第六十七話 今度は何が起きるんだ……?
さて、12月となりました。
粗方、業務を終えたので、交州を警戒しつつ、粛々と政務に励むことになりそうです。
まぁ、のんびりとやっていくことにしますよ。
本当はのんびりとやると不味いらしいけど、荊州牧になったことで下手に動けなくなってしまいましたので……。
長い旅を終えたとあって体も疲れが溜っているし、丁度良い休息といった所かな?
そんなある日、僕は政庁から抜け出し、周倉を連れてぶらりと太学へ行ってみることにした。
太学の学び舎は年齢層が幅広く、小学生ぐらいから大学生ぐらいの人達が学問を修めている。
その中のほとんどは、未来の名無しの能吏君なんだけどね。
中には歴史書編纂の事業を手伝ったり、張機先生が指導する医術の道へ進む人もいるけどさ。
そしてその中には、養子の司進を始めとする未来の人材が居る。
沈友、孫資、歩騭、劉敏、蒋琬、裴潜、劉巴、黄朗……。
あれ? 二人増えた?
「これは父上。今日は何用で?」
僕は司進に見つかったので、少し誤魔化す程度に会話することにした。
特に誤魔化すことなんか無いんだけどね。
「君の……。いや、皆の修学ぶりを先生方に聞きたくてね。それに鄭玄先生の様子を窺いに来たのだよ」
「成程。鄭玄先生も御高齢ですしね」
「うむ。それに漢史の編纂も気になる。余に至っては『一体、何を書かれるのであろうか』と気が気ではない」
「……父上が気にする程ですか?」
「そうだな。ただ、大変人が仁君として後世に語られるのは、ちと憚れるような気がして……」
「ハハハ。気にし過ぎですよ」
「そうかなぁ……?」
「それに世の中を動かすのは常人ではありません。癖やアクが強すぎる方が世の中を動かすのです」
「……う、うむ。そうかもしれないな」
「それよりも紹介したい友がおります」
「……誰かね?」
司進がそう言うと、これまた利口そうな中学生ぐらいの男子がやってきた。
新たに増えた者の一人、劉巴だ。
「お初にお目にかかります。零陵郡蒸陽の生まれで劉巴。字を子初と申します」
「うむ。大いに期待していますよ」
「父は江夏太守の劉祥でございます。宜しくお見知りおきを」
「……うむ。え、ええっ?」
……これはスパイってことなのかな?
でも、スパイなら堂々と名乗る事はしないと思うし……。
「そうであったか……。父君はご健在かね?」
「はい。幸い豫章郡や九江郡から出兵はないようですので」
「それは重畳。余も荊州牧となった訳だし、江夏府君の危急の際には必ずや援軍を送る故、安心して勉学に励むと良いだろう」
「……一つお聞きしたいことがございます」
「何かね?」
「司使君は袁術殿を、どのように思っておられますのか?」
……ううむ。下手なことを言って劉祥経由でチクられたら面倒だな。
どう切り返そうかな……。
「それは稀代の傑物と思っておりますよ」
「……本当にそうでしょうか?」
「……と申すと?」
「それならば劉繇殿と通じている事がおかしくなるからです。袁術殿を小人として見ているからでしょう?」
「……滅多な事を申されるな」
「残念ながら父上は先見の明がありません。故に、あのような愚物に仕えているのです」
「……そこまでにしておきなさい。それと、そのような事を他では絶対に公言してはなりませぬぞ」
「アハハ。まるで父上と同じような事をおっしゃる」
「……そうだろうね」
「お陰で勘当同然で、ここにやって来たという訳です。いやぁ、面目有りませんね。アハハハ」
「………」
また尖がっている奴が来たなぁ……。
司進の話によると、どうも既にグループが出来ているそうで……。
沈友、裴潜、孫資、劉巴と歩騭、劉敏、蒋琬、黄朗の二派閥なそうな……。
それを司進は上手く遣り繰りしているらしい。
ゲームの世界にまで、そんな事をしたくないなぁ……。
因みに黄朗の字は文達というそうです。
暫く太学で鄭玄をはじめ、潁容や邯鄲淳らと太学の方針の相談をした後、政庁へ戻った。
すると慌てた様子で簿曹従事の孫乾がやって来た。
また変なのが来ないと良いけど……。
「どうした? 公祐(孫乾の字)。何をそんなに慌てている」
「それが、変な客人が来ております」
「変な客人?」
「はい。『司使君と面識が多分あるから会わせろ』の一点張りで……」
「……何だ? それは? で、何方かね?」
「元涪陵県令の劉備と申しておりますが……」
単福でバレたか……。
徐庶が居るからなぁ……。それでかな?
「ふむ。よかろう。会うと致そう」
「本気ですか?」
「ああ、本気だ。余には会う義務があるからな……」
こうして劉備と再会することになりました。
聞けば劉備と一緒に誰か来ているとのこと。
……誰だろう?
そう思って陰からコッソリと劉備の隣にいる青年のパラメータチェックしてみた。
徐庶 字:元直 能力値
政治7 知略9 統率7 武力7 魅力7 忠義8
固有スキル 機略 看破 判官 伏兵 補修 情報 歩兵
徐庶かぁ……。
やっぱりオイシイなぁ……。
でも、仕官するの早すぎやしないか?
けど、これで関羽、張飛も合せた陣営で劉繇さんの所へ向かえば、劉繇さんもかなり楽になる筈。
敵になる訳じゃあないし、好しとすることにしよう。
徐庶の存在を確認したところで、僕は呑気に鼻歌混じりに待っている劉備との謁見をすることにした。
しかし、随分と図太い神経しているなぁ……。
「これは劉備殿。お待たせしてすみませぬ」
「やぁ! やっぱり単さんか!」
「ハハハ。見破られてしまいましたね」
「道理で気品溢れていると思ったよ。うん」
良く言うよ。僕に色町を案内させようとしたくせに……。
そして、僕の傍にいた張昭が咳払いをしたけど、劉備は全く動じない。
張昭の睨みつきの咳払いを動じないとは、劉備の心臓ってボサボサなんじゃないかぁ?
「ハハハハ。しかし、今日は何の用で?」
「いやぁ。単さん。じゃなかった、司使君にお礼を述べに参りに来た次第」
「……お礼ですか?」
「やだなぁ。揚州王君に茂才として推挙してくれたって話じゃないか」
「ああ。では、楊州王君の所へ?」
「おう! 張忠の下なんぞ我慢の限界だったからね。皆を連れて揚州に行くことになった訳よ」
「それは重畳。揚州王君は名君ですし、秣陵の色町も大変賑わっておりますから、劉備殿もきっと気に入ることでしょう」
「わわっ!? それは……」
「おや? 色町へは、もう行かないので?」
「……いや。行かないと言えば少し嘘になる。だが、ちょっと控えないといけない事情が出来たんで……」
「ほう? どのような御事情ですかな?」
「嫁を貰った。それと子供も出来た」
「ええっ!? それは……おめでとうございます」
「子供といっても養子なんだけどよ。そこで、単さん……いけね」
「ハハハ。単さんで結構ですよ」
「そっか。その方が俺も話しやすい。単さんに名付け親になってもらおうと思ってね」
「……余が名付け親に?」
「おう。俺が嫁さんとガキを貰うきっかけを作ってくれたのはアンタだ。『それならいっそ』と思ってさ」
「余の推挙する人物では不服かね?」
「大丈夫なのかい?」
「余も息子の名をその者に付けてもらったのだ。良い姓名判断をしてくれるのでな」
「おお!? じゃあ、その方を紹介して下さるのかい!?」
「うむ。趙達と申す者です。推薦状を認めるから会いに行くと良いでしょう」
「すまねぇなぁ。何から何まで」
「ハハハ。貴殿と余の仲ではないか。気にするな」
「いやぁ! 有難い! それなら嫁さんも納得する筈だ!」
劉備はそう言うと上機嫌になった。
……けど、劉備の嫁さんって糜竺の妹な訳ないよな。
それと養子って……まさか、劉封?
でも、考えた所で仕方ない。
劉備と歓談し終えて、自室に去ろうとしたその時だった。
陳平がやって来たんだよ。
一応、フクちゃんモードで対応しよう。
「荊州牧就任、誠におめでとうございます。司使君」
「うむ。貴殿の活躍もあってこその就任だ。礼を言うぞ」
「それはそうと、今後はどのような方針で行きますか?」
「……というと?」
「内需拡大は既に充分だと思うのですが……。やはり交州へ出兵しますか?」
「いや、それは相手の出方次第であろうな」
「やはり、そうでしたか。それでは私に一つ策がありますが」
「……ほう?」
「ただし交州ではなく、江夏郡でございます」
「劉祥を調略するのか?」
「はい。ですが、まずは下地を作らないことには始まりませぬ」
「どう下地を作る?」
「新たな郡を作るのです。南陽国の南。江夏郡の北西、即ち章陵が宜しいでしょう」
「……劉祥は良いとして、劉岱は納得すると思うか?」
「その郡の太守に曹操を宛がうのです。汝南に接するようにすれば、劉岱も安心することでしょう」
「……ふむ。して、劉祥への対応はどうする?」
「朝廷への工作を行えば宜しいでしょう。荊州牧になった事を利用しない手はありません」
「……問題はどう朝廷を納得させるかだな」
「曹操にしてみれば太守になれる絶好の機会となります。あの者が好機を見逃す筈がありません」
「つまり朝廷工作を曹操に丸投げして、江夏の西を掠め取らせるということか?」
「ハハハ。人聞きの悪い。確かに結果的には、そういう事になりますがね」
「江夏の西を割譲する根拠はあるのか?」
「はい。江夏の西部は統治がなされておりません。これは江夏蛮(荊南蛮の一つ)を含め、不服従を貫く土豪が連合を組んでいるからです」
「……ふむ。成程」
「そこで曹操殿の出番です。我らの提示する税率を守って貰うと同時に、袁術への防衛を指揮してもらう手筈にします」
「ほう。確かに曹右相であれば申し分ないな」
「それに江夏では未だに重税を課されております。袁術への運上金集めで民衆の怨嗟も広まっておるようですぞ」
「……何? それは面白いな。よし、金を出そう。章陵が郡となれば江夏は、ほぼ四方から睨まれる形となるしな」
「宜しいのですか?」
「兵を使わずして攻め取るのは最良の兵法だ。当然であろう」
「それともう一つ。江夏の民衆を焚き付けてみてはどうでしょう?」
「焚き付けておいて、我らが援軍と称し、軍勢を繰り出す形をとるのか?」
「おお!? 流石は司使君! 察しが良いですな!」
「問題は、それで袁術がどう動くかだな……」
「動かなければ平定した後、劉祥を更迭してしまえば宜しいかと……」
「いや、張羨殿の二の舞は踏みたくはない。あくまで軍勢を繰り出した後、領民には減税を約束するのだ。そして以後、袁術への送金を止める」
「……ふむ。確かにそれなら袁術は黙っておりますまい……」
「その通り。そこから劉祥に対し調略を仕掛ける。そうすれば問題はあるまい」
「袁術が軍勢を動かした場合は如何なされます?」
「その場合、襄陽王君(劉表)と南陽王君(劉岱)の同意を得てから、袁術との交戦になるだろうよ」
「成程。両名を袁術との戦さに引きずり込むのですな」
「当然であろう。それに両名との同意とあれば、こちらに大義が生まれる」
「ハハハ。いや、恐れ入りました。では早速、実行に移すことにしましょう」
「荊州は袁術の物ではない。その辺を袁術には、しっかり理解して貰わんとな」
……う~ん。ドス黒い。
でも何時、反乱が起きるか分らない状況なら、手を拱いて事も出来ないしな。
……問題は孫堅が出て来るかどうかだなぁ。
孫堅殺したくないしなぁ……。
それはそうと、12月の政略フェイズに移行しよう。
まずは……。
「ちょっと待ったぁ!」
「うわわっ!?」
誰かと思ったら老師じゃねぇか!
いきなり大声で出るなよ!
「何だよ。いきなりビックリするじゃないか」
「よしよし」
「ツッコまないって言っただろ……」
「……悲しいのぉ。年寄りの細やかな楽しみではないか」
「……で、何の用?」
「おお、そうじゃ。実はお主に危険が迫っておる」
「……また、変なドッキリ?」
「馬鹿者! チョ~一大事じゃ!」
「仙人が『チョ~』とか言うなよ……。雰囲気ブチ壊しじゃないか」
「いや、儂。まだまだナウでヤングなつもりじゃから」
「……何それ?」
「そんな事はどうでも良いわ。早く支度せよ。本当に急がねばならぬのじゃ」
「……家臣達に何て言えば良いんだよ?」
「ほれ。また『夢のお告げだー』とか言えば良いじゃろう。政略フェイズもこっちで上手くやっておくから」
「……ちょ、一体何なの?」
「聞き分けがないのぉ……。ほいっ!」
僕はいきなり爺に拉致されました。
気づけば山の中です。
「何だよ!? ここは!? 一体、どうしろというんだ!?」
「ここで大人しく五日ほど大人しくしておれ」
「意味が分らないよ! 理由ぐらい教えろよ!」
「いいから、大人しくしておれ。五日ほどで迎えに来るからの。食べ物はそこら中にあるから心配せんで良いぞ」
そう言って老師はフッと消えてしまった……。
何処なんだよ……ここは。
てか、普通の山の中じゃないし……。
今は冬だから山中となると凄く寒い筈だけど、どう考えても春の陽気。
そして、あちこちで果物がなっている。
梨、柿、桃、栗、苺、林檎、蜜柑、葡萄……。
季節感が全くない……。
ひょっとして、ここって仙人の世界なのかな……。
けど、僕はここで何をすれば良いのやら……。
てかさ! ゲームの世界なんだから、仙人も何も関係ないじゃん!
ああ……もう、意味が分らなくなってきた。
意味なんて求めた所で、どうしようもないので、辺りを散策することにした。
すると、湯気が出ている場所を見つけたので、僕は足早にそこに行ってみたんだよ。
そうしたら、そこには澄み切った温泉が湧き出ていた。
周りには誰もいないし、ここは疲れを取る意味でも入ることにしたんだ。
温泉に入り、果実を食べて僕はのんびりと静養し、五日間をそこで過ごした。
問題は僕がこうする事により、また変なイベントが起こりうる可能性があるという事だ。
絶対、おかしいものね……。




