第八十話 ついに6がキターッ!
さて、どうしたものか・・・・・・。
僕が押し黙ると范増が怪訝そうな表情を浮かべながら切り出した。
「・・・・・・こりゃお主」
「何だ? 亜父よ」
「交州の攻略は後顧の憂いを絶つからではないのか?」
「・・・・・・そのつもりだが?」
「ならば何故、朝鮮や倭国なんぞに興味を持つのじゃ?」
「選択肢は多いに越したことはない。それに倭国には金銀が溢れているのだぞ」
「そのような話、聞いたことがないぞ・・・」
「そうだろうな。余にしか知り得ぬ話だ」
「・・・・・・いい加減。夢で押し切るのはやめよ」
「何故だ? それで上手く事が進んでいるのにか?」
「・・・それはそうじゃがのぉ」
「それに倭国に攻め込むつもりはない。送り込むのは、あくまで山師や商人どもだ」
「・・・なら良いが」
「亜父の言いたいことは分かる。北伐のことであろう」
「当然じゃ。大体、既に大義名分なぞ必要ない」
「何故だ?」
「考えてもみよ。お主が五行祭を行うということは、既に朝廷が天から見放されていると思われる行為だ」
「・・・・・・」
「それでお主が、五行祭などという突拍子もないことを企てたと思っておったが・・・」
「・・・ということは、亜父は我らが五行祭を行うことに際し、朝廷が我らに討伐令を出すことを望んでいたのか?」
「当然じゃ。お主らしからぬとは思ったがのぉ・・・」
「・・・ふむ。だが、まだ決め手に欠けるな」
確かにそれも一つの手か・・・。
でも、朝廷を挑発するとして、どんな手段があるんだろ?
「・・・亜父よ。五行祭にて更なる挑発を行うとすれば、どのような手段がある?」
「・・・そうじゃのぉ」
「儒者連中にも納得がいく上でだぞ」
「それがちと難しいか。ふむ・・・・・・」
僕は劉氏ではないので、勝手に王や帝を名乗ることは出来ない。
いや、名乗れないことはないけど、それだと完全に鄭玄らから総スカンを喰らってしまう。
・・・となると、一番良い方法は。
・・・・・・駄目だ。幾ら考えても名案が浮かばない。
大体、儒者たちも納得がいく上で改めて朝敵になるなんて、どうすれば良いんだ?
下手な挑発は自殺行為に等しいよな・・・・・・。
そういえば6の奴はまだ衝陽にいるんだっけ。
散歩がてらに探すことにしよう。そうしよう。
歩いている内に名案が浮かぶかもしれないし・・・・・・。
大体、6の奴もまだ見つかってない訳だし・・・・・・。
「・・・それよりもお主に聞きたいことがある」
「何だ? 亜父よ」
范増が去り際、僕に質問してきた。
何だろう・・・・・・?
「お主、倭人の言葉を何処で学んだのじゃ?」
「・・・・・・」
そりゃ、現実世界の日本から来たんだから当然でしょ。
・・・・・・なんて言える訳ねぇじゃん。
・・・・・・どうしよ。
何とか応対してフクちゃん。
「少しはボンも考えろや・・・」
「そんなこと言ったって・・・。大体、展開が滅茶苦茶すぎるんだよ」
「そりゃ俺も思っているけどよ・・・」
「・・・あ、そうだ。倭人の神に習ったということにすれば・・・」
「でも、お前さん。当初から日本語で喚いていたんだろ?」
「・・・じゃあ、幼少期に会ったことにしておけば」
「んじゃ、それでいくか。で、神の名前はどうする?」
倭人の神の名前っていきなり言われてもなぁ・・・。
イザナミとかイザナギの方がいいのか?
でも、それもなんだかなぁ・・・・・・。
そして考えた末に出た名前は・・・・・・。
「東照大権現でいこう」
「・・・おいおい。家康かよ」
「司進の幼名は竹千代だから関係がない訳はないし・・・。それに僕、東軍派だし・・・」
「お前、家康が好きなのか?」
「少なくとも嫌いじゃない。それに戦国時代を終わらせたのは、誰が何と言っても家康だ」
「分かった・・・。じゃあ、それでいくな」
フクちゃんは大きな深呼吸したらしく、その息づかいが聞こえた。
流石にフクちゃんも緊張するらしい。
「亜父よ。余はかつて幼少の折、様々な神々と既に出会っていたのだ・・・」
「・・・・・・な、何じゃと?」
「その中の一人、東照大権現と名乗る倭人の神から直に教わった」
「どのような神じゃ?」
「倭国の戦乱を終わらせた神よ」
「・・・・・・ふぅむ」
「司進の幼名も東照大権現の幼名からあやかってつけたものだ。その甲斐あって、今では立派な若者に成長した」
「そうなのか?」
「おかしなことと思うが事実だ。嘘だと思うのなら何故、そんな嘘をつかねばならぬ」
范増はそれでも不審がっていたが、渋々了承した。
だからといって、本当のことが言える訳ないしね・・・・・・。
それから数日後ほどは6を見つけるための巡回と、倭建の愚痴を聞かされる日々が続いた。
殺されるのは嫌なので、なんとか倭建を宥めることに一苦労。
コイツが暴走するとシャレにならんからね・・・。
この政庁に着いた当初、倭建は自慢げに自分の兄をバラバラ死体にしたことを、僕に自慢したんだよ・・・。
既にもうやっちまった後だったのね・・・・・・。
その後「親父が怯えたような目で俺を見た。なんて親父だ! 親父のためにしてやったのに!」とか叫んだんだ・・・。
鐘離昧の場合はキレたら生き埋め、こいつはキレたらバラバラ死体・・・。
色々とヤバすぎるよ。僕の陣営・・・・・・。
そして、ある日のこと。
ついに人材のオーラを発見したんだ!
能力値を確認しようと近づくとすると・・・。
「・・・・・・おい、何をやっているのだ?」
「・・・・・・え?」
どこぞの町娘に化けた倭建だった・・・・・・。
この野郎、どっから脱走しやがった・・・。
でも、逆ギレしたらバラバラ死体になりかねないので、注意が必要だ・・・。
ゴリ子と許褚が護衛にいるけど、後で殺しに来るかもしれないし・・・・・・。
「だから、ここで何をしているか聞いているのだが・・・」
「お待ちを・・・。何のことでしょう?」
ん? ちょっと待て。何かおかしい・・・・・・。
というのも声も少しだけ違うし、流暢な漢語だし・・・・・・。
そして身長も女性にしては高い方だけど、少なくとも180センチメートルはない・・・・・・。
でも、オーラはある・・・・・・。どういうこと・・・・・・?
試しに能力値を見てみよう・・・・・・。
李秀 字:淑賢
政治7 知略8 統率8 武力8 魅力9 忠義8
固有スキル 看破 鎮撫 弁舌 機略 強奪 帰順 鉄壁 抗戦
正しく6だーっ!! しかも、待望の正統派ヒロインだーっ!!
けど、倭建とウリ二つっていうのは、どういうことだーっ!?
そのせいで素直に喜べません・・・・・・。
そして李秀はというと、僕が興奮した様子に当惑した様子。
当たり前っちゃあ、当たり前か・・・・・・。
「・・・・・・い、いきなり何ですか? 貴方は・・・」
「すまぬ。人間違いをしていたようだ・・・・・・」
「は・・・はぁ・・・・・・。そうですか・・・・・・」
「失礼ついでに申すのだが、君の名は?」
「李秀。字を淑賢と申します。ところで藪から棒に何を・・・」
「これはすまない。余は荊州牧をしている司護。字は公殷と申す」
「・・・ええっ!? 荊使君ですか!?」
「嘘ではない。それを証拠に噂通りの変人であろう?」
「・・・クスッ。本当にお噂通りの面白い御方ですね」
「・・・・・・で、余に仕えて欲しいのだが、どうであろう?」
「元よりそのつもりで益州から参りました」
「おお、そうであったか」
「はい。荊南では『才ある者は女人でも仕えることが出来る』と聞き及びまして・・・」
思わず僕は李秀の両手を握っていた。
李秀は少し恥ずかしそうな様子で頬を赤らめる。
素直に可愛い・・・。けど、中性的な顔立ちは倭建の顔とウリ二つ・・・。
・・・・・・むむむ。
「ちょいとアンタ! 変な色目遣いするんじゃないよ!」
突如としてゴリ子が怒鳴る。
手を握るぐらい良いじゃないか・・・。
すると李秀がゴリ子に切り返した。
「そのような事は毛頭ありません。話を聞けば民のために、荊使君は独身を貫いているとか・・・。その邪魔をする者は民の敵でしょう」
「・・・何だって?」
「したがって、貴方が言うような神を怖れぬ行為は致しません。ご安心なさい」
・・・いきなりフラグをへし折られました・・・。
まぁ、自業自得なんでしょうけどねぇ・・・。
でもさ。雑魚の女盗賊って聞いていたけど、どうみても雑魚じゃないよね?
どういうことなんだろ・・・?
・・・ということで、老師よ。大人しく出てきたまえ。
理由を聞こうじゃないか。
「いやぁ・・・失念しておったわい。まさか李秀とはの・・・」
「どういうことなんだよ? 嘘はいかんよ」
「嘘ではない。女盗賊の二人は雑魚じゃ。この者は三国時代ではなく、晋から五胡十六国時代の者じゃよ」
「じゃあ、何でいるの?」
「確か儂『西暦三百年までに生まれた者』と言うたじゃろ? つまり、そういうことじゃよ」
「・・・でも、晋の時代からだとゲームとしておかしくない?」
「そんなことを言ったら、あくまで三国時代のゲームなんじゃから、曹操まで居るのがおかしくなるぞい」
「はぁ?」
「あくまで後漢が終わり、魏、呉、蜀において帝が即位した時点で三国鼎立の時代じゃ。曹操はその前に死んでおるからの」
「・・・言い訳がうぜぇ」
「まぁ、そう言うな。で、李秀じゃが、父親の後を継いで城を守り抜き、最後は周辺の異民族を手懐けた者じゃ」
「そうなんだ」
「因みに死後は隋や唐に神扱いされておる。それが、この高評価という訳じゃな」
「あと、馬隆はどういう人物?」
「馬隆は主に涼州で活躍した晋時代の名将じゃ。氐族や羌族、鮮卑に怖れられた男じゃな」
「どっちも主に異民族との戦いの功績で評価されているのか・・・」
「三国演義などでは孟獲ばかり目立っておるが、実際はどの勢力も異民族問題に散々頭を悩ませておったのじゃよ」
「成程ねぇ・・・。それで正史系の人物が省略されちゃっているのね」
「ま、そういうことじゃな」
「でもさ。思うんだけど『3が姜維』って、やっぱ評価が低すぎない?」
「姜維は政治の能力値が散々じゃからのぉ・・・。総合的に見ると仕方ないのじゃよ」
「え? そんなに政治の値が低いの?」
「北伐を主張し続けて蜀の滅亡を早めたからのぉ。まぁ、国力の差はどうにもならんから、何れ蜀は滅ぼされておったじゃろうが・・・。じゃあの」
「あ、待って老師」
「何じゃい?」
「結果的に嘘をついたんだから、謝罪はどうでも良いけど賠償を要求する」
「・・・おいおい」
「という訳で于吉仙人に宜しく」
「・・・全くお主という奴は・・・。まぁ、良いじゃろ。このサイコロを振ってみよ」
「え? 老師も持っているの」
「・・・うむ。本当はあかんのじゃが、于吉と被らない特別なサイコロじゃ」
「おおお・・・。感謝します! 老師!」
「良いから振れ・・・・・・」
よし! これでサイコロをもう一回ゲット!
そして結果は6でした!
もう晋時代だろうが、そこそこの当たりだろうが、構うもんか!
「6か・・・。こういう所は本当に強運じゃのぉ。」
「勿論、一番良いんだよね。・・・で、誰?」
「楽しみにしているが良い。じゃあの」
そういうと老師はまたもや忽然と姿を消した。
・・・にしても姜維の評価はそういうことか・・・。
でも確かに、そう言われてみればそうだしなぁ・・・。
費禕が殺されてから、箍が外れたように北伐しまくったしな・・・。
「・・・あの荊使君?」
「ん? ああ、何だね? 淑賢(李秀の字)」
「いきなり黙ってしまったので・・・。それと私とよく似た女性とは・・・」
「・・・ああ、会わせてあげよう。ついて来なさい」
倭建はどういう顔するだろ・・・?
これはちょっとした見物ですよ。
身長差が5センチメートル程あるけど、余りにもウリ二つだしな。
そこで老師に説明を求めようと思ったけど、敢えて止めました・・・。
多分だけど「顔グラの使い回しじゃね?」とか言いかねないしね。
政庁へ戻り、そっと倭建がいる部屋を覗くと、筆をガリガリと噛んでいる倭建が居た。
どうも漢字の書き取りの練習中らしい。
頭は良いせいか、一般の漢語による会話は既に熟せるけど、漢字には悪戦苦闘しているようです。
僕も自動翻訳の能力が無かったら酷いことになっていたから、そういう意味では有難い・・・のかな?
「おい貴様! そこで何をしている!」
やばっ・・・気づかれた。
でも、すぐに李秀に引き合わすのは面白くない。
ちょっと間を置かせよう。
「ああ、どれくらい漢語を学んだかと思ってな」
「言葉はまだ良い! それよりも、この文字というのは何だ!? 何の意味がある!」
「・・・意味はある。大体、文字が無ければ未来に伝えることが出来ぬではないか・・・・・・」
「未来とやらに何を伝えるというのだ? 食って寝て、気にくわない奴をブッ殺す。それで良いではないか」
「・・・それでは獣と変わらぬではないか」
「人も獣も同じだ! 違うのは言葉を話すかどうかだ!」
「・・・・・・」
多分だけど、項羽みたいな奴だな・・・こいつ。
危険なこと、この上ないや・・・・・・。
「何を叫んでおられ・・・・・・!?」
倭建の怒鳴り声に反応し、ひょいと扉の隙間から李秀が顔を出す。
当然、両者の時は一瞬止まった・・・・・・。
「だ・・・・・・だ・・・・・・誰だ? お前」
「え? 何? 何を言っているの?」
「だから、誰だ? お前は・・・・・・」
倭建が日本語で話すので、当然ながら李秀には通じない。
倭建よ・・・・・・。ここは「日本語でおk」ではなく「漢語でおk」なのだ・・・。
僕の思いが通じたのか、今度は倭建が辿々しい漢語で李秀に話しかける。
「ええい。面倒な・・・。お前は誰なのだ?」
「李秀。字は淑賢よ。成程、道理で荊使君が間違える訳ね・・・。でも、不快だわ」
「はぁ? お前、何を言っている・・・」
「そもそも貴方は何処の野蛮人なのかしら?」
「何だと!? この俺が野蛮人だぁ!?」
「あら? そうじゃなくて? さっきの野蛮女もそうだけど、もう少し行儀作法を身につけた方が宜しくてよ」
それ以上、挑発するんじゃない!
相手は実の兄を、平気でバラバラ死体にするサイコ野郎だぞ!
かなり怖いけど、割って入るしかないか・・・・・・。




