モノローグ:無機質な妹からのモーニングコール
この物語は、二宮兄妹の平凡とは言いがたい日常を爛々と描く物です。
過度な自重は期待しないでください。
あと、部屋は明るくして、ブラウザから3メートルは離れて見やがって下さい。
読めない? はい、そうでしょう。
あなたがマサイ族でも無い限り無理です。あなたがマサイ族だったとしても……
読んで欲しくないの? いいえ違います。
ただ、小説というのは自分の恥部をさらけ出すようなものです。
見られたい、でも恥ずかしい。
そういう露出プレイ的一面のあるものです。
しかし、現代人はそこの処が麻痺っているのかもしれません。
それでは、麻痺しきれないと言いつつも、結構やっちゃってる様をご覧ください。
その朝も、いつものテンプレートでスタートした。
『お兄ちゃんお兄ちゃん、朝だよ、起きてー起きてー』
「……後3分……」
まぶたの裏に、自慢の長い黒髪をゆらし、俺の体を軽く揺さぶる夕日の姿が映る。
『起きないと……キスしちゃうよ』
あぁ、出来るもんならやってみろよ。
『…………イタッ!? お兄ちゃんなにすんの! うるせっ』
『お兄ちゃんお兄ちゃん、朝だよ、起きてー起きてー』
「……後5分……」
『起きないと……キスしちゃうよ。…………イタッ!?』
ガタッと妹の頭を叩き、うるさい口を黙らせる。
最近の流行は丁度、夕日が〝イタッ〟と言うタイミングで打ちのめす事だ。
実際のヒットは、もっと前だろうが、それでは夕日が痛がる声まで再生されない。
これがピタッと決まると〝スカッ〟と爽快。
今日はクリティカルヒットで大変、気持ちよい目覚めでした。
もうお分かりだろう。
俺の妹は無機質な目覚まし時計だった。
しかし、わずかに俺が混ざっているという何とも締まりのない粗悪品。
まったく、なんで俺も律義にこんな物を使い続けているんだろうか?
もういっそ、力の加減せず、強く叩き続けてこの妹を壊わしてしまおうか?
まぁそうなった事がバレたら元の状況に戻り、
今度は、目覚まし型夕日マーク2を製作せねばならないので止めておく。
俺はそこまで朝に弱いというわけじゃない。
目覚ましで十分なのだ。
なのに『お兄ちゃんは毎日あたしが起こしてあげるの!』と寝込みを襲われる事、何年になっただろうか?
小さい頃は軽くゆすられ、いっても頬にキスしてくる程度のまだ可愛いと言えるレベルでよかったのだが、その甘さがいけなかったのだろう。
大きくなるに連れてアイツの節度は、恐ろしいほどに崩壊していった。
16になった今では、ベッドに入ってくるのは朝飯前で、抱きついてくるわ。
終いには口にキスをしてくる始末。息苦しくなり目覚めようがお構いなしだ。
目的なんて、はなっからこれなのだろう。
寝ている俺に拒否権なんて無かった。
対策に目覚ましをかけ始めたが、いくら早めても一時対処にしかならなかった。
その度にアイツも自分の目覚ましを早めていった。
朝早く起きるには、起きた時に楽しみを用意するといいと聞いた。
その理屈で考えると妹は朝のアレを、大変楽しみにしているという事になる。
我が妹ながら、なんて残念な子なのだろうか。
こんなに早く起きてどうするよと
二度寝は、またどっちが早く起きるかの戦いになるわけで。
せっかく回避した物を二度寝に食らいたくはないし。
一度寝に食らってしまった物を二度寝にも食らった日にゃ、朝から胸焼けで溜まった物ではないだろう。
よって朝っぱらから、健全な高校生らしく勉強を始めるか。というとそんなわけはない。
不真面目な俺達は、ゲームを始めるのであった。
男兄弟のいる女子は、ゲームは得意だったりする物で。
家の妹も例には漏れず、接待などする必要なく、ガチンコで出来る存在である。
格ゲー、レース、サッカーにetc。
このままでは学校をサボりたくなるは。
学校で爆睡するはで。
そこで、ようやくダメだこりゃ。と初めて目が覚めたのであった。
コイツの事になると、いつも我を見失う。
俺らしくもない。
だってしょうがないじゃないか…………
妹がゲームが上手いのも考え物だ。
よくある何勝何敗なんて、
律義に数えているわけはないが、不思議と俺のが負けてる気がするのだよ。
これがまた、これがまた。
微かに……。微かにだ!
は? なんて?
フルボッコだって?
ん、んなわけねぇだろうが、ば、バカやろう……。
妹にフルボッコとかないわ〜。
なに言っちゃってんすか、まじで。
……少しは接待とかしてくれたって、いいと思うんすけどね。
なんなんでしょうね。まったくああいう人って。
でも妹に接待されるとか、ちょ〜屈辱的じゃねぇか……。
でもフルボッコじゃ、どっちにしたって屈辱的じゃねぇかぁ―。
どうして勝てないんじゃコンニャロ―。
……話を戻そうじゃまいか。
完全にゲームで目的を見失ってしまったが
当初の目的は、度の過ぎた妹の起こし方への対処という話だったはずだ。
目覚ましを早めるのは無理だが、対処を完全に諦めるわけにもいかない。
アイツの事だ、次に何をしてくるかなんて想像したくもない。
言って聞かせたが、そんな事を聞くようなタマじゃない。
どうしても自分で起こすと聞かないのだ。
そこで俺が示した妥協案がコイツというわけだ。
妹はぶーぶー言いつつも『俺の部屋に鍵をつける事も可能なんだぞ』と言うとしぶしぶ、そいつを受け取った。
かと言って、あの妹が、それでおとなしく引き下げるわけもなく。
あの目覚ましボイスに落ち着くまでは、それはそれは長い戦いがあったわけだが……。