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第百二十話 司政誕生!?

 司護は月明かりに照らされて、上から僕をじっと見つめている。

 2メートル近い高身長や、関羽ほどではないにしろ長い顎髭が、威厳を確固たるものにしているようだ。

 当然ながら今迄このような形で自分の姿を見たことないから、その容姿に圧倒される。

 僕が二歳児の身長だからというのもあるけれど、今まで見た曹操や孫堅よりも得体の知れない風格がある。

 

「祖父君。お騒がせさせてしまい申し訳ございません」

 

 僕は拱手し、片膝をついた。

 流石に二歳児相手に「この無礼者!」とか言って殺すような真似はしないだろう。

 そうでなくても文恭か許褚が遮ってくれる筈・・・。

 

「お前が来ることは分かっていたよ。余も同じ天啓が夢を通じてきたからな」

 

 それと同時に司護はこう叫んだ。

 

「今から余の名は政だ! 護の名は竹千代が成人した暁に譲り渡す!」

 

 司護はそう言うと同時に目の前まで来て、片膝をついて竹千代となった僕の両肩に両手を置いた。

 すると、頭の中で声がしたんだ。

 

「久しぶりだな。ボンちゃんよ」

「そ、その口調はフクちゃん」

「そうとも。会いたかったぜ」

「ぼ、僕もだよ。それとジンちゃんは?」

「腐れ儒者のことは忘れろ。今日から俺が受け持ってやるから、ボンちゃんは好き勝手に遊んでいろ」

「・・・・・・そうはいかないよ。それに何故、ジンちゃんが」

「だから腐れ儒者はどうでもいいって言っているだろ。それよりも俺のパラメータを見てみな」

 

 フクちゃんがそう言ったので、僕は恐る恐る司護改め司政の能力値を見た。

 すると・・・・・・。

 

司政(嬴政) 字:公殷

政治10 知略8 統率8 武力7 魅力8

固有スキル 登用 商才 看破 名声 弁舌 媒介 弓兵 機略 刺客

 

 かなり強くなっている。武力もかなり上がったし・・・。

 吉兆や俯瞰はなくなっているけど、代わりに「媒介」なんていう知らないスキルや「刺客」まである。

 けど、それ以上に括弧内の嬴政えいせいの名が引っかかるな・・・。

 

「それが本来の俺の名よ。ボンちゃん」

「どういうこと?」

「チュートリアルのお助けモードが解除されたからな。それでこういう形で出現したという訳だ」

「成程・・・。って、ええ!?」

 

 何処かで聞いたことがあると思ったら嬴政って始皇帝のことじゃないか!

 

「ハハハ! 恐れ入ったか!」

「いや、それ以前に・・・」

「安心しろ。嘗て中原を統一した俺に任せておけば、益州なんぞ簡単に平定できる。その後、デブ帝とその傀儡どもは三族まとめて全員、皆殺しだ!」

「ま、待て待て。そこまでせんでも・・・」

「天に刃向かった者を三族皆殺しするのは当然のことじゃないか。何を言っているんだ?」

 

 その発想がおかしい・・・。いや、この世界じゃおかしくないんだろうけど。

 そしてフクちゃんこと司政は文恭を先に帰らせた。

 天の啓示を受けた者同士で話すからとかいう理由でね。

 文恭は戦々恐々とした表情だったけど、それは司政のせいなのか僕のせいなのかまでは分からない。

 

「これでいいだろう。久々に話すのだ。心ゆくまで話そうや」

「・・・それよりも君が始皇帝と同じというのなら、焚書坑儒とかもする気?」

「必要ならやるぞ。当然だな」

「・・・そ、それはちょっと」

「ボンちゃんは焚書坑儒をしたことを誤解しているようだ。説明してやろう」

 

 まず焚書をした理由は当時、様々な文字が多すぎて文字を統一するための必要措置だったそうだ。

 貨幣や轍などと同じく全て統一するのに当然のことだったという。

 確かに文字の種類が多いというのは不便か・・・。

 

 坑儒に関しては儒者よりも、自称方士というか詐欺師を生き埋めにしたことが多いらしい。

 金を要求するだけ要求して、その金で豪勢に遊んでいたのがバレたので、当然の措置だとのこと。

 ま、それ以前に不老不死なんてあり得ないんですけどね。

 日本でも伝説が多い徐福なんかは、上手く逃げ延びたということなんだろうな。

 

「じゃあ、儒者の方は?」

「それも必要だったからだ」

「何故?」

「じゃあ、二つ問題を出す。この問題にまずは答えてみな」

 

 一つ目の問題は、もし父親が殺人などの重罪を犯した時に匿うか、もしくは逃走の手助けをするか。

 二つ目の問題は、正当防衛で人を殺した相手に対し、殺された遺族が仇討ちを申し出た時にそれを許すか。

 

 一つ目の答えは少し悩むところだけど、僕なら通報するな。

 父さんは間違ってもそんな犯罪はしないというより、まず出来るような人じゃないけどね。

 

 二つ目の問題については言語道断だろう。

 これを許せば子持ちの通り魔が暴れて通行人を殺した場合、その通り魔を生きながら捕獲せざるを得ない。

 大体、そんな奴は「見つけ次第、射殺しろ」と僕は普段から思っている。

 じゃないと日本の警官が、拳銃を所持している意味がない。

 

「死にたい奴は勝手に死ね。ただし、周りに迷惑を掛けるな」

 

 そもそもこれが僕の意見だ。

 こういう事を言うと「自殺を肯定するのか!」という間抜けなことを言う奴がいるので、普段はそういう事を言いません。

 けどさ。駅の構内からの飛び込み自殺で急いでいる時に

 

「自殺なんてするのは社会が悪いからだ。嘆かわしい」

 

 なんて思う奴いるのかよ!

 普段は「自殺は云々」とか偉そうなことを抜かしている奴に限ってそういう場合「死にたいなら山奥でも行け」とか思うんじゃないか?

 

「ハハハ! なんだ! 俺と同じじゃないか。安心したぜ」

 

 僕が答えを言うと司政は満足そうだった。

 けど、何でこんな問題を出したんだ?

 

「それは俺が殺した腐れ儒者どもが、それと反対のことを言ったからだ」

「え? そうなの?」

「ああ。親を密告するのは『孝』に反する。仇討ちをしないのも同然・・・とな」

「・・・・・・」

「そうなればどうなる? 法を蔑ろにすることになるだろ。だから、見せしめのために殺したんだよ」

「他に方法はなかった?」

「ない! そもそも儒学というのは方便だらけだ! 結果論で全てを片付ける都合の良い教えなんだよ!」

「・・・・・・」

「ボンちゃんも暇つぶしに四書五経とやらは読んだだろ。儒教の『徳』とやらの答えはあったか?」

「優れた人物が上に立てば何事も問題なく、万事が上手くいくみたいな感じかな・・・」

「そう! で、天災が起きれば『徳』とやらがないということになる!」

「・・・そんな無茶な」

「ああ、無茶だ! だから、そんなことを風潮する奴は殺してナンボなんだ!」

 

 かなり過激だけど、同意できることはあるな・・・。

 本当は同意したらダメかもしれないけど・・・。

 

 司政は更に儒教の欠点を捲し立てた。

 父親が死んだら三年もの間、喪に服すことを是としていること。

 継母とかがどんな虐待しても尽くすことを是とすること。

 更に孝行者と呼ばれれば、どんな無能者でも立身出世が可能ということ。

 他にも色々あったけど、キリがない・・・。

 

 けど、僕は聞いている内、何か違和感を憶えた。

 いや、この違和感は元々あったものだ。

 それは儒教の美徳が形骸化されすぎて、本来の儒教ではなくなっているような気がするからだ。

 どんな良い教えでも、形骸化されて既得権益に組み込まれたら、それは既に本来の物じゃないと思う。

 だからといって原理主義に走りすぎるのも、どうかとは思うけどね・・・。

 

「という訳で、安心して後は俺に・・・」

「ちょい待ち」

「何だ?」

「陳勝らが反乱を起こしたのは『事業が遅れたら理由を問わず皆、殺す』とかいうお触れのせいだよね」

「ぐ・・・」

「そのような命令は出さないというのなら、ここは素直に従うよ」

「・・・野郎」

 

 その途端、司政の目が冷たく光った。

 司政の武力は8だし、刺客も持っている。

 けど、恐くない。恐くないぞ!

 ・・・・・・本当は凄く恐いけど。

 

「普通ならこの場で殺しているところだが・・・まぁいい。下手な動きはするなよ」

「下手な動きって何だよ・・・?」

「それぐらい察しろ。ボンが成人するまでに益州なんぞ簡単に平定して、劉焉どころか刃向かう奴らは三族皆殺しにしておくから」

「無茶はしないでよね・・・」


 現在、益州の成都を攻略するにはルートが一つしかない。

 涪陵郡、牂牁国のルートは今のところ使えないからね。

 ま、それ以上にインド方面への交易路を繋げることが目的だったんだけどさ。

 

 益州南部からインドシナ半島までを確保したことで、更にこちらへの交易品は広がっている。

 そうなると全体的に豊かになり、食のバリエーションも広がる。

 何故かと言えば、安価に様々な調味料が調達しやすくなるからだ。


 一般家庭でも食のバリエーションが広がるということは、全体的に温和な雰囲気を醸し出す。

 それに一度、贅沢な生活に慣れると人々は、元の貧困な生活には戻りたがらない。

 贅沢といっても現代日本からみたら極めて質素な生活だけど、これが重要なことだ。

 

 兵を含む平民からしたら、自分や家族の生活が第一。

 となると、その生活を脅かす敵には容赦なく戦う筈だ。

 朝敵と言われたら士大夫には影響あるだろうけど、平民には全く関係ない。

 ま、僕の所にいる士大夫層は朝敵扱いを既に左程、気にしている様子はないけどね。

 

 逆に言えば、相手方の兵なんかもこちら側に来れば、現在の生活よりも向上すると思われれば良いという訳だ。

 そうすれば自ずと敵は土台が揺らぎ、自壊することになる。

 つまり、戦場において血で血を洗うことだけが戦争じゃないんだよ。

 経済とそれに追随する情報戦によって優位に立ち、相手を屈服させる。

 これこそ正しく「戦わずして勝つ」ということだ。

 全く華がないと言われそうだけど、そういう勝ち方が理想だからなぁ・・・。

 実際、ゲームでも内政で兵力を倍増させてから降伏勧告を乱発するのが多いもんで。

 

 それと益州で厄介なのは攻めづらい地形と東州兵だろう。

 東州兵とは元は荊州からの難民で組織された兵だ。

 何故、荊州からの難民かというと、荊州での黄巾党蜂起によって追い出されて難民となった経緯がある。

 その難民の子供らが成長し、若い兵士となって劉焉の主力となっているんだ。

 

 東州兵は当然のことながら黄巾党に恨みを持っている者が多い。

 そして僕は元黄巾党と友好状態にあるため、こちら側に靡く可能性が低い。

 とは言っても、東州兵が恨みを持っているのは、張三兄弟の指令を無視して勝手に略奪して廻った連中なんだけどね。

 

 けど、そういうのは理屈で云々の話じゃない。

 そして困ったことに東州兵も略奪することを由としている。

 「奪われたら、他の者から奪う」という教訓でもあるんだろうな。

 

 現代日本なら「元難民だから可哀想」という声が挙がるだろうけど、事はそう単純な話じゃない。

 ヒューマニズムというものは、安穏に暮らしているから成り立つものだ。

 つまり安穏に生活していなかった相手には通用しない場合もあるということだ。

 

 当初、こちらに来た難民は悉く引き受けてきた。

 東州兵の連中もこちらに流れてきていたら、こちらの意を汲む連中になっていただろう。

 でもそれは、あくまで「たられば」の話にしか過ぎない。

 そして司政のことだ。そんな連中なら必ず三族皆殺しだろう。

 反乱の芽を摘むのが目的だろうけど、子供まで殺すのはちょっとな・・・。

 

 朝方まで司政との会話をし、僕はヘトヘトになって深圳の仮住居へ帰路についた。

 司政の下手な動きとやらは、恐らくだけどジンちゃんを目覚めさせることだろう。

 流石に刺客を使って僕を殺すことはないと思いたいけど、気付かれたら可能性がゼロと言えない。

 ここは深圳にいる間は大人しくしておき、衝陽に戻ったら老師を呼び出すことにしよう。

 

 ただ問題なければ、このまま司政の言う通り何もせずにおくのも手だな。

 けども司政に任せておいたらバッドエンドの可能性もあるか・・・。

 どうしたものかな・・・。


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