第九十八話 これって赤壁の戦い?
本来なら九月の内政フェイズなんですが、慰霊祭のため出来ない状態です。
ですが、収入はありましたので、明記しておきますね。
農業1580(5000) 商業1620(5000) 堤防100 治安98
兵士数49133 城防御312(1000)
資金2368 兵糧163000
一気に兵糧が滅茶苦茶増えました。
当然といえば当然なんですが、これって素直に喜べません。
討伐軍にも兵糧が入ってくる訳ですので・・・・・・。
そして、未だに南郡の江陵には主力どころか先鋒も入ってきていない状況。
大軍勢とはいえ、ちょっと行軍が遅すぎないかい?
なので、ここは都督の陳平に状況を聞くことにする。
「陳都督。未だに先陣さえも江陵に入って来ておらぬ状況らしいが、どういうことだ?」
「ああ、その件ですか。実は面白い情報が入っております故」
「・・・・・・面白い情報?」
「はい。実はですね・・・・・・」
その面白い情報とは行軍してくる軍勢の大半が南陽国と襄陽国で足止め中とのことだ。
というのも、南陽王の劉岱と襄陽王の劉表が宴会に諸将を招いて宴会三昧の最中とのことで・・・・・・。
道理で中々行軍して来ない筈ですよ・・・・・・。
「何故、両王君はそのようなことを・・・・・・」
「少しでも南征を遅らせる時間稼ぎでしょう。両王君とも今回の南征には反対の意向ですしね」
「・・・・・・有難い限りだ。しかし、功を焦る袁兄弟は先陣を競おうとはせぬのか?」
「両者とも口だけですよ。実際は双方ともに先陣を切らしておいて様子見したいところでしょうな」
史実において董卓征伐と同じようなことが起きているということか・・・。
それを劉岱、劉表が利用し、時間稼ぎを自ら進んで行っているということだな。
けれども時間稼ぎは有難いとして、その間に討伐令の解除という訳にはいかないだろう。
あの偽の神託がバレている以上、十常侍どもは気が気でない筈だからな。
それに知らなかったとはいえ、何進もそれに入れちまっているしなぁ・・・・・・。
僕は陳平と今後の相談をしていると、従事中郎の厳畯がそそくさとやって来た。
・・・・・・今度は何だろう?
「どうした? 厳従事中郎」
「はっ。録尚書事殿(馬日磾)が宝剣を拝見したいと申しております」
「・・・何故?」
「録尚書事殿も件の宝剣には見覚えがお有りのようでして・・・」
「・・・・・・そうか。丁度良い。朝廷からの勅使として真贋を確かめて貰うとしよう」
どうも鄭玄が宝剣のことを勅使の馬日磾にも話したらしい。
流石に「俄には信じがたい」というので、僕が宝剣を見せると忽ち稽首をした。
ある意味、水戸黄門の印籠だな・・・これ・・・・・・。
「信じて貰えたか? これが王莽らを斬った七星剣と・・・」
「先日の麒麟といい、孝桓皇帝陛下(桓帝)から賜った七星剣といい。紛れもなく貴殿こそ、佞邪を討つ士にございます」
「しかし、余は朝敵である。このままでは如何ともし難い」
「・・・・・・」
「それに余が孝桓皇帝陛下から下賜されたと証明も出来ぬ。即ち、これだけではどうにも成らぬ」
「それは不敬でございましょう・・・」
「不敬かもしれぬ。だが、事実だ。故に余が持つに値しない」
「では、何方が持つに相応しいと・・・」
「少なくとも聖上陛下(霊帝)ではあるまい・・・。となると、殿下ということになる」
「な・・・・・・」
「驚くことはあるまい。問題はどの殿下かということだ」
「・・・貴殿はその宝剣を伝国璽と同じ扱いにするおつもりか?」
「・・・余は既に朝敵だ。佞邪どもを斬った上で、そうするのが筋というものであろう」
「・・・・・・まさか、貴殿は」
馬日磾は目を見開き、僕を凝視した。
そうです。僕はキングメーカーとなるつもりです。
現時点では本命が劉寵、対抗馬が劉協、穴馬が劉虞、ダークホースが劉焉、大穴が劉表って感じかな?
「録尚書事殿。余は確かに義士ではないかもしれぬ。しかし、こうなっては他に方法が見当たらぬ」
「・・・ううむ」
「だが、これだけは信じて欲しい。余は漢朝を終わらすつもりはない」
馬日磾は何か言いたそうだったが、これ以上は無理と判断したらしく押し黙った。
実際、馬日磾にも打開策がないのだから当然だろう。
僕は宝剣の七星剣を祭壇に供えさせ、この事を広めるよう指示した。
ここまで来たら、風呂敷は広げるだけ広げたほうが良いからね。
毒食わば皿までだ。
その数日後、またもや新たなる使者が来た。
使者というか完全な密使だ。
そして、その密使が実に意外な所からだったんだ。
「お久しゅうございます。司使君」
「いや、既に余は荊州牧ではない。ところで何用かね? 江陵県令」
「いえ。私は既に江陵の県令からは外されております」
「では、黄祖殿。蔡府君(蔡瑁)からどういった用件か聞こうか」
「はい。既に陶応の軍勢が蒲圻へ出立しました」
蒲圻は南郡、長沙郡、江夏郡の三郡の郡境にある南郡の城のことだ。
当然ながら港もあり、当然ながら長江を挟んで対峙している。
長沙からは最北端にあたり、別名は赤壁なのだ。
そう。ここは赤壁の戦いの地であり、史実において曹操と孫権が戦った場所だ。
しかしながら、こちら側に位置する長沙側と江夏郡には城がない。
というのも、長江による氾濫が夥しいせいか、あまりにも湿地帯が広がりすぎているからだ。
地盤改良するにしても労力に見合った成果も期待出来ないばかりか、また長江の氾濫で全てが気泡になる確立が高すぎる。
そこで南郡の蒲圻が交通の要衝となっているという状況なのです。
つまり、蒲圻から上陸したとしても、湿地帯が広すぎて移動すら困難なので、ここは放置しているんです。
だから蒲圻へ出立したとしても、特に問題はない訳ですが・・・・・・。
「蒲圻へ移動したとして、それが何か問題なのかね?」
「左程、問題はないでしょう。ですが、貴軍が戦果を挙げる機会を与えることが出来ます」
「意味が分からぬが・・・」
「蒲圻から長江を伝って南へ上り、巴丘に進めばどうなります?」
何故「南へ上り」と言ったのか。
それはこの地点において長江が南から北へと流れているからです。
長江の蛇行は想像を絶するスケールの蛇行なのです。
そして巴丘は洞庭湖の東に位置し、長沙郡、衝陽郡、南郡の三郡の郡境に位置する城でもあります。
当然こちらも周泰、張陞(張昭の子)らが三万の軍勢で守っています。
なので、もし陶応が来るとしても、長江での水上戦となるため自殺行為なんですが・・・・・・。
「しれたこと。全力で戦うまでのことであろう」
「当然ですな。そこでこちらの提案という訳です」
「まどろっこしいな。何が目的だね?」
「兵を運搬するのは我が艦隊なのです。そこで水上戦ではなく、陶応の軍勢が上陸してから討って欲しいのです」
「・・・・・・」
つまり蔡瑁の提案は「自分の兵に犠牲が出ないように上陸させてから戦闘しろ」ってことか。
何て虫が良い話なんだろ・・・・・・。
とっとと討伐軍の傘下になったくせに・・・・・・。
「我が艦隊は陶応が上陸させた後、直ぐに引き返します。その方がそちらとしても戦果を挙げやすいことでしょう」
「待たれよ。都合が良すぎないか? 大体、蔡府君は何故そのような提案を持ちかけてきたのだ?」
「・・・・・・誠に言いにくいことではありますが」
張温が荊州牧になったことは蔡瑁にとっても都合が悪いことだと言うのだ。
というのも、蔡瑁の父である蔡諷は隠居の身であり、都に居を構えている。
更に張温は張允の縁戚にもあたるだけでなく、何と竇武の孫の竇輔の側近の張敞の実の兄でもある。
滅茶苦茶面倒くさいな・・・・・・。
張温も荊州牧の就任は寝耳に水だったようで、今回の州牧就任や遠征には大反対だったらしい。
だが、激怒しているデブ帝は耳を貸さず、無理矢理就任させてしまったということだ。
ま、十常侍どもの意向もあるらしいけどね・・・・・・。
で、その張温だけど、十常侍らとの関係は第一次党錮の禁の以前まで遡る。
張温は曹操の祖父である曹騰の茂才で推挙され、以降は様々な宦官との折衝役なども務めた。
転機になったのは梁冀の暗殺の際、鄧猛女が梁姓でないことを突き止めたのが切っ掛けとのこと。
上手く立ち回り梁冀の暗殺に一役買ったというのだ。
その後、功績のあった単超らとも良好な関係を続け、今日に至るというわけ。
つまり十常侍と切っても切れない関係にあるのは、そういう前提があるからなんだ。
他にも第二次党錮の禁の発端となった宦官大虐殺計画を知った張温は竇武に対し、止めるよう説得を試みている。
張温は折衝役としてはかなり優秀で、士大夫を始めとする人たちとも関係が良好だったからだ。
ところが竇武は聞く耳を持たなかったので、せめて順序を弁えるよう説得した。
これにより、宦官の一人である長楽五官史の朱瑀に計画が漏れた。
というのも、竇太后に宦官大虐殺のお伺いの上奏文を、事もあろうに朱瑀に預けたからだ。
長楽五官史は日本でいうところの側用人的なポジションだから、仕方ないのかもしれないけどさ・・・・・・。
でもさ。聞くところによると、朱瑀って人物はそれ程の悪さをしていないのに、単に宦官だからって理由でその人まで殺そうって・・・。
更には他の宦官も宦官だという理由だけで三族皆殺しって…。
しかも、その人物に上奏文を預けるってアホですか・・・・・・。
これがキッカケで竇武は殺されてしまうんですが、その折に張温は年の離れた弟の張敞に竇輔を連れて逃げるよう指示した。
せめてもの罪滅ぼしということかな?
まぁ、張敞は張温の茂才で竇武に仕えていたこともあるようですけどね。
随分と説明が長くなってしまったけど、要するに張温も僕の後任は嫌ということ。
でも、任命されてしまったので、あまり被害を出すことなく「ナァナァで戦役を終えたい」ということ。
それに蔡瑁や張允だけでなく、劉表や劉岱も同調しているので、出来るだけ早く収束させたいということ。
そして陶応はバリバリの袁術派閥なので、殲滅しても問題ないこと。
以上が事の顛末です。遠征に帯同する兵士の身にもなれや・・・・・・。
「しかし黄祖殿。何故、陶応がこのようなことを引き受けることになったのかね?」
「袁術から結果を残すように厳しく催促されたようでして・・・。未だに徐州の状況もままなりませんからな」
「・・・うむ。広陵郡は揚州王(劉繇)が徐州牧に任命した劉備を中心に抵抗を続けていると聞く」
「他にも袁術の関与を快く思わない豪族らが反旗を翻しておるとの由。焦るのも無理はありますまい」
「そして、ここで大失態となると、陶応は拙いことになるであろう」
「関係ありますまい。そもそも情弱な小人ですし、袁術の傀儡にしか過ぎない男です」
「ふむ・・・。家臣らと相談する故、まずは逗留していってくれ」
「お待ちを! あまり呑気になされては・・・」
「こちらにはこちらの事情がある。以上だ」
僕は直ぐさま会議を開き、諸将の意見を聞くことにした。
范増と陳平だけでも良かったんだけど、密使とはいえ外部からの提案だからだ。
こういう場合、他の意見も聞かないと部下がヘソを曲げてしまう危険性がある。
現実社会でもこれは同じだと思う。
「罠とは思えません。間者によれば全体的に士気は低く、諸将は乗り気ではありません」
開口一番にそう断言したのは楊慮だった。
孔明ばりと思われる能力値を保有する楊慮の発言なら信じても良い筈だ。
何たって情勢の上級スキルである遠望持ちだしね。
「確かに罠じゃあねぇでしょう。しかしだが、素直にそのまま悪戯に艦船を引き返させて良いもんですかね?」
そう発言したのは破虜校尉の彭越だ。
彭越も水軍が扱える上に、疾風や伏兵といった戦術スキルを保有しているから、艦船ごと撃破するのは容易いと思っているんだろう。
「破虜校尉よ。それは短絡的と言わざるを得ない。蔡瑁の兵まで藻屑とするのは愚計であろう」
「へぇ? そりゃまた何故ですかい? 楊県令」
「確かに局地的に見れば兵の輸送に大きな打撃を与えるであろう。だが、その後の処理が面倒になる」
「その後の処理…ですかい?」
「うむ。蔡府君(蔡瑁)だけでなく、その背後にある襄陽王君(劉表)との関係が拗れる。これは拙い」
「しかし、劉表だって密かに荊南六郡を狙っているでしょう」
「かもしれぬ・・・。だが、私としては同意しかねるね」
楊慮と彭越の意見は他の家臣にとっても真っ二つに分かれた。
戦後処理外交を考える文官達と戦果を挙げたい武官達がいる。
僕は暫く考え、ある妥協案を示すことにした。
「陶応の兵は凡そ一万五千だ。これで大まかな艦隊の編成は予想出来るかね? 陳主簿(陳羣)」
「可能です」
「ならば、それ以上の規模を繰り出した時、約定を違反したとして水上にて撃破することにしよう」
「とすると、それ以下の場合は・・・?」
「うむ。艦隊が引き上げたと同時に上陸した軍勢を急襲せよ」
「上手くいくでしょうか?」
「ハハハ。陶応の兵は船に慣れておらぬ連中であろう? ならば、船酔いを起こしている兵が多くても不思議ではあるまい」
「・・・成程」
「ただし、相手は同時に文字通りの背水の陣となる。降伏を呼びかけながら攻勢を仕掛けるのだ」
「陶応を生かしたまま・・・ですかい?」
「そうだ破虜校尉よ。可能かね?」
「お安い御用でさ。戦さのいの字も知らねぇとっつぁん坊やなんぞ屁でもねぇ」
「ハハハ。随分と自信があるようだな。なら、君に任すとしよう」
「へへへ。ありがてぇ」
「だが、念には念が必要だ。奮威校尉(賀斉)と裨将軍(太史慈)らと共にあたれ。そして軍司馬に徐従事(徐奕)を任命する」
「あっしだけでも問題ねぇでさぁ」
「そうかもしれぬが受け入れよ。君一人だけが手柄を独り占めしたら他の者も面白くなかろう」
「へぇ。分かりやした。親分」
三方からの包囲戦となるので、各一万ずつを与えることになった。
倍の兵士数だし、これで取り逃がすことはないだろう。
以上が軍議の結果となった。
黄祖にはあくまで「進軍するのが陶応の軍勢のみ有効」という条件で飲むことを伝え、蔡瑁の元へと帰らせたんだ。




