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第百三十話 漢室典範作成開始

「・・・理由は簡単なことです。司政の体が持たないのです」

「・・・はい?」

 

 ジンちゃんは気まずそうにそう打ち明けた。

 でも、どういうことだ?

 

「簡単に言うとだな。お前さんという中和剤というか緩衝役がいねぇんだ」

「え? フクちゃん。どういうこと?」

 

 二人の説明によると、二つの人格のみだとすぐに体が変調をきたし、司政の体というか入れ物が持たないという。

 そうなると僕の存在が必要ということだが、そうなると今度は竹千代がどうなる?

 

「それは簡単なことです。竹千代は祖父である司政のために命をなげうったことにすれば良いのです」

「あのさ・・・ジンちゃん」

「何です?」

「親である文恭や劉煌はどうなると思う?」

「喜ぶのが当然でしょう! 文恭としては実の我が子が大恩のある義理の親に対し、命を擲ってでも救ったのです! これこそ美徳の極みです!」

「・・・・・・」

 

 それを美徳というだけで返すかね・・・。

 ま、これについて深く考えるのは止めておこう・・・。

 しかし、僕が司政に入るとなると今度は竹千代が自動的に死亡するらしいし、ここはどうしたものか・・・。

 

「フォフォフォ。全く面倒なことになったのぉ」

「あ、老師」

 

 ここで久々の老師の登場だ。

 いつもならウザいことこの上ないけど、現状においては唯一打開策を持っているだろう。

 

「ウザいとな? 儂の何処がウザいのじゃ? ファンキーでナウでイケイケなこの儂を」

「・・・そういう所だよ」

「酷いのぉ。儂のナイーブなスウィートハートは傷ついたぞ」

「・・・本題に入るよ。ジンちゃんとフクちゃんのみで司政の体を維持させるには、どうしたら良い?」

「・・・おおお。儂の心は傷つき、瞬時にして死期が迫ったようじゃ・・・」

「先日、やっと八海山が出来上がったとの報告が・・・」

「なっ!? うむ。それは簡単なことじゃ。お主が以前、五日ほどいた桃源郷の泉に体を浸せばよい」

「え? それで治るの?」

「うむ。すぐにとは言えぬがの」

「・・・待てよ。あそこの一日は一年だよな・・・?」

「そういうことじゃな。今回は最低でも十日ほどになると思うがの」

「じゃあ正確には十年以上!?」

「そうじゃな」

 

 なんということだ・・・。

 計画していたことが全部台無しだ・・・。

 密かに成人した頃にゲームクリア直前という美味しい所をゲットしようと思っていたのに・・・。

 

 僕は悩みに悩んだ。

 その結果、僕はあることに気づく。

 これならある意味で僕が統治出来るし、問題はないだろう。

 ・・・今まで以上にキツくなるけどさ・・・。

 

「答えは出た。ジンちゃんとフクちゃんには司政の体で桃源郷に行ってもらう」

「マジかよ・・・」

「でだ。行く前にやって貰いたいことがある」

「どのような事でしょう?」

「司政が竹千代に対し、桃源郷から伝達をすることを皆に公表するってことさ」

「なんだそりゃ?」

「意味が分かりませんが・・・」

「言ってくれるだけで良い。そんなことは出来る訳がないのは知っている。要するに・・・」

「司政が竹千代に委任した形で俺らが桃源郷に行くってことだろ?」

「察しが良いな。フクちゃん。ま、そういうこと」

「あまり良い案とは思えません。第一、それだと子が親に命令することに・・・」

「僕は儒教なんぞ知らないし、あまり理解したくない。邪魔なら親を殺すまでいかないが、追放ぐらいならしても良いと思っている」

「・・・おいおい。家康から信玄に鞍替えか?」

「何と言ってもらっても結構。兎も角、ちゃんと従ってもらうからね」

「・・・やれやれだぜ」

「致し方ありませんね・・・」

 

 そして翌朝、緊急の会議が招集された。

 そこで二つの個性を持つ司政は、治療のために籠ることを皆に宣言することになった。

 当然、これには反対意見も出る訳ですが・・・。

 ここは口出しせずにジンちゃんとフクちゃんに任すとしよう。

 

「余は既にどんな医聖でも治せぬ大病の身だ。幸い竹千代が一時的に病魔を静まらせたが、それも長くはない」

「・・・しかし、そうなると何方を代理とするので?」

「ハハハ。張紘よ。丁度、ここに竹千代がおるではないか」

「えっ!? まさか、竹千代君を!?」

「その通りだ。余が神通力で竹千代・・・いや、司護に余の意向を伝える。よって竹千代の命令は、余の命令と思え」

「・・・いや、それでは」

「そして、ここに正式に竹千代を成人とする。役職は総督代理といたす。名は護。字は・・・」

 

 少し間が空いた後、今度は頭の中に声がした。

 

「どうするんだ? ボン。字は勝手に決めていいのか?」

「勝手には決めないで!」

「なら早く言え! 今すぐ!」

「じゃあ、家康かこうで!」

「・・・ちぇっ。信康しんこうにしようと思ったのによ」

「縁起でもないこと言わないで!」

 

 そして司政は「完治したら戻る」とだけ言い残して場から去った。

 いや、煙のように消えたと言った方が正しい。

 

 こうして僕は五歳児でありながら、名と字を持つ成人扱いとなった。

 だけど、一つだけ困ったことがある。

 それは正式な成人ではないため、能力値が存在しないのだ。

 他人の能力値だけは見ることが出来るので、そこだけは不幸中の幸いなんだけど・・・。

 

「・・・うおっほん。では、総督代理に礼」

 

 現場復帰を果たした張昭が音頭をとり、皆が深々と僕に頭を下げた。

 ある意味、幼少期に皇帝となった献帝みたいな感覚だが、違うのは完全に傀儡ではないということ。

 

 それと、総督とは正式名称は南方総都督で、この政庁の名前は南方総都督府ということだ。

 なので、僕の正式な役職名は南方総都督代理ということになる。

 だけどこの総督という名称は、もっと未来にある筈の役職名らしいけど、名前はもうどうでも良い。

 現在、僕の勢力範囲は荊南、交州、越州(ベトナム、カンボジア)、蛮州(益州南部からラオス、ミャンマーの一部)、比州フィリピン、倭州(日本)だからな。

 それ相応の役職名がない以上、勝手に作るしかないからね。

 

「・・・それでは祖父君からの言伝で、漢室典範について皆に聞いておきたい」

「お待ちを。その漢室典範とは何です?」

「ああ。それを今から皆に話します」

 

 僕が漢室典範について話し終えると、またもや場内は騒然となった。

 ま、予想した通りでしたけどね。

 

「それでは帝は『我らの言う通りに従え』と言っているのも同然ではないですか!?」

「鄭先生(鄭玄)。それは違います。祖父君がおっしゃるには、これは桓帝君を始めとする歴代の帝も承認した上とのこと」

「そんな馬鹿な! 先日は君を『豫州王君の養子にする』とおっしゃっていたばかりですぞ!」

「僕・・・いや、余は祖父君の言伝を皆に話したまで。その上で皆に漢室典範についての規約を纏めたい」

 

 現代でも中国は法の上に共産党がある形だ。

 つまり、法の上に何かがあるのが自然な形というか、シックリくるんだろう。

 それが良いか悪いかは別として・・・。

 

「半年で纏めよ。在野の賢人にも呼びかけ、儒学以外の見識も必要だ。左様、心得よ」

「御意」

 

 鄭玄ら儒学者は不満そうだが、もう賽は投げられた。

 幾ら良い法律を作ったとしても、解釈次第でどうにでもなるのは良くあることだ。

 だから、この法律に相応しい権威をつけなければならないだろう。

 

 それと同時に苛政になりつつあった政策を見直さないといけない。

 確かにこれで大分、金は貯まったらしい。

 けど、そのせいで逆に民間を圧迫させるとなると、元も子もなくなる。

 でも、問題なのはそれだと今まで司政が間違っていたということを認めることになるんだよな・・・。

 こういうのは下手をすると権威失墜になりかねないので、何らかの理由付けが必要だ。

 

 僕は考え抜いた末、目標が達成した為、税率を下げるという触れを出すことにした。

 その目標とは所謂、街道整備のことだ。

 それと同時に今まで通行税を取っていた橋なども無料開放することとなった。

 

 税金を下げたら収入が激減するかって?

 馬鹿なことを言っちゃあいけません。

 その代わりに海上交易の利権は独占状態ですからね。

 特に倭州こと日本からは品質の良い翡翠や金銀をバンバン輸入しているし、こちらは青銅器や鉄器、絹を輸出している。

 

 さて、話を少し戻して問題は漢室典範の権威付けだ。

 何たって皇帝を御するための代物だもの。

 ・・・・・・となると、やはり一つしか方法はないな・・・・・・。

 

「ほい。何じゃい。かような豪勢な部屋に呼び出して歓待でもしてくれるのかの?」

 

 僕は今や自分の部屋となったあの寝所に老師を呼び出した。

 あまりに広く落ち着けない部屋だが、総督代理になった以上は仕方がない。

 

「老師は龍にも化けられる?」

「なんじゃ? このいたいけな老人を酷使する気か? なんという老人虐待!」

「・・・・・・八海山は美味かったよね?」

「うぐっ!? ・・・・・・いやいや。八海山でつろうとはなんという・・・」

「八海山だけじゃなく獺祭や水神、越乃寒梅もつけても良いんだけど?」

「なっ!? そこまでブランドがあるんかい!? てか、なんで未成年のお前さんがそこまで知っとるんかい!?」

「飲んべえの伯父さんがいるからね・・・。もっとも、どれも飲んだことは一度もないけどさ」

「・・・やむを得ん。お主のためじゃ。この老体に鞭を打つことにしよう・・・」

 

 良く言うぜ。全部、酒のためのくせに・・・。

 ま、それはどうでも良いとして、あと一つだけ凄い問題がある。

 歩練師とその母親をどうやってここに連れてくるかだな。

 


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