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第百九話 ここまで酷いかね・・・。

 僕は密かに劉廙りゅうよくを呼び、長沙王として祭り上げることを打診することにした。

 皆で会議したとしても、当人に断られたらそれまでだからね。

 

「司様。その儀は…」

「…うむ。余もあまりしたくはないのだがね。しかし、漢室の権威がこのままでは如何ともし難い」

「……」

「案ずるな。余は君を即位させ、禅譲をしようなどと微塵も考えてはおらぬ。それは天地神明に誓う」

「しかし、これは前代未聞です。朝廷からの命でなく、帝以外の者が王を立てようとは…」

「確かに前代未聞であろう。だが再び朝敵扱いとなった現在では、それ以外の方法がないのだ」

「私以外にも豫州王君(劉寵)をはじめ、幾多もおられましょうに…」

「うむ。それで余としては、まず豫州王君に即位して頂き、その後に涼州王君(劉協)か君に継いで貰いたい」

「何ということを…」

「君も知っていると思うが、豫州王君にはご子息がいない。それと問題なのは、君と同様に帝を忌み嫌っているとのことだ」

「何故、そのようなことを知っておいでで?」

「余の義理の娘は豫州王君のご息女だぞ。知らぬ筈がなかろう」

「…確かに」

「それ故、涼州王君には悪いが、いざという時の後継を決めておく必要がある」

「…私にそのような役目が勤まりましょうか?」

「もう一つ。これは他言無用なのだが…」

 

 僕は弁皇子が偽者であることを劉廙に言うことにした。

 けど、特に驚きもせず「やはり」とボソッと呟いただけだった。

 

「あまり動揺しておらぬようだが…」

「実は噂で聞いたことがあります。それに私を長沙王にするという突拍子もない理由の説明がそれでつきます」

「君は聡明なようだ…。ならば君が長沙王になり、その後に即位すれば…」

「はい。確かに勅命によって佞者どもを一掃し、仇を討つことが出来ましょう…」

「ならば引き受けてくれるか?」

「…ただ、あまり気乗りはしません。私にはそのような自信がないからです…」

「……」

 

 …どうしようかな? 能力値においても性格においても問題はないと思うけどさ…。

 中には即位した途端、豹変する奴もいるけど、そんな感じはしないしね。

 となれば、これしかないか…。

 

「もしもだ。君が即位となった際には、余が後見しようと思う。そして折を見て隠遁することにしよう」

「……」

「それが嫌であれば即座に余に暇を出しても構わぬ。ノンビリと山中で暮らすことにするよ。それでも嫌かね?」

「…そこまでおっしゃって頂けるのであれば、不肖の身ですが長沙王に即位しましょう」

 

 こうして渋々ながら劉廙は納得してくれた。

 あとは荊南を誰に託すかだな…。

 

 会議では長沙王を即位させることに関し紛糾すると思ったけど、意外なことにほぼ満場一致で可決した。

 少数の反対派であった鄭玄の意見は「前例を作ると雨後の筍のように自称する輩が出る怖れがある」というものだ。

 考えてみれば劉備が漢中王を名乗ったのも、完全に自称だもんな…。

 でも、偽帝が即位する予防線との理由で納得してもらった。

 因みに長沙太守は邴原なので、邴原はそのまま長沙国の相という形になる。

 

 問題は荊南を誰に託すかだ。

 既に内政値は衝陽を除けば最大だしな…。

 となると、ほぼ防衛任務となるよな。

 となれば、アイツが一番かもな…。

 

「皆。荊南だが、余は文恭(司進の字)に任せようと思う」

 

 僕がそう言うと、空かさず雷親父の張昭が立ち上がった。

 

「何を申すか!? 若はまだ成人して間もないですぞ! 幾ら我が君のご子息とはいえ無茶です!」

 

 そら、そういう反応になるか。

 分かりきったことだとけどね。

 けど、実際に荊南は城壁以外ほぼ開発し尽くした状況だし、司進なら問題はないよな。

 

「留府長史(張昭)よ。文恭は我が子ながら立派な英俊である。それは君も良く知っておろう?」

「ですが、経験がありませんぞ! それに討伐軍が解散したとは申せ、未だに油断は出来ませぬ! 我が君が赴くのではなく、他の者に任すのが常套と心得る!」

「聞け。君や張主記(張紘)、文学博士(潁容)、竺先生(邯鄲淳)、そして別駕従事(鄭玄)の御陰もあり、正しく立派な若者に育った。礼を申すぞ」

「……」

「それ故、余は文恭がこの荊南を託すことにしたのだ。それとも貴殿は余の見立てが間違いだとでも言うのか?」

 

 僕は張昭の脇にいる鄭玄を見た。

 鄭玄は顎髭を摩りながら満足そうに頷いてくれた。

 

「良いか。報告によると交州はかつての荊南よりも荒れ果て、人心は荒んでいるという。余はその為にも行かねばならぬ」

「それは心得ておりますが…」

「本来ならば余が自ら命を省みず、聖上陛下に直訴せねばならないであろう。しかし朝敵となった以上、それは叶わぬ」

「ううむ…」

「だがしかしだ。それだけで何もせず、ただ手を拱くだけで良いのか?」

「……」

「交州の民は苦しんでおる。交州の民も同じ民。そして例え漢人でなくとも同じ民だ。目の前で苦しんでおるのに自ら赴かないでどうするというのだ?」

「…しかしですな」

「文恭ならば以前の倍の数が来ようとも問題はない。それに陳都督(陳平)も傍に控えておる」

 

 そこまで言うと流石に張昭の雷雲も、何処か彼方へと過ぎ去ってしまったようだ。

 僕も随分と言うようになったなぁ……。

 ジンちゃん任せだったのが随分と昔のように感じるよ……。

 

 次に議題となったのは、人事のことだ。

 というのも、報告によるとかなり酷い状況らしい。

 董承らが疲弊しきっていた所に更に追い打ちをかけたからだ。

 

 董承だけは許してはおけない。

 いや、他にも悪逆非道に与した連中もだ。

 能力値次第ではと思ってしまうけど、流石にそれは無理だしな…。

 

「そういえばだが、董承らはどうしているのだ?」

 

 僕は傍にいた厳畯に聞いた。

 

「報告によりますと、依然として高涼郡にて略奪を繰り返しながら西へ向かっているとのことです」

「なんということを…。区連や士燮は全く何をやっているのだ…」

「高涼郡付近の前線には徐都尉(徐晃)や牙門将軍(鐘離昧)らが待機しております。如何致しましょう?」

「やむを得まい。そのまま高涼郡へ侵攻せよと伝えよ。ただし、区連と士燮の軍勢との戦闘は控えよ」

「御意」

 

 厳畯が丁度去ろうとした時だった。

 衛士から士燮の使者として薛綜が来訪したとの報告が入ったんだ。

 僕は急ぎ謁見室へ赴き、話を聞くことにした。

 

「此度の謁見、真に痛み入ります。早急に援軍をお頼みしたく…」

「それよりも余は君に聞きたいことがある」

「何でございましょう?」

「…何故、劉彦、虞褒といった奸物を匿っておられたのだ?」

「匿ってなどおりませぬ。幽閉していたのでございます」

「それは何故だ…?」

「両名とも確かに罪はあります。しかし、朝廷の裁断なしに科を責めたて、勝手に処するのは法に反します」

「故に現在まで裁断を仰いでいたというのか!? 朱符が死んでから幾星霜もの年月が経っていると思っているのだ!?」

「朝廷に申し立てても一向に返答が無かった故、こちらも困っていた次第です」

 

 こっちの看破はビンビンに光っているぞ!

 いい加減な出鱈目を言うんじゃねぇよ!

 てか、孔明に論破されたクセに随分と言ってくれるじゃねぇか!

 

「ならば区連にそのまま渡せば良かったではないか。何故、渡さなかったのだ?」

「我らはあくまで漢の臣です。咎人とはいえ、賊に渡すことは出来ませぬ」

「……ほう。では我らは賊以上にあたる朝敵である故、貴軍に加勢することは出来ぬということになるが…」

「そ、それは……」

 

 流石に言葉に詰まったか。

 さて、それじゃあ折衷案を出すことにしよう。

 

「薛従事中郎よ。董承らが侵略している以上、区連も貴軍らと和睦したい筈だ。余がその仲介を引き受ける故、劉彦、虞褒の両名の首を差し出せ」

「…ううむ」

「それとも我らの援軍なしで両軍を相手にするおつもりか? それなら我らは区連と与してまずは董承、そして貴軍と狩りをすることになるが…」

「ま、待たれよ! その儀だけは!」

「余も貴軍と事を構えたくはない。それ故、こうしてはどうか?」

 

 その後、小一時間ほど薛綜との折衝が続いた。

 けど、こちらには徐晃や鐘離昧ら猛将が集う大軍が控えている。

 外交というものの背後に強大な軍隊があるということは、古今東西重要なことなのだ。

 

 結局、区連ではなく、こちらに秘密裏に引き渡すことで薛綜は同意した。

 要するにこちらを経由させて区連に引き渡すということだ。

 回りくどいかもしれないが、これは士燮にとっては重要なことなのだろう。

 

 しかし話はこれだけではない。

 僕は帰ろうとする薛綜を引き留め、そのことを話した。

 すると薛綜は余りにも意外だったのか、顔を強張らせ叫んだ。

 

「司殿! それは無茶だ! 何卒、その儀は!」

「無茶ではなかろう。貴軍と区連は我らとの盟約を破ったのだぞ。代償は払われるべきであろう」

「…そ、そんな」

「安心なされ。高涼郡と九真郡がこちらに所属すれば区連もおいそれと貴軍に手は出せまい。その分、内政に尽力されるが良かろう」

「…し、しかしですね」

「我らは朝敵である。故に朝廷に直訴されても屁でもないぞ。その事を忘れて貰っては困るな」

「な、なんという畏れ多い…」

「畏れ多くて結構! 我らは如何なる大軍や権威も恐れはせぬ! 唯一我らが恐れるのは民の悲しみである!」

 

 区連と僕が組まれては士燮もどうにもならない筈だ。

 故にここぞとばかり僕は強気に出ることが出来た。

 フクちゃんが乗り移ったように発言することが出来たんだ。

 

 ただし九真郡は交趾郡を跨いでの飛び地となってしまうので、注意を払わないといけない。

 でも現時点において士燮と区連が組むことはないだろう。

 それに海南島を制覇し、経由すれば海から援軍を送れるしね。

 

 結局この件については薛綜が持ち帰ることになった。

 相当脅したから上手く行くと思うけどな。

 問題は区連の方だけど、これは後で考えるとするか…。

 

 薛綜が去った後、僕は文恭(司進の字)を呼んだ。

 直に荊南の統治を任すことを伝えるためだ。

 やはりこういう事は直接伝えた方が良いだろうからね。

 

「文恭。良く聞け。余は交州へ赴き、交州の民を慰安することにした。よって衝陽をはじめとする五郡を頼むぞ」

 

 文恭はやはり驚いた表情を浮かべた。

 そりゃ成人して間もないのに、五郡の統治は重責だろうからな…。

 

「お待ち下さい。私は未だに若輩者です。そのような大任は引き受けかねます」

「それはまかり成らぬ。お前は既に大器であることは余が存じておる」

「それよりも私も交州へ…」

「成らぬ。智云と子供らを連れて行く訳にはいかぬ」

「しかし、子供らは智云一人でも…」

「成らぬものは成らぬ。お前には申し訳ないが、本来ならば親が子を見守るのが役目だ」

「……」

「余は後悔しておるのだ。民のためとは申せ、お前や慶里には辛い思いをさせたことをな…」

「よして下さい。私も姉君もかような事を思ったことはありませぬ」

「…お前は優しいな。その優しさで子供らを立派に育てあげてくれ。それが余に対する一番の孝行と知れ」

「はっ! …それよりも」

「何だ?」

「あの娘は同行させるのですか…?」

「…う」

 

 …そうだ。柏慈(貂蝉の字)のことを失念していた…。

 本当は一緒に行きたいけど、どうしようかな…。

 でも、連れて行くとなると文恭に疑念を持たれかねないかも…。

 

「…柏慈も衝陽に残す。お前の子達の良いお守り役にもなろう…」

「…宜しいので?」

「二言は…無いぞ。…うん。それよりも柏慈を実の妹のように接するのだ。良いな」

「…はい」

 

 …まただ。まただよ……。

 何で僕は自らフラグを折り続けるのだろう…。

 自業自得なのかもしれないけど、何処が間違っていたんだろう…。

 ああ…僕の馬鹿……。

 

 七月の初め、僕はあくまで出張という形で交州まで出向くことにした。

 現場の状況を把握した上で改めて人事異動をしたいからだ。

 現場の状況を知らないで議論するのは、机上の空論が優先されてしまう怖れもあるからね。

 で、交州の状況がこれ・・・。

 

蒼梧郡

内政値 焦土状態


南海郡

内政値 焦土状態


高涼郡 

内政値 焦土状態

 

 何ですか? これは・・・・・・。

 確かに町並みは破壊し尽くされ、農地は荒れ果て、城壁は全く役に立たない状況ではありますが・・・。

 それと人がまばら過ぎ・・・・・・。

 これって何処から手を付ければいいのやら・・・・・・。

 

「ほい。それじゃあ説明しようかの」

「あ。老師・・・・・・」

「焦土状態では普通に内政は出来ん。まずは焦土状態を回復することじゃな」

「・・・ど、どうすれば?」

「焦土状態は民がおらぬからじゃ。まずは民を集めるしかないぞい」

「だから、民をどうやって集めれば良いんだよ?」

「簡単ではないぞ。普通ならな。人狩りするのも手なのじゃが・・・」

「ひ、人狩り?」

「左様。三国時代の呉がやたらと山越らを討伐していたのも人が足りていなかったからじゃ。人がおらねば生産性が悪いからの」

「で、でも人狩りなんて・・・」

「お主はせんでも良かろう。金を使い、祭りなどで宣伝しつつ民を呼ぶのじゃ。そうすれば自然と集まるかもしれぬ」

「上手くいくかなぁ・・・・・・」

「交州には戸籍に入っておらぬ異民族がタンマリとおるからの。入植させた後、あとは産めよ増やせよぐらいじゃな」

「でも、交州だけで集められるのかな・・・・・・?」

「他は自分で考えろ。じゃあの」

「ちょ! ちょっとぉ! 何か目安とかないの!?」

「これを回復させるのはマスクなんじゃ。ただ、政治の高い者を多く配置させるのが重要じゃな」

「・・・他には?」

「スキルも判官や人望、名声、鎮撫などを持っている者をかき集めると良いぞ。それじゃせいぜい頑張るのじゃな」

 

 ただでさえ朱符がやらかしていた挙げ句、董承がここまでにしてしまった結果がこれか・・・。

 もっと早く攻め込んでいれば、ここまで酷い状況にならずに済んだのかな・・・・・・。

 でも、クヨクヨしても始まらない。

 ここから不死鳥の如く発展させるのが僕の最大の武器だからだ!


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