第一話 少年、訳も分からずに立つ
僕は司護。まだ、高校二年生だ。
ひょんなことで同人の三国志のゲームをダウンロードし、普通にプレイしていた。
その筈だったんだけど……。
気づいたら制服じゃなくて、コスプレさせられていた。
中国の昔の衣装ってやつ?
そして、何処だか分らない所にいる。
この今いる場所は多分だけど、城の中。
土埃が多くて、少し口の中がザラザラしている。
あまり掃除が行き届いているって場所じゃない。
僕はなんか偉そうな椅子に座り、周りを見渡していた。
すると突然、脳裏に何か文字が浮かんだ。
司護 字:公勅 能力値
政治10 知略8 統率5 武力1 魅力8
固有スキル 登用 商才 看破 鎮撫 名声 吉兆 説得 弁舌
何だろ? これ?
そう言えば、ゲームでオリジナル武将での君主をやることにして、ポイントを振り分けた記憶はあるんだけど……。
確か能力値は十段階だから政治はMAXにしてあったけど……。
名前は司護で読み方は「しご」にしていたっけ。
「ほっほっほ。お前さん、困っているようじゃの」
突然、何時の間にか傍らにいた爺さんが話しかけてきた。
「失礼ですが、貴方は?」
僕はそう言うと爺さんはにこやかに「よしよし」と言葉を返してきた。
「ええと……ですから、貴方は?」
「よしよし」
まさかと思うけど、水鏡先生なのかな?
「その様子だとこの爺が分ったようじゃな。よしよし」
「……あの僕はここで何を?」
「よくあることじゃ。転生したからには、この乱世を治めなされ」
意味が全く分からない。どういう事? 僕はただ同人ゲームを始めただけなのに……。
けど、ひょっとして水鏡先生が配下ってことなのかな?
「わしはただの助言役じゃ。そっちの世界でいうチュートリアルってやつじゃな」
何でも御見通しかよ!? けど、チュートリアルなら小喬が良かったなぁ……。
「閣下! 我らは何時でも用意万端です! 早速、ご下知を! 我らがいるからには大船に乗った気で下され!」
見ると武官と文官っぽいのが拳を隠すという、とっても中国っぽい挨拶をしている。
すると僕の脳裏にまた文字が浮かんできた。
博士仁 能力値
政治2 知略2 統率2 武力5 魅力1 忠義2
固有スキル 歩兵
楊松 能力値
政治3 知略5 統率1 武力1 魅力1 忠義1
固有スキル 讒言
何これ!? ちょ…ちょっと悪い冗談だよね?
この二人しかいない訳? 無理ゲーじゃない?
穴の開いた泥舟にしか見えないよ!
「お前さん、ポイントを配下に一つも振り分けなかったじゃろ? それもよしよし」
水鏡先生…だからといって、これは余りにも酷いです…。
大体、ここは何処なんでしょう?
「ここは長沙じゃ。光和七年。西暦に直すと184年3月じゃな。これで宜しいか?」
そう言えば一番、初期のシナリオで始めて……ん?
いやいや! そんなシナリオなかったぞ!?
「お主は隠しコマンドを使って隠しシナリオを始めたのじゃ。それもよしよし」
……悪い夢なら早く冷めてくれ。
大体、この二人じゃ何時、寝首をかかれるか分らないよ。
こんな事になるんなら、配下武将にポイントを割いておけば良かった……。そうすれば……。
「どうでも良いが、女武将なんぞ南蛮に一人しかおらんぞ。よしよし」
…結構、硬派な作りなのね…。
流行には流されていませんか。そうですか。
「閣下! 民が陳情を申しております。如何なさいましょう? ここは無視して、まずは宴会でも宜しいと思いますが」
楊松……。お前って奴は一体…。
いや、ここは深く考えないことにしよう。
精神衛生上、良くない……。
「楊松。宴会も良いが、まずは民のことを考えねばならぬ。まずは陳情を読み上げてくれ」
「はっ。では、早速…」
1、野盗やならず者が跋扈しております。取り締まりをお願いします。
2、耕作地が荒れ果てておるので、どうにかして欲しい。
3、市街地が狭く、街道も整備されていない。このままでは旅商人が寄り付きません。
4、北の方で区星という者が一万の軍勢を率いて暴れております。不安なので討伐して下さい。
5、夏までに土手を改修して下さい。洪水にならないか心配です。
一通り聞いた後、また頭の中に文字が浮かんできた。
農業170 商業152 堤防55 治安56 兵士数14235 城防御287
資金3000 兵糧15000
これが長沙の国パラメータという訳か。段々、分ってきたぞ。
「お主の固有スキルについてじゃがの」
「あ、水鏡先生お教え下さい。いや、マジで」
「あまり話し方が君主っぽくないのう。それもまた、よしよし」
「早く元の世界に戻りたいので……」
「登用は文字通り在野の士を見つけ、尚且つ登用しやすくなる。商才は商業を上げるのに都合が良い。看破は敵の謀や策略を見抜けやすい。鎮撫は農民が反乱を起こしにくい。名声は他から在野の士が集まりやすい。吉兆は何らかの特別な出来事、つまりイベントじゃな。それが起こりやすい。こんな所かの?」
「あ、有難うございます!」
「偶に在野の者が自ら売り込みに来る場合もあるのじゃが、基本は自ら向かうしかないぞい」
「在野の者が来ているかどうかは、どう判断するのです?」
「君主自ら仕事をしていれば、民から噂を聞くことがあるのじゃ」
「成程、それ以外には?」
「高札を立てて置けば、売り込みに来る可能性が高まるぞ。ちと金100ばかし、かかるがの」
「高札高いなぁ…」
「あちこちで立てる必要があるからの。仕方あるまい」
「それ以外には?」
「反乱をおこしている賊将を討伐出来れば味方にすることも出来るぞ。賊将の兵士諸共じゃ」
「区星かぁ…。けど、兵士数も左程いないし…今、出せるのは博士仁だしなぁ…」
区星はちょっと引っかかるけど、ここは無視することにした。
大体、博士仁じゃボロ負けするのは間違いないからなぁ…。
ちなみに忠義っていうのは「高ければ高いほど裏切りにくい」だってさ。
博士仁と楊松だから当然の数値かぁ…。
内政するには二週間必要とのことなので、まずは僕自身が町整備する。
これをやると商業があがって毎月の税収アップにつながるからね。
楊松は開墾、博士仁は町の見回りを命じた。
この二人「我らにお任せあれ!」なんて大声で言っていたけど、アテには出来ないよなぁ…。
一人につき金100必要で300が金庫から公費として支出される。
国のパラメータはというと…。
農業173 商業167 堤防55 治安57 兵士数14235 城防御287
資金2700 兵糧15000
おお! 商業値が15も上がった! 流石は政治10の上に固有スキル商才あり!
けど、治安は1しか上がってない!? 博士仁、役に立たねぇ!!
「商業を10上げるごとに治安は1減るぞ。気をつけるが良いぞ。それを無視するのもまた、よしよし」
……水鏡先生。少しは手伝ってくれないかなぁ……。
けど性質上、無理なんだろうなぁ…。
「そう言えばお主の設定なんじゃがの」
「……僕の設定?」
「うむ。わしが書いておいてやった。安心するが良い」
「何を安心しろって?」
「黙って目を瞑るが良いぞ。ホッホッホッ」
司護。字は公勅
村名主の子として生まれ、幼少から聡明で名が近隣まで知られる。
前長沙太守が悪政を敷き、農民が反乱を起こすと盟主として担ぎ出され、長沙の事実上の太守となる。
僕の設定ってこれかぁ…。
字は設定していなかったけど、自動で設定されちゃったのかな?
深く考えるのはやめよう。そうしよう。……って。
続けて読めば「しごこうちょく」……?
縁起悪いとしか言い様がないじゃないか!
「水鏡先生! 字が気に入りません!」
「よしよし」
「良くない!! ちっとも良くない!」
「……仕方ないのぉ。では、趨実で良いか?」
「しごすうじつ……。もっと悪いじゃないか!」
「仕方ないのぉ。では、公殷。これなら良いじゃろ?」
「やっと、まともそうなのが……。それでお願いします」
……ああ、疲れた。
さて、僕が3月後半の政略フェイズ…まぁ、そういっていいだろうな。
しようとしていると衛兵Aから思わぬことを言ってきた。
衛兵Aも名前はあるんだろうけど、ほら……。
ぶっちゃけ人名の多さが滅茶苦茶になるからね!
「閣下。高札を見て仕えたいと申す者が来ております。如何しましょう」
「そうか。では、連れて参れ」
博士仁や楊松よりは少なくともマシだろう!
いや、マシであってくれ!
じゃないとシャレになりませんから!
連れられて来た者は恰好を見ると文官っぽい。
治安の為に武官が良いんだけど、贅沢は言ってられない。
で、僕はその文官っぽいのに会った訳なんだけど……。
「司護殿。お初にお目にかかる。某、広陵の生まれで名を陳端と申す。願わくば、貴下に加えさせて頂きたい」
えっと…誰? 陳端? そんな奴いた?
オリジナル武将とかそういうの?
聞いたことないんですけど???
けど、楊松よりかはマシかな? 目を瞑って能力値を見てみよう……。
陳端 字:子正 能力値
政治7 知略7 統率1 武力1 魅力6 忠義7
固有スキル 開墾 治水 機略 登用
強い! 強いぞ! 誰だか知らないけど強いぞ!
ごめん! でも、本当に知らないんだ!
「貴殿のような方が来て頂けるとは有難い。早速、働いてもらいたいのだが」
「有難き幸せ! では早速、御下知くだされ」
治安があまりに悪すぎると民衆が反乱を起こすらしいけど、今は資金不足が……。
仕方ないので、博士仁と楊松には遊んでいてもらおう。
陳端には治水してもらうとして、僕は当然、町造り。
その結果、こうなった。
農業173 商業182 堤防67 治安56 兵士数14235 城防御287
資金2682 兵糧15000
陳端が来てくれたおかげで洪水の不安も解消されそうだ。
本当に誰だか分らないけど、凄く有難い。
あとは武官が来てくれればいいんだけどねぇ。
そして、四月になった。新たに加えた謎のままの文官陳端も会議に出席。
楊松と博士仁は「宴会マダー?」とか言っている。
ちなみに宴会をすると金200必要な上、僕や陳端もそれ以外に何も出来ない。
出来る訳がないだろう! ただでさえカッツカツなのに!
そいて、謎の出来る男。陳端だけがまともな事を言ってくれた。
「閣下。同じ広陵の出自で私の知り合いに秦松という者がこの長沙にいます。必ずや力となってくれましょう」
「君の推挙とあれば間違いあるまい。早速、呼んできて欲しい」
「畏まりました。では早速、連れて参ります」
「うむ、頼んだぞ。今は出来る限り良い人材を求めたいのでな」
でも、秦松って誰!? 武官でありますように!
未だに博士仁しか武官いないんだよう!
区星が来たら終わりなんだよう!
「お主、人集めも良いが年末には金をとっておけよ」
「水鏡先生。何故です?」
「年末に諸将の給料を払うからじゃ。決まっておろう」
「あ、そういうことでしたか。で、如何ほどです?」
「一人につき100じゃ。安いもんじゃろう」
博士仁と楊松に100ずつなんて高すぎ!!
さっさと追い出したい!
「お主。良からぬことを考えておるのぉ。意味もなく解雇すると悪評が立つ故、肩叩きは程々にするんじゃぞ」
「ええっ!? けど、脳裏にそんなことは…」
「そこまでは脳裏に浮かばんのじゃ。じゃが、気にせずに解雇するのもまたよしよし」
ううう。となると現段階で秦松が来たら年末に400必要なのかぁ……。
けど、博士仁や楊松クラスじゃなさそうだしなぁ……。
4月の前半は登用で陳端は登用。これにはお金はかからない。
僕は当然、町造り。治安悪化は怖いので博士仁には見回りしてもらい、楊松は…もう、その辺で遊んでいろ!
で、長沙のパラメータはこうなった。
農業173 商業197 堤防67 治安57 兵士数14235 城防御287
資金2382 兵糧15000
そして、陳端が帰ってきた。
秦松の恰好を見ると…文官だよ。
まぁ、使える文官は嬉しいんだけどさぁ……。
「竹馬の友陳端の誘いを受け、参りました。秦松と申します」
「よく来てくれた。長沙はまだ民心も安定しておらぬ。宜しくお願いしますぞ」
「……い、いえ。某はまだ……」
「天はこの司護と長沙に二つの宝玉を与えてくれた。一つは陳端殿。そしてもう一つは貴殿という宝玉です」
「………」
「秦松殿。どうか、この司護と長沙をお助け下され。貴殿が長沙に来て下されば、必ずやこの長沙は救われましょう」
「勿体ないお言葉! 不肖、この秦松。司護殿のために心血を注ぎまする」
ええっと…で、気になるパラメータはと…。
秦松 字:文表 能力値
政治8 知略7 統率1 武力1 魅力7 忠義5
固有スキル 商才 弁舌 判官 治水
強いよ! やはり誰だか分らないけど、強いよ!
けど、武官来て! お願いだから!
それ以上に謎の固有スキルが随分と出てきたな…。
「爺の出番じゃの。弁舌は外交で和睦や同盟などといった時に持っていると有利になるもの。判官はちょいと特殊じゃな」
「水鏡先生。どういうものなのです?」
「判官は今の所、民の訴訟。所謂、民事訴訟などにおいて容易に裁判を取り仕切ることが出来るのじゃ」
「民事訴訟をそのままにしておきますと……?」
「急激に治安が悪化したり、山賊などが出現したりするのぉ」
「結構、重要なんですね……」
「民も生活がかかっているからの。お主とて設定上、太守を追い出して居座っておる訳じゃしの」
「あと楊松の『讒言』なんですが……」
「それは文字通り相手を陥れる為のものじゃ。気にいらない者を追い出そうとして、君主にいらぬ事を言ってきたりするぞい」
「役に立たないどころか、反って邪魔なものじゃないですか……」
「いやいや。これをもっている者は賊将などを嗾けることも出来るのじゃ」
「どういうことです?」
「つまりはな。付近にいる賊将に他の領土を攻撃させることを唆すんじゃな」
「じゃあ、区星とかに楊松を使いに出すと……」
「その通り。区星は他の所にちょっかい出すかも知れんぞい」
これで4月後半の政略フェイズは決まった。
僕と秦松は町造り。陳端は治水事業。楊松は区星へ使いにだし、江夏の黄祖にある事ない事言って仕向けさせる。博士仁はまたもや見回り。
結果。長沙のパラメータは……。
農業173 商業225 堤防79 治安57 兵士数14235 城防御287
資金2207 兵糧15000
さて、次の5月には楊松戻ってくるらしいけど……。
区星、江夏に行ってくれるかなぁ……?