第百三十三話 まさかのヤツも来た・・・
孔明を取り巻いていた僕を除く四人は大爆笑。
全く呆れ果てる事とは正にこれですよ・・・。
「・・・コホン。ですから、ここは・・・」
「待て待て。それだけじゃあるまい?」
「亜祖父・・・?」
涙を拭いながら范増が横やりを入れてきた。
それだけじゃないとは・・・?
「なぁ孔明。それをバラしたのは誰なんじゃ?」
「ハハハ。流石は范増さん。鋭い読みですね」
「当ててやろう。胡昭じゃろう」
「流石です。あと傍若無人な奇人も絡んでいますがね」
「ああ、あ奴じゃな」
傍若無人な奇人とは禰衡のことだな・・・。
しかし、なんでまた袁術なんぞにバラすかな・・・。
その事も詳しく聞かなくちゃ・・・。
「バラした理由は簡単なことです。劉備さんが徐州を飽きたんです」
「そ、そんな身勝手な・・・」
「アハハ! 流石にそれだけじゃありませんけどね!」
「それだけじゃない?」
「はい。現在の状態では四方八方です。袁術と劉繇さんに挟まれてにっちもさっちもいきません」
「それはそうだろうねぇ・・・」
「けど、劉備さんはそれで大満足。糜竺さんの妹さんに手をだして嫁にした挙げ句、馮さんまで強奪です」
「・・・・・・はぁ」
「で、このままだと劉備さんは美女と酒に溺れて現を抜かす状態となります」
「・・・・・・」
「で、呆れた関羽さんが胡昭先生に相談した結果バラすということに・・・」
あ・・・頭がいてぇ・・・。
コレが本来の劉備なら僕は蜀ファン辞めますわ・・・。
ま、それは置いておくとして・・・・・・。
「ところで孔明よ。張宝を徐州牧とするならば、揚州王君(劉繇)は全面的に袁術との戦いを望んでいるのか?」
「いえ。寧ろその逆でしょう。ただ昨今、豫章郡にて俄に戦いを望む声が上がりつつあるようです」
「なに? 何故かね?」
「豫章にて徐州の国人、土豪らが避難してきたのが原因でしょう。それと・・・」
「それと?」
「交州の戦いでは、ちと実が少なかったようです。その為、袁術から土地を奪回したい豪族らが吹聴しているようですね」
「・・・ふむ」
袁術に徐州を追い出された国人、土豪らねぇ。
上手く袁術に取り入った連中とは別系統なんだろう。
ただ袁術に取り入ったとはいえ嫌々従う連中もいるだろうから、この辺りは注意しないとな。
本来なら僕も全面的に豫章郡の元黄巾党の連中を煽動させたいところ。
けど、孫堅がいるから、どうにも戦わせたくないんだよ。
項羽までいるから血の雨が土砂降りになるだろうしなぁ・・・。
いや・・・待てよ・・・? いっそ、ここはついでに・・・。
でも、今は僕の心の内に秘めておこう・・・。
それから三ヶ月以上が経ち、祭りの準備が整った。
一応、吉日を待ってということであったけど、本当の理由は印璽製作です。
・・・ったく、仕事遅すぎ・・・。
祭事の一ヶ月ほど前には、当然ながら来客が頻繁に政庁に来て挨拶の嵐。
その中には希望通り王允と楊彪がいた。
どちらも現在は偽帝サイドだけど、外交儀礼というのは複雑怪奇。
あからさまに敵対関係だとしても、使節というのは来るものなのです。
特に自分らの立場が四面楚歌みたいな状況なら尚更ですよ。
それと一応、両者とも能力値を晒しておきましょう。
王允 字:子師
政治7 知略7 統率5 武力5 魅力5 忠義8
固有スキル 名声 機略 判官 説得 補修
楊彪 字:文先
政治7 知略5 統率4 武力4 魅力7 忠義6
固有スキル 名声 教育 教科 判官 鎮撫
どっちも欲しいけど、まず無理だろうな。
双方とも会釈したときは和やかだったけど、目の奥が笑ってない。
それどころか蔑んだ眼で見ていやがる。
おっと口が悪くなってしまった。
これもフクちゃんの影響かな?
・・・と、人のせいにするのは置いておくとして・・・。
この手の手合いには当然ながら、こっちにも対応できる人物がいる。
鄭玄、馬日磾をはじめ陳紀、王烈といったバリバリの名声もち。
且つ中央にもパイプがある連中だ。
鄭玄らに両人の相手をさせておくのが吉だろうな。
両人ともすかさず僕にマウントを取ろうとしてきたし・・・。
その後は各国、各郡などからの使節との大規模な会釈大会。
それと同時におべっか大会。
古今東西セレブのやることは変わらないねぇ。
ま、現実世界に戻ったら無縁になると思うけどな。
そうこうしている内に最後に使節ときたヤツとの面会。
「嘘だろ・・・?」というヤツだった。
細くて嫌らしい眼。無駄に長いドジョウ髭。
金目のものには異常な嗅覚がありそうなブタ鼻。
・・・そう、そいつの名は・・・。
楊松
政治4 知略6 統率1 武力4 魅力1 忠義1
固有スキル 讒言 説得 登用 情勢
ここで会ったが百年め! 地獄に叩き落としてやる!
・・・と言いたいが使節なので、そうはいきません。
何気に初期より能力値やスキルが増えていやがるし・・・。
ま、それでもいらんけど。
「これは総督代理閣下。いや、正しく鳳凰の如く威厳が満ちあふれていらっしゃる!」
「・・・いやいや」
大仰にいきなり変なおべっかを使ってきやがった。
口が臭いんで、大声で言うのやめてくれませんかね?
・・・なんて言えないしな。
しかし、なんでわざわざこんなヤツを寄越すかね。張魯は・・・。
「総督代理閣下はご存じないと思われますが、儂は以前に長沙にて祖父君に仕えておったのです」
「・・・・・・ほう」
「最古参の宿老として祖父君に頼りされていたのですが、漢中の一族郎党を纏めなくてはならず、泣く泣く長沙を去ったワケでして」
「・・・・・・」
「いやぁ! 儂が去るときに礼を尽くされた祖父君の涙。今でも思い出しますなぁ!」
「・・・・・・」
いい加減にしろ! 全部、出鱈目じゃねぇか!
知らないと思って好き勝手いいやがって!
陳端を証人として連れてきてもいいんだぞ!
・・・クソ。ダメだ。落ち着け。僕・・・。
「・・・そ、それは初耳でした」
「ワハハ! 最古参の宿老であった儂からしたら貴殿は正しく孫といってもいい!」
「・・・はぁ」
「いやぁ! 重畳! 重畳!」
「・・・・・・」
ホントに今すぐブッ殺してやりたい・・・。
だけど漢中は交通の要衝で大穀倉地帯。
しかも未だにどの勢力に靡くか分からない段階でもある。
となれば、偽皇帝のとの戦いになったら重要な地になる。
それにこんなヤツのために祭りをブッ壊すことは避けないと・・・。
「ハ・・・ハハ・・・。では、貴殿は余の祖父君と同様ですな」
「あ、いや。そういうつもりではなかったのですがな」
「・・・いえいえ。祖父君。礼を受け取りください」
「おお、これは。名高い総督代理閣下からの礼とは儂も鼻が高い。ワハハハ」
「・・・・・・」
なんなんだ? こいつ?
ホントに何しにきやがったんだ?
「総督代理閣下に進言したき儀があります」
そんな折り、楊松の脇に控えていた人物が割って入ってきた。
楊松はムッとしたが、こっちは逆に助かった。
見たら精悍そうな青年だけど誰だろう?
見た目からして名無しのモブじゃなさそうだけど・・・。
閻圃
政治8 知略8 統率5 武力4 魅力7 忠義7
固有スキル 国情 情勢 機略 看破 開墾 説得
おお! 閻圃! 流石に中々の能力値!
楊松はいらんけどコイツは絶対に欲しい。
「貴殿は?」
「失礼いたしました。某は従事の閻圃という者でございます」
「おお、漢中にその人ありという大賢の・・・」
「いや・・・お恥ずかしい限り」
僕が閻圃を満面の笑みで返答する。
少し横目で楊松を見るとあからさまに閻圃を睨んでいた。
絶対この二人って仲が悪いだろうな。
「うむ。話を戻しましょう。余に進言したき儀とは?」
「はっ。御旗を頂きたいのです」
「なに? 御旗?」
「はい。『厭離穢土 欣求浄土』の御旗でございます」
「・・・ほう?」
・・・・・・また何でその旗を?
と一瞬思ったけど、すぐに合点がいった。
「厭離穢土 欣求浄土」の御旗はウチのオフィシャルフラッグみたいなもんだからな。
この御旗を公に渡したとなると、劉焉や劉協は漢中に攻め込むことを躊躇うだろうしな。
要は虎の威を借る狐ってわけだ。
「良いでしょう。と言いたいが、余が今すぐに承諾できるものではない。すまぬが・・・」
「その返礼として張府君(張魯)のご息女である張琪瑛殿を総督代理閣下に結納させるつもりです」
「なっ!?」
えっと? 張魯の娘と僕が結婚?
え? こういう流れのハーレム?
いや、どこぞのRPGと違って「嫁独り選べ」ってコマンドがないのは凄く嬉しいですけど・・・。
「うらぁ! 閻従事! いきなり何を言っているんじゃ!」
楊松がいきなり叫び割って入ってきた。
どうやら楊松が切り出す手筈だったようだな。
「楊主簿の独りよがりの自慢話で総督代理殿が退屈していたようなので、本題に移しただけでございますが?」
サラッと楊松にそう言った閻圃イケメンすぎ。
しかし、まだ十歳にもなってないのにハーレムとか・・・。
いや、どっちも幼女なので、ロリコンでもない限り嬉しくないんですが・・・。
どう返答しようかな・・・。
「まぁ閻従事。五斗米道の尊師にして仁君と名高い張府君と誼を結べることは誠に嬉しいのですが・・・」
「ならば吉日を選び早急に・・・」
「いやいや。余も本来なら成人していない身だ。お気持ちは嬉しいのですが・・・」
「正室でなく側室でもご無理と仰るのですかな?」
「・・・あ、いや・・・」
これはこれで困ったな・・・。
しかし漢中というか五斗米道とのパイプは重要になる。
既に僕というか、この陣営は太平道を取り込んでいる。
つまり二大宗教集団を手中に収めることが可能ということだ。
大勢力の宗教集団が世論や政治、軍事に影響を与えるのは現実世界でも同じだからな。
・・・よし。決めることにするか・・・。
「そういうことであれば認めましょう・・・」
「おお総督代理殿に感謝いたします」
「ただし側室でよければ・・・ですが」
「総督代理殿の側室というだけでも栄誉あることです。張府君もお慶びになります」
「・・・それと結納は余が成人した暁ということで宜しいですな?」
「御意!」
はぁ・・・疲れた・・・。
と思い、その場から引き上げようとすると、またもや閻圃から止められた。
いや、君ならまだいいけど、隣にいる臭いキモデブと離れたいですがね・・・。
「暫くお待ちを。総督代理殿」
「・・・まだ何用があるのかね?」
「はっ! 実は張琪瑛殿は既にこの地へいらしておるのです」
「なっ!? 何ですと!?」
なんでもここに来ている理由は病気治療のためだとか・・・。
そりゃ確かにここは医療もナンバーワンですけどね。
・・・という訳で婚前どころか、この場にて初めての顔合わせ・・・。
なんなんだ・・・。この展開は・・・。
「・・・張、字は琪瑛と申します」
「・・・うむ」
張琪瑛も現在の僕と同じぐらいの年齢だ。
病弱という話だが、それで少し陰がある感じになっているのだろうか?
ただ陰がある以上に年齢に似合わず妙な色香を纏っている。
歩錬師と同じ知的な印象もあるが、どことなく妖艶さが何とも言えない。
逆に歩錬師は明朗闊達な美少女。
完全に甲乙つけがたいわぁ・・・。




