第百三十二話 復活?と死亡?と逃亡?と・・・
深夜、皆が寝静まった頃を見計らい、僕は老師を呼ぶことにした。
当然ながら、賄賂としか言いようがない蜂蜜酒をタップリと用意してからだ。
「何じゃ? こんな夜更けに呼び出すとは? 儂は范増じゃないぞい」
「また僕が騒いだ時にマズいワードが出てきたらと思うとね・・・」
「ふむ?」
訝しむ老師だったけど、僕の隣にある多くの瓢箪を見ると表情が明るくなった。
分かりやすいなぁ・・・。
「一つ聞くけど、老師って特定の人物にも化けることが出来る?」
「そんなことか。神獣よりも容易いもんじゃよ」
「そうか。なら、安心した。誰でもいいんだよね?」
「そうじゃ・・・。で、誰に化ければ良いのじゃ? いや、当ててやろう。司政じゃろ?」
「はい。その通りです」と少し前なら答えていただろう。
けど、僕は事前にもっと良い人物を思いついていた。
この人物なら一気に現状を打破出来ると思ったからだ。
「違います。確かに司政を最初に思い浮かべましたが、司政ではありません」
「お主。何か口調まで違うのぉ。しかし、他に誰を・・・?」
「劉宏です」
「ほぉ・・・劉宏・・・なっ!?」
そう。化けて欲しいのは先頃亡くなった霊帝の劉宏だ。
劉宏が泣いて僕に相国になるよう嘆願するという筋書きでね。
幸い鄭玄をはじめとする家臣らは実績のある朝臣だった訳なので、説得力は十分ある。
加えて祭祀の際に劉表配下の蒯越や客人の馬日磾も招いておけば、これ以上ない宣伝になる筈。
「しかしのぉ・・・。それで相国になったとしても・・・」
「クリア出来ないってんだろ。分かっているさ。でも、あくまでこれは足掛かりにしか過ぎないからね」
「・・・ふぅむ」
「用は世間に僕がキングメーカーになったと認知されればいいんだ。いや、エンペラーメーカーか」
正直、詐欺と言われようが何であろうが、世論を味方につかせればいいんだ。
それに僕は以前とは違い、皇族の縁者もあるんだし。
僕は老師に脚本を渡し、当日までにセリフを覚えてくるように言った。
老師は面倒くさがっていたけど、様々な酒以外にも果物や珍味を贈与(賄賂?)することで合意。
更に祭りには多方面からの来客を招く。
公に偽皇帝の劉弁側からも招く。
勿論これは危険な賭けだとは思う。
一番、警戒しなければならないのは、張良による劉弁側が送り込んだ刺客の仕業と見せかけた僕への暗殺行為。
もし張良がその気ならば、確実に仕掛けてくるだろうからな。
だが刺客を捕らえて白状させれば、その時点で大義名分が成り立つ。
例え白状せずに拷問死したとしても、ぶっちゃけ証拠なんてでっち上げればいいからな。
ただ讒言持ち三人衆や董承、張忠とかもいるから、でっち上げるヤツを慎重に決めないとな・・・。
翌日、僕は早々に来客名簿リストに取りかかることにした。
当然デブ愚帝の顔を見知った連中が中心にだよ。
その中でも在野にいる鄭玄クラスの大物を招きたい。
こちらの配下になればそれにこしたことはないけど、在野のままでも役に立つのは必至だからな。
デブ愚帝の顔を見知った大物が吹聴してくれるだけで十分なんだ。
「・・・と言う訳で誰をまず招くべきであろうか?」
「・・・・・・そうじゃのぉ」
僕は祖亜父の范増を呼びつけ、共にリストを作成する。
あ、老師のことは伏せた状態でね。
流石に「司護がデブ愚帝を一時的に復活させる」と言ったら驚いていたけど。
「在野ならばまず許相が良いじゃろう」
「どんな人物だ? 祖亜父よ」
「光禄大夫や司空、司徒を歴任した者じゃよ」
「・・・それはまた大物だな」
「なぁに。儂に言わせればつまらん小物じゃよ。祖父の許敬が司徒だったことで、父親の許訓と同じく七光りなだけじゃ」
「だが、三公を歴任した事実はあるし、帝の顔を知っているのは大きい」
許相のことはよく分からないが、どうも許劭の親族らしい。
ただ許劭は許相のことを小バカにしているらしいので、許相を伝手に許劭を配下にするのは難しそうだ。
それと許相といった在野連中はさておき、一応現役で尚且つビッグネームも呼ばないとな・・・。
「・・・して、お主。一体誰を呼ぶつもりじゃ?」
「王允と楊彪だが・・・」
「その二人か・・・」
「・・・可能だろうか?」
「確かにその二人が『劉宏を見た』となれば、真実味が格段に違ってくるがのぉ・・・」
「・・・で、どうすれば招くことが出来よう?」
「そうじゃな。ここは下手な小細工はせず、素直に鄭玄や馬日磾を頼るが良いじゃろう」
「どう頼ると言うのだ?」
「それくらいは自分で考えるが良い。なぁに、そう難しいことではない筈じゃ」
・・・そう難しくはない・・・か・・・。
鄭玄や馬日磾は二人と旧知だし、きっかけは手紙だけでも十分だろう。
となると両者、つまりは偽皇帝サイドへのニンジンをブラつかせれば良いのか?
偽皇帝サイドへのニンジン。
それはつまり偽皇帝サイドへの帰順だろう。
こちらの大軍勢を簡単にモノに出来るなら、偽皇帝サイドは両者の命すら屁でもない。
しかも色々な大義名分とやらまでもが付随してくるんだからな。
僕は鄭玄と馬日磾を呼び出し、王允と楊彪を祭事に加えるために招きたいと述べた。
これは「霊帝の鎮魂も兼ねての祭事だから必要だ」と強調し説得。
更に祭事による占卜によっては、帰順する旨も伝えた。
帰順の可能性が少しでもあるなら飛びつくだろうしね。
奇しくも劉恒サイドは劉弁を偽皇帝と断定し、諸国に檄文を飛ばしている。
もっとも、これは僕が皇甫嵩に依頼したやり方なんだけどね。
けど、本来なら真っ先に檄に応えなければいけないところ、こちらはまだ表明を出してない。
劉寵の出方を探るため表明してなかったんだけど、思わぬ所でこれが功を奏したもんだ。
数日後、僕は豪華な政庁にて鄭玄らに王允と楊彪へ手紙を認めることを命じた。
二人とも怪訝そうな顔をしたので、今回の祭事はデブ帝の供養もあると言ったら納得したよ。
巷では司政が呪い殺したなんて噂が中原に出回っているから、その払拭と思ったろうな。
二人が退出しようとすると、入れ替わりで孔明がやってきた。
普段なら落ち着き払った孔明なのに、その表情からして全く違う。
なんか嫌な予感しかしねぇ・・・。
「どうした? 孔明よ。何があった?」
「徐州からの使者が参りました。急ぎ謁見されたいとのこと・・・」
「ふぅむ? 徐州の使者・・・?」
今度は徐州で何かあったのか?
今はそれどころじゃないってのに・・・。
「その前に孔明よ。徐州の使者から仔細を聞いたのであろう?」
「・・・はい」
「まずは君から述べよ。何があったというのだ?」
「じょ・・・徐州牧がお亡くなりに・・・」
「・・・・・・」
なんだと!? 劉備が死んだ!?
何をしてくれてんだ!?
てか、何があったってんだ!?
そして孔明の案内で徐州から孔明が謁見しにきた。
え? 間違い?
間違いではありません。孔明といっても胡昭のほうですから。
さて、どんな能力値なのやら・・・。
胡昭 字:孔明 能力値
政治8 知略9 統率6 武力3 魅力9 忠義7
固有スキル 看破 鎮撫 名声 説得 書家 教育 開墾 和解
・・・こっちの孔明も欲しいぞ!
太守や州牧としてマジで欲しいぞ!
・・・でもまぁその前に、劉備がどうやって亡くなったか聞くとしよう・・・。
「お初にお目にかかります。胡昭、字を孔明と申します」
「お噂はかねがねお聞きしております。諸葛君の師父君とも」
「あ、いや。亮君の師父といっても私は・・・」
「ハハハ。ご謙遜を。ところで劉州牧の件ですが・・・」
「はい・・・。お恥ずかしい限りですが、沼に落ちて溺死・・・」
「・・・ちょ・・・ちょっと待ちたまえ。沼で溺死?」
「はい。誠に恥ずかしい限りでして・・・」
それ以前に他の者はなんで助けなかったの!?
・・・と思ったので、理由を聞くとまぁ呆れること。呆れること・・・。
劉備はどうも妾を持ったらしく、その妾に会うたびに夜な夜な出かけていたらしい。
で、ある日、愛馬の的蘆に乗っていったら・・・。
とまぁ、そういう理由とのことです・・・。
何してくれてんだよ!?
もしかして龐統のためにやってくれたのかな?
って、龐統はもうこっち陣営だからフラグは既にへし折っていますけどね!
「・・・そ、それで胡昭殿。徐州牧の後任はどなたが?」
「はい。それを貴殿に公認していただきたく・・・」
「私が公認ですと? いや、それは劉繇殿の・・・」
「はい。その劉繇殿たってのご希望でございます」
「劉繇殿の希望? はて・・・?」
「徐州牧の後任に張宝殿を推挙していただきたい」
「なっ!?」
そりゃ張宝が来たら徐州の黄巾の連中は一気に靡くだろうけど!?
でも、時期的には袁術にとっては劉備よりも厄介か・・・?
そして劉繇としたら僕が公認というか追認したことで、袁術との諍いのトップに僕を持ってくる訳だな?
全く面倒な宿題を押し付けてきやがって・・・。
ん? 待てよ? 本当に劉備って死んだのか?
「胡昭殿。ちとお聞きしたいことがあるのだが・・・」
「はい。どのようなことで?」
「関羽殿を始めとする幕下は・・・?」
「ああ、それでしたら既に旅立たれたようです」
「な、なに?」
「なんでも北にいる青州の曹操殿に頼るとかで・・・」
「なっ!?」
関羽! なんでよりよって曹操なんだ!?
あ、でも一番の近場で縁故があるのは・・・。
いやでも、こっちには徐晃がいるんですけどねぇ!
「お、落ち着いてくだされ・・・。司護殿」
「・・・こ、これは申し訳ない。徐州の民のことを思うと、一騎当千の関羽殿が離れたとは・・・」
「あ、いや。既に黄巾の廖化殿が従事として赴任しております。それに呂岱殿も長史として赴任しております故・・・」
「・・・・・・」
いやに手回しがいいじゃねぇか・・・。
なんか怪しいぞ?
しかも糜竺、糜芳まで離れたって話らしいし・・・。
「・・・あい分かりました。徐州牧として張宝殿を認めましょう」
「おお、それは有難い・・・」
「ですが、直ぐには決めかねます。皆の意見も聞いた上でないと・・・」
「あ、それは・・・」
んん? 両孔明がちらりと顔を見合わて諸葛亮は左右に首を振ったぞ。
なんかおかしいよなぁ?
看破は確かに光らないけど、これって相手の知略が9もあるからじゃねぇかな?
僕は胡昭を下げさせ、諸葛亮はそのまま留めさせた。
と同時に、楊慮、范増、周不疑、そして龐統を加えた連中で諸葛亮を小一時間ほど問い詰めてやろう。
現在、西暦202年。元号は建安元年。
なので、周不疑はまだ10歳なのですが、なんと天才少年は既に成人扱いです。
そして改元した理由はデブ帝がおっちんだからですね。わかります。
周不疑 字:元直
政治9 知略9 統率5 武力2 魅力7 忠義6
固有スキル 神算 鬼謀 芸事 判官 説得 治水 教授
龐統 字:士元
政治8 知略9 統率7 武力5 魅力5 忠義5
固有スキル 神算 鬼謀 判官 説得 遠望 商才 弓兵 攻城
龐統は病気になったことで衡陽にて療養し、赴任先に戻る途中だったので、そのついでに。
まぁ赴任先に行かないでも大丈夫だろうけど、士燮の行動は読めないからな・・・。
それにこの世界では龐統と諸葛亮って旧知という訳ではないらしいし。
尤も僕にとっちゃ史実だからなのか、既定路線が変わったことなのか分からないけどさ。
「おほん・・・。先ほど件だが、孔明。あ、いや・・・」
「胡昭さんはおりませんし、普段通り孔明で構いません」
「では、孔明。率直に言おう。本当に劉備殿は亡くなったのか?」
「・・・・・・」
孔明は僕を含めた五人を軽く見回した。
そしてプッと吹き出した。
この瞬間、僕は全てを悟った。
やっぱりか・・・。
「アハハハ! 総督代理(司護のこと)もお人が悪い! 察しているなら見逃してくださいよ」
「いやいや・・・。それは看過できぬよ・・・」
「なんだって、そんな茶番を・・・」
「それは簡単なことです」
諸葛亮が言うには胡昭にとって、こちらが知らない方が都合良いからでそうで・・・。
そりゃそうでしょうけど、こっちも都合があるんだがね・・・。
けど、またなんで・・・・・・?
「簡単に言えば隠していた妾が原因なんですよ」
「妾が原因・・・? そりゃまたどういう・・・?」
「袁術に囲われていた馮という絶世の美女なんです。それを寝取った訳でして・・・」
「・・・・・・」
「となると、袁術が大激怒するのは当然な訳でして、それで徐州に迷惑をかけられないということで・・・」
「・・・・・・」
あのバカ長耳ドスケベ親父! 何してくれてんの!?




