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第九十四話 ピンチはチャンスになるのかな・・・?

 何はともあれ、僕の首は繋がった。

 けど、続々と討伐軍の報告が上がる度、僕の不安は日増しに増幅していった。

 何進、張温は良いとして、袁紹、袁術、丁原、董卓、陶応、公孫瓚って…。

 更に劉焉はどうやら朝廷と和睦した模様。

 …となると益州からも出兵が予想される。

 

「こら。豎子。何をそう青い顔をしておるのじゃ」

「あ、亜父」

 

 僕が部屋で頭を抱えていると、不意に范増がズカズカと入ってきた。

 いや、青い顔になるのも分かるでしょうよ…。

 

「…うむ。予想以上に敵が多いようでな…」

「情けないことを言うでない。数は多くても相手は烏合の衆じゃぞ」

「だとしてもだ。思わぬ者が名を連ねておってな」

「誰のことだ?」

「董卓や丁原、公孫瓚らのことよ」

「何じゃい。そ奴らの何を怖れておるのじゃ」

「董卓には軍師に李儒、賈詡がいるし、配下には華雄、徐栄らがいる。丁原には呂布と張遼らがいるし、公孫瓚には趙雲が…」

「…お主らしくないのう。ここに来て臆病風に吹かれすぎじゃい」

「…ううむ。かつて無いこと故…」

「まず董卓の知恵者どもであれば、無理な進軍は控えるように助言するじゃろ。何進らを嗾けるよう動く筈じゃ」

「それで何進はどうでる?」

「分からんが袁兄弟次第じゃな。あの兄弟は功を焦るかもしれからの」

「袁術などは恐くない。問題は孫堅と項籍だ」

「その二人は問題じゃな。一応、探りを入れさせようかの」

「うむ。慶里も心配だしな」

「彼奴には偽の神託を見せたのじゃろ? じゃが、孫堅が州牧に就任したという話は伝わって来ておらん。恐らく漢室と袁術を恨んでおると思うがの」

「…となると味方に引き込めるか?」

「それはちと分からんがの。それより劉繇の動きが心配じゃ」

「何故だ?」

「兄の劉岱に帰順を促すよう勅使が来ておるようじゃ。その上、劉表らが加わると面倒じゃの」

「…ううむ。曹操の動きはどうだ?」

「奴も分からんな。それと江夏太守の劉祥も気をつけねばならぬ」

「うむ。袁術とは決裂している筈だが、間を取り持つ奴がいると面倒だな」

「いるとすれば張温しかおらぬであろうが、袁術のことじゃ。上手く行かぬじゃろうな」

「うむ。そこは袁術に期待するしかないか」

「最悪、劉繇が朝廷についたとしても豫章太守は張宝じゃ。問題はない。とすれば、気をつけるのは北、西、南となるぞい」

「南の董重は満寵らで充分であろう。西は劉焉の援軍が押し寄せるかどうかだな」

「劉焉は援軍を送らんじゃろうて。じゃが、益州にいる朝廷の犬どもがどう出るかじゃな」

「張忠らか?」

「その雑魚だけなら問題はない。じゃが、劉焉が牽制しないとなると巴の三郡の連中も動く危険がある」

「成程。となると郭典、羊続、曹謙の三太守の出兵もあり得るか。手強いな…」

「それと恐らくじゃが、皇甫嵩も来るかもしれぬ」

「…黄巾党を壊滅寸前まで追い込んだ名将か。厄介だな。しかし何故、皇甫嵩が益州におるのだ?」

「一度、罷免されて平民にされておるからのぉ…」

「ふぅむ。それで益州にて再び登用されたのか。しかし、実に惜しい。平民の時に余が赴いておれば…」

「過ぎたことは仕方あるまいて。兎も角、長沙郡だけでなく武陵郡、零陵郡の守りも怠らぬようにな」

「言うまでもない。ところで、余にちと策があるのだが…」

「ほう? お主の策とな? どのような策じゃ?」

「益州からとなると板盾蛮が未だに多いであろう。朴胡、杜濩の二人を使って攪乱は出来ないか?」

「ふぅむ。その手か…。ちと、難しいかもしれぬ」

「何故だ?」

「情報によると皇甫嵩も板盾蛮の精夫の血族を配下に加えておる」

「何と…。仮にも車騎将軍にもなった者が…」

「奴はその点において拘りはない。名門指向なんぞは皆無な男じゃよ。奴の一族は名族じゃがのぉ」

「…ううむ。やはり敵にしておくには余りにも惜しい。…して、その板盾蛮の者の名は?」

「二人おる。何平、狐篤の両名じゃ」

「…聞いたことないな」

「そうか。まだ成人して間もない若輩者な故、当然じゃろうが、中々の英俊とのことじゃ」

「…ふむ。では、この策は少し見合わせた方が良いな。それと牂牁国の動向も気になるが…」

「あそこは大丈夫じゃろう。国王の劉普が動きたくとも、息子の劉曄や配下の連中が押さえ込むであろうよ」

「それならば良い。しかし、警戒を怠ることは出来ぬな」

 

 しかし、皇甫嵩まで来るのか…。

 小説やアニメだと全く活躍していないのに、この世界での評価は極めて高い。

 それもその筈で、黄巾との戦いでは勲功第一で、張角をあと一歩まで追い詰めた実績を持つからだ。

 

 北からの大軍勢に対しては、こちらは長江にて迎撃をすれば良い。

 ほとんどの兵や指揮官が水上戦には不慣れだろうからね。

 でも、劉表、蔡瑁は兎も角、孫堅が加わるとかなり拙い状況になってしまう。

 それだけはないと信じたいところだ。

 

 西の益州からの侵攻は山岳地帯が多く、進入路もかなり限られている。

 ここでの作戦はズバリ「北条流砦群連立作戦」で迎撃するつもり。

 進入路にじゃんじゃん砦を造り、持久戦にすることで敵の戦意を挫く。

 それと荊蛮らを使ってのゲリラ作戦で輜重隊を襲い、補給を分断させる。

 

 けど、一番の問題は皇甫嵩らの益州勢と北からの朝廷軍が江陵にて合流してしまう可能性だ。

 というのも、夷陵の戦いで有名な夷陵は江陵のやや北西に位置し、長江の北岸から皇甫嵩らが来ると簡単に合流されてしまう。

 こちらとしては二正面作戦の方が不利なんだけど、面している涪陵郡の太守が張忠だから、是非とも皇甫嵩には西から攻めて貰いたい。

 

 …ここは誰に相談した方が良いのかな?

 范増? 陳平? それとも……。

 とか考えながら一週間ほど地図とにらめっこしていると「失礼します」という声が扉の外から聞こえた。

 僕が入るように声の主に呼びかけると、入って来たのは楊慮だった。

 

「おう。楊県令であったか。どうした?」

「いえ、我が君が部屋に閉じこもったきりと聞き及びまして…」

「何だ。そんなことか…」

「そんなことでは済まされません。下の者が不安に駆られます」

「それはすまなかった。しかし、また荊使君と呼ばれなくなる日が来るとはな…」

「我が君は官位や地位に興味はないのでしょう?」

「それはそうだが、やっと慣れてきたところだったのでなぁ…」

「ハハハ。そんな軽口を叩けるなら大丈夫そうですね」

「だが、大丈夫とはちと言えない。少し行き詰まっておる」

「…と、おっしゃる理由は?」

「うむ。もし、益州からの攻め手なのだが、涪陵郡から来て貰いたくてな」

「しかし、それですと二正面作戦となります。どちらかと言えば不利になるのでは?」

「普通ならな。しかし、涪陵郡の太守は誰かね?」

「ああ、成程。あの張忠を利用する訳ですか」

「そうだ。強欲な張忠のことだ。内部崩壊させるにはもってこいと思うのでな」

「それならば大将軍を利用しましょう」

「何進をか?」

「はい。皇甫嵩将軍が未だに根に持っているという噂を流すのです」

「それだけで良いのか?」

「皇甫嵩将軍の実績は群を抜いております。功を焦る袁兄弟らも面白くはないでしょう」

「…成程。それで更に何進は無理な作戦を皇甫嵩将軍に突きつけると…」

「はい。そして、涪陵郡の張忠には皇甫嵩将軍に対し、多額の賄賂を求めるよう仕向けます」

「…どうやるのだ?」

「噂によると武陵の太守に十常侍に加わったばかりの趙高の縁者が推挙されたとか」

「…うむ。全く論外としか言い様がないな」

「そこで武陵郡の金が唸っているという噂を流すのです」

「成程。読めたぞ。張忠はその前に略奪しようと企てる」

「はい。そこで張忠は皇甫嵩将軍に、略奪で得る予定の前金として賄賂を寄こすよう仕向けるのです」

「上手くいくかな?」

「誰か埋伏させるのが良いでしょう」

「埋伏させるとしてだ。直接、張忠にという訳にはいかぬだろう?」

「奴の兄の子で養子にしている者がおります」

「ほう?」

「張達という者ですが…」

「…何? まさかと思うが涪陵郡には范彊はんきょうという者もおるか?」

「……何故、そのことを? その范彊は張達の竹馬の友ですぞ」

「……」

 

 蜀ファン、特に張飛ファンからしたら不倶戴天の敵だからね…。

 遠慮なく利用した挙げ句、ブッ殺すことにしよう。

 能力値もどうせ雑魚クラスだろうし。

 

「あい分った。では、埋伏させる者を選抜するとしよう。君が推挙する者はおるかね?」

「そうですな…。弁が巧みな上、あまり知られていない若手を用いるべきです」

「ふむ…そうなると…」

 

 僕は少し考えた末、ある人物に白羽の矢を立てることにした。

 彼なら知られていないし、その上スキル「情勢」も持っているからスパイにピッタリだ。

 

「急ぎ裴潜をここへ…」

「ははっ!」

 

 僕は衛士にそう言って裴潜を連れて来させた。

 裴潜なら知られていないし、弁が立つのは子供の頃に襄陽で経験している。

 更にはスキル「判官」を持っているので、涪陵郡の訴訟状況にも目が利くだろう。

 

「従事中郎(裴潜のこと)よ。呼び出したのは他でもない。急ぎ涪陵郡へと向かってくれないか?」

「は。それは私に誤情報をまき散らせという任務ですか?」

「ハハハ。察しが良いな。流石は襄陽の鬼才だ。ここの書状にして欲しいことが書いてある」

「どれどれ…成程。しかし、私は張達という者は良く知りませぬ」

「行商に成りすまし、まずは范彊という者と接触せよ。賄賂は好きなだけ使って構わん」

「心得ました」

「それと君には人を見る目がある。良禽を見つけたら…」

「御意」

「加えて許褚もつける。それならば問題なかろう」

「お待ちを…。仲康(許褚の字)殿は我が君の護衛隊長です。それは如何かと…」

「案ずるな。まだ趙嫗がおる。それに彼女ではあまりにも目立ちすぎるから、君の護衛とはいくまい」

「アハハ! 確かに! それでは有難く同行させてもらいます」

 

 上手く埋伏させるには、当然ながら真実味のある仮の設定が必要になる。

 僕は以前、酷吏と謀って民を苦しめた商人の処刑、家財の没収、更には家そのものを潰している。

 なので、その商人の一人の私生児で、更に家財を没収されたことで恨んでいるという設定を仕立て上げることにした。

 私生児としたのは、もしその商人の子供がいたとしても、何とか誤魔化せる筈だからだ。

 それら商人の家族は交州へと逃した筈だけど、念のためだよ。

 

 それと気になる点がもう一つある。

 あの黄皓が十常侍の一人になったという情報だ。

 サイコロだけでなく、通常でも西暦200年以降で誕生する予定の者が出るとなると、やや話は違ってくる。

 涪陵郡というか益州でオイシイ人材は余りいないと思うけどね。

 

 裴潜に指令を出した後、楊慮と裴潜を相手に雑談混じりに会話をした。

 民衆が朝廷の行動をどう思っているか聞くためでもある。

 それによると、やはり朝廷への不満が爆発しており、それは荊州以外にも波及しているらしい。

 でも、そうなると一つ疑問が残る。

 

「楊県令よ。そこまで朝廷に不満があるのに、よくそれだけの大軍勢を整えられるな」

「どうも強引な徴兵を行っておるとのことです。不満が全くない訳ではないでしょう」

「そうか…。しかし、それでも反乱を起こさないとは、各地の統治が上手く行っていると思って良いのか?」

「そうではありません。今は中原に中心となる人物がいないからでしょう」

「豫州王君(劉寵)では中心と成り得ないのか?」

「豫州王君は確かに名君であり、帝と相対する人物の一人です。ですが、今一つ中心には成り得ませぬ」

「何故だ?」

「豫州王君の支配する地域がかなり限定されております。それ故、有力な地方豪族を巻き込もうにも限度がありましょう」

「……なら、誰が中心に成り得るのだ?」

「お言葉ですが、それは貴君でしょう」

「えっ!? 余か!?」

「はい。それ故、此度の戦いで勝利し北上すれば、雪崩うって各地で反乱の狼煙が上がるでしょう」

「……しかし、それは」

「それに、他にも策があります」

「何? どのような策だ?」

「若君を中原に出向させ、貴君の名代として兵を募り、反乱を起こすのです」

「……」

「今や太平道に成り代わり、貴君が反乱の旗手として鮮明化すれば、必ずや各地で挙兵の波が沸き起こるでしょう」

「交州でのやり口を中原全土で行うという訳か…」

 

 確かに黄巾の乱って一斉蜂起で官軍を怖れさせたんだよな…。

 でも、僅か一年で平定されているんだよな。

 この世界では違うけどさ…。

 

「それは余の望むところではない…」

「何故ですか? 今こそ新たなる王朝を切り開く好機ですぞ」

「まず、第一に余は無辜の民を悪戯に苦しめたくはない。第二に文恭(司進の字)を荊州の外に出したくはない」

「……」

「文恭を失うのが恐いのだ。愚かしいかもしれぬが、こればかりは許せ」

「それはまだ理解できます。ですが、あくまで禅譲でなければ帝位を継がぬおつもりですか…」

「いや、前にも述べたが帝位にそもそも興味はない。佞臣を一掃し、民が安寧に暮らせる日々を…」

「そのために貴君が帝位に就くのです。何故、それが分かりませんか…」

「…許せ。そればかりは出来ぬのだ。後世の評価などは怖れもせぬが…」

「では、何故…」

「…余は神々に誓ってしまったのだ。余が帝位に就けば余の神通力が失われ、災いが各地に降り注ぐことになる」

「……」

 

 勿論、大嘘ですよ。

 袁術の二の舞に成るかもしれないなんてシャレになりませんから…。

 この世界の袁術は今のところ分かりませんけどね。

 

 それに、中原全土に広げてしまうと終わりが見えなくなるのは事実だろう。

 大軍同士の戦いでも、局地戦であれば矛は収めやすい。

 そりゃあ中国全土を泥沼化させる方が、確かに有利になるかもしれない。

 だけどね。僕には無理なんですよ…。

 それで余計、大勢の犠牲者が出るのはね。


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