第十九話 蒼と黄の間
僕が勅使である宦官左豊とのやり取りは瞬く間に広がった。
そんな中で6月下旬の政略フェイズ。
やっぱり、皆が複雑な表情をしているよ……。
僕と尹黙、張昭、秦松が町造り、顧雍が治水。
陳端、徐奕、蔡邕、是儀、王儁が開墾。
……以上で良さそうだな。
その結果はこうなった。
農業985 商業1162 堤防100 治安94 兵士数75122(85122) 城防御354
資金3154 兵糧20500
そして、次の7月上旬の政略フェイズが始まる前に山越に赴いた張紘と周倉。
それに輜重隊を襲っていた陳平らが帰ってきた。
陳平らは思った以上に大活躍。
更に金3600と兵糧50000が手に入った。
少し兵は失ったけどね。
それで、こうなる訳だけど……。
農業985 商業1162 堤防100 治安94 兵士数84605 城防御354
資金6754 兵糧70500
陳平は気を利かせてくれたらしく、南昌の輜重隊を襲った際、全て袁術に濡れ衣を着せてから帰還した。
なんという嬉し……。
いや、怪しからん。実に怪しからん。
けど、許す! 大いに許す!
そして、鞏志の武力も1アップ! 武力6!
これで、武力6以下で特徴なしの雑魚は、全て鞏志にお任せ!
で、全員が揃ったところで、会議が開かれることになった。
既に僕と左豊とのやり取りは、配下だけでなく、近隣にまで広がっているという。
噂が広がるのは早いからなぁ……。
「会議の前に、まず諸君らに謝らなければならないことがある」
僕は会議の席でいきなり立ち上がり、そう切り出した。
勿論、僕自身の意思じゃありませんけどね。
「先日、勅使を愚弄したのは、諸君らも既に存じていると思う。故に、朝廷から討伐令が出された際はこの座を退き、王儁殿に任せたいと思う」
いきなり何を言いだすの!? 僕!
いい加減、誰かこのシステムの暴走止めてくれない!?
「王儁殿は朝廷にも覚えめでたき方。その際、余は何処にか立ち去る所存である。だから皆が逆賊になることはない。安心して欲しい」
もう好きに暴走して下さい。
まぁ、でもこれでゲームオーバーになって、現実に戻れればそれで良いしね……。
でも、その時に割って入ったのが、指名された王儁その人だった。
「お待ち下さい! 我が君!」
「何かね? 王儁殿」
「我が君は既に長沙だけでなく、近隣や異民族にもその名を轟かれているお方ですぞ!」
「……それは関係なかろう?」
「大いに関係あります! 道半ばで民を放り出す御所存か!?」
「……しかし、逆賊にされても諸君らは良いのかね?」
「この王儁。我が君が辞するなら、某も野に帰るまでのことですぞ!」
「いや、それでは長沙が立ち行かなくなるではないか。後事を託すのであれば、王儁殿において他にあるまい」
「いいえ、野に下ります! それと同時に、また多くの民が賊となりましょう!」
「う……しかし、それでは今までの苦労が水の泡ではないか?」
「ですから、我が君が逆賊の汚名を着せられても残って頂く! 皆も同じ意見ですぞ!」
「…………」
「家臣だけではない! 長沙の民の総意ですぞ! それでも、まだ戯言を言うのですか!?」
王儁の迫力に僕は圧倒された。
そして、家臣一同が皆
「王儁殿に我らも同意します! 我が君!」
と叫び一斉に一礼した。
壮観だけど、正直……怖い。
「……皆の意見、良く分かった。これからも余を補佐してくれ」
「家臣一同。より一層の忠節を尽くします!」
……何でこうなるんだろう?
そう思ったその時、一人の衛兵が慌てて入って来た。
また何かあったの……?
「大変です! 我が君!」
「……騒々しい。皆で茶を飲み、一服しようとした時に何だ?」
「はっ! 南昌からの使者で波才という者が『面会したい』と申しております!」
「……なっ!?」
……流石に会議場はざわついた。
今度は黄巾党からの使者かよ!?
……輜重隊を襲ったのがバレたのかな?
僕は波才がいる謁見の間へと向かった。
当然、ゾロゾロと皆が僕について来る。
……凄いプレッシャー。
こういうのを避けて今まで生きてきたのに……。
まだ十七年しか生きていないけど……。
謁見の間にいた波才という黄巾党の者は、ちゃんとした礼服を着ていた。
てっきり「黄色い布を巻いているのか」とばかり思っていたので意外だ。
それ以上に波才って、以前に他のゲームで捕えたことがあるけど、知力なんて無いに等しかった記憶しかない。
そんな大馬鹿を使いにやらせるって黄巾党って一体?
兎も角、パラメータは見ておこう。
波才 能力値
政治7 知略7 統率7 武力6 魅力7 忠義8
固有スキル 歩兵 弓兵 補修 抗戦 弁舌 説得
…………あれ? 何これ?
想像していたのとは大分、違いすぎますが……?
良く来た。波才よ。僕の所へ来ないかい?
それと……。
「抗戦は城での防御のみ被害を三割減らすことが出来る。じゃあの」
最近は滅茶苦茶早いですね。水鏡先生……。
他にも何でコイツがこんなに強いのか、聞きたかったのに……。
僕が席に座ると波才は口髭を整えた。
そして、少し咳払いしてから、切り出してきた。
「司護殿に率直に申し上げる。既に漢の権威は失墜し、地に落ちている。最早、回復の見込みはない」
「………」
「既に黄天は立ち、蒼天は既に死している。この上は君も我ら黄巾党に加わり、共に覇業を成そうではないか」
「…………」
「大賢良師様は平定した暁には、司護殿に荊州の地を与え、荊国王にするとおっしゃっている」
「………ふむ」
「司護殿は荊南四郡を速やかに占拠された後、江陵を得よ。我らは江夏、廬江を抑える。そして共に北上するのだ」
「………成程」
「そして遂には都を占拠し、漢を終結させ、大賢良師様が天帝に成られる。これで万民が救われるのだ」
「………言いたいことはそれだけかね?」
僕は既に慣れたであろう癖の一つ、顎鬚を撫でた。
そして、波才に一瞥した。
「では、聞こう。無辜の民を虐げて、どう救うのかね?」
「無辜の民を虐げているのは漢である」
「だが、君らも略奪を繰り広げている。余にしたら同じようにしか見えぬ」
「……だが、それは一部の者達が行っている行為だ」
「……本当に一部なのか?」
「我ら黄巾党には、太平道から入った者も多いが、それ以上に野盗の類も黄巾党を名乗っておるのだ」
「何故、そやつらは罰することはないのだ?」
「……したくても出来ないのだ。現実はそう甘くはない。規模が大きければ大きいほど、把握するのが難しくなるからだ」
「他にもある。生贄と称して人を殺し、その肉を喰らうというのは……」
「待て! それは違うぞ!」
「……何が違う?」
「我らの教義にはそのようなものはない! 生贄として羊や鶏を天に捧げることはあるが、その命は人にあらず!」
「……しかし、現に天公将軍の張角は人身御供を行ったというぞ」
「それは断じて人身御供ではない! 悪政を行っていた太守や県令を梟首にしただけにすぎぬ!」
「……ううむ」
「戦さでなくなった双方の兵などには祭祀を行って供養をしたのだ。それが間違って人身御供と噂されるようになったまでのこと」
「……何? だが、嘘を言っているとは思えぬな……」
「嘘ではない。太平道では『善行を尽くせば長寿を得る』と言ってきかせ、医術を行って貧しい病人も助けておるのだ」
「………」
「でなければ黄巾党も、ここまで大きくなっておらぬだろう。民衆に指示される筈もなかろう……」
僕は波才に詳しく聞いた。
どうやら太平道の一派と称して、怪しげな宗教結社も多く出回っているらしい。
その多くは長沙から遠い南陽、汝南、陳留、許昌、渤海、潁川などに多く、新たに太平道に入信を希望する者がそこに流れているというのだ。
さらに怪しい宗教結社の中には、勝手に賊の頭目が「張角の意を得た」と唱え、好き勝手にやっているとか……。
故に長沙では噂がごちゃごちゃにされ、正しい太平道の教えが広まってないという。
巨大な新興宗教団体組織に群がる怪しげな詐欺まがいの新興宗教団体か……。
余計にややこしいなぁ……。
てか、正史でもそんなことあったの?
「……相分かった。だが、やはり受け入れることは無理だ」
「しかし、貴殿は勅使を追い払ったであろう?」
「あれは正式な勅使ではない。薄汚い佞臣の使いだ。故に余は漢に弓を引いておらぬ」
僕がそう言うと、呆れたような顔つきで波才が溜息をついた。
僕じゃないです! 僕であって僕じゃないんです!
僕も言っている意味が分らないけど!
「成程、そういうことですか……」
「何が『成程』なのかね?」
「荊州だけでは満足出来ない……。そういうことでしょう?」
「……確かにそうかもしれぬな」
「でしたら、益州と交州もお取りになさるが宜しいかと。さすれば……」
「……ん? 意味が分らぬな」
「……分らぬとは?」
「余が満足出来ないというのは、そういうことではない」
「……と、申されますと?」
「余の希望とは黄巾党がまず漢に降伏することだ。その後『帝が張角殿に禅譲する』というのであれば、それに従おう」
「何を馬鹿なことを……」
「真に万民が漢を見捨てているのであれば、容易いことではないか?」
「話になりませぬな!」
波才はそう言ってから、その場を去った。
鐘離昧は「この場で斬り捨てよう!」と僕に詰め寄ったが、それには首を振った。
……殺すのは勿体ないしね。
それに波才は悪い人じゃないっぽいし。
そして、僕が溜息をつくと、陳平が話してきた。
「しかし、無謀な方だ。朝廷にも黄巾にも喧嘩を売ってどうする気です?」
「余にも分らぬ」
「……『分らぬ』では済まないでしょう」
「そうだが、どう言えば良かったのだ?」
「……そうですな。でも、これで良かったのかもしれません」
「……どういうことだ?」
「袁術の後ろ盾になっている楊賜殿や袁隗殿は反宦官とのことですからね」
「では、今度は『袁術から誘いの使者が来る』とでも言うのかね?」
「それはどうでしょう。来ないとは思いますがね」
「……君の言っていることが分らぬのだが」
「少なくとも、今のままでは無理でしょう。今以上に勢力を拡大しなければね」
「桂陽だけでなく『荊南四郡全てを手中に入れろ』ということかね?」
「当然、そこもありますが、交州一帯までも手に入れるのです」
「以前、君が言っていた案の一つか……」
「はい。ここに至っては、既に朝廷に喧嘩を売っているんですから問題はありません」
問題は大ありでしょうに……。
まぁ、勢力拡大して売り込むしかないのは、分かる気もするけど……。
「しかし、こちらから攻めたとあっては大義名分がないぞ?」
「なぁに、太守殿は武陵蛮を始めとする連中にも人望があります」
「それがどうかしたのか?」
「武陵や零陵には彼らと合同して襲うのです。武陵蛮に占領された後に、こちらが乗り込むという形でね」
「成程。その後に民を慰撫すれば問題ないということか」
「そういう事です。民は誰が太守になろうが、暮らしやすい方につきますから」
「曹寅殿や張羨殿の統治は上手くいっていないのか?」
「それなりに賄賂や賦役、冤罪が横行している程度ですな。幽州や涼州あたりの悪徳太守に比べたら可愛いもんでしょうがね」
「……ふむ。だが、まずは桂陽を抑えるのが先決であろう?」
「はい。現在は觀鵠と蘇馬が桂陽を奪取しております。その数一万余り」
「攻略するには兵三万あれば足りるか?」
「そうですな。それぐらいの人数ならば、戦わずして勝てるかもしれません」
「……何故だ?」
「まず、相手の士気は左程、高くないのが現状です」
「……ふむ」
「次に太守殿は『賊であっても降伏すれば許す』と公言しております。連中のほとんどは元領民です」
「……確かにな」
「ただし、觀鵠と蘇馬は捕えたら斬りましょう。あの者達は略奪や殺戮を繰り返していますから」
「そうか……。それならば致し方ないか」
「元来、無頼の盗人ということですし、死んでも惜しくはないでしょう」
パラメータによっては……と思ったけどなぁ……。
波才もかなり使えるから正直、欲しいんだけど。
韓忠と何儀はパラメータを見る前に首になっていたから、どうしようもなかったけどね。
「なぁ、陳平よ。それで桂陽の現状はどうだ?」
「田畑は荒れ果て、街道には瓦礫が多く、堤防などは破壊され……。まぁ、そんな惨状ってところですかね」
「今まで時間をかけすぎていたからな……。これは余の責任でもある」
「確かにそうですなぁ。何せいきなり『揚州へ向かうぞ!』とか、おかしな言動もありましたしな」
「………」
ごめんなさい。それは完全に僕であって僕です……。
けど、そのお陰で二張を含めた逸材が六名も来たんですから!
「……確かに余の出過ぎた真似だ。許せ」
「なぁに、過ぎたことですよ。それに……」
陳平が何か言おうとした時、陳端が割って入ってきた。
僕に何か伝えたいらしい。
「我が君。お話し中、申し訳ありませんが……」
「君が割って入ってくるのだから、それなりの事であろう。何用だ?」
「はい。閣下にお目通りを願う者がおりまして……」
この時期に長沙ってことは……あっ!?
黄忠! やっと来てくれたんだね!!
「……で、何者かね?」
「桓階。字は伯諸。父の桓勝殿は尚書を務めたほどの人物です」
「……また黄忠じゃねぇ。このやり取り、何時になったら……」
「は? 今、何と?」
「あ、いやいや……。では、その桓階とやらにまずは会ってみよう」
会ってみると桓階は、如何にも文官という感じの目が切れ長の青年だった。
でも、桓階もどこかで聞いたことあるなぁ……。
そこそこの能力ならいいけどなぁ……。
という訳でパラメータチェック!
桓階 字:伯諸 能力値
政治8 知略7 統率1 武力1 魅力7 忠義7
固有スキル 開墾 説得 登用 国情
おお!? 初の固有スキル「国情」持ち!
これでやっと長沙の上限値が分かる!
早速、登用しよう。そうしよう。
「司護殿。お初にお目にかかります。桓階と申します」
「良く来られた。君の父上のご高名はかねがね聞いておりましたぞ」
「本来ならばもっと早く参内したかったのですが、先日病に伏せていた父が他界し、その喪が明けましたので……」
「なんと……惜しいかな。朝廷の尚書になられたお方が……。余も残念に思いますぞ」
「……実はこの桓階、司護殿にお願いの儀があって参内しました」
「……余に頼みたいこととは何かね?」
「実は桂陽の一長老をお連れして参りました。どうか、話だけでも聞いて下さい」
桓階はそう言うと、一人の随分と齢をとったみすぼらしい爺さんを招き入れた。
ちなみにパラメータは表示されず……。
大体、登用したところで、すぐにいなくなっちゃうだろうしなぁ……。
「これはご老人。余に話とは何ですか?」
「桂陽にいる民を代表して参りました」
「……何? 桂陽の民を代表して?」
「太守様! どうか桂陽をお救い下さい!」
おお! 丁度良いフラグだ!
これで堂々と桂陽に攻め込むことが出来るぞ!
「……御老人。その儀は何卒、ご容赦願いたい」
また、何を言っているの!? この僕は!?
難攻不落の城とかなら兎も角、攻めたら簡単に落とせる場所なのに!
「太守様……。何故ですか?」
「恥ずかしい話だが、余は正式な漢の朝臣ではない。故に勝手に軍勢を動かし、占領したとなれば誹りは免れぬ」
「ですが……。桂陽には太守も刺史もおらなければ、県令までもおりませぬ」
「……うむ。だが元々、桂陽は交州と荊州を結ぶ交通の要衝。宮廷からそのうち赴任してこよう」
「そのような時間はありませぬ。今、桂陽は賊が蔓延り、女子供は捕えられた上、売られる有様……」
「何と、御労しい……。一体、陸康殿の後任には誰が赴任したのだ……?」
「それが董太后様、縁の人物である張忠様なんですが、赴任するなり、太守の座を捨て都へと……」
「宦官だけだと思っていたら今度は外戚か……。漢の威信も落ちたものよ……」
「……誠にお恥ずかしい限りです」
「いやいや、御老人が恥じることはないですぞ」
「……ですので、どうか司護様の御威光を以てお救いくだされ」
「許せ……。こればかりは成らぬ……」
「ああっ!」
そういって爺さんは泣き崩れた。
本当に何をやってんだ? この僕は。
さっさとこの爺さんを喜ばせてやればいいのに……。
そう思った時、家臣一同が一斉に頭を下げ、声をあげた。
「どうか、我が君の御威光を以て桂陽をお救いください!」
おおお……まるで中国の歴史ドラマのような演出だな。
日本の歴史系のドラマじゃ、まず見ない光景だ……。
まぁ、日本の場合は皆、畳の上に座っているしね。
「……余は勘違いをしていたようだ。余は民の為に立ちあがったのであって、漢の為に立ちあがった訳ではない」
「おお、では……」
「御老人、ご安心なされよ。この司護は誹りを受けるだろうが、桂陽の民を必ずや救うであろう」
……何かワザとらしいよなぁ……。
まぁ、いいや。これで堂々と桂陽に進出だ。
それと勢いで桓階も手に入ったことだしね。




