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鏡塔学園戦記 〜ウサギと独鈷杵と皆朱槍〜  作者: 瀬戸内弁慶
第四話:鏡塔忍法帖 ~彼女は如何にして漁夫の利を得たか?~
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「……曲がれッ」


 ゼンは社の手首をつかんで、背を低くした。

 ただでさえ小柄なふたりがさらに小さくなって、振りかざされる刀剣をかいくぐる。


 コーナリングの内側を攻めたため、ヒザがタイルに擦れ合った。

 中央の道からふたたび部室に戻るべく、加速した。


 もはや、おたがいの安否を気にしているような段ではなかった。

 社の力量を信頼し、手を放し、彼女と並走した。

 だが四本の細足は、途中で停止することになった。


 無数の忍者が、所狭しとひしめいて前方の通路を塞いでいた。

 忍者軍団をふだてた向こう側、正反対にある三叉路で敵を防いでいたはずの冬花は防戦することを放棄していた。

 壁にもたれたままニヤニヤと傍観している彼女のすぐ脇を、後続の忍のモノたちが難なく通過していく。


 かるく睨むゼンと目が合うと、とぼけたように両肩を持ち上げてみせる。

 舌打ちを隠さず、ゼンは背後を振り返った。


 ゆったりと、それこそ王者の足取りで、十字手裏剣片手に、敵の垣根から牧島無量が現れた。

「……どうやら、信じていた人間には裏切られていたようだな」

「信じていた、ね。どうだかな。むしろ、素直に裏切ってくれたほうが後腐れなかったんだが」


 余計なことをぼやくゼンの脇腹は、正面を向いたままの社に小突かれた。

 ふたりが立ち往生し、挟み撃ちされている死地は、それこそ「中」の中心。本来のそれぞれの持ち場からもっとも均等に、かつもっとも向かいづらい場所だった。


「文字どおりの、袋小路というわけだ」


 『忍者王』が低い嘲笑を放つ。

 険しい顔のままゼンは彼へと独鈷杵を向けた。

 奥歯を噛みしめ、唇を引き結んだまま、ふたたび少女の床の白タイルを足でつよく叩いた。


 『初歩跳躍』。

 牧島の眼前からゼンたちの姿が消える。


「強行突破か! 無策なっ、またすぐに囲んでこれよう!」


 だがそう豪語するニンジャに、ゼンは攻撃をかけるでもなく、また頭上から奇襲を仕掛けるわけでもなかった。


 ただ、すり抜けた。


 可能な限りの跳躍でもって、三十数名の肉体を通過し、彼らの背後に躍り出る。

 だが、彼の『歩兵』の力でも、社の『ビショップ』でも、彼らを殲滅するほどの破壊力はない。


「袋小路……なるほどそのとおりだ。けどその言葉、そっくり返すよ『忍者王』……! 社先輩ッ!」

「はいっ」


 ゼンの細腕から解放された少女が、自らの右手を中空から振り下ろす。

 天井がわずかにきしむ。その音が耳に届いてはじめて、『忍者王』は自分たちの頭上、その天井に何が縫い付けられているのかを悟ったようだった。


『ビショップ』によって生み出された、社の五寸釘。そしてそれらをつなぎ合わせる白布。

 それらは、当初からそこへと準備されていた。


 彼女の意思に従って、方陣を保ったままに、矛先を転換させた釘が地面に突き立つ。

 発せられる光が、一箇所に固まった忍者たちを覆い、脱力させていく。


「今ですっ! 新田くん!」

「あぁっ!」


 無防備な彼らの背へと逆襲するべく、ゼンは黄金の切っ先をドライバーの鍵穴へとねじ込み回す。

《Checkmate! Pown!》

 逃走中に龍脈のエネルギーを再充填させた独鈷杵は、ふたたび少年の身体を黄金でつつむ。


「ええいっ! だが貴様ら程度の力では……っ!」


 自分の身までは届かない。

 そう続けようとした牧島無量の背後から、


《Checkmate! Queen!》

 という女性の人口音声が轟いた。


 驚き振り返る無量の視線の先で、『ルーク・ドライバー』に刺しっぱなしの鍵を、忍森冬花が回していた。

「……っ、裏切ったのか、キサマッ!?」

 どういう約束を交わしていたかはともかく、無量の予想と期待を裏切る仕打ちであったことは疑いもない。


 ――そして、最後の露払い。

《Checkmate! Knight!》


「……ナ、ニ……!?」

 『忍者王』の顔が、その音声が飛んできた地点へとめまぐるしく移される。

 見れば数メートルをへだてた右手の通路。その窓の縁に足をかけた桂騎習玄。

 槍の石突をドライバーにねじ込んでいた。


「そうだよ。最初から合流する必要なんてなかった。それぞれがリーチの届く範囲を確保さえしていればな」


 朱槍を手にした彼が、その身をひねり、穂先から銀色の衝撃波を飛ばす。

 方陣の閃光が、その輝度をますます高めて束縛する。

 虹色の天衣が伸縮をくり返しながら敵をなぎ払う。


 それらが忍者兵たちをすりつぶし、火の華を生み出していく。

 新田前は金色をまとい残りのひとかたまりへと突っ込んでいった。


 前方から、後方から、右手から、そして天から。

 真のクロスファイアポイントでは逃げるべくもなく、五十を超える影の軍団は、軒並み殲滅されていった。

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