第六十九話 だから責任者出て来い!
前回の続きです。
まだまだ説明は続きます。
五年の強制的なブランクは酷過ぎます……。
益州の劉焉は、どうやら涼州の劉協と同盟を結んだ模様。
その理由は漢中の張魯が朝廷に帰順したそうで……。
楊松が絡んでいるのかな……?
どうせ賄賂で釣られたんだろうな……。
で、その涼州にも激変があったとの事だ。
韓遂が帰順し、涼州牧となり、今じゃ韓遂は劉協、馬騰とは敵対関係にあるらしい。
当然、劉協としても大幅な予定変更は余儀なくされる訳なので、これも同盟の要因なんだろうね。
けど、これにより、南陽の西は安泰となった訳ですけどね。
これで南陽王の劉岱は袁術との戦いに専念出来るから、ちょっと複雑な気分です…。
更には巴郡太守の羊続、巴西郡太守の郭典、巴東郡の曹謙がそれぞれ連携し、劉焉の侵攻を防いでいるという状況。
益州は山岳地が多く、攻めるには苦労する場所が多いので、どうもそういう状態らしい……。
そして新任の益州牧として張導、字を景明という人物が着任したとのこと。
先頃、攻略に成功した広漢郡の梓潼を地所にして、劉焉を牽制する狙いらしい。
本来、広漢郡の地所は雒という場所だけど、ここは劉焉が占拠しているからね。
しかも劉焉の地所がある蜀郡とは目と鼻の先だから、劉焉も気が気じゃないだろうなぁ……。
梓潼では、かなりの激戦が繰り広げられたらしいけど、漢中の張魯が朝廷に帰順したことで戦局が変わったとのこと。
更には張導の希望で、あの皇甫嵩が名代として大活躍したらしい。
皇甫嵩って、そんなに強いのか……。
能力値どんな感じなのかなぁ……?
北では并州牧が何苗と丁原の二人が居たんだけど、何苗が更迭され、丁原が正式に并州牧として朝廷から任命された。
朝廷も躍起になっているらしく、形振り構わず味方を増やそうとしているっぽい。
この丁原が朝廷に帰順したことで、どうも劉協と劉焉の同盟が組まれたらしい。
……まぁ、袁術や袁紹も暴走し出しているし、朝廷としちゃあ気が気でないんだろうけどね。
正確には十常侍と何進なんだろうけどさ……。
それと天帝教団の方にも動きがあった。
徐州から逃れてきた闕宣が殺されました。
それにより、徐州系の天帝教団が壊滅。
それは良いんだけど、その残党はほとんどが董承の手の者になり……。
董承よ……。お前って奴は一体……。
因みに統一化された天帝教団は、区連一派と活動を共にしているそうです。
しかし、五年分の情報には参った。
どっと疲れが出ましたよ……。
陳平から粗方聞き終えると、僕は政庁内を見て回ることにした。
でも、政庁の内部はあまり変わっていない。質素なもんだ。
衝陽の城の規模は、今では洛陽を凌駕するのは時間の問題って話なのにね。
衝陽はただ巨大なだけじゃない。
城壁は五重に聳えており、高さは十五メートル、城壁の幅は大体十二メートルほどらしいから、傍から見てもその頑強さが窺える。
何でも新素材を使用しているって話だけどね。
そういう城壁が周りを囲み、更には放射線状に十二本の城壁が中央に向かって伸びている。
城の規模はというと、東京都二十三区ぐらいならスッポリと入るらしいから、その巨大さは圧巻だろうね。
ただ、未だに空地がほとんどだから、これを埋める頃には上限値になっているってことなんだろうな。
何故、これが分かるかというと、目を瞑ると映像が見えるようになったからです。
ここで僕の能力を再度確認してみることにします。
司護 字:公殷 能力値
政治10 知略8 統率5 武力1 魅力8
固有スキル 登用 商才 看破 鎮撫 名声 吉兆 説得 弁舌 俯瞰
上記で見たとおり、「弁舌」と「俯瞰」というスキルが新たに加わりました。
因みに「俯瞰」の所持者は僕しかないそうです。
新たに増えたこの俯瞰って能力が、これまたかなり強いらしいんだけどね。
どうも鳥のように上空から下に見下ろせるらしい。
といっても、自分の真上からしか見えないらしいけど、上空五百メートルまでなら視点を変化可能だということ。
でも、これと祝融で空白の五年間の穴埋めって酷くない……?
僕が静かに目を瞑っていると、後ろから女性の声で「父上」と呼ばれた。
振り返ると慶里こと虞美人だった。
「おお、慶里か。すっかり艶やかな女性になったな……」
「フフ……。父上、私は養女から妻にされるおつもりですか?」
「ブッ……馬鹿なことを申すな」
「フフフ。冗談ですよ」
「しかし、お前にも済まないことをした。民の為とはいえ、五年も留守にしてしまったしな……」
「お気になさいますな。それよりも父上にお会いしたいという方を連れて参りました」
「……余にか?」
慶里の後ろを見ると綺麗な女性が、そこに居た。
赤茶色の髪、薄茶色の瞳、彫りの深い顔……凄い美人だ。
問題は大体、四十代ぐらいという年齢です。
僕の実際の母親と同じくらい……。
「初めまして。司使君。瑠吉羅と申します」
「……失礼だが、生まれはどちらかな?」
「西方の羅馬でございます」
「えっ? ローマ……」
「はい。事情があって、こちらに参りました。今は慶里さんと共に、太学や医学校にて翻訳の手伝いをしております」
「……そうでしたか」
僕が困惑していると、慶里が更に困惑するような事を言ってきた。
「この人は羅馬の皇帝のお姉さんなんですよ」
「え!? ええっ!? ローマ皇帝の姉君!?」
「はい」
「しかし、何でまたローマ皇帝の姉君が……」
で、その理由ですが、弟のコンモドゥスというローマ皇帝の暗殺に失敗したそうで……。
それで島流しになっている所を逃げ出して、わざわざここまで来たという……。
なんでもその弟って、凄い暴君らしいですけどね。
でも、ネロじゃないのか……。
てか、ローマ皇帝の暴君ってネロしか知らないんですけどね……。
で、このルキッラさん、混凝土の精製職人と共にやって来たそうです。
新素材とはコンクリートとのことだったんですねぇ……。
それとヒポクラテスやガレノスという医者の書籍を翻訳し、医学校にて活躍中だそうです。
才色兼備な人なのは認めます。
だけど、妻とするには無理です……。
母親と同世代の人は……それに凄く気が強そうだし……。
なんか、野球の助っ人外国人で友達の母親と結婚していた人とか小さい頃に聞いたけど、僕にはやっぱり無理です……。
それに変なフラグっぽいので……。
間違っても「文恭! お前もか!」なんて叫びたくありませんから!!
暫く慶里と瑠吉羅と雑談を交わした後、僕はまた政庁内を歩き出した。
政庁は、あまり変わっていないといっても、広くなっていることには変わりない。
一応、隅々まで見ておかないと心配なんですよ……。
で、散歩がてらに政庁を歩いていると、思わぬ声がいきなり聞こえてきた。
「おい。ボンちゃん」
「その口調はフクちゃんだね。何?」
「俺に策がある。しかも、手っ取り早く元に戻れる最良の策だ」
「ええっ!? どういう策!?」
「慶里をボンクラ帝にやるんだよ。それで外戚になって、丞相か相国になればいい。どうだ? 名案だろ?」
「……そ、それは」
「項羽のことが気になっているのなら安心しろ。もしも居たとしたら、逆に嗾けて帝を殺す道具にもなるぜ」
「……で、でも、それはちょっと……」
僕は流石に躊躇した。
いや、ゲームの世界なんだし、それも一つの手段ではあるんだけど……。
……一応、ジンちゃんの意見も聞いておこう。
「ジンちゃんはどうなの?」
「私ですか? 当然ながら、理に適っておりますからね。凶賊とはいえ、これには反対する道理はありませぬ」
「ちょ……ちょっと待ってよ」
「何か問題でも?」
「……君は仁君なんだろ?」
「如何にも。それが何か?」
「だから、何でそんな事を言えるんだよ……」
「子が親の為に働くのは当然だからです。ましてや慶里はボンちゃんに対し、大恩がある身でしょう」
「………」
「故に道理には反しませぬ」
「……けど、慶里の気持ちとかあるじゃない?」
「婦女子の思惑なぞ些細なことでございます」
「………」
……どういう事だ???
まさかジンちゃんまでもが、こんな事を言うなんて……。
「二人の意見は分った。けど、僕には出来ない……」
「何故ですか? たかが一人の婦女子でございますぞ」
「出来ないものは出来ないよ……。確か『窮鳥懐に入れば、猟師も殺さず』ってやつだよ」
「お待ちを……。既に慶里は窮鳥ではございませんよ。それに……」
「僕が嫌なんだよ! もう、この話は終わり!」
「……承知」
「……ったく。変な感情に流されやがって……」
……おかしい。ジンちゃんの様子がおかしい……。
これはどういう事だ?
……という訳で、とっとと出て来い。
「本当に儂の扱いが酷いのぉ……。儂が悪い訳ではないのに酷い仕打ちじゃ」
「もういいよ。それよりもジンちゃんが違うみたいなんだけど……」
「……同じじゃぞ?」
「そんな訳ないだろ。いつもなら『黙れ凶賊!』とフクちゃんに突っかかって行くのにさ」
「それはフクちゃんが真っ当な意見だったからじゃろ?」
「……どうして?」
「ジンちゃんは、そもそも儒者じゃぞ。儒学の観点から意見しているのに過ぎぬ」
「……でもさ。儒学って仁徳云々じゃないの?」
「仁徳云々じゃぞ? お主が儒学を勝手に誤解しているだけにしか過ぎぬ」
「ええっ!? ひょっとして、儒学って女性を物でしか見ていないの!?」
「……というか、そういうものじゃぞ」
「……うわぁ」
道理で僕が変人呼ばわりされる訳だ……。
酷い世界だなぁ……。
てか、ゲームの世界なんだから、少しは考慮してくれよ……。
……まぁ、いいや。深く考えるのはやめよう。
まず、配置を見るとしよう。
今、どんな人員配置なのかな?
これは見渡せるらしいけど……。
長沙郡
太守邴原
韓曁、周泰、蒋欽、陳端
武陵郡
太守張任
甘寧、朴胡、趙儼、沙摩柯、杜濩
桂陽郡
太守王儁
賀斉、徐盛、灌嬰、太史慈、金旋
零陵郡
太守厳顔
劉度、游楚、張承、是儀、鐘離昧
臨賀郡
太守満寵
李通、文聘、趙陀、劉先、李孚
衡陽郡(地所)
荊州牧司護、太守王烈
頼恭、厳畯、来敏、国淵、桓階
杜襲、尹黙、孫乾、繁欽、秦松
張範、鄭玄、范増、周倉、許褚
蔡邕、徐奕、顧雍、陳平、潁容
張紘、張昭、管寧、鄧芝、邯鄲淳
陳紀、彭越、陳羣、徐晃
あまり変わっていない……あれ?
鞏志がいないのか?
どうしたんだろ?
僕は誰かに聞いてみることにした。
「おおい。誰かいるか?」
「へい。親分」
「周倉か。久しいな」
「全くで……。けど、親分の代わりに坊ちゃんの面倒は見させて貰いましたぜ。今じゃあっしもコテンパンにされちまう……」
「ハハハ! もう文恭の御守はしないでも問題ないようだな」
「ヘヘヘ。……それで、また街中にでも?」
「いや、そうじゃない。鞏志は長沙に居ると思うのだが……」
「………」
「……どうした?」
周倉の顔が突然、暗くなった……。
どうした……まさか!?
「鞏都尉は討ち死しやした……」
「なっ!? 誰にだ!?」
「袁術の武将です。とんでもねぇ化け物としか言い様がない」
「……その者の名は?」
「項籍。字を子羽という奴です……」
「ええっ!?」
項羽が袁術の配下にだと!?
道理でやたらと勢力伸ばせる筈だよ!
しかも孫堅まで居るし……。
でも……何で鞏志が……。
お調子者だったけど、憎めない奴だったよなぁ……。
「……それで、鞏志の墓は何処にある?」
「へい。鞏都尉の廟なら、この衝陽にありやす」
「……案内せよ」
「……へい」
……考えてみれば、直に鐘離昧が来ちゃったから、鞏志も不運だったんだよな……。
古参だし、もっとちゃんと相手してあげていれば良かった……。
博士仁しか武官がいない時に来てくれた時は、本当に嬉しかったしな……。
あくまでゲーム世界の筈だから、ここは「鞏志の代わりが徐晃ならお釣りが来すぎるぐらいだ!」なんて喜んでも良いのかも知れないけど……。
けど、そんな喜び方なんて出来る訳がないよ……。
……だって、僕も散々、目の前で兵士達が死んでいくのを、ハッキリと目の前で見てきてしまっている訳だし……。
そう思うと、何故か目に涙が溢れてきた……。
張羨さんの件、以来だな……。こんな気持ちになったのは……。
僕が周倉と共に鞏志の廟に行くと、一人の男が廟で静かに祈っていた。
「金旋じゃないか……」
「おお、我が君。何時、お戻りで……」
「つい先ほどだ……。君こそ…鞏志と仲が良かったのか?」
「偶々ですよ。酒の席では、随分とからかわれたものですが…」
「……そうか」
「けど、不思議な気分なんですよ。私が鞏志君の墓前に居るのがね」
「………」
「何か因縁があるのかも知れませんな。それが何かは分りませんが……」
「そうだな……」
金旋って、確か鞏志に殺されているんだよな……。
僕が読んだものだと、金旋は本当にどうしようもない雑魚に描かれていたけど……。
実際はどういう関係なんだろ……?
……ああ、今までで一番ググりたい気分だ……。
聞けば鞏志が死んだのは、一年ほど前の江夏での袁術との対峙の時らしい。
そこで甘寧を庇う形で項羽に斬られたということだ。
……僕がいない間に、随分と変わったな……。
「そういえば……鞏志に家族は居たか? 周倉」
「女房が一人居たとのことです。親分」
「手厚くしたであろうな……?」
「当然でしょう。親分」
「そうか……。それを聞いて少しは安心した」
そして廟を出て、周倉、金旋と共に暫く歩くと、後ろから凄いがなり声で呼び止められた。
「おい! アンタが司護かい!? 随分と探したよ!」
振り返ると…そこには………。
身長は二メートルを超え、顔は長く、顎はしゃくれた上にクッキリと割れた凄いマッチョな筋肉化け物女が……。
しかも巨大な胸は化け物瓜みたくなっていて、脇腹の方に寄せてある。
まさか…これが祝融???
趙嫗 字:氏貞 能力値
政治1 知略4 統率8 武力9 魅力7 忠義7
固有スキル 豪傑 歩兵 護衛 怒号 疾風 踏破 象兵
……の、能力値は申し分ない。
けど、誰だよ……???
それと「象兵」って何だ???
「ほい。『象兵』は文字通り象部隊を軍勢に入れることが出来るぞ。よしよし」
「あ、老師……。聞きたいことが……」
「おおう。象兵部隊は一部のところしか編成出来ないので、注意が必要なのじゃ」
「……だから、ですね」
「じゃあの」
ちょっと待てーーーい!!
肝心の事はスッ飛ばしかい!?
で、戸惑う僕をよそに、その化け物女は僕にがなり声で話しかけてきた。
「何をぶつくさ言ってんだい! アタイが来たからには、大船に乗った気でいなよ!!」
「き……君は……?」
「アタイかい!? アタイは趙嫗。字を氏貞って言うんだ! アンタの世話になりにきた!」
「………」
「そんなチッポケな護衛なんぞクビにしな! アタイがアンタを守ってやるよ!」
「…………」
「けど、嫁入り前のアタイの尻をジロジロ見たらダメなんだからねっ!」
これは一体、どういう罰ゲームだ!?
おのれ老師!! いつか絶対に恨みを晴らしてやるからな!!




