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第十二話 人物鑑定団…?


 秣陵から北に馬を走らせること二時間余り。

 閑散とした平野部の村の中に蔡邕の庵があるらしい。

 僕は馬を走らせながらも、頭の中で思い出そうとしていた

 首の辺りまで出かかっているんだけどなぁ……。

 

「おい、公殷! ここだ! ここ!」

「お、おう。陳平」

 

 ボーッとしていたせいか、僕は少し離れたところで馬を止めた。

 庵といってもそれなりに大きい屋敷のようで、生垣の中から琴の音色が聴こえていた。

 

「綺麗な音色だなぁ……」

 

 そう思うと同時に「もし奥さんが凄い美人でも寝取るようなことはしないでおこう」と思った。

 だって曹操じゃあるまいし、それに典韋も息子もいないしね!

 そこで暫く琴の音色を聴いていると、可愛らしい六歳ぐらいの女の子に見つかった。

 

「失礼ですが、どなた様です?」

「私は司護という旅の者です。蔡邕殿の屋敷はここで宜しいかな?」

「父ならそこで琴を奏でていますよ」

 

 しっかりした娘さんだなぁ……。六歳ぐらいとは思えないや。

 確かに可愛らしい子だけど、年齢的にストライクじゃないので論外。

 ……僕はロリコンじゃないんだよ!

 

 蔡邕の娘を名乗る女の子が高く澄んだ綺麗な声で呼ぶと、中から優しそうな面持ちの初老の人が現れた。

 あれ? 祖父の間違いじゃないのかな? 年齢的に随分離れているようだけど……。

 それは兎も角、この人が蔡邕に違いないと思い、僕は急いで目を瞑り、パラメータを見た。

 

蔡邕 字:伯喈 能力値

政治8 知略6 統率1 武力1 魅力7 忠義8

固有スキル 書家 故事 開墾 芸事

 

 おお、中々! でも、また知らない固有スキルが!

 

「……呼ばれなくても出てきてやったぞ」

「おお、水鏡先生。こんな所までご足労いただいて」

「よしよし。さっさと説明するぞ。『書家』は外交に使う固有スキルじゃ。外交する者に持たせる手助けになる手紙などを作成する時に使う」

「……それと芸事は?」

「これこれ、慌てるでない。『芸事』は……特に役に立つかどうか分らぬが、外交に来た者を取り成すお助けスキルじゃ」

「どっちも外交でのお助けスキルかぁ。……微妙だなぁ」

「そう言うでない。後々『あって良かったぁ!』なんて言うこともあるかもしれんぞ。ないかもしれぬが、それもよしよし。では、の」

 

 開墾も持っているし、悪くはないか。

 それなりにはオイシイしなぁ……。

 

「これは蔡邕先生。お初にお目にかかります。某、姓は司、名を護、字を公殷と申します」

「このような庵に何の用ですかな?」

「実は先生に我が領内に来ていただきたく参りました」

「……我が領内ですと? 失礼ですが、何処の……?」

「……長沙です」

「……はて? 長沙と言えば太守は今はおらぬ筈ですが……」

「あ、いや。私は長沙の正式な太守ではありません。恥ずかしながら官位はありませんので……」

「おお……近頃、評判の賄賂嫌いの平民太守殿でしたか」

「ハハハ。そのようなお噂が……」

「いやいや、其処許そこもとが……成程のぉ。で、この儂に『何をせよ』と?」

「是非、長沙にて私に色々とご教授をお願いしたい」

「儂がですか……? 失礼だが、断らせてもらいたい」

「……何故です?」

「儂は宦官の連中に嫌われておる」

「それならば私も同じです。何せ『賄賂嫌いの平民太守』ですからな」

「ハハハ。確かにそうですな。しかし今後、正式に太守に任命される際に儂は邪魔になるでしょう」

「この先も賄賂を贈るつもりはありません。それならば問題ないでしょう」

「いやいや……それでは君が困ったことになりはしまいか? いつまでも賊と同じ扱いですぞ?」

「いいえ。『天網恢恢てんもうかいかいにして漏らさず』です。悪政の元凶である宦官達が粛清される日がきっと来ましょう」

「……失礼ですが、其処許は漢を助ける為に太守をやっておられるのですかな?」

「いいえ。それはちと違います。私は領民を助けるためです。しかし、それは何れ漢の為にもなることでしょう」

「言うのは容易いですがなぁ……」

「それは百も承知しております。ですが、王儁殿も渋々ですが承知下さいました」

「……何と? あの王儁殿が?」

「如何にも。先生もお越しくだされば、きっと喜んでくれましょう」

「ふぅむ……儂はこのまま庵で平穏に暮らしたいだけなのだが……」

「……そこを何とか。この司護に力をお貸しください。先生!」

 

 僕はそう言うと土下座した。

 随分と頭の低い君主だなぁ……。

 てゆーか、現実に戻ったときに癖になっているじゃないかなぁ……? 不安だ……。

 

「頭を上げられよ……。司護殿」

「……蔡邕先生?」

「このまま隠遁していたかったが、そこまでされたら仕方がない。長沙に参りましょう。家族も連れて行って宜しいか?」

「……ど、どうぞ! 長沙は広く、人心も安定しております! 秣陵と同じくらい発展しようとしております故!」

「……それならば儂なんぞ必要ないのでは?」

「あ、いや……そういう訳では……」

「ハハハ……冗談ですわい。立ち話もなんですし、中にお入り下され。供の方々も遠慮なく」

 

 庵はそれなりに広いが質素で、高価そうな品物はさほど多くない。

 宮中で知られている人だから、高価そうな品物とかあっても不思議じゃないんだけどなぁ……。

 まぁ、書家らしく、硯とか琴とかはそれなりに良い物らしいけど……。

 

「しかし司護殿は何故、このような場所にまで? 儂を訪ねに来ただけではないでしょう?」

「蔡邕先生。実は黄巾賊が、江夏付近にまで南下しているのはご存じですか?」

「……うむ。噂は聞いておりますが……」

「そこで近頃、汝南や寿春を占拠し、勢いが乗っている袁術殿の所へ向かおうと思っていたのです」

「……何をしに?」

「……『何を』って……袁術殿は漢室を助ける為に汝南に居を構えたのでは?」

「ハハハ。あの男はそのようなこと考えてもないであろう。あわよくば帝位を簒奪しかねない男ですぞ」

「……そ、そんな無茶な」

「儂も会ったことはあるが、あの男は野心家で漢も民も考えていない。傲慢で自分のことしか考えていない男です」

「……やはり、そうですか。まぁ、薄々気づいてはおりましたが……」

「それですんなり帰るおつもりかね?」

「いえいえ。それと張昭殿、張紘殿という人物を召し出すつもりです」

「……ほほう。では、儂はついでか?」

「……い、いえいえ。そういうつもりでは」

「ハッハハハ。司護殿は面白いお方ですな」

「……は、はぁ。ついでといえば、先生は何方か心当たりはおありですか?」

「……心当たりですと? 何のですかな?」

「いや、共に長沙に参られる人物をご推挙して頂ければ……」

「ハハハハ。司護殿は随分と贅沢な人物のようですな」

「私の為ではありません。民の為です。駿傑、英才をあたら野に埋もれさせておくのは勿体ないでしょう」

「そうですなぁ……近頃、徐奕じょえき。字を季才という者が徐州から移ってきましたが……」

「また、知らない名前が……」

「……は?」

「い、いえ。……徐奕殿ですか」

「会って話したことがありますが、中々の人物でありました。それと……これはちと無理か」

「誰です?」

「顧雍という者です。ですが、まだ若すぎる。家族もおりますし、この者は無理でしょうな」

「顧雍は確か政治力が中々……」

「……? い、今、何と?」

「い、いや。そうですか……。では、まず徐奕殿にお会いしましょう」

 

 そして、蔡邕は先に家族と共に長沙に向かうということで話はついた。

 顧雍かぁ……。

 顧雍は結構、使えたよなぁ……。

 おっと、まずは徐奕か。

 まぁ、パラメータを見てから決めるか。

 

 ああっ!? 今頃、蔡邕のことを思い出した!

 王允に殺された人じゃないか!

 董卓が斬られて泣いていたからって!

 

 まぁ、でも使える能力値だから気にしないでおこう。そうしよう。

 聞けば徐奕は秣陵の街の中にいるという。

 顧雍も街の中だとか……。

 難しいらしいけど、顧雍は絶対に雇用するぞ!

 ……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 

 秣陵についたのは丁度、夕暮れ時だったので、再び婆さんの御宅にお邪魔することになった。

 婆さんは僕たちのことが気に入ったらしく、それなりにご馳走して持て成してくれた。

 ……うん。ちゃんとした鶏肉とかだったよ。人肉じゃなかったよ。

 明くる日「厩舎に行ったら人が死んでいた」ってオチは勘弁だからね!

 

 そんな冗談は兎も角、婆さんと婆さんの家族達で夕食時の団欒の際、ある事が話題となった。

 許劭という人物が劉繇の客人として城に招かれているという。

 そして、翌日には人物評を行うというのだ。

 まだ若いが人物評で中々、評判とのことらしい。

 何処かで聞いたことがある名だと思ったら許子将のことか!?

 

 婆さんは僕に「兎に角、見てもらいなさい」とグイグイ来た。

 ある意味、劉繇のパラメータを見るチャンスでもあるけどさぁ……。

 でも「お前は乱世の奸雄だ!」なんて言われたらどうしよう?

 そんな大層なことは言われないと思うけどね……。

 

 翌日の朝、婆さんに半ば強引に押し切られて、僕は城へ向かうことになった。

「ツテはあるのか?」と聞いたら娘婿が、この城で従事をしているんだそうだ。

 当然、一人で行くことにしたよ。

 万が一、引き抜かれでもしたら大変だからね!

 

 城の中へ通されると、そのまま広い客間へと通された。

 そこの客間では、かなりの人数でごった返している。

 人物評が評判と聞いてきた人達のようだ。

 

 その中に精悍な面持ちをした少年がいた。

 齢の頃は現実世界の僕と同じくらいだから、ここでは成人ということになるのかな?

 突然、何か頭の中で光った気がしたんだよ。

「これは恐らく『登用』の固有スキルが発動した」と思って、その若者のパラメータを見た。

 

是儀 字:子羽

政治8 知略7 統率6 武力4 魅力6 忠義7

固有スキル 判官 開墾 機略 看破

 

 おお!? 中々の数値!? でも、是儀しぎってやっぱり聞いたことねぇけど!?

 こんな人物を劉繇のところで登用される訳にはいかない。

 ここでヘッドハンティングしてしまおう!

 

「失礼ですが君は……」

「……? 私ですか? 是儀。字を子羽と申す者ですが……」

 

 ……さて、どう切り出そう。

 考えてみたら、ここは劉繇の城の中だった……。

 ここで正体をバラす訳にはいかないよなぁ……。

 

「ちと、内密で話したいことがある。少しつき合ってはくれぬか? 是儀殿」

「……はぁ? いや、何故……それ以上に貴殿は?」

「……それは向こうで」

 

 僕は強引に是儀を客間の外へ連れ出すと、他に誰もいないのを確認した。

 是儀は少し怯えた様子で僕を見ている。

 まぁ、当然だろうけどね……。

 

「失礼致した。是儀殿」

「何ですか……貴方は? これから許劭殿に幾つか聞きたいことがあるというのに」

「まだ名乗っていませんでしたな。私は司護。字は公殷という者です」

「……その名は聞いたことがあります」

「……長沙にて太守をしております」

「あっ!? では、巷で噂の賊太守殿!?」

「ぞ……賊太守?」

「あ!? これは失礼致しました! 義賊太守殿と言おうとしたのですが……」

「ハハハ……。平民太守といい、賊太守といい……。私も随分と有名になったものだ」

「お噂はかねがね……。賄賂を一切、贈らないから『未だに正式に任命されてない』というのも承っております故」

「ならば話は早い。どうか長沙にお越しください。是儀殿」

「いやいや……話が性急すぎます。それに貴殿が司護殿であるという証拠がないではありませんか……」

「確かにそうですが、朝廷から賊扱いされているのに、偽物がわざわざこんな所で名乗る筈がありませんでしょう?」

「……そ、それはそうかもしれませんが。しかし何故、いきなりこの若輩者の私を?」

「私も人物評に関しては、ちと自信がありましてね。貴殿に将来性を見出したのです」

「………はぁ?」

「見たところ、貴殿には『王佐の才あり』と出ました。古の蕭何、鮑叔牙と同じ相です」

「……それはお世辞でも嬉しいですね。しかし、その両名を出すということは、漢を貴殿は……」

「私は民の為に働いているまでです。民の生活が安寧ならば、漢は自ずと力は取り戻すことでしょう」

 

 その後、僕は滔々と弁舌を振い、是儀を説得した。

 是儀も最初は渋っていたが、とうとう根負けしたらしく、長沙に来てくれることになった。

 当初は張昭、張紘の二名の予定が急遽、蔡邕と是儀という逸材も手に入った。

 さらに次は徐奕と顧雍だ!

 でも、その前に一応、人物評を聞いていこう。

 婆さんに聞いてないことがバレたら面倒そうだしなぁ……。


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