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第十一話 その人、さいよう?

 長沙付近で区星を破り、凱旋して以来、長沙の民は活気づいている。

 これで当面は長沙を悩ませるのは無いのも同然であろう。

 問題は江陵の水賊である周泰と蒋欽。それと桂陽進出か……。

 

 2月上旬の政略フェイズ開始の前に、僕は尹黙に江陵の水賊について聞いてみることにした。

 略奪ばかりを繰り返しているのなら、討伐しないといけないからね。

 周泰と蒋欽がそんな事をしているとは思えないけど……。

 

「尹黙。他でもない。江陵の水賊について聞きたいことがある」

「太守殿。何なりと……」

「彼らは江陵で乱暴狼藉を働いているのかね?」

「とんでもない。周泰も蒋欽も元はただの廬江周辺の一土豪にしか過ぎません」

「……廬江の一土豪が何故、江陵に?」

「廬江太守の羊続ようしょく殿と共に黄巾賊を討伐していた模様ですが……」

「……だ……もう、いいや。……ですが?」

「……ですが、羊続殿が平定した途端、羊続殿はあらぬ嫌疑をかけられ、都へ収監されてしまいました」

「そうか……。どうせ宦官どもの仕業だろうな……」

「はい。その後、十常侍の栗嵩りつすうの縁者が廬江太守になったようですが、あっさりと廬江から逃げ去り、今は陸康殿が太守をしております」

「陸康殿といえば、先の武陵、桂陽太守ではないか?」

「おお、良くご存じで。つい最近まで桂陽で太守をしておりましたが、一度都に招聘され、廬江太守に任じられたのです」

「そして、代わりに桂陽の太守に十常侍の縁者をということか……。同じ縁者でも、最初からもっとマシな者にすれば良いものを……。それで周泰と蒋欽はどうしたのだ?」

「両名も嫌疑をかけられ逃走し、縁者がいる江陵へと落ち延びたのです」

「では、区星らと手を結ぶ心配はないのだね?」

「区星らは暴虐の徒です。双方とも相容れないでしょう」

「それなのに何故、水賊なぞをやっているのかね?」

「前江陵県令を追い出したからです。その者は十常侍宋典の親戚の者で、私腹を肥やしていた悪徳県令でしたからなぁ」

「成程、それで義賊という形で江陵において暴れているのか」

「はい。ただ、その前県令が蔡瑁の親族を妻にしておりまして……」

「……それを理由にして、蔡瑁が江陵に乗り出してきているんだな」

「仰せの通り。如何でしょう。ここは太守殿が江陵に進出してみては? さすれば両名とも矛を収めて帰順することでしょう」

 

 周泰と蒋欽かぁ……おいしいなぁ……。

 けど、そうなると思い切り劉表、蔡瑁とやり合うことになるのかぁ……。

 武陵太守の曹寅の動向も気になるしなぁ……。

 配下が楊松と博士仁だから怖くはないけどさぁ……。

 

「そういえば、零陵太守の張羨の動向はどうだ?」

「零陵は安定しており、特にこれといった問題はありません。……ですが」

「……ですが?」

「張羨は容易に兵を動かそうとはしないでしょう。隣の桂陽は太守不在とはいえ、觀鵠かんこく蘇馬そばを中心とする賊徒や異民族に荒らされており、それらが何時、零陵まで侵攻してくるか分らないですからなぁ……」

「では、觀鵠らを成敗し、桂陽を平定してからということか……。容易に平定出来るであろうか?」

「太守殿の評判は鰻登りですから、桂陽の民は歓迎してくれるでしょう。山越族の民にも太守殿は評判が宜しいようですし」

「そうか……ならば、桂陽に進出しても良いかもしれぬな」

「ですが、太守殿は正式な長沙太守ではありません。後々、朝廷に咎められるかもしれませんよ」

「……朝廷というよりは宦官どもに……で、あろう?」

「……御推察の通りでございます」

 

 宦官にやっぱり賄賂を贈った方が良いのかなぁ……???

 でも後々、袁紹や曹操に皆殺しにされる筈だよなぁ……。

 あれ? でも、そうなるかどうかは分らないのか……。

 

「……なぁ、尹黙」

「はい? 何でしょう?」

「このまま宦官どもに賄賂を贈らなくても、問題ないと思うかね?」

「……面倒だとは思いますが。一応、正式な太守として認可はされるかと……額にもよりましょうが」

「むむ……幾らほどだと思うかね?」

「太守の座でしたら金3000は必要かと……」

「さ……3000だと……?」

「はい。それぐらいならば問題ありません」

 

 ……結構な額を要求するじゃねぇか。

 銀山があるとはいえ、そんな金は使いたくないなぁ……。

 もう少し様子を見るとするか……。

 

「ところで劉表の動向はどうかね? 蔡瑁と共に江陵に進出しようとしているらしいが……」

「それが……どうも江陵への進出は難しいらしいのです」

「南陽の黄巾賊は討伐されたのであろう?」

「……その南陽と汝南の黄巾賊が問題なのです」

「分らぬなぁ……。どういうことだ?」

「はい。南陽と汝南の黄巾賊残党らは共に南に向かい、江夏にて黄穰、載風、さらには反乱した江夏蛮らと合流したらしいのです」

「何と!? 汝南の黄巾賊もか!? 汝南の袁術は追撃しなかったのか!?」

「袁術殿はそのまま汝南に居座り、更には淮南の寿春まで占領してしまいました」

「……意味が分らぬ。周辺の太守や刺史は何もせんのか?」

「十常侍の韓悝かんかいの縁者である淮南太守と寿春県令は既に逃亡しております……」

「……また十常侍の縁者か。しかし、だからといって、袁術もそんな無茶な……」

「袁術殿は国老の楊賜ようし殿や袁逢えんほう殿に働きかけ、揚州一帯で勢力を伸ばすつもりでしょう」

「……それで賊への討伐よりも、勢力拡大に尽力しているということか?」

「二国老の考えは分りかねますが、二人とも袁術殿の縁者です。袁術殿の力を増長させて宦官の排除を考えているやもしれません」

「……しかし、都とはかけ離れておるであろう?」

「いえ、重要なのは汝南と寿春を占拠したことです。どちらも人口は多く、肥沃であり、そして十常侍の勢力下ということでしたので……」

「………成程、そこから『十常侍派閥の連中を追い出したことに意義がある』ということか」

「………恐らくはそうでしょう」

 

 ……小説や漫画のやつで、そんな展開があるやつってありました?

 てゆーか、正史だとそういう事になっているの?

 ……ああ、ググりたい……。

 国老って何だか分らないし、楊賜と袁逢ってまた謎の人物だし……。

 

「江夏方面となると、柴桑にも黄巾賊の手が及ぶかもしれんのか?」

「可能性は非常に高いかと……」

「……ぐぬぬ……区星らを取り逃がしたのは余の不覚であったか……」

 

 聞いていない! 聞いていないよ! こんな展開!

 下手すると柴桑に黄巾賊の大集団が来るわけなの!?

 張角、早く寿命尽きろよ!

 

「……それで、江夏太守の黄祖の動向はどうだ?」

「殻に篭った貝の如く、特に動きはありません。配下の呂公や蘇飛、陳就らが時折、賊と戦っておるようですが……」

「……だろうなぁ。漫画でもアニメでも常に受け身だったし……」

「……は?」

「……い、いや。兎も角だ。今のうちに増強せねばなるまい」

 

 ……呑気に桂陽が気になるどころじゃなくなった。

 早い段階で劉表と同盟を結んだ方が良いような気もするし……。

 けど、そうなると江陵の周泰や蒋欽がヘソを曲げちゃうかもしれないのか……。

 

 ……桂陽に進出したいけど、今は我慢しよう。

 黄巾賊と戦うなら、もっと人材が必要だしね。

 あ、そう言えば気になることが……。

 ということで、陳端を呼び出すことにした。

 

「閣下。某をお呼びですか?」

「うむ、陳端。君は江東の二張を知っているかね?」

「江東の二張……ですか?」

「うむ。張昭と張紘のことだ」

「ああ。その二人なら知っているも何も……知り合いではありますが……」

「な、何!? そ、そうか! ならば、急いで連れて来てくれ!」

「……しかし、閣下は何処でその二人をお知りに?」

「……そ、そんな事はどうでも良いではないか!」

「……また、夢ですか?」

「そ、そうだ! 夢だ! 悪いか!?」

「……わ、悪くはありません。……承知しました。しかし、揚州は荒れ果てております故、某が戻れるかどうか……」

「それなら張任をつける! あの者なら安心だ!」

「……それと張昭殿は頑固者です。私に説得できるかどうか……」

「……ならば余が自ら出向く!」

「えっ!? いや、しかし閣下自らとなると……」

「うるさい! もう、決めたのだ! 異論はないな!」

 

 勢いでまたやってしまった……。

 けど、張昭と張紘の二人が配下になるなら……。

 張任もいるし、怖くはない! ……と思いたい。

 

 ……で、遅くなったけど。今回2月上旬の政略フェイズ。

 張任だけだと心配なので、陳平と鐘離昧も同行させることにした。

 なので、今回は一気に下旬までやるぞ!

 

農業329 商業691 堤防91 治安92 兵士数41872 城防御309

資金813 兵糧35500 

 

 まず、前回までがこの数値か。

 陳端には紹介の手紙を書いてもらうということで、陳端は同行しない。

 という訳で、上旬フェイズは……。

 陳端が開墾、秦松と尹黙が町造り、王儁が帰順、韓曁が採掘、厳顔が城壁補修となった。

 

農業341 商業718 堤防89 治安99 兵士数42772 城防御321

資金313 兵糧35500 

 

 続いて下旬の政略フェイズ。治安99かぁ……。

 それなら王儁は開墾にまわそう。

 陳端と王儁が開墾、秦松と尹黙が町造り、韓曁が引き続き採掘中、厳顔が城壁補修、これでよし。

 

農業365 商業745 堤防87 治安96 兵士数42772 城防御332

資金2058 兵糧35500

 

 こうなる訳だね。

 さて、この僕は先ほど言った通り、張任と鐘離昧、そして陳平を連れて揚州方面に旅立った。

 陳平を連れてきたのは情勢に明るいからだ。

 

 長沙から商船に乗り込み、赤壁を通る。

 写真では崖に漢字で書かれていたけど、まだ赤壁の戦いは起こってないから何もない。

 この先、この世界で起こるかどうか分らないけど……。

 

 柴桑に差し掛かると、小規模の船団が近づいてきた。水賊の連中だ。

するとすぐに商船の船長は通行代を渡した。

 水賊といっても、この辺ではすぐに略奪という訳ではないみたい。

 船長は割符を水賊の威張った頭目から貰い、そのまま下流へと向かう。

 意外と統制がとれているもんなんだね……。

 まぁ、そうじゃないと、誰も商売に来ないもんなぁ……。

 

「おや? アンタ何処かで見た顔だね?」

 

 商船に乗った婆さんが僕に声をかけてきた。

 婆さんに可愛らしい孫娘は……残念ながらいませんでした……。

 

「いやぁ、何処にでもいる顔だからでしょう」

「そんな訳あるかね? そんな背の高い、いっぱしの顎鬚を持つ若者なんぞはそう滅多にいるもんじゃないよ」

「……そ、そうですか?」

「ああ、そうさ。あたしがもうちょっと若ければほっておかないよ」

 

 …………もうちょっと?

少なくとも、五十歳くらい若返ってくれないと厳しいです……。

 それと一応、この婆さんのパラメータも見てみるか……。

 

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 ……でしょうね。

 いや、凄い能力値や滅茶苦茶な固有スキルあっても、それはそれで引くけど……。

 

「何をお前さん。ブツブツ言っておるんじゃね?」

「ああ、別に……。ところでお婆さんは何をしに?」

「あたしゃあ、ただの行商だよ。長沙で珊瑚や鼈甲べっこうを売って、その売上げで銀を買ったから、これから戻るのさ」

「成程。で、何処まで帰るのです?」

秣陵まつりょうさ」

「……秣陵? ……太守は何と言う方です?」

「おや、知らないのかい? 劉繇りゅうよう様さ。若いが漢王室の血筋の立派なお方だよ」

 

 劉繇って雑魚君主の? え? 立派な方?

 太史慈を粗末に扱って負けちゃったイメージしかないんだけど???

 ……しかも、若いって???

 

「そうですか。私もまだ若く無学ですので、今は勉学に励み、竹馬の友らと共に旅をしている途中でございます」

「若いのに感心だねぇ。最近の若い連中ときたら『立身出世するなら黄色い頭巾を被れば良い』なんていう輩ばかり」

「……確かに頭の痛い問題ですな」

「そうじゃろう? だが、漢室も悪い! 宦官と外戚が幅を利かせておるから、こんなことになっておるんだよ!」

「確かにそうですなぁ……」

「まぁ、若いアンタに言っても無駄だがねぇ……」

「いえいえ。確かにまだ無力なのには間違いありません。どうか、お許し下さい」

「え? あ? い、イヤだよ。そんな畏まって!」

 

 この婆さん、僕が司護って知ったら腰をぬかすのかなぁ?

 けど、こんな所でバレたら下手すりゃ殺されちゃうだろうから、バラさないけどね。

 陳平みたいに全裸になっても意味ないだろうし……。

 

 その後、途中で乗船してきた色々な行商人や旅人に出会い、パラメータを見ながら噂を色々と聞いた。

 どうも二張以外は、ロクな人材がいないようだ……。

 まだ成人してないんだろうなぁ……。

 陸遜とか魯粛とか周瑜とか呂蒙とかいたら、軒並み連れて帰るのになぁ……。

 

 数日の間、そうこうしていると知り合いとなった婆さんと一緒に秣陵に入った。

 秣陵とは後の建業のことだ。

 後の呉国の首都らしく、かなり繁栄している。


 他国の騒乱とは無縁で、時折海賊が長江や近海付近で出没するぐらいらしい。

 そういう海賊も度々、撃退されている。

 張英、薛礼らが中々の活躍をしているらしい。

 ……孫策に撃破された雑魚武将なのに良い扱いじゃないかね?

 意外と能力値も良いのかな……?


 そういえば、婆さんが「劉繇は名君だ」とか言っていたな……。

 僕の読んだ漫画とかと随分違うのかも?

 パラメータを見ればすぐに分るんだろうけど、その為にわざわざ会いに行くのもなぁ……。


 婆さんはそれなりに大きい商家の女主人らしく、僕たち四人組に「寝泊まりしていけ」と勧めてくれたので、甘えることにした。

 ええ……庭で「殺せ」だの「縛れ」とかいう言葉が出て来ても、僕は大人しくしていますよ。

 陳宮いないけどね!

 

 そんな折、婆さんの家で寛いでいると、陳平が僕に話しかけてきた。

 

「我が君、宜しいですか?」

「我が君はやめてくれないか? 字の公殷で頼むよ。ついでに呼び捨てでな」

「では、公殷。ちょっといいかい?」

「おっ、その方が君らしい。何だい?」

「実はこの近くに目ぼしい奴がいるらしいぜ。何でも洛陽から来たとかいう学者らしい」

「……洛陽から? なんて名前だい?」

蔡邕さいようだ。聞いたことあるかい?」

「……蔡邕。聞いたことあるような……」

「何でも都じゃ名の通った御仁らしい」

「……そうか。長沙には王儁殿もいるし、来てくれるかもしれん。早速、会ってみよう」

 

 僕は一生懸命、蔡邕を思い出そうとしながら、婆さんから馬を借りて四名で向かった。

 ……誰だったかなぁ……?

 確かに聞いたことあるんだよなぁ……。


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