第七十四話 冗談じゃない!
二月に入り、王烈や鄭玄らは多忙を極めている。
何か申し訳ないけど、僕のせいじゃないんだよな・・・。
けど、一気に司進らを含め、人材が大量に入った筈なんだけどなぁ。
期待の若手らも仕事をこなしているのかな?
そう思い、僕は合間を縫って王烈に聞くことにした。
「ああ、忙しい。忙しい。何ですかな? 荊使君(司護のこと)」
「・・・うむ、王府君。ちと、司進らを始めとする若手らの働きを聞きたくてね」
「・・・若君は奥方と付きっきりですがな」
「お、おお・・・そうであったな。・・・で、他の者達の働き具合は?」
「このような重要な仕事を『成人したばかりの新人に任せよ』と申されるか?」
「うむ。そうすれば君らも少しは休めるであろう?」
「・・・冗談が過ぎますぞ。この忙しい時に」
「いや、冗談ではない。揚県令(揚慮)を含め、何れも逸材の筈だぞ」
「・・・しかしですな」
「責任は余が持つ。貴殿らも少しは休め。無理は禁物であるぞ」
「・・・分かりました。では、それらの者達にも手伝って貰いましょう」
これで少しは忙しいアピールが減るかな?
減るといいなぁ・・・・・・。
「なぁ、王府君。この衝陽は、これから都(洛陽)以上に発展していくのだぞ。それを担うのは、これから成人する若人らだ」
「ええ、それはもう存じております。先日も留府長史殿のご子息が参りましたし」
「何? 張昭のご子息?」
「おや? まだご存じありませんでしたか」
「うむ。張昭から何も聞かされておらぬ」
「そうでございましたか。確かに少し関係がギクシャクしておりますからなぁ・・・」
「今、何処にいるのだ?」
「案内しましょう。丁度、私の仕事を手伝っている所です」
張昭の息子って、確か張休とかいう奴だっけ?
そこそこ政治力はあった感じだけど・・・・・・。
王烈の執務室に入ると、そこには成人したばかりと思われる幼顔が抜けていない一人の青年がいた。
これが張昭の息子って訳か・・・・・・。
どんな感じかな?
張承 字:仲嗣
政治7 知略6 統率7 武力5 魅力7 忠義8
固有スキル 和解 登用 人相 制圧 鎮撫
思っていたほど政治一辺倒じゃないな・・・・・・。
バランス良いし、忠義も高いから、太守とかに丁度良い感じだ。
「おお、貴方様が荊使君ですね」
「うむ。君が留府長史のご子息か。衝陽の太学では会えなかったようだが・・・・・・」
「恥ずかしながら太学には行っておりませぬ」
「え? どういうことかね?」
張承から聞いた話だと、張昭が荊南に来た際、妻や張承を徐州に置いてきてしまったとのこと。
張昭の妻であり、張承の母である孫という女性もかなりの強情屋らしく、徐州でそのまま留まっていたらしい。
だけど、その孫という女性が病に罹り、この衝陽に療養しに来ることになったので、一緒に張承も来たということだ。
でも、もう一人張承っているんだよね・・・・・・。
聞けば、その張承の弟は張昭って名前だとか・・・・・・。
・・・・・・ややこし過ぎる。
いや、李豊なんて三人ぐらいいた気もするけどさ。
「父はあのような気性ですし、母も負けん気が強い人ですから・・・・・・」
「ハハハ。似たもの夫婦ということか」
「はい。そんなところです」
「それでは、今後は親子で荊南に居てくれるのかな?」
「荊使君が宜しければ、ご厄介になろうと思います」
「勿論だ。これからは宜しく頼みますぞ」
「はい。父ともども宜しくお願いします」
人数は多くなったのは良いけど、同じ名前ってのは厄介だな・・・・・・。
幸い字は違うから、まだマシかな。
面倒なら名だけ変更させてもらうとするか。
そういや陳平が今年の新年会で「青州には劉岱と同姓同名で、字まで同じ雑魚がいた」とか言っていたな・・・・・・。
親子関係と言えば、僕と司進が少し気まずい。
いや、正確に言えばゴリ子がいるから気まずいんだけど・・・・・・。
慶里と仲が良いルキッラとも揉めたから、余計に気まずくなっちゃったし・・・・・・。
本当は司進の嫁とも会わないといけないんだけど、ゴリ子め・・・・・・。
これで能力値が雑魚だったら、すぐにクビにしているんだけど・・・・・・。
「ちょっと良い?」
「今度は何かね・・・・・・?」
僕が部屋で書類審査していると、不意にゴリ子が入ってきた。
また変なことを言わないと良いんだけど・・・・・・。
「いや、何か気まずくってさ・・・・・・」
「それは仕方なかろう・・・・・・」
「こ、こっちだって気を遣っているんだからね!」
「・・・・・・」
嘘をつけ! 嘘を!
今までの何処が気を遣っていたんだ!
「・・・だから、何が問題なら素直に言いなさいよね!」
「・・・怒らないか?」
「お、怒らないわよ!」
大抵、こういうのって怒るんだよな・・・・・・。
よく小さい頃、素直に言って怒られたから、今じゃすっかり言わない性分になっています。
それでその場合、心の中でツッコんで、ストレスを発散させています。
・・・・・・うん。多分、僕の本質はひねくれ者なんだろうね。
けど、これは良い機会だ。
大体、格好が酷すぎる。
まず、これをどうにかしないと、周りの目がマズい。
「では、ハッキリと申そう。君の格好を改め給え」
「え? 何で?」
「決まっているだろう。先日、瑠吉羅にも申したが『郷には郷に従え』ということだ」
「・・・・・・だから、従っているじゃない」
「全く従っておらん。その褌姿は目に余る。それに嫁入り前なら、肌を露出するのは不貞というものだ」
「ちょ・・・ちょっと!」
「君の故郷ではそれで良かろう。だが、ここはあくまで漢だ。嫌でも従ってもらうぞ」
「・・・断ったら?」
「暇を出すしかない。君のような女傑は確かに必要な存在だ。だが、一人の我儘で民を危険に晒すようなマネは出来ぬ」
「・・・・・・わ、分かったわよ。下を履けばいいんでしょ!」
「分かってくれて何よりだ。それと、司進との一件は気にするな。五行祭で決着をつければ良い」
「ええ! 言われないでも、そうするわよ!」
「ただし、あくまでトーナメント方式だからな。ちゃんと勝ち上がるんだぞ」
「ト・・・・・・トーナ何?」
「あ、いや・・・勝ち上がり方式だ。司進以外にも、先日の徐晃や許褚。太史慈、鐘離昧、周泰、甘寧、沙摩柯・・・挙げたらキリがないほどだ」
「そんなの全員、蹴散らしてやるわよ!」
「ハハハ。威勢は良いな。それと他の領地からも参加者はいる筈だ。どこまで出来るか楽しみにしていよう」
「・・・それで私が優勝したら結婚してくれる?」
「ハハハ・・・・・・はぁ!?」
「・・・・・・何度も言わせないでよ。乙女からの告白なのよ」
「そ、それだけはいかん!! 断じていかん!!」
「なんでよ!!」
「なんでって・・・・・・。他の者にも申したが、余は黄帝君を始めとする神々に誓っているからだ!」
「・・・・・・やっぱり、あの噂は本当なんだ」
「あの噂?」
「貴方が黄帝の娘の魃と婚約しているって・・・・・・」
「ばっ、馬鹿なことを言うんじゃない!! 大体、魃なんていう娘と会ったことすらない!!」
「・・・・・・本当?」
「そんな嘘を申しても誰が得をする?」
「・・・・・・ふぅん」
焦った・・・・・・。マジでめっちゃ焦った・・・・・・。
ゴリ子と結婚なんて冗談じゃない!
ゴリ子が優勝なんて無理だと思うけどさ。
万が一ってこともあるから、シャレにならない・・・・・・。
どっと疲れたところに、衛士の一人が入ってきた。
何でも僕に会いたいという者がいるそうだ。
恐らく、4か6のどちらかだろうけど・・・・・・。
衛士に案内され謁見室に赴くと、一人の若武者が礼儀正しく片膝をついて待っていた。
・・・・・・で、誰だろう?
ドキドキしながら能力値を確認してみよう。
馬隆 字:孝興
政治7 知略8 統率9 武力8 魅力6 忠義8
固有スキル 発明 制圧 鎮撫 説得 弓兵 鉄壁 看破 機略
めちゃくちゃ強いぞ!! でも、誰だ!?
てか、またこのパターンだ!
いい加減、ググれる機能も追加させて!
で、その肝心の馬隆は俯きながら、淡々と自己紹介を始めた。
「お初にお目に掛かります。某、克州東平郡の出身で姓を馬。名を隆。字は孝興と申します」
「うむ。遠路はるばる良く来てくれた」
「荊使君のお噂を耳にいたし、駆けつけました。どうか末席にお加え頂きたく・・・・・・」
「勿論だ! 余の目は節穴ではない。貴公には英俊の相がありありと見える」
「はっ! 恐れ入ります!」
「早速で悪いが、この衝陽郡は五行祭で未だに人が足りぬ。王烈や揚慮には伝えておく故、仕事に取りかかってくれ」
「ははっ!」
いや、マジで凄いよ・・・・・・。
けど、これは4? それとも6?
6がもう一人だったとなると、凄い化け物じゃないのか・・・・・・?
心当たりがあるとすれば、一人しかいない。
それはズバリ・・・・・・鄧艾!
蜀ファンとしては複雑だけど、鄧艾なら喜んで配下にするよ!
そんなこんなで早くも三月。
王烈や県令に就任させた揚慮は、新たに加えた張昭の子、張承や馬隆を含めた新人らに指示し、テキパキと仕事をこなしていく。
五行祭だけでなく、まだ不備のある箇所も多いので、大いに役に立っているらしい。
どっちみち五月までは政略フェイズないことは確定だから、より休日もなるべく多くとってもらおう。
三月ということで、何処の田園もさっさと稲を植え始める。
僕は巡察という名目で、ゴリ子と許褚、そして虎士と呼ばれる許褚が率いる護衛らと共に衝陽を散策することにした。
僕が来たとしると、百姓たちは手を休めて拝みだす。
お約束通り、僕は「農作業を続けよ」と笑顔で指示する。
ある意味でパフォーマンスの一環なんだけど、こうすると評判が良くなるらしい。
田畑は地区によって別れている。
全て同じ田畑なんだけど、漢人、荊南蛮人、山越人のエリアって感じにだ。
これは双方ともに言葉を通じやすくためで、特に差別意識からというものではない。
こういったやり方は珍しいらしく、不満を持つ漢人もまだいるらしい。
だけど、そういう連中は心置きなく出ていってもらう。
既得権益にしがみつき、優越感に浸りたい連中なんて、こっちから願い下げだ。
遠慮無く董承がいる交州にでも行って下さい。
その内、そこも同じになるけどね。
それと田園を巡回し出した理由。
それは韓曁の開発した水車の状況確認も兼ねている。
元は鉱山の水を汲み出すために開発したんだけど、それを応用して灌漑の水を引く為にも使用しているんだ。
韓曁は義兄でもある鞏志が亡くなったことで、以前よりも発明にかける時間が長くなった。
その為だろうか、鞏志の妻であり、自身の義姉となる女性を妻に世話させている。
韓曁としては発明に邁進することで、義兄の鞏志を亡くした悲しみを乗り越えようとしているみたいだ。
僕は未だに信じられないのは、こういった事柄が全て幻と同じということだ。
あくまで目の前にある人物は、全て架空であり、プログラミングされただけの存在ということだ。
だけど、僕には割り切るのは無理です。
てか、割り切ったら現実の世界に戻った時、ダメな人間になりそうだし・・・・・・。
一週間ほど巡回し終えた後、韓曁に水車改良の現状を具に聞くことした。
敢えて鞏志のことは触れない。
お互い辛いしね・・・・・・。
「これは荊使君。水車の具合は如何でしょう? 少し改良の余地はあると思いますが・・・」
「韓従事よ。正しく見事としか言い様がない。全ての田に水が行き届いておるぞ」
「それは何より」
「だが、余とすれば少し不服なところがある」
「え? 何がです?」
「水車だが、他の用途に転用出来ないか?」
「ほう? どのような転用方法でしょう?」
「如何せん。民だけでなく、我らも食を楽しむということが必要だと思う」
「・・・・・・はぁ?」
「つまり、水車を使って製粉などが出来ないであろうか?」
「・・・・・・成程。そうすれば小麦などを大量に製粉することが出来ますね」
「うむ。真に豊かにするには重要だと思うのだが、どうであろう?」
「分かりました。早速、研究することにしましょう」
「おお、これで余も気兼ねすることなく、胡餅が食べられるな」
「ハハハハ。私も気兼ねなく食べたいですしね」
胡餅というのはパン・・・というよりもナン近い感じかな?
この胡餅に炒めた小魚や小さい海老、青梗菜やニラといった野菜を挟んだものを、最近では良く食べています。
肉は嫌いじゃないけど・・・目の前の牛とか豚、鶏を殺してっていうのがダメでして・・・・・・。
可哀想で食べられなくなっちゃうんですよね・・・・・・。
小魚とか海老とかは、既に死んでいる状態で持ってくるので、大丈夫なんですけど。
・・・・・・矛盾しているかもしれないけどね。
あと、印度の方からチーズの製造方法も伝わりました。
これでナンちゃってピザが出来る・・・・・・かもしれません。
でも、肝心のトマトがないんだよなぁ・・・・・・。
何処にあるんだ・・・・・・トマトよ。
そして、同じように商業地区も巡回。
こちらは海外向けの特産品になりそうなものを開発中。
窯を作り、陶工たちに試行錯誤させ、染付けの研究をさせている。
本来なら現在は絹が主な輸出品なんだけど、それだけで胡座をかいていちゃダメだ。
時代の最先端をリードすることこそ、本当の発展というべきなんだ。
そこで陶磁器って訳なんだけど、上手くいくといいなぁ・・・・・・。
本当なら火薬とか開発したいけど、これは未だに原理が分からないので・・・・・・。
化学とかをもっと勉強しておけば良かったよ・・・・・・。




