第三話 黄忠出てこいや!
6月となり、いよいよ夏になってきた。
暑い……そりゃあ緯度でいえば奄美大島か沖縄ぐらいだしなぁ……。
それに衛兵は皆、おっさんばっかりだし。
暑苦しいったら、ありゃしない。
てか、健康的で色黒の美少女とかいない訳?
「こりゃ、何を訳の分らぬことを申しているんじゃ?」
「ああ、水鏡先生。いやね。折角の転生ものなのに『よりによってこんな扱いなのかなぁ?』って思う次第で……」
「詰まらんことをぬかしているのぉ……それもまた、よしよし」
「だって、僕だって男ですよ? 少しぐらい青春を謳歌してもバチは当たらないでしょ?」
「そのうち姻戚同盟とかで貰えば良かろう。蔡瑁の姉とかなら美人じゃぞ?」
「嫌だよ……。性格かなり悪そうじゃないか」
「まぁ、その前に劉表に嫁がれることになるがの」
高札で「可愛い娘募集中」とか書きたいけど、王儁いなくなりそうだしなぁ……。
仕方ないから6月上旬の政略フェイズでも始めますか……トホホ。
現時点での長沙
農業197 商業266 堤防77 治安69 兵士数15135 城防御287
資金1573 兵糧15000
もう前回と同じでいいかなぁ?
でも、台風怖そうだから治水は上げておくか。
王儁は帰順、鞏志には市中見回り、陳端には治水、僕と秦松は町造りと……。
楊松と博士仁は遠慮せずに、再びその辺で遊んでまいれ!
農業197 商業294 堤防89 治安80 兵士数16035 城防御287
資金1073 兵糧15000
資金がカッツカツになってきたなぁ……。
そんなことを考えていたら、楊松が来た?
お前は「その辺で遊んでいろ」って言ったのに……。
「閣下。ちと内密のお話がございます」
「楊松か。何の用だ? 区星なら暫く動かさないでいいぞ」
「いえ、その話ではございません。良からぬ噂がございます」
「……良からぬ噂?」
「はい。実はある者が王儁殿を担ぎあげ、閣下を追放しようと企んでいるらしいのです」
「何と!?」
「恐らく、新参者の陳端、秦松あたりでしょう。彼らを追放せねば閣下のお命も危ういですぞ」
讒言キター! しかも、僕の頭の中も何か光ったーっ!?
これって固有スキルの看破ってやつ!?
「……して、お前と同じ意見の者は他にいるのか?」
「はい。博士仁もそう申しております」
「何!? 博士仁もか!?」
「はい。あとは閣下の御下知があれば二人を亡き者に……」
いやいやいや……。
いらないのは君たち二人だけですから!
「黙れ! 楊松!!」
「はっ!?」
「そのような世迷言、余が信じると思ったのか!?」
「……しかし、このままでは……」
「余には讒言をする家臣なぞおらぬ筈だ! そうであろう!」
「は……はい」
「ならばお前を追放するまで! 博士仁も同罪だ! 何処へでも行くが良い!」
「なっ!? 貴様! 後悔することになるぞ!」
「馬脚を現したな! 衛兵よ! こやつをこの城から追い出すのだ!」
有難う! 楊松! これで博士仁共々、心置きなく追い出せるよ!
しかも悪評が立ちにくい上でだよ!
楊松の一番の功績だよ!
楊松と博士仁は何処ともなく落ち延びて行った。
これでスッキリした。だって、完全にいらないし……。
そして後日、この事を知った陳端、秦松、王儁らが僕の前に来た。
三人とも僕に感謝した上「より一層の忠義を誓う」だって!
「楊松にも言った通り、余の家臣に他人を貶める者はいない。ただ、それだけのことをしたまでだ。感謝する必要はないぞ。これからも心置きなく民の為に働いてくれ」
僕、カッコいい!
この言葉も勝手に口から出てきただけなんだけど!
「随分と機嫌が良さそうじゃのぉ」
「あ、これは水鏡先生。いやぁ、これで悪評は立ちませんよ」
「まぁ、今回の件は今のところ大丈夫じゃのぉ」
「今のところ?」
「そうじゃ。追放された者は前の君主を恨んで何をするか分らぬぞ」
「そんなの関係ないですよ。それにあの二人をそのままにしていた方がマズいでしょう?」
「まぁ、そうじゃのぉ。いっそ、首を斬ってしまうという手もあったと思うが……ま、これもまたよしよし」
「ゲームの世界とはいえ、いきなり首なんか斬れないよ……」
「それはちと甘いぞ。まぁ、それもまたよしよし」
ちょっと気になるけど、気にしたところで済んでしまったことだしなぁ。
ま、いいっか。サクサクと次の下旬の政略フェイズまでやってしまおう。ん?
「太守殿。お耳に入れたきことがございます」
「おお、王儁殿。何用かな?」
「……家臣に殿はないでしょう」
「細かいことは良いではないか。で、何事かな?」
「はぁ……実は山越族の一部の者達が太守殿に帰順したいそうです」
「何と!?」
「数は六千。そのうち兵として使える者は千ほどですが、如何いたしましょう?」
「如何いたしましょう?」と言われてもなぁ……。
兵が増えるのは良いけど、異民族だろ?
大丈夫なのかなぁ?
「困っているようじゃの」
「あ、水鏡先生。良いところに」
「爺はお助け背後霊じゃ。当然じゃろう」
「有難いことです。ついでに可愛い女の子になれるとか……」
「そんなもんはない。……というか、それでいいのかの?」
「う……。確かに嫌かも……」
「そうじゃろう。では、利点と不利点を申すぞ」
「お願いします!」
「利点は当然、兵が増える。それと商業や農業も増える」
「おお! 本当ですか!?」
「喜ぶのはまだ早い。不利点は治安が悪化する」
「……治安だけですか?」
「良く気づいたの。実はもう一つあって、あるイベントが起きやすくなる」
「あるイベント?」
「そうじゃ。民事訴訟じゃよ。文化の違う者達が同じ町に住むのだから当然じゃろう」
「放っておくと厄介なことになるんですよね」
「そうじゃ、民衆の不満が溜まって内乱が起きることもある」
「それは嫌だけど……。秦松いるから、そこは安心かなぁ?」
「本当ならもっと複雑なのじゃが、そこはほれ。あくまでここはゲームの世界じゃからのぉ」
「あまりぶっちゃけないで下さいよぉ……。折角、なりきった気分になっているのに」
「そうは思えないがのぉ……。あと利点としてかどうか分らぬが、さらに異民族が来るイベントを起こしやすいことじゃな」
「なら、話は早い。早速、受け入れちゃおう」
僕は深く息を吸って、まず自分を落ち着かせた。
そして、格好良く考えたふりをして王儁にこう言ったんだ。
「山越の民も同じ人の子。最近の内乱や飢饉で飢えた子供もいるであろう」
「はい。某もそう聞いております」
「ならば迷うことはない。受け入れよう。長沙の民には余が言って聴かす故、山越の民にいつでも来るように伝えよ」
「ははっ! 流石は仁徳の君と噂される太守殿。この王儁、心が打たれましたぞ」
僕、カッコイイ!
ついでに山越人の強い武将とかいないかなぁ?
いるといいなぁ……まだ、鞏志だけだし……。
いや、博士仁に比べればずっと強いけどさ……。
そうそう、山越人を入れたパラメータを見ないとね。
農業207 商業304 堤防89 治安50 兵士数17035 城防御287
資金1073 兵糧15000
……嘘でしょ? 何で?
治安が30も減っているじゃん!
楊松と博士仁しかいなかったら今頃、詰んでいるよ!
「ホッホッホッ。異民族を受け入れるということは、そういうことじゃ」
「しかし、いきなり30も減るなんて……」
「長沙は人口約二十万ほどじゃぞ? それを一気に六千も入れたのじゃから仕方なかろう」
「うう……移民問題って怖いのね……しかも、タイムリーなネタだなぁ……」
「それでも80あったから良かったではないか。それでよしよし」
「……そう言えば上限値ってあるんですか?」
「おお、そうじゃったな。言っておらんかったのぉ」
「最初に教えて下さいよぉ」
「悪い悪い。堤防と治安は上限100と決まっておる。農業、商業、城防御はその土地次第じゃな」
「この長沙だと如何ほどなんです?」
「それは教えられぬ。ただ、国情の固有スキルを持っている者を登用すれば分かるようになるぞ」
「うう……ケチィ」
「最初に上限値を教えていなかった侘びとして、長沙はまだまだ発展出来ると言っておこう。ではの」
くっそぉ……。そろそろ資金も危ないんだよなぁ……。
在野でも探せば誰か出て来るんじゃないかぁ……ん?
……僕は大変なミスを犯していたようだよ……。
長沙と言えば黄忠がいるじゃないか!
「陳端! 陳端はおらぬか!?」
「閣下? 何をそんなに慌ててなさるのです?」
「急いで黄忠を連れて参りたい!」
「……誰です?」
「いや、だから……あ、まだメジャーじゃないのか?」
「某も町での噂を耳にしますが、黄忠なんという者は聞いたことがありません」
「う、嘘でしょ?」
「何故、そんな事を言うんです? 夢でも見たのではないのですか?」
うう、本当にいないっぽい……。
在野で探せばいた筈なのに……。
ググリたいけど、スマホはないしなぁ……。
「……確かに余は変な夢を見ていたようだ。取り乱してしまった。許せ、陳端」
「そうでしょう。けど、その夢とは私も随分と気になりますけどね」
「まぁ、耳にしたら余に知らせてくれ」
「分りました。ところで曹寅殿から書状が来ましたが……」
「えっと……誰?」
「武陵のヘッポコ太守です」
「ああ、あの……どれ、見せてみよ」
………読めないよ………。
全部、漢字だし! 大体、日本で使われてない漢字だらけだし!
一応、授業で漢文は習ったけど全く読めませんよ!
「むむむ……陳端! これを見てみろ!」
「はっ! 成程、これはちと面倒ですな」
「う、うむ。まさかとは思うが……」
一応、読めたふりして誤魔化してみた。
あとは適当に頷きながら読んでもらおう。
「余が見間違えたと思いたい……ちと、陳端。声に出して読んでみせよ」
「はっ……では」
要約すると……
そちらの楊松が我が陣営に加わった。楊松が言うには君が区星を嗾けたとか……。
それが仁徳の誉れ高い太守のすることか!?
反省の色が少しでもあるなら、今すぐさっさと援軍を寄越せ!
楊松め。ロクなことしやしねぇ……。マジで殺しておけば良かった。
無視してもいいけど、後々面倒なことになりそうだしなぁ……。
けど、ここでまた僕の頭の中が光ったような気がした。
「如何いたそう? 陳端」
「楊松が色々と曹寅に吹き込んでいるんでしょう。あの小者がしそうなことです」
「そうは言っても、楊松を放逐した余にも少しは責任がある」
「それを言われましたら、閣下に庇われた某にもです」
「うむ。一蓮托生だな。ワッハッハッ」
「……笑いごとではありませんよ。どう返しましょう?」
「余はちと……字が汚くてな。代筆を頼めないか?」
「それぐらいでしたらお安い御用ですが」
「ならば、こう返書を認めてくれ」
要約すると……
楊松は王儁殿を讒言し、貶めようとした罪により放逐した罪人です。
そのような罪人を貴殿は本気で信じているのか?
ただ、武陵については王儁殿も気にかけておるし、武陵の民が気の毒とは思う。
今しばらく猶予を下され。必ず援軍を向かわせましょう。
「これで良い。暫くは時間が稼げるであろう」
「確かに多少は時間を稼げますな。この陳端、感服しました」
「しかし、これでは子供だましみたいなもんだ。やはり早急に準備せねばならん」
「はい。武陵が落とされましたら、区星もこちらに来るやも知れませんしね」
援軍に向かわせたくても鞏志だしなぁ……。
参謀に陳端か秦松をつければマシではあると思うけど……。
名声で一気に誰か南下してきてくれないかなぁ?
贅沢は言いません。顔良とか文醜とかでいいからさぁ……。
では、気を取り直して6月下旬の政略フェイズ
現時点ではこうなんだよね……。
農業207 商業304 堤防89 治安50 兵士数17035 城防御287
資金1073 兵糧15000
前回とあまり変わらないかな?
変わるとしたら陳端が開墾か。
だとすると、こうだよなぁ……。
僕と秦松が町造り、陳端が開墾、王儁が帰順、鞏志が治安……と。
農業219 商業332 堤防88 治安61 兵士数17935 城防御287
資金915 兵糧15000
治安が30も下がったのは痛いなぁ……。
でも、商業も332になったし、資金は何とかなりそうだよなぁ。
てゆーか、吉兆イベント早く来いよ!
折角の固有スキルの意味ねーじゃん!
……で、今更気づいたんだけど、どうも金勘定が合わない。
それで秦松に調べさせたら、何と楊松が着服していやがった!
おのれ! 楊松! いつか、報いを受けさせてやる!