防御542(600)
資金740 兵糧69000
さて、武陵の商業はもう最大値近いな。
そう思いながら僕は夕食の餃子と、あまり精製されていない玄米の飯を食べる。
餃子といっても水餃子で餡は沖アミみたいな川エビとかだけど……。
いや、タガメは勘弁してよ……。
人肉はもっと嫌だけどね……。
ああ、カレーかハンバーグが食べたい……。
そんな事を思っていると、後ろから声が聞こえた。
「……まさか!」と思い振り返ると于吉道人だ!
「おお、道人様! お久しゅうございます」
「うむ……」
「ささ、まずはサイコロを……」
「待て待て。早まるでない」
「え? 違うので?」
「今日はまずお前さんに選択肢をやる」
「……というと?」
「どうせ6を出される前にの。ちょいと聞きたいことがあるんじゃよ」
「……なんでしょう? あ!? 能力値が微妙だけど可愛い女武将が!」
「……そんなものはない」
「なんだぁ……。では、何です?」
「お主、この世界の飯は好きじゃないだろう?」
「ええ……。お世辞にも美味いと思ったものは一つもございません。アレルギーがないから良いものの……」
「うむ。そこでお主に聞きたいことがある」
「何です?」
「楚漢時代の者か料理人か好きなものを選べ」
「ええっ!? いいんですか!?」
「良い。さっさと選べ」
「で、料理人は可愛い女の子が……」
「馬鹿者! 料理人は男と相場は決まっておる!」
「嘘ぉ……。性差別はんた~い……」
「……じゃあ、婆で良いか?」
「……う。分りました。それなら……楚漢の者でお願いします!」
「……良いんじゃな?」
「はい! 一刻でも戻りたいですから! それにハンバーグとか、どうせ作れないだろうし!」
「むぅ……。痛い所を突くのぉ……。では、明日まで待たれよ」
「因みにですが……。楚漢の誰です?」
「安心せい。項羽ではない。さらばじゃ」
……あ、いっちゃった。
しかし、本当に女性が出てこないゲームだな……これ。
この国で作られた代物とは到底思えないよ。萌え要素なんか0だし。
けど、楚漢の誰だろう?
蕭何か韓信かな? あ、張良とか!? だと、良いなぁ……。
今まで来たのも結構な人物多かったし、でも項羽じゃないのか。
でも、来られた所で殺されそうだからなぁ……。
翌日、僕が政務室で書類を呼んでいると、衛兵が入ってきた。
聞くと「僕に会いたい」という者がいるという。
よしよし、今回は誰かなぁ?
そして、意気込んで謁見の間に赴くと……。
ん~……誰だろう?
随分とおっさんというよりも、見た目山賊なんだけど……。
で、パラメータを見ようとしたその時、いきなり名乗りを上げた。
「手前、山東の昌邑の生まれで姓は彭。名を越。字を仲と申しやす」
「……彭越。……ぶっ」
「どうしやした?」
「い、いや。何でもない。余はそういう挨拶に慣れていないもので」
「こいつぁ失礼しやした。司護の旦那。あっしにもお手伝いさせてやって下せぇ。宜しくお願ぇしやす」
「う、うむ。貴殿のような人材は何時でも歓迎致しますぞ」
「こいつぁ、かたじけねぇ! では、早速あっしの家を頂戴いたしやすぜ」
「……う、うむ。早速、用意いたす」
……って彭越かい!
まぁ、能力値は申し分なさそうだけどさぁ……。
……どうせなら虞美人とかないの?
あ、劉邦の嫁だけは勘弁ね!
まぁ、いいや。パラメータは……?
彭越 字:仲 能力値
政治1 知略8 統率9 武力7 魅力4 忠義1
固有スキル 水軍 歩兵 伏兵 強奪 疾風 踏破 機略
す……すげぇ便利。
だけど、それ以上に忠義低っ……。でも、当然かぁ。
大体、元々盗賊だもんなぁ……。
けど、良かった。三国志だけじゃなく、項羽と劉邦の漫画も読んでいて。
ある程度の武将は分かるもんなぁ。
鐘離昧が来た時は「鐘離昧って誰だ!?」って思ったけど。
けど、丁度良い時に丁度良い人材が来たもんだ。
これで更に零陵へ圧力をかけることが出来るからね。
後は沙摩柯達の活躍次第だけどさ。
ヤバいな……。完全に黒く染まってきたのかな?
さて、3月後半の政略フェイズの前に南北の状態の情報が入ってきた。
長江では郭石の根城を襲撃。
それにより郭石が死亡。首は周泰が討ち取ったらしい。
損害は微々たるもので、敵の賊兵は……皆殺し!?
……でも全員、略奪とか暴行とか殺害とか人売りとかしていたらしいから仕方ないか。
南の零陵の状況はゲリラ戦術で攪乱中とのこと。
これにより、零陵の兵の士気は激減しているとか。
降伏するなら今のうちだぞ。張羨君。
では、3月後半の政略フェイズいきますか。
武陵は商業の上限値がもう目の前。
あと43でいいのか……。
丁度43にするようにしないと勿体ないな……。
長沙は厳顔の城壁補修
桂陽は灌嬰が町造り。
武陵は治水事業が顧雍と劉度。
僕、尹黙、張昭が町整備。秦松に裁判担当。
蔡邕、徐奕、桓階、是儀、張紘、陳端、王儁が開墾事業。
彭越と鞏志が巡回。以上っと。
武陵パラメータ
農業1048(1200) 商業800(800) 堤防100 治安100
兵士数25516(25000は出陣中) 城防御300(500)
資金1567 兵糧65000
桂陽パラメータ
農業697(1000) 商業697(900) 堤防100 治安95
兵士数40182 城防御120(500)
資金2624 兵糧47000
長沙パラメータ
農業985(1200) 商業1162(1500) 堤防100 治安100
兵士数52273 城防御553(600)
資金2902 兵糧69000
いやぁ、武陵も見違えるようになったなぁ……この短期間で。
商業はもうこれ以上、発展させること出来ないし……。
田畑でも耕しながら零陵陥落まで、のんびりと待つことにしましょうかね。
三月の終わり頃、まずは区星、郭石らを討伐していた鐘離昧、周泰、蒋欽らが戻ってきた。
区星は討ち取られ、首級を挙げたのは蒋欽だ。
これで劉表に土産が出来たな。あとは江夏の状況次第なんだろうけどね。
次に戻ってきたのは沙摩柯、范増、杜濩、朴胡、張任の五名。
散々、零陵を荒らしてきたらしく、田畑も焼き払いまくったらしい。
おいおい……あまり余計なことしないでくれよ。
また内政値上げるの一苦労なんだぞ……。
でも、その前に零陵を落とさないといけないから仕方ないか。
零陵の民の皆さん、ごめんなさい。
僕が来たらスグにでも内政値を上げるので……。
ちなみに汚吏を十数人ほど殺したらしいので、これで勘弁してください。
そして、武陵の街造りが完成し、政務室で茶を飲んでいると、一仕事終えた范増がやって来た。
零陵の現況を知らせるためだろうけど、他にも何かありそうだなぁ……。
「戻りましたぞ。少しは年寄を労わりなされ」
「おお、亜父殿よ。良く戻られた。しかし、その表情を見るに左程、お疲れのご様子という程でもなさそうだがな」
「全く……。あの豎子と違って人使いが荒いのぉ……」
「ハハハ。それは申し訳ない。ところで、余にただ報告をしに来ただけではなさそうだな」
「うむ。お主の所に『あの盗賊がやって来た』と聞いてな」
「ああ、彭越のことか。それがどうかしたのか?」
「あ奴は有能じゃが、危険な男じゃ。注意するのじゃぞ」
「その点は問題ない。余はケチくさい真似なぞせぬからな」
「それならば良いがのぅ……」
「それよりも零陵の現況はどうだ? 張羨め。まだ余と張り合うつもりでおるか?」
「彼奴は相当な頑固者じゃ。簡単には落ちぬであろうのぉ。零陵からこちらに侵攻は出来ぬじゃろうが」
「……そうか。なら、零陵はもう少し、様子を見ないといけないな」
「いい加減に零陵を攻めたらどうじゃ? 零陵の民もお主が来るのを、首を長くしておるわい」
「それだけでは駄目だ。大義名分が立たぬ。張羨が民を虐殺しているとならば、話は別だがな」
「彼奴にその疑いをかけさせればどうじゃ? 彭越あたりに彼奴の兵に化けさせ、零陵の民を殺して回れば良かろう」
「……そうだな。そうすれば……う」
「……どうしたのじゃ?」
「い、いや、いかん! それはならぬ!」
「何故じゃ……?」
「民は大事にせねば……。それに、それでは交州が動く可能性がある」
「……貴殿は本当に仁君じゃのう。じゃが、それは婦人の仁に近いぞい」
「……分っている。分ってはいるのだが……亜父殿。それは出来ぬ」
「……まぁ、良い。どの道、零陵は時間の問題じゃしな」
「う、うむ。それよりも亜父殿よ。貴殿の手の者から遠方のことは何か聞き及んでおらんか?」
僕がそう言うと同時に范増は少し遠い目をした。
その目は冷静さだけでなく、鋭利な刃物のような鋭さをそれだけで感じることが出来る。
普段は人の良い好々爺なんだけどね……。
それよりも問題なのは僕が「よし、彭越でいこう」と言いそうになった時、急に胸が苦しくなったことだ。
そして何故だか分らないけど、慌てて前言撤回を余儀なくされたんだよ。
本当にどうなってんのか分らないんだけど……。
「大丈夫かの? 我が君」
「……い、いや。心配しないで良い。それよりも他に報告はあるかね?」
「そうですな。儂の手の内に入った報告によりますと、益州で俄かに動きがあるようじゃぞ」
「ほう? 益州で? どのような報告があったのかね?」
「劉焉の息子である劉範と劉誕らが成都に入りましたぞ。それに伴い、祝いの品として土豪らに土地の割譲を求めたようですじゃ」
「……何? 土豪らは納得したのか?」
「納得する訳がありませんじゃろ。その内、益州も乱れますぞ」
「益州といえば賈龍という中々の知恵者がいるというが……」
「その者も此度の劉焉のやり方に不満を持っているようですな。その中にその賈龍もいるようじゃが」
「今のところは動く気配はないのか?」
「そうじゃな。今の所はないじゃろう。しかし、劉焉は油断なりませんぞ」
「……どういうことだ?」
「あの者、密かに漢からの独立を目論んでおる様子じゃ。恐らく地盤を固めてから、皇位継承の奪取を息子らに託すつもりであろう」
「……なっ!? 何だと!?」
「あ奴も漢の血筋を引く者。劉表と同盟し、宦官を排除した後、今の帝の後釜を狙うつもりじゃろうて」
「……何と畏れ多い。だが、それもまた一つの手か」
「中央は最早、乱れに乱れておるからのぉ……。これで今の帝が崩御したら、どうなることやら……」
「……むぅ。しかも両者は恭王劉余の末裔であったな」
「左様。その為、互いに親近感もあるんじゃろうて。共に都が嫌で逃げたのじゃしのぉ……」
「……二人が組むとなると。余はどうしたものか」
「それともう一つ。江夏のことなのじゃが……」
「どういたした?」
「江夏太守として、劉祥という者が派遣されることになったようじゃ」
「しかし、江夏太守は黄祖の筈であろう?」
「そうなのじゃが、黄祖という青二才は正式な太守ではない。劉表の旗下として、ガラ空きになった江夏に事実上の太守となっていただけじゃ」
「……ということは余と同じということか?」
「あまり変わらんな。向こうは劉表という漢室血筋の背後がある分、数段マシじゃろうがのぉ」
「ハハハ。痛いこと言うな。亜父も。しかし今頃、何だって江夏太守を朝廷は任命したのだ?」
「それは分らぬ。恐らくじゃが、劉表を牽制する為の政策の一環じゃろう。まず袁術の差し金だと思うがのぉ」
「しかし、江夏は混沌としている。劉祥は江夏に入れるのか?」
「袁術の差し金とすれば、江夏を陥落させた後に、堂々と劉祥を擁立させることが出来るじゃろう」
「……となると江夏は劉表、袁術、黄巾党の三竦みということになるな」
「左様。我が君の動き次第で、どうなるか分りませぬがな。……フフフ」
「……そうだな。ハッハッハッ!」
劉焉の子って劉璋だけじゃなかったのね……。
それと劉焉も劉表も同じ劉余の子孫なんだ。ふ~ん……。
……ごめん。もう現実逃避しか考えられない。
何か知らないけど、僕の中に僕が更に二つもいるような気がして、なんか気持ち悪いんだよ……。




