第八十一話 難問去って、また難問・・・
前回の続きです。
ある意味、ここに来て以来の最大のピンチかも・・・・・・。
「そこまでにしておきなさい。李秀」
「何故です? この者は荊使君に対し、あまりにも無礼でありますのに」
「彼は倭人だ。言葉もまだ身に付けて間もないのだ。その辺の山越や荊南蛮の者達とも違う」
「え? 倭人? 倭人が何故・・・」
「それは余にも分からん。だが彼が言うには、また必要の無い東征を朝廷が目論んでいるということだ」
「まぁ!? それで倭国のような未開の地から来たということですか!?」
「・・・そういうことだ」
そこまで言うと、今度は倭建がこちらに噛みついてきた。
ああ・・・もう。どうしよう・・・。
「何なんだ!? このアマは!」
「・・・お、落ち着け。武尊(倭建の字)よ」
「これが落ち着いていられるか!」
「まぁ、聞きなさい。まず倭国には文字がない。文字がないという事は、野蛮で未開の地と侮られるのは世の常識なのだ」
「なんだぁ? 世の常識だぁ?」
「そうだ。この漢以外にも西に行けば様々な文明がある。土器を作るだけでは文明とは言い難い」
「なっ!? お前に何が分かる!」
「これから先、お前が倭国に戻り、漢と対等に外交を結びたいのなら、まずは文字を学べ。そして漢だけでなく、様々な文明の知識を得よ」
「そんなもん、どうやって学べと言うのだ!」
「幸い、この衝陽には羅馬や天竺、波斯からの来た人々もいる。その者達からも学び、融合して倭国独自の文明の先駆者となるのだ」
「・・・それが何の得になる?」
「必ずや得になる。今すぐという訳ではないが、倭国が日本と名乗る頃には必ずな・・・」
「・・・・・・」
僕が日本という言葉を発した時、倭建の表情が変わった。
・・・・・・どういうことだろ?
「・・・成程。良く分かった。だが、羅馬やら何やらのことを知るには時間が足りない」
「安心せよ。余がそれらの民を説得し、有志を集って倭国の地へと向かわせる」
「そうか! それは有難い! ・・・・・・ところで」
「何だ?」
「貴様、何が望みだ? そこまでする以上、何か目的があるんだろ?」
そうです! 佐渡金山が目的です!
・・・・・・なんて言えるか~い。
何とか誤魔化さないと拙いぞ・・・・・・。
「倭国の民のためだ。それでは不満か?」
「何故、漢の臣たる貴様が、倭国の民のことまで気にするのだ?」
「四海皆兄弟だからだ。その昔、秦が統一する以前、中原は様々な国々で争い、民は疲弊していた」
「・・・・・・」
「やがて秦は滅び、代わりに漢が興った。これは秦が民を蔑ろにした故、当然のことだがね」
「・・・それで?」
「今や漢も同じく民を蔑ろにしている。だが、現時点で漢を滅ぼせば大きな戦乱となり、更に民は困窮する。それ故、余は漢の存続に尽力している」
「・・・・・・むぅ」
「幸い、倭国は矢待帯刻という不戦の誓いを立てている。だからこそ、余は感銘を受けたのだ。そのような事を行えるのは奇跡に等しい」
「・・・だが、熊襲がまだいる」
「熊襲も漢の介入が無ければ微々たるものであろう。余も漢の介入は好ましくないしな」
「それでどうする?」
「先ほど『倭国を文明化させる』と述べたであろう。漢も自身と同等の文明国であれば、下手な介入は出来ぬ」
「それって、そんなに上手くいくのか?」
「無論、ただ文明化を推し進めるだけは足りぬ。いざという時に備え、軍備も増強せねばならないがね」
「結局、戦さしかねぇじゃねぇか」
「肝心なことは『戦さをさせないためには軍備も文明も必要』ということだ。その為にも効率化を図らなくてならぬ」
「・・・効率化?」
「そうだ。それが無くては真の平和を保てぬのだ。それは漢も同じことよ」
「・・・ふぅむ」
納得したかな? してくれると良いな・・・。
あと説得材料に何があるだろ・・・・・・。
あ、あの話があるか・・・・・・。
「武尊よ。良いことを教えよう」
「何だ?」
「近い将来。必ずや君の一族から民に尊崇される者が現れる」
「何でそこまで分かる?」
「余には分かる。その者は自身の食べ物や邸宅さえも民以上に質素にし、民を思い量る名君となる」
「いまいちピンと来ないがね・・・」
「その者の為にも文明化は必要不可欠である。その者が現れれば倭国は日本と名を変え、漢と同等の国となろう」
「・・・それ信じて良いのか?」
「信じよ。・・・少なくとも余はそれしか言えぬ」
・・・・・・うん。結構、出任せが多いです。
まぁ、あくまでゲーム世界だからなぁ・・・・・・。
仁徳天皇や聖徳太子とかが、後に出てくるか分かりませんけどねぇ・・・・・・。
でも、どうにか倭建は納得し、今まで以上に勉強することを約束してくれた。
まずは一安心です。
けど、この時点で漢字が日本に伝わると、平仮名や片仮名が発明されるのはその分、早くなるのかな?
「荊使君。他国の使者が到着し、謁見を申し出ております」
「うむ。直ぐに向かうとしよう」
衛兵がやって来て、何処かから使者が来たことを通達してきた。
距離からして、張宝からの使者かな?
そして、謁見の間に行くと、そこには見たこともない奴がいた。
鐘離昧のような見た目が男装の麗人という感じの人物だったんだ。
でも、張宝の配下にこんな奴はいない・・・・・・。
新しく配下に加わったのかな?
一応、どんな奴か見てみるか・・・・・・。
張良 字:子房
政治9 知略10 統率7 武力3 魅力9 忠義8
固有スキル 神算 鬼謀 説得 弁舌 看破 登用 人相 人望 情勢
えーっ!? まさかの張良!?
よくぞ参った! 6の人材よ!
・・・・・・じゃないのよね。
そんな驚きを隠せない僕に対し、張良は淡々と口上を述べだした。
「お初にお目にかかります。某、姓は張、名は良。字を子房と申します。涼州王君の使者として参った次第」
「何と協殿下の御使者であられたか」
「・・・こちらの希望と致しまして、五行祭が終わり次第、都へ攻め入ることを・・・」
「待たれよ。そのような事、余は考えておらぬ」
「何故ですか?」
「余は荊州牧である。都が賊や蛮人どもで荒らされているならいざ知らず、反旗を翻すような盲動は出来ぬ」
「既に荒らされております」
「・・・・・・ほう。誰にかね?」
「不埒な宦官や外戚どもにです。既にご存じの筈でしょうに・・・」
「・・・言いたいことは分かる。だが、それらが民を虐げてはなかろう」
「既に兆しが見えております。貴殿はそれを見て見ぬふりをする気か?」
「余は荊州牧であるぞ。第一に優先すべきは荊州だ。それに都が乱れたら、まずは南陽王君(劉岱)から連絡が来よう」
「それでは遅すぎます。後手に回ることになりますぞ」
「だとしても動くことは無理だ。帝が十常侍や何大将軍への討伐を命じられたのなら、軍を進めるが・・・」
「今が絶好の好機なのですぞ。袁兄弟や董卓までも都にいるのです。これらの凶賊を討ち果たすのに、何を迷うておいでか」
「無茶なことを申しなさんな。そうなれば南陽王君だけでない。襄陽王君(劉表)や南郡府君(蔡瑁)らとも矛を交えねばならぬ」
「それらはどうにでもなりましょう。あくまで奸臣を除くのが目的なのですから」
「大体、余の軍勢だけで・・・」
「お待ちを。貴殿の軍勢だけではありませぬ。豫州王君(劉寵)、益州王君(劉焉)、そして我が軍勢も合わせれば・・・」
「決起する保証でもあるのか?」
「実は水面下で豫州王君と交渉を進めております」
「・・・何?」
「豫州王君と貴殿は縁戚。何も問題ありますまい」
「勝手なことを申されるな。大体、都を攻めた後、どうするつもりだ?」
「まずは帝に退位して頂き、豫州王君にご即位願います。涼州王君は豫州王君の養子となり、貴殿には丞相となって頂きます」
「益州王君は如何いたすつもりだ?」
「太尉となって頂く所存です」
「・・・・・・」
何てリスキーな申し出を・・・・・・。
確かに上手く行けばクリアだけど、無茶がすぎるよ・・・・・・。
「そうとは限らんぜ。ボンちゃんよ」
「フクちゃんか・・・。どうしてそう思うんだ?」
「現在、都は束の間の平和な状況だ。大軍が三方から押し寄せてくるとは思っていない筈さ」
「・・・でもさ。大義名分がないよ?」
「そんなもんでっち上げるに決まっているだろ」
「・・・どうやって?」
「そりゃ『今の帝のままでは未曾有の大災害が起きる』と吹聴するんだよ。五行祭が終わった時にな」
「えええ!?」
「そうすりゃ群衆は挙ってデブ帝の退位を連呼するさ。黄巾なんて目じゃねぇほどにな」
「・・・そんなに上手くいくの?」
「少なくとも絶好の近道の筈だぜ」
「・・・でも、上手く丞相になったとしてだよ。・・・・・・その後」
「知ったことか。大体、丞相になればクリアなんだしよ」
「そりゃ、そうだけど・・・」
「その後なんてどうだって良いじゃねぇか。とっととクリアしたくねぇのか?」
「・・・・・・」
言われてみれば、確かにその通り・・・・・・。
それに張良の申し出だしなぁ・・・・・・。
一応、ジンちゃんにも聞いてみるか・・・。
念のため、フクちゃんはオフモードにしておこう。
「・・・だ、そうだけど、ジンちゃんの意見はどう?」
「凶賊の言うことも一理あります。私としては民衆を誑かすのは反対ですが・・・」
「じゃあ、ジンちゃんは反対?」
「それよりもボンちゃんはどうなのです? 私が反対したから止めるというのは、責任から逃げる行為とも思いますが・・・」
「・・・う」
「・・・やはりそういう事でしたか」
「ち、違うよ。参考までに聞いただけだよ」
「・・・そういう事にしておきましょう。では、私は保留ということでお願いします」
「・・・・・・」
随分、冷たいじゃないか・・・ジンちゃん。
でも、本当にどうしよ・・・。
考え抜いた末、出た答えは・・・・・・。
「・・・・・・良く分かった。子房殿」
「では、挙兵を」
「いや、そうではない。返答に時間が欲しい」
「何ですと?」
「実のところ、五行祭が終わり次第、交州を攻める手筈を整えているのだ」
「・・・成程、左様でありましたか。道理で・・・」
「それ故、近い内に衝陽にて豫章府君(張宝)、会稽府君(賈琮)、交使君(士燮)、区連らが一同に介す。その折、この件に触れてみたいと思う」
「何故です? その者達は・・・」
「関係がある。豫章郡と会稽郡は揚州だ。となると、揚州王君(劉繇)にも関わってくるだろう」
「・・・ふむ」
「揚州王君は南陽王君の実弟でもあるし、当人も朝敵の汚名を返上したい筈」
「成程。劉繇殿を介して劉岱殿をこちら側に・・・」
「左様。そうなれば襄陽王君もこちらに引き込みやすい。それに襄陽王君も十常侍を毛嫌いしておるしな」
「いや、それは確かに妙案です。この張良、感服しました」
何とか取り持つことには成功。
でも、これだと既定路線にされちゃいそうだな・・・。
上手く丸投げするには・・・・・・。
「待った。勘違いなさっては困る」
「何ですと?」
「この会合に貴殿も参加されよ。そして、是非を説いたまえ」
「何を申されますか? それに張宝に至っては・・・」
「うむ。存じていると思う。だからこそだ。それに豫州王君と青州牧(張角)は盟友の筈。問題あるまい」
流石に張良も困惑の表情を浮かべた。
でも、こうしないと勝手に話が進みそうだしな・・・。
こちらとしても周囲と連携しない限り、怖くて北伐なんて無理ですから。
「・・・・・・宜しい。試しにその者らに会いましょう」
「残念だがまだ到着しておらぬ」
「何ですと?」
「それと豫章府君以外、余は未だに会ったことがない」
「・・・・・・なっ」
「それ故、余も北伐の約定が出来ぬのだ。つまり、そういうことだ」
張良の表情が更に曇る。
確かに責任転換かもしれないけど、これは仕方がないことなんだ。
洛陽へ進軍するということは、それなりの兵力を動員することになるからね。
それと張良がいるというのはシークレットにしておかないと・・・。
ここには孫策も周瑜もいるからね。
そのことも伝えると、そこは快く了承してくれた。
張良の思わぬ来訪の後、続々と件の州牧や太守も到着してきた。
張宝以外は初顔合わせなので、能力値を見ると以下の通り。
賈琮 字:孟堅
政治8 知略7 統率7 武力5 魅力8 忠義7
固有スキル 開墾 判官 帰順 弓兵 看破 鎮撫 説得
士燮 字:威彦
政治9 知略6 統率5 武力2 魅力9 忠義5
固有スキル 登用 商才 治水 情勢 帰順 鎮撫 教授
区連
政治6 知略7 統率8 武力7 魅力7 忠義3
固有スキル 象兵 開墾 鎮撫 踏破 水軍 制圧 看破
全員、強いなぁ・・・・・・。
皆、配下にしたいぐらいですよ。
張宝含めてね・・・・・・。
個別の謁見では皆、愛想良く応じてくれたけど、当然何かしらの思惑がある。
特に士燮と区連には要注意。
この二人は未だに争っている最中だからだ。
色々と考えた末、僕は張宝にだけ謁見の折、個人的に意見を求めることにした。
何故、張宝だけに相談するかと言えば、この会合において唯一の見知った人物というのもあるが、それだけじゃない。
張宝の軍勢は荊南に次いで多いからだ。
それに張角と劉寵の関係状況も知りたいしね。
「此度の五行祭へのお招き、誠に有難い。誠に痛み入りいる」
「こちらこそわざわざのお越し、痛み入りますぞ。豫章府君」
「はい。それと先だっての交州攻めの話だが、こちらも喜んで兵を出す所存である」
「それは重畳。ところで貴殿に相談があるのだが・・・」
「ほう・・・? 交州攻め以外の話であるか?」
「うむ。実は折り入って内密の話なのだ」
「交州攻め以外で内密とは・・・。如何なる話であるか?」
「涼州王君から都入りの打診があったのだ」
「なっ!? なんと申した!?」
「それで余は迷っておる。交州を攻めた後、都へ攻め入るかをな・・・。貴殿はどう思う?」
「・・・・・・」
張宝は渋い表情で目を瞑った。
果たしてどう判断するのやら・・・・・・。




