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第九十三話 第三次党錮の禁

 七月に入り、僕は范増と陳平から交州攻略の密談をしている時だった。

 その時、范増の密偵が緊急ということで入ってきたんだ。

 そして、その緊急速報は、あまりに馬鹿げた内容だった。

 

「もう一度、申してみよ。それは真なのじゃろうな?」

「はっ! 既に宮中において騒然となっております! 都では未だ騒ぎになっておりませんが、時間の問題かと思われます!」

「ふぅむ・・・。真に珍妙な話じゃな・・・」

 

 范増が首を傾げると、そこに陳平が范増に食いついた。

 

「亜父殿。まさか子房殿(張良)が策を弄したのでは?」

「いや、そうではなかろうて。もしそうだとしたら、これは相当な悪手じゃ」

「悪手でしょうか? もし切羽詰まっていれば、子房殿も一か八かの手段を講じましょう」

「幾ら切羽詰まってもだ。それはせんじゃろうよ。無茶にも程があるわい」

 

 僕はじっと范増と陳平のやり取りを聞いた。

 確かに妙策とは言い難い。

 下手すれば藪蛇どころでは済まされないからだ。

 

 双方が悪手という報告は、なんと劉邦が宮中において殺されたという報告だ。

 いや、正確に言えば劉邦を名乗る不審者が殺されたのだ。

 劉邦を名乗る不審者は、よりによって帝の龍顔をしこたま殴りつけ、罵倒しまくった挙げ句に「自分に帝位を戻せ」と凄んだらしい。

 

 劉邦はその後、押さえつけようとした宦官を何人か殺して逃走し、駆けつけた董卓配下の華雄に殺されたというのだ。

 もし、これが本物の劉邦だとしたら、何をしているんだ・・・?

 意味が不明すぎる・・・。

 

 本来、交州攻略の密談はこの報告によって中断された。

 一応、日を改めてということになった訳だ。

 

 僕は自室に戻ると目を瞑り念じることにした。

 老師が事情を知らない訳がないからだ。

 どういうことか問い詰めてやる。

 

「ほいほい。何用じゃの?」

「解っているんだろ? 劉邦の件だよ」

「おお! そのことか! 流石に人の耳に戸は立てられんのぉ」

「どういう事か説明しろよ!」

「うむ。実の所、奴は記憶が明確な上、選んだ場所にどんなタイミングでも出現する権利があったのじゃ」

「はぁ!?」

「で、奴は今がそのタイミングとばかり、宮中に出現して帝の顔をブン殴ったのじゃ」

「ちょっ!? 止めなかったの!?」

「儂にその権限はないんじゃ」

「はぁ・・・・・・」

「あ、一応じゃが忠告はしたんじゃぞ。だが、奴は『鳳凰が出現したってことは俺様の出番だな』と自信満々での」

「は!? じゃあ、老師の責任じゃん!」

「お主だって喜んでおったじゃろう。それに儂、確か『特別にクリアと見做す』と言った筈じゃし」

「知っていたら話が変わってくるんだよ!」

「お主が断った後、劉邦が権利を行使したんじゃから仕方ないのぉ」

「・・・うう。もう滅茶苦茶だ・・・」

「という訳で儂の責任じゃないのじゃ。という訳でサイコロは無しじゃな」

「ちょっ!?」

 

 消えやがった・・・・・・。

 もう怒鳴り散らす気力もねぇ・・・・・・。

 

 その数日後、劉邦がどういうことをしたのか、主に范増の情報筋から報告が上がってきた。

 いきなり帝の目の前で現れた直後、帝の顔面を足蹴りし、髪の毛を引っ張り上げて顔に唾を吐きかけ、譲位を迫ったらしい。

 でも当然だけど、いきなりご先祖様が出てきたなんて信じられる訳がない。

 狼藉者ということで追い回された挙げ句、華雄に殺されたというんだ。

 その後、宮中の警備の不行き届きということで、十常侍の下っ端の奴が三族皆殺しになったということだ。

 

 そして、その後任の名前がなんと黄皓!

 あそこで1を出さなかった代わりに、ここでまさかの出現。

 一番、厄介なところで出やがって・・・。

 十常侍には趙高がいるって話だし、この二人は厄介なんて代物じゃないだろうなぁ・・・。

 知っていたら、あんな偽勅を出していませんよ・・・・・・。

 

 僕は老師がいなくなった後、同じ爺キャラの范増を呼ぶことにした。

 恐らく僕の嫌な予感は的中するだろうからね・・・。

 

「亜父よ。宮中のことだが、我らにどう影響すると思う?」

「そうじゃのぉ。間違いなく良い兆候ではない。にしても、あの匹夫めがどう宮中に潜り込んだのか謎だらけじゃ」

「・・・それはどうでも良い。それよりも交州攻めはこのまま進めても良いものか?」

「・・・むぅ。それは確かに様子を見た方が無難かもしれぬ」

「うむ。その確認をしたかった」

「また董承がちょっかいを出してくれば良いのじゃが、先頃の臨賀での大敗北が尾を引きずっておるからのぉ」

「神託が効を奏すれば良いが・・・」

「いや、下手するとその逆じゃな」

「何故そう思う?」

「元々あの馬鹿帝は太平道や仏教、儒教などを毛嫌いしておる。文学やら絵画やらを好んでいるのは、そういった経緯もあるからじゃ」

「例の鴻都門学のことだな」

「その通り。一見、文治政治を目指しておるようじゃが、中身がスカスカでなく、賄賂だらけの重商主義も取り入れておる」

「それは儒教の清貧という思想を根本から壊すためであろう?」

「フォフォフォ。正しくその通りじゃ。そのせいで頑迷さに拍車が掛っておる」

「よくそれで清流派の連中が付き従っているな・・・」

「何を言っておる。太平道の幹部連中の多くは、元は宮中にいた清流派の連中じゃぞ」

「な、何?」

「とは言っても、ほとんどが下級役人じゃがの。どちらも従えない連中が儂らの所にいるだけじゃ」

「ああ、鄭玄や王儁、蔡邕、陳紀といった連中のことか」

「その通りじゃ」

「・・・ということは、あの馬鹿帝は余のことを、未だに心底嫌っておるのではないか?」

「今更じゃが当然じゃな。問題は馬鹿帝が宦官どもや何進に、あの偽神託を見せるかじゃな・・・」

「・・・ううむ。劉邦の件で見せることになったら厄介なことになる」

「そうじゃ。じゃが、これは予測不能なことじゃ。仕方あるまい」

「うむ。最悪の結果を予想するしかあるまい・・・」

「最悪な結果になったら、お主はどうするつもりじゃ?」

「どのような結果にせよ臨機応変に対処するまでだ」

「そうじゃな。朝廷が何を言ってくるか儂も分からん」

 

 流石に范増をもってしても先の展開は読めませんか・・・。

 訳が分からないままだけど、ここで今月の政略フェイズ。

 

衡陽パラメータ(地所)

農業900(5000) 商業1470(5000) 堤防100 治安43

兵士数45283 城防御300(1000)

資金6528 兵糧50000

 

 他の五郡から金1000ずつ融通してもらったので、それなりに資金は潤沢。

 気をつけないといけないのは治水と治安か・・・。

 十倍掛けがあるにしても、十人までしか動かせないから気をつけないとな・・・。

 

 その結果、開墾十倍掛けを国淵、張紘、桓階、歩騭。

 治水を秦松、顧雍。

 帰順を張範、倭建、李秀、趙佗となった。

 

 治水と帰順は十倍掛け出来ない仕様らしい。

 面倒だなぁ・・・。

 で、結果はこの通り。

 

衡陽パラメータ(地所)

農業1440(5000) 商業1470(5000) 堤防72 治安78

兵士数48783 城防御300(1000)

資金1928 兵糧50000

 

 バランス取るのが難しいな・・・。

 でも、出来ないことじゃない。

 地道な作業は僕の十八番おはこだからね。

 

 八月となり、内政の会議をしている途中、朝廷からの勅使がやって来た。

 勅使は以前もやって来たことがある馬日磾。

 あまり良い予感はしないけど会うしかない・・・。

 

 入室してきた馬日磾は、まるで死人のように青ざめていた。

 以前は朗らかな印象だったので、より僕は恐くなった。

 一体、何を言い出すんだろう・・・・・・。

 

「せ、聖旨である。神妙に拝聴せよ」

 

 少し声が霞んでおり少し聞き取りにくいが、僕はその様子を瞬きせずに見る。

 

「司護。汝の荊州牧の職を解き、汝に死を賜ることに致す。謹んで受け取られよ」

「・・・・・・なっ?」

 

 余りにも想定外な発言に僕は絶句した。

 その時、立ち並ぶ家臣の一人が馬日磾を怒鳴り散らした。

 

「翁叔(馬日磾の字)! 君は正気か!?」

「伯喈(蔡邕の字)よ。私は正気だ。それに勅使である。弁えよ」

「君がいながら何故、帝はそのような馬鹿げた聖旨を持たせたのだ!」

「私ではどうにも出来なかったのだ。どうにか出来たなら、このような聖旨は握りつぶしておる」

「ええい! 荊使君! この者の首を即刻刎ねましょう!」

「好きにせよ。私は既に覚悟は出来ておる・・・」

 

 僕は蔡邕の目を遠目から見た。

 その目は明らかに馬日磾の命を嘆願している。

 蔡邕が切り出したのは、他の者に先立って発言することで、馬日磾の命を助けるためであろう。

 

「待て。書経従事(蔡邕のこと)よ。勅使をみだりに害してはならぬ」

「しかし・・・」

「勅使よ。このようなことになった経緯を話してくれ。それぐらいならば問題なかろう」

「御意」

 

 僕は静かに目を閉じ、馬日磾の発言に神経を集中させた。

 その理由は、やはり劉邦の一件が大きく関わっているものだった。

 

 劉邦にボコられる前、デブ帝はこちらの要求通り劉陶を釈放した。

 その後、僕の偽の神託を王允、劉陶、荀攸、荀爽、何顒の五人のみで相談しようとしたらしい。

 ところが、どういう訳か十常侍らに内容が漏れたらしく、事態は急変したというのだ。

 

 その後、劉邦の事件が起き、五人は牢屋送りになり、五人を弁護する者達は蟄居を言い渡された。

 五人が牢屋送りとなったので、この五人の内の誰かが漏らしたとは考えにくい。

 となると、帝が条件を無視して十常侍らにバラしたということだろう。

 

「馬鹿な・・・。帝は党錮の禁の過ちを再び犯したのか・・・。ああ、漢はこれで滅びたも同然だ・・・」

 

 思わずそう嘆息したのは鄭玄だった。

 名士中の名士である鄭玄まで愛想を尽かされたという訳だ。

 

「分かった勅使よ。して、荊州牧の後任は何方か?」

「張温殿にございます」

「・・・・・・ふむ」

 

 張温は南陽の生まれで蔡瑁の伯母を妻としている。

 司空や太尉を歴任しているビッグネームの一人だ。

 僕がそんなことまで知っているのは、ジンちゃんが僕に残したノートで現在から過去の人物の列挙を記していたからだ。

 

 ジンちゃんは僕が寝ている間、僕の体を使って作り上げたんだろう。

 この置き土産は本当に有難い。

 出来れば今後出てくる人物も列挙して欲しかったけど、流石にそれは無理か・・・。

 

 そのジンちゃんだったら、ここはどう切り返すかな?

 今までのジンちゃんの行動を、僕は目を閉じて逡巡させた。

 そして、その答えは直ぐに出た。

 

「張温殿であれば申し分ない。分かった。余は首を差し出すことにしよう」

「・・・・・・」

「ただ、心残りは荊州の民と家臣達だ。余が全て被るので、家臣達には・・・」

「馬鹿を申すな!」

 

 沈黙する馬日磾と僕に割り込んだのは張昭だ。

 今までないぐらい烈火の如く顔を赤くしている。

 

「留府長史よ。如何した?」

「何を戯けたことを申しておるのです! 儂は認めませんぞ!」

「しかし、聖旨である。これを無視するということは・・・」

「おう! 朝敵となりましょうな! しかし、君はお忘れか!?」

「・・・何をだ?」

「君は民の為に朝敵になることも怖れなかった筈だ! 何故、ここに来て朝敵となることを怖れる!」

「・・・・・・」

「ここにいる者達は全て朝敵となることを怖れてはおらぬ! 確かに君は既に荊州牧ではないかもしれぬ! しかし、今更それがどうした!」

 

 張昭の激高ぶりに他の陪臣達も続いた。

 生粋の名士である鄭玄、蔡邕、陳紀らまで同調する有様だ。

 これで現時点では僕の首は繋がった訳だ。

 ただ、どれ程の軍勢を送り込んでくるか分からないから、それでも戦々恐々なんだけど・・・。

 

「分かった。皆の気持ちは嬉しく思う。この司護、今一度朝廷に対し、再び反旗を翻す!」

「おお!」

「恐らく朝廷は黄巾以来の大軍勢を送り込むであろう。戦さの準備を致せ!」

「御意!」

 

 馬日磾を決して害すことがないよう皆に申し、僕は自室に戻った。

 恐らくこれが最大の山場となる筈だ。

 そして、少なくとも北と南の二正面作戦を強いられるだろう。

 更に張忠がいる西の益州からも出兵も予想される。

 あとは東に位置する張宝らだけど、どうなるかだな・・・。

 


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