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第百十二話 交易こそ最大の戦略・・・の筈

 さて、揚州の大商人連中の意図が分かったところでどうしてくれようか。

 荊州近辺の大商人は、どうにも取引が出来ない状態だしな。

 というのも、あまり表だった上での交易は朝廷から睨まれやすいからな。

 小規模での穀物の類や綿織物、塩などは流通しているけどさ。

 ま、そこに目を付けて揚州の大商人どもが動いた訳だし・・・。

 

 それ以上に劉焉との交戦状態が痛いんだよね。

 かといって、無理矢理開戦させたら相手が相手だ。

 張忠や董承らは恐くないし、寧ろ殺してやりたいぐらいだけど、問題は韓信の存在だ。

 ・・・てか、調略かけて寝返らせられないかな?

 これも范増に相談することにしよう。

 

「いっそのこと、韓信をこちらに寝返らせることは出来ないものか?」

 

 すると范増は一分ほど上を見てから答えた。

 

「難しいと思うぞい。特に劉焉に恩義なんぞ感じていないとは思うが・・・」

「何故だ?」

「第一に彼奴は変なところに優柔不断じゃ。それに我らは朝敵。奴らは官軍じゃからのう」

「漢室への忠義に拘るとは思えんが・・・」

「そんなもんはないじゃろう。だが、彼奴は彼奴なりに一番、旨味のある勢力へ自分を売り込みたい筈じゃ」

「ふぅむ・・・」

「恐らくはじゃが、袁一族か何一族あたりに売り込むため、自分の有用さを主張したいじゃろう」

「成程。我ら相手に交趾で勝てばハクが付くという訳か」

「うむ。もっとも連中が仲間割れすれば、それどころではないじゃろうがの」

「そりゃそうだが、どう仲間割れを触発させる?」

「そうじゃのう。かなりの賭けになるのじゃが・・・」

 

 范増の賭けとは劉普の輸送隊を襲い、それをどちらかのせいにすることだ。

 だけど劉普のところには魯粛もいるし、猛将の龍且もいるからなぁ・・・。

 盗みのプロ彭越でも失敗する危険性が高いだろうな。

 

「それでどうするのじゃ?」

「・・・ううむ。他にはないか?」

「あったら先に言っておるわい」

「・・・だろうな。ならば劉焉と裏取引をするという手しかないか」

「・・・上手くいくかのぉ。奴は強引にでも交趾を手中に収めたい筈じゃからのぉ・・・」

「・・・そうだな。ん?」

「どうしたのじゃ?」

 

 別に短期決戦でなくても良いんだよな・・・。

 確かにこっちも困るけど、それ以上に交趾の交易ルートは不安定となる訳だ。

 そして、その交易ルートを深圳に回させるよう仕向ければ・・・。

 

「・・・このまま放置しておこう」

「交趾の疲弊を待つつもりか?」

「そこまでではないが、深圳が交易拠点に成り代われば、劉焉も諦めがつくであろう」

「・・・それは随分と時間が掛かるぞい」

「構わん。引き続き徐晃らには無用な手出しをせぬよう通達することにしよう」

 

 ゲームの世界の筈だけど、こういうことが露骨に反映する世界だからな・・・。

 恐らくマスクで何らかの特典を得られる筈だ。

 

 5月に入り、支謙の宣伝活動のお陰もあって、次第に移民が深圳へと移り住んできた。

 それと同時にインドから交易船がやって来た。

 品目は絨毯やタペストリー、胡椒などの香辛料など。

 勿論、相手の要望は絹が中心だ。

 

 絹は主に超巨大都市と化した衝陽で生産されているけど、まだまだ増産する必要がありそうだ。

 流石に明治初期のような増産体制は無理なので、これは揚州の商人も使う必要性がある。

 絨毯などはかなりの珍品なので、十常侍や何一族の贈答品としてはオイシイ代物だろう。

 

 商人からの話によるとインド北部も現在は戦国時代の様相を呈しているようだ。

 この頃は何処も戦乱の世の中みたいだね。

 ローマもコンモドゥスが殺されて内乱状態らしいし。

 

 インドシナ半島はというと、区連が勢力を拡大しているらしい。

 どうも勝手に王国を名乗りそうな勢いとのことだ。

 ま、この辺は好き勝手にさせておくか・・・。

 

 造船所からはまた新たに外洋艦が竣工したので、今度はフィリピン方面への探検隊を募る。

 日本方面と違い、今回はモブ君らの探検隊だ。

 モブといっても優秀な船乗りなので、問題はない筈。

 ただ、時期的にそろそろ台風シーズンだから、そこら辺は気をつけないとな。

 もっとも大型台風は僕がいるから交州近辺には来ない訳ですけどね。

 

 ・・・あれ? そうなると結果的に僕が台風の脅威を抑えつけているんじゃないか?

 デブ帝も少しは僕の有難みを感じて欲しいものだよ・・・。

 とは言っても、この頃の人達は「気圧? 何それ?」だから意味ないんだけどさ・・・。

 

 ちょっと待て・・・。

 そうなるとフィリピンや台湾を領土に指定すれば大型台風の発生は無くなるんじゃないか?

 そうなれば座礁でもしない限り、海難事故も防ぐことが可能じゃないか?

 だったら現地で港湾施設を造成させていけば、より安全な航海が約束されるじゃないか。

 

 そんなことを思っていた矢先、厳畯だけが戻って来た。

 早速、報告を聞くことにしよう。

 

「それで卑弥呼には会えたのか?」

「はい。倭建とともにヤマトに参りました。返礼の品は主に翡翠です。閣下の読み通りでした」

「それは重畳。・・・して、どのように倭国に上陸したのだ?」

 

 僕は日本地図を厳畯に見せ、どの辺りに上陸したのかを聞いた。

 すると、そこはフサと呼ばれる地で、どうも現在の千葉県あたりらしい。

 ヤマト、つまり奈良県にはそこから徒歩で西へ向かったという。

 

「それよりも我が君にお伺いしたいことがありまして」

「ほう?」

「何とも不可思議な方士が乗船していたのです」

「何? 方士?」

「はい。姓を葛。名を玄。字を孝先という者です」

「余はそのような者は知らぬが・・・」

「やはりそうでしたか」

「その者が何か問題でも起こしたのか?」

「いえ。その逆です。寧ろ大いに助かりました」

 

 厳畯が言うには何時の間にかいたようで、汚らしい乞食のような格好であったが、海に落とす訳にもいかず、そのまま日本へ向かったようだ。

 当初、台湾に渡り、そこから琉球へと渡る。

 台湾や琉球にも言葉が分かる者がおり、江南から既に渡っていた子孫が若干ながらいるとのことだ。

 そして海流に乗り、恐らく房総半島沖辺りで日本を発見したのだろう。

 航海日誌などはないので、想像するしかないけどね。

 

 葛玄がどう役に立ったかというと、医術の心得があり、フサの地域で流行っていた病を薬で治したとのことだ。

 しかし、葛玄とかいう人物は、何故日本に渡りたかったんだろう?

 そのことも聞いてみるか。

 

「どうも蓬莱を目指していたとのことです」

「蓬莱だと?」

「はい。倭国には蓬莱と思える見事な山があります」

「富士のことか・・・?」

「葛玄は蓬莱に向かうと思いきや『修行がまだ足りぬ』と申し、そこから北にある霊峰へと向かいました」

「フサの北にある霊峰・・・?」

 

 場所的には筑波山ぐらいしかないよな・・・。

 ということは、筑波山に向かったということか。

 

「東夷従事(韓曁)と李部曲長(李楽)は葛玄と共に北上。閣下が言うところの糸魚川に向かいました」

「ふむ。それならば、その一帯は争いがないのか?」

「いえ。どうも小競り合いが多い一帯のようですが、我らとは戦い方が違うようです」

「どういうことだ?」

 

 基本的に関東一円は人口が少なく、戦いといっても呑気なもので、死者が出ることは稀なようです。

 どうも集落で一番の力自慢の若者に相撲をとらせて勝ち負けを決めるとか・・・。

 相撲といっても現代の相撲ではなく、素手での殴り合い、蹴り合い、投げ合いのようですけどね。

 そして、それを祭りのように楽しむということでして・・・。

 

 で、勝った方が係争地を取るのです。

 係争地といってもほとんどが漁場でして、畑はあまり多くないとのこと。

 でも、関東平野なら田畑が広がっていると思うんだけど・・・。

 

 ところが、どうもそうでもないらしい。

 利根川や荒川が良く暴れるので、湿地帯も多く、田畑を作るよりも漁場の方が向いているんだそうで・・・。

 また、南部などは塩分を多く含んだ湖沼も多く、土地改良でもしない限り、田圃を作るのは難しいらしい。

 

 大分、僕が知っている状況が違うんだな・・・。

 ゲーム世界だから史実に忠実かどうかは分からないけどさ。

 でも、確かに埼玉なんかに貝塚もある訳だし、そう思えば問題ないのかな・・・。

 

 そして、これ以外にも嬉しいニュースがあった。

 現在でいうところの門司と堺の港の使用許可が下りたのだ。

 これでスムーズに日本と交易が出来るぞ。

 どんどん絹や鉄器を輸出しよう。

 

 6月に入り、日本への交易船、そしてインド方面の交易船が出航。

 どちらも絹の量が多めだけど、絹ばかりに頼っていると商人達が足下を見て絹の値が上がってしまう。

 絹と同等近い代物としては青磁器なんだけど、これに代わるものがない。

 白磁って発明されたのは、もっと後の時代だっけか・・・?

 てか、白磁の作り方ってどうやるんだっけ・・・。

 以前、どっかのテレビ番組でやっていたけど、どうにも記憶が曖昧だ・・・。

 

 確かカオリンとかいう石だったよな。

 景徳鎮の特集でやっていた番組で、そんなことを云々と蘊蓄を語っていたし。

 景徳鎮といえば現在でいうところの豫章だから、簡単に手に入る筈だぞ。

 

 でも、韓曁がいない以上、開発を担当できるのは馬隆しかいないのか。

 まぁいい。外洋艦の改良は一時的に諦めて、白磁の開発を担当させよう。

 白磁が完成すれば文化的にも商業的にも飛躍するに違いないからな。

 

「白い磁器・・・ですか・・・?」

 

 僕がその事を馬隆に言うと、一瞬にして馬隆の目が点になった。

 当然といえば当然か・・・。

 

「そうだ。白い磁器。白磁だ」

「しかし何故、そのような・・・」

「豫章に白磁の元となる石があるからだ。それを見つけ出し、白磁を作り上げるのだ」

「・・・ほ、本当ですか?」

「余の夢に嘘はないぞ」

「・・・はぁ」

 

 韓曁の役回りが自分に回ってきたと思ったんだろう。

 少し溜息が漏れたけど、馬隆も意を決したらしく、快く引き受けてくれた。

 場所を高嶺かおりんと特定できているのも大きいからだろうな。

 

「これ・・・」

「ん? ああ、老師」

 

 僕は掘っ立て小屋の自室に戻るとチョコンとベッドの上に老師が座っていた。

 

「お主という奴は・・・」

「丁度良かった。聞きたかったことがあるんだ」

「何じゃ?」

「葛玄って誰?」

「そいつは日本の方がメジャーじゃぞ。通称、蝦蟇仙人じゃからな」

「ええっ!? 蝦蟇仙人!?」

「それよりもお主・・・」

「何?」

「本気でゲームクリアする気があるんか?」

「あるに決まっているじゃん」

「白磁なんぞ宋の時代のものじゃぞ」

「えっ!? じゃあ、作成できないの!?」

「いや・・・出来るんじゃが・・・」

「なら、問題ないじゃん・・・」

「そら、そうじゃがなぁ・・・」

「あ!? それって火薬を発明した方が良いってこと!?」

「う・・・。それは駄目じゃ」

「なんで?」

「火薬は発明出来ないのじゃよ。ゲームバランスがブッ壊れるからの」

「・・・なんだよ。そこはゲーム世界なのかよ」

「・・・致し方なかろう。それに火薬の発明は完全に偶発的なものじゃしのぉ」

「しょうがないな。じゃあ、このまま・・・」

「待て。一応、お主に申しておかねばならぬことがある」

 

 いきなり老師の表情が強張った。

 何だろう・・・。恐い・・・。

 

「え? 何?」

「タイムリミットが設定されたのじゃ」

「えっ!? 何時まで!?」

「それは分からん。ただ、リミットの五年前には知らせるぞい」

「・・・リミットになるとどうなるの?」

「バッドエンドじゃ。因みに天から小惑星が落ちてきてアウト」

「はぁ!?」

「それじゃの。一応、急げよ」

 

 何なんだよ・・・。一体・・・。

 無茶苦茶も良いところじゃねぇか・・・。


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