第七十五話 君が6ならどんなに素晴らしいことか・・・
農産地区と商業地区の巡回を終えて政庁の仕事に戻ると、今度は色々な報告を聞くことになる。
まず提言されたのは、長沙の人事の案件だ。
韓曁を長沙から衝陽に配属変えしたので、衝陽から一人を選び、長沙に赴任させることにしたからだ。
色々と推挙された結果、僕は張昭の息子、張承にすることにした。
未だに親子関係が、少しギクシャクしているらしいしね。
あと、もう一人、張承がいるというややこしい状況のせいでもある。
でも、これって名前とか変えられないのかな?
ということで、当の本人を呼び出して聞くことにした。
「来てもらったのは他でもない。君の長沙赴任が決定した。役職は主簿だ」
「おお、ご配慮のほど、感謝いたします」
「・・・そんなに上手く行ってないのか?」
「私がというより『父と母が』ですよ。父は既に私より少し年上の若い娘を、第二夫人にしておりましたし」
「・・・・・・なっ? 何?」
「ま、それは別に良いのですが、母はしきりに『私が病床にいると知りながら』と父を問い詰めるもので・・・」
「・・・・・・ううむ。そういうことであったか」
「はい。それ程、大したことではないですが」
・・・・・・いやぁ、大したことだろう。
現代の日本で、そんなことを政治家がやったら、確実に袋叩きだよね・・・・・・。
「成程、そういうことであったか。母君のことは余から張先生(張機のこと)に良く言っておくから、安心して長沙にて励んでくれ」
「有り難うございます」
「それと君の名のことだが・・・・・・」
「ああ、太学従事殿(張範の弟)とのことですね」
「その通りだ。君さえ良ければだが・・・・・・」
「名を変えることなんぞ、些細なことです。如何ようにも」
「・・・・・・そうか。では、お言葉に甘えることにしよう」
こうして張昭の息子の張承の名前は、読みは同じだけど「陞」に決まった。
意味としては「地位が上がる」ということだから、問題はないだろう。
これで改めて韓曁は研究従事という新設された役職に内定。
同じ「発明」を持っている馬隆も研究従事中郎となった。
ただし、馬隆は専ら兵器開発に携わることになりそう。
暫く一息ついていると、今度は若い第二夫人を持つ噂の男がやって来た。
堅物のくせに良くもまぁ・・・・・・。
「これは留府長史。どうした?」
「先日、交州の董重が攻め込んだことについて、使いに出した張主記が戻りましたぞ」
「おう。張紘が戻ったか。どんな様子だ?」
「それは当人からお聞き下され」
張紘はいつもなら飄々(ひょうひょう)とした感じだけど、今回は少しばかり違っていた。
堂々と口をへの字にしているから、まず間違いなくダメな反応だったんだろう・・・・・・。
「それで張主記(張紘のこと)よ。朝廷は如何なる反応であったか?」
「それが『誠に遺憾である』だそうです・・・・・・」
どこぞの国の大臣みたいなことを言いやがって・・・・・・。
そんな言葉が全く役に立たないのは、嫌というほど知っているよ・・・・・・。
「本当にそれだけか?」
「いえ。それと『双方ともに話し合いで和解せよ』とのことでして・・・・・・」
「・・・・・・一方的に攻め込んで来たのは董州牧だぞ。それで納得せよと申すか?」
「どうもその様ですな。朝廷としては『辺境なんぞはどうでも良い』ということでしょうな」
「・・・・・・やれやれ。予想通りではあるが、こうも見事に予想通りだと何とも味気ないな」
「全くです。前回の来襲で懲りたと思いますが、暫くすれば性懲りも無くまた押し寄せますぞ」
「・・・・・・だろうな。だが、五行祭の延期は出来ぬ」
「・・・では、このまま捨て置くので?」
「いや、それは違う。密かに準備を整える。五行祭を行うことで相手も油断しよう。祭りが終わり次第、一気に攻め込むのだ」
「・・・成程。油断させておき、一気呵成に攻め込むのですな」
「うむ。問題は朝廷工作だが・・・・・・」
「その点はご安心を。こちらは『謝罪を受け入れる用意がある』とまず朝廷に申し入れます」
「うむ」
「董州牧は兎も角、弟の董承は断じて受け入れないでしょう。そうすれば、こちらは堂々と攻め入ることが出来ます」
「ハハハ。確かにあの董承のことだ。間違いあるまい。では、そのように致そう」
「御意。書状は何方に書かせましょう?」
「書経従事(蔡邕のこと)が適任であろう。早速、進めてくれ」
「ははっ!」
政略フェイズは出来ないけど、こういう外交のやり取りは可能なだけ、まだマシかな。
現段階において攻め込めるのは交州だけだし、朝廷・・・というより十常侍や何進とかは、僕の北進だけを警戒しているだろうからね。
逆に遠のくなら問題ないと思う筈だ。
問題は朝廷がまた交州牧を新たに任命することだろうけど、こちらは無視してやるつもり。
今の朝廷には僕を朝敵扱い出来る余裕はないだろうしね。
その余裕がないから、僕に荊州牧の印璽を渡してきたのは見え見えですよ。
そして、そうこうしている内に、早くも四月になりました。
・・・・・・ですが、一行に6の奴が来ません。
さっさと出てきて・・・・・・。お願いだから・・・・・・。
仕方ないので、僕はまたもや巡回に。
と言っても、ただの巡回ではありません。
武闘大会の予選があるので、その下見です。
6の奴とバッタリ会うかもしれないけど、普通に浪人している奴がいるかもしれないしね。
でも、それがねぇ・・・・・・。
見た目、強そうな奴は随分といるけど、ほとんどモブだ・・・・・・。
大声を張り上げて選考委員の周倉に挑むけど、簡単に取られる有様が続く。
流石は一度に五人の相手をした猛者、周倉!
・・・・・・うん。心の声ですよ。流石にね。
同じような光景が続くので、少し眠たくなってくる。
それから、どれくらい経っただろうか。
覇気のある若者の声が轟いたんだ。
「次は拙者が手合わせ願おう!」
「ハハハハ! お前みてぇな若造が何を抜かす!」
「フン! その鼻をへし折ってくれる! いくぞ!!」
試合を見ると周倉と互角だ!
やっと当たりが出たぞ!
早速、パラメータを見よう! そうしよう!
丁奉 字:承淵 能力値
政治5 知略8 統率7 武力8 魅力6 忠義7
固有スキル 豪傑 歩兵 補修 水軍 機略 疾風 伏兵
やった! 丁奉だ! 流石に強いぞ!!
そして、待ちに待ったコンビ結成だ!
コンビと言えば、黄忠と厳顔! 楽進と李典! そして徐盛と丁奉だ!!
徐盛は既にいるので、問題なし!
でも、6じゃないよね・・・・・・?
「そこまで! 見事だ! そこの若武者よ!」
頃合いを見て、僕は予選試合を止めた。
双方ともに互角だったし、周りから見ても文句なしと思えたからだ。
そして、続けざまに僕は丁奉に話しかける。
「今日は誠に嬉しい日だ。君のような若武者と出会えたことを嬉しく思うぞ」
「・・・・・・貴殿は?」
「余は司護である」
「えっ!? 荊使君ですか!?」
「そうだ。どうであろう? 余の配下として尽力してくれないだろうか?」
「勿体ない仰せ! 拙者、姓は丁! 名は奉! 字は承淵と申します!」
「うむ。これで名コンビ誕生だな」
「名コン・・・何です?」
「・・・・・・あ、いや。いやぁ、めでたい! 実にめでたい! ハッハッハッ・・・」
僕が笑って誤魔化していた矢先、もう一つの予選会場で凄いどよめきが起こった。
何が起こったんだろう・・・・・・。
そこで、急いでもう一つの会場に行くことにした。
当の試合会場は依然としてざわついており、何らかの出来事があったのに間違いはない。
そこで観戦していた近くの者に話しかけることにした。
「そこの君」
「あっ!? 荊使君!」
「・・・確か君は黄朗君だったね」
「はい! 憶えて頂き恐悦至極です!」
「それは良い。それよりも、何が起こったのかね?」
「徐晃殿が負けたのでございます!」
「なっ!? 何!? 相手の名は!?」
「索尊という若武者でございます!」
聞いたことないぞ! そんな奴!
こいつが正しく6に違いない!
徐晃を破るとは他に考えられないからね!
「・・・で、その索尊という者は?」
「あちらの若者でございます!」
10メートル先のそこには、正しく偉丈夫に相応しい若者がいた。
かなりお疲れの様子だけど、相手は徐晃だったから当然か。
では早速、その索尊の能力値を見てやろう・・・・・・。
孫策 字:伯符 能力値
政治6 知略7 統率8 武力9 魅力8 忠義5
固有スキル 豪傑 歩兵 弓兵 水軍 怒号 登用 捕縛 名声
・・・・・・って、孫策じゃねぇか!?
まさか孫策が6なのか!?
いや、それなら嬉しいけど、確か今は袁術の配下じゃ・・・・・・。
そしてその孫策は、何やら若いイケメン君と仲良く話している。
まさかと思うが・・・・・・。
周瑜 字:公瑾 能力値
政治6 知略9 統率9 武力7 魅力8 忠義9
固有スキル 神算 鬼謀 弓兵 芸事 水軍 看破 説得 弁舌
やっぱり! てか、メチャクチャ強いんですけど!!
併せて6ということですよね! そうですよね!
お願いだから「そうだ!」と言ってくれ! 于吉仙人!!
「い、いきなり何を騒いでおいでか・・・・・・」
「あ、いや! つい、興奮してしまってな!」
「何故です?」
「決まっているだろう! 孫策と周瑜だからだ!」
「ええっ!? 孫策!?」
その途端、それを聞いた衛兵達がどよめいた。
そして、一気に不穏な空気に・・・・・・。
あわわわ・・・・・・。不味い・・・不味いぞ・・・・・・。
どうにかしなければ・・・・・・。
「皆の者! 静まれい! 如何ようなことがあろうとも、五行祭の前に刃傷沙汰は控えるのだ!」
僕は大声で辺りを制しながら、孫策の近くに駆け寄った。
そして近くまで行くと頭の中で「しまった!」と思ったんだ・・・・・・。
人質にされたら終わりだからね・・・・・・。
折角、司進の幼名を梵天丸にしなかったのに・・・・・・。
けど、そんな気遣いは無用だった。
孫策と周瑜は、何故バレたか分からなかったらしいけど、大人しく膝をついてくれたんだ。
周りには猛将と衛兵がズラリといたからだろう。
それと一緒に駆けつけてくれたゴリ子のお陰とも言えるけどね・・・・・・。
なんか複雑ですよ。ホント・・・・・・。
「立ちたまえ。孫君に周君。余は君たちに会えて嬉しく思うぞ」
「え、いや・・・・・・。何故、我らと分かったので?」
「え? あ・・・・・・? ハハハハ! そんなことか! 余は千里眼と言えるものを授かっておるからな!」
「・・・・・・」
「そんなことはどうでも良い。配下の者達には、君らを害することは慎むように言っておく。ゆっくりと衝陽を愉しんでくれ」
「・・・・・・い、いや、しかし・・・・・・」
「四海皆兄弟と申すではないか。それに君の父上の孫府君(孫堅のこと)には恩がある。余が君らを殺したとなれば、余は嗤い者となる!」
「・・・・・・」
「君らが良ければ晩餐会を開き、招待したい。どうであろうか?」
「・・・しからば、宜しくお願い致す」
「おう! そうか! いやぁ、今日はめでたいぞ! ハハハハ!!」
何とか強引に収めることに成功したぞ!
けれども、周囲の目が痛い・・・・・・。
でも、気にしちゃダメだ!!
僕は孫策と周瑜を連れ、政庁へと向かった。
二人とも素直に従ったのは、外で出歩くのは危険だと判断したからだろう。
実際、ここには袁術の圧政から逃れてきた民衆も少なくないからね。
孫策と周瑜を客間に通し、孫乾や邯鄲淳に相手をするよう指示した。
この二人なら、さほど問題なく応対することが出来そうだからだ。
そして僕はというと、政庁の自室に籠り、料理人と打ち合わせをする。
それほど贅沢ではない範疇で且つ、出して良い料理を選定するためだ。
天竺や羅馬、大月氏からも料理人はいるので、バラエティには富んでいる筈だしね。
どの料理も僕にとっては「凄く美味しい!」と思えない物ばかりですけど・・・・・・。
ここでのメロンなんか初めて食べた時の感想なんて、少し甘いキュウリみたいな味ですよ・・・・・・。
品種改良って偉大だなぁ・・・・・・。
選定を終えると、今度は入れ替わるように臨時長史の范増がやって来た。
当然ながら、ここはフクちゃんで対応。
間違っても「毒殺しよう」とか言いませんように・・・・・・。
「おう。亜父か。何用だ?」
「袁術の手の者を招き入れたと聞いたのじゃが・・・・・・」
「うむ。それがどうかしたのか?」
「あの者達が項羽と親しい者と知っていてか?」
「何? そうであったか・・・」
「何じゃ。それで招いたと思っておったわい」
「・・・・・・それで亜父は、あの者達をどう使おうというのだ?」
「儂から言わせるのか? 今まで虞を娘として育てていたのは、その理由からじゃろう?」
「ハハハハ! 当然だ! 帝への進物なら、虞でなくても良いしな。大体、途中で宦官や何進らが掠め取るのが見え透いておる」
「フォフォフォ。やはり、そうであったか。お主が婦人の仁に感化されておらぬようで安心したわい」
「・・・・・・でだ。どのように虞をダシに使おうか?」
「簡単なことじゃ。あ奴らの酒を注げさせれば良い」
「・・・・・・それだけで良いのか?」
「虞は絶世の傾国じゃ。それに虞という名を出せば、奴らも勝手に憶測でするであろう」
「確かにそうだ。虞美人と言えば、妲己や褒姒、王昭君、西施と並び賞されるほど有名だからな」
「あの者達は、既に絶世の美女を妻にしておるらしいが、虞ほどではあるまいて・・・」
「フフン・・・・・・。そして、虞のことを項羽に告げさせるのか」
「・・・・・・上手くいけばじゃがな」
「項羽に告げない恐れがあるというのか?」
「孫策という男は直情の傾向があるらしいから、その恐れはないじゃろう。問題は、あの周瑜とかいう若造じゃ」
「・・・・・・成程。項羽の出奔を恐れて押し黙らせる可能性がある・・・ということか」
「うむ。じゃから、あの若造は人質として止め置くのが良いじゃろう」
「・・・・・・ううむ」
でも、周瑜の機嫌を損ねたくはないよなぁ・・・・・・。
上手く行けば、袁術から孫堅を離反させて、そのままガッツリ配下に出来るからなぁ・・・・・・。
どうしたものかなぁ・・・・・・。




