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第百話 暗殺計画

 あまり気は進まないものの、僕は皇甫嵩に武具と食料を支援することにした。

 しかし、赤壁の戦い同然な筈なのに、地味な展開が続いている。

 そういう意味で、武官達は少し不満かもしれません。

 

 結局、三万の兵で陶応を迎え撃ったのも、二千の兵と陶応のみ。

 残りの一万三千は蔡瑁の艦隊と共に逃げたり留守番とかだから、大勝利とは言えねぇ。

 大体、捕虜になったのは博士仁未満の雑魚だしさ…。

 それでも武力が僕より上なのが、なんかムカつきますわ。

 底辺の争いですけどね…。

 

 中原では大軍勢を繰り出している筈なのに、劉寵も劉協もほとんど動かず。

 というのも、劉協は韓遂に邪魔されているし、劉寵は袁紹の軍だけでなく劉虞や廬植の援軍にまで邪魔されているとのこと。

 空気読んでよ…劉虞。それだから公孫瓚に破れるんだよ…。

 この世界では、どうなるか分からないけどさ…。


 それから数日後のある日のこと。

 僕がやきもきした気持ちで自室に籠っていると、皇甫堅がお礼を言いたいと衛士に申してきた。

 無視しても仕方ないので、僕は謁見することにする。

 

「これは司護殿。数々の無礼にも関わらず、温情に感謝する次第です」

「…うむ。戦さを出来るだけ無くすのは余の理念だ」

「真に仁君であらされる」

「世辞は良い。それよりも余から頼みたいことがある」

「は。某に出来ることでしたら何なりと」

「羊府君(羊続)や郭府君(郭典)。それに後続の曹府君(曹謙)とも秘密裏に和睦をしたい。繋ぎはとれそうかね?」

「出来る限りのことは致しますが、確約は致しかねます」

 

 クソ。体の良い断り方をしてきたよ。

 こっちは早く内政と交州攻めに取りかかりたいというのに…。

 それと本当に涪陵が攻めて来ないのか分からないので、范増の諜報員を目付役にしますけどね。

 

「司護殿。焦りは禁物ですぞ。このまま膠着状態を保てば自ずと討伐軍も瓦解でするでしょう」

「…うむ。それは弁えておる」

「ならば宜しいではありませんか。少なくとも涪陵からの出陣はありませんし」

「……そうだな」

「それではこれにて。真に感謝の至りです」

「……」

 

 クソ…。なんか上手くやられたような気分だぜ。

 ある意味、張忠以上に厄介な勢力を作ってしまうような気もするし…。

 一応、射援とかいう娘婿は人質になるらしいけどな。

 これも陶応クラスの雑魚だったりして…。

 

 そして、十一月となった。

 臨賀郡は交戦状態となるもの、あっさりと撃退し撤退したらしい。

 理由は豫章から張曼成を筆頭に廖化、呂岱、劉辟、龔都らを引き連れて五万が交州へ侵攻したからだ。

 他にも会稽からは董襲、凌操、虞翻らが二万の兵で進軍を開始。

 更には鍾繇の弟である鐘進や甥の郭援らが交州にて呼応したらしい。

 ま、時間の問題だと思います。

 

 涪陵では本当に皇甫嵩が攻め込んだらしい。

 てか、五千の兵だけだと思ったら、他の不満に思う板盾蛮や給料未払いの兵をも巻き込んで三万に膨れあがったとか…。

 …失敗した。とっとと攻め込んでおけば…。

 でも益州だから劉普だけでなく、羊続らと対峙するリスクも考えると難しいよな…。

 

 皇甫嵩への資金援助だけでなく、劉表や劉岱への宴会資金援助までしているし、僕は何をしているんだ…?

 これが大義名分を掲げて戦うことに固執している結果なのかな…?

 となると、やはり考えずに北伐した方が良かったのかな……。

 …いかんな。内政が出来ないからか、どうやっても苛立ちしか出てこないや…。

 

 内政したくても出来ない理由。

 それは名無しの大量な官吏らが調練や造船、武具増産などで取られているからだ。

 つまり僕が暇になったとしても、そういった名無し君たちがいないとどうしようもないのです。

 ゲーム世界の筈なんですが、そういう所は変にリアルなもんで…。

 新しい戦術を考えたからすぐに実行可能という訳じゃないですし…。

 

 僕も気晴らしに調練の様子を巡察したけど、今までにない水上の戦術だからどうしても手間が掛かる。

 けど、これがモノになれば確実に長江での戦闘は俄然優位に立つ筈。

 そのためにもどうしても必要なんだ。

 でも、向こうは宴会の最中なので、どうしても馬鹿馬鹿しく思えてきてしまうけど…。

 

 それでは、一応10月どころか11月まで内政フェイズ。

 ま、そんな訳で、何も出来ずに二ヶ月分の収入です。嬉しくねぇ……。

 更には皇甫嵩への援助の為、金1000と兵糧10000を消費・・・か。

 

農業1580(5000) 商業1620(5000) 堤防100 治安98

兵士数49133 城防御312(1000)

資金4608 兵糧153000

 

 当初の予定では衝陽からも三万ぐらい動員している筈だったんだよね。

 十二月になれば少しは変化も出てくるかな…。

 と、思っていた矢先……。

 

「そ、それは真か…?」

 

 僕は伝令から情報を聞くやいなや、緊急会議を開くことにした。

 余りにも前代未聞だからだ……。

 会議にて居並ぶ家臣達も、この情報には度肝を抜かれたようだ。

 その中で一人、留府長史の張昭が僕に吠えた。

 

「我が君に申し上げる! この期に及んで怖じ気づきはせんでしょうな!」

「留府長史。余は既に覚悟を決めておる。だが、他の者に強要は出来ぬ…」

「既に我らは決めておりますぞ! それにこちらも孝桓皇帝陛下(桓帝)から勅命を受けておるのであろう!?」

「…うむ」

「ならば怖れることはありますまい!」

 

 僕は鄭玄ら儒学者連中を見た。

 何れも覚悟を決めているようで表情は険しい。

 そして、僕の顔を見るなり大きく頷いた。

 もう怖れることはないか……。

 覚悟を決めねば……。

 

「宜しい。相手が無上将軍と名乗る以上、こちらも全力で応対せねば無礼となる。皆の者! 改めて覚悟を決めよ!」

「御意!!」

 

 えっ? 「無上将軍って何だ?」ですって?

 …答えは帝そのものです。

 そう。よりによってデブ帝が新たに西園八校尉を組織し、親征してくるというのです。

 それではここで新たに創設された西園八校尉のメンバーをご紹介しましょう。

 

上軍校尉 黄皓

中軍校尉 何苗

下軍校尉 周慎

典軍校尉 高躬こうきゅう

助軍校尉 栗成りつせい

佐軍校尉 張猛

左校尉 胡脩こしゅう

右校尉 伍孚ごふ

 

 デブ帝はバカですか……?

 いや、バカなのは知っているけどさ・・・・・・。

 何で黄皓が筆頭なのよ……?

 前任者の蹇碩けんせきが宦官だったからか?

 でも、よりによって黄皓はないわぁ……。

 ま、こちらにとっては有難いけどさ。

 

 他の面子も何苗以外は知らない連中ばかり。

 何苗もこの世界に来る前まで知らなかったけどね。

 あと兵数は十万ということで、宴会している連中と合計すると約二十三万…。


 帝がわざわざ親征しにきたということは、宴会続きのせいで滞っているからだろう。

 ということは、宴会やっている連中も宴会どころではなくなるという事だ。

 着々と蔡瑁の奴は造船していたようだし、こいつはしてやられたかな…。

 

 皆が退室しようとした間際、突然誰かが大声で怒鳴った。

 その声の主は彭越だ。

 

「おう! 楊県令(楊慮)さんよ! 見さらせ! やっぱり藻屑にしていた方が良かっただろい!」

 

 楊慮はその答えに「やれやれ」という顔をしつつ、彭越に反論した。

 

「正に『木を見て森を見ず』とはこの事だ。今は明かせぬが、その時が来たら分かるであろうよ」

 

 彭越はその答えに対し、嘲笑するようにフフンと鼻を鳴らした。

 完全に楊慮を侮っているようだ。

 すると今度は僕の近くにいた誰かが声を挙げた。

 見ると衝陽の太守、王烈だ。

 

「楊県令。君がそう述べても確証がない以上、詰られても不思議ではあるまい。何か策があるのかね?」

「既に蔡府君(蔡瑁)と連絡を取り、先手を打っております故」

「…ふむ。ならば聞こう。私や鄭別駕(鄭玄)、我が君に上奏は行ったかね?」

「行っておりません」

「この不忠者め! 上奏なしで行うとは言語道断であろう!」

「王府君。これは異な事をおっしゃられる」

「何だと!?」

「慰霊祭は兎も角として、五行祭も帝への上奏もなしに行われましたぞ。我が君は言語道断ですかな?」

「ぬっ!?」

 

 楊慮よ…。面倒なことに僕を巻き込むな…。

 でも、楊慮の裏工作があるのは知らなかったし、このままでは気持ち悪い。

 なので、止めると同時に内緒で聞くことにしよう。

 

「双方とも止めよ。それと楊県令。今回は不問に致すが、次からは順序を守るように」

「御意」

「それと内密で余に打ち明けよ。それならば良かろう?」

「…分かりました。事が成就した暁にと思いましたが、致し方ありませんね」

 

 会議室で楊慮と二人きりになったと同時に、僕は改めて聞くことにした。

 何故だろう? 不気味な静寂が辺りを彷徨う。

 同時に、楊慮の表情が不気味に感じざるを得ない。

 

「して、楊県令。如何なる策か申してみよ」

「これは臨時長史(范増)に成就するまで押し黙るよう念を押されていたのですが…」

「…う、うむ」

「…帝を亡き者にします」

「なっ!?」

 

 范増が絡んでいるから少し頭を過ぎったけど…。

 やっぱりそういう事だったのね。

 間違いなくポスト范増になりつつあるよ…。

 

「しかし、どうやって……?」

「簡単なことです。帝を専用の豪奢な旗艦に乗船させた後、沈没させれば宜しい」

「…それでは建造させた蔡府君のとがとなるではないか」

「…成りません。科は別の者となりますが、追求されることはないでしょう」

「…何故?」

「何故なら、沈没させたのは孝桓皇帝陛下(桓帝)であらせられるからです」

「……」

 

 要するに桓帝に罪を擦り付ける訳か・・・。

 ひでぇな…。確かに七星剣の噂は流布させたけどさ…。

 まさか、こういう形で利用するとはね…。

 

「勿論。これは迅速に行わねばなりません」

「…うむ」

「それにその前に帝が殺されたら、恐らく厄介な事になるでしょう…」

「…どういう事かね?」

「…これはあくまで憶測ですが、十常侍も帝の命を狙っております」

「……」

「宴席などで毒殺された場合、嫌疑は劉表と劉岱、それと張温に向けられます。恐らくそれを利用するでしょう…」

「ま、待て。それでどうして十常侍らが利することになるのだ?」

「この馬鹿な遠征を終わらすと同時に、自動的に劉弁が帝となります」

「……」

「その後、これもあくまで憶測ですが、貴殿の嫌疑を全て双方に背負わせることが可能になります。こうすれば漢の威信が少しは保てるでしょう」

「・・・どのようにしてだ?」

「簡単なことです。劉表、劉岱らが神託をすり替えたことにするだけですよ」

「・・・・・・」

「ですので、こちらとしては帝が船内で死んでもらうと同時に、劉弁も同罪と称して一気に都へ雪崩れ込むのです」

「…待ちなさい。何進らが我らと同調するとは思えぬ」

「何進なぞどうでも良いでしょう。遠征の軍が混乱している最中に邪魔者を全て消すのです。同時に豫州王(劉寵)に使者を出し、都を占拠するのです」

 

 かいつまんで話すと、船が原因不明の沈没で亡くなった場合、有耶無耶にすることが出来るので、桓帝のせいに出来る。

 毒殺の場合、有耶無耶に出来ないので、宴会を仕切る劉表、劉岱に嫌疑が掛けやすく擦り付けることが出来る。

 どちらも帝を殺すのは是だが、死因が重要という訳か…。

 どちらにせよ。この意味の無い討伐騒動は終わりそうだけど…。

 

 と、思ったら「そうでもない」と楊慮は付け加える。

 劉表、劉岱が首謀者となると、三族皆殺しが基本となるので、それらの討伐が命じられる可能性が高いという。

 そうなると蔡瑁、張允らも劉表の縁者だし、劉岱は劉繇の兄なので、当然ながら劉繇も対象となる。

 そして、そのお鉢がこちらに来る可能性は極めて高いとのこと…。

 

 冗談じゃない! そんなことに付き合ってられるか!

 …と、言いたい所だけど、今までの僕の言動からすると、僕の言動に辻褄が合わなくなるらしい…。

 面倒くせぇ……。

 

 僕は楊慮と別れた後、ジッと自室で考え込んだ。

 何故、范増は僕の相談なしに楊慮と密談したんだろう・・・?

 ただジッとしていても物事は進展しないので、僕は范増を呼び出すことにした。

 范増もバレたことは既に承知だったらしいが、いつもの調子でやって来たんだ。

 

「なぁ、亜父よ。何故、余には黙っておった?」

 

 その問いに范増は暫く上を見上げてから少し溜息をつくように話し出した。

 

「お前さんが以前と違うからじゃ・・・」

「余が以前と違う・・・だと?」

「そうじゃ。性格がちょいとばかり悪くなっただけで、気概というものが全く感じられぬぞい」

「・・・・・・」

 

 どうやらフクちゃん頼みだったツケが回ってきたようだ・・・。

 でも、何とかして誤魔化さないと・・・・・・。


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