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鏡塔学園戦記 〜ウサギと独鈷杵と皆朱槍〜  作者: 瀬戸内弁慶
第四話:鏡塔忍法帖 ~彼女は如何にして漁夫の利を得たか?~
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 習玄たちが人避けして確保したエリアは、すこし特殊なかたちをしていた。


 まず『広報同好会』の拠点を起点とすると、そこから伸びて三叉路にわかれている。

 左手には高等部二年生の使う教室。そして右手には資料室や備品室など、専門的な『物置』が存在している。そして真ん中をつらぬく形で、連絡通路が通っている。

 最終的にそれが一本に束ねられて、別棟へとつながっていた。


 ちょうど漢字でいうところの「中」の字に似ていた。


 本当に奇妙で計画性も感じられない構造ではあるが、それでも今回の祭にはうってつけらしく、三本道いずれにも、オシャレでかわいらしいポップや見世物の看板などがひしめいていた。


 桂騎習玄と時州瑠衣は、その三本の道のうち左を担当としていた。

 そして、壁をへだてた向こう側で、ガラスの割れる音を聞いた。

 朱槍を手にしたままに、着込んだコートのポケットから携帯電話を引っ張り出す。

 すかさず電話がかかってきた。画面には友人の名前がフルネームで表示されていて、彼は落ち着いて通話ボタンをタップした。


「もしもし……やっぱりそっちに現れたか。わかった。そのまま敵を引きずって右の道へ迂回。取り決めの地点まで退避してくれ」


 通話を切り、逆の手につかんだ朱槍で、敵を斬る。

 上下でふたつに分かれて霧散した忍者。白煙を吹いて枯葉にもどったそれを踏み越えて、習玄は前へと歩む。


 彼の前進を阻むように足下に手裏剣が突き立つ。

 破損しないように携帯は学生服のポケットにしまう。ステップで暗器を避けると、今度は前方から、頭めがけて苦無が飛んだ。


 それらを弾いてさばいてると、扉から、手作り感あふれるオブジェから、銀の金属片が閃いた。


 習玄は後へは退かない。

 全弾はじいた槍は向きを変えず、足で、伏兵の刀の持ち手を叩く。

次いで現れた忍者の胸ぐらを掴んで投げとばし、さらに増えた敵の群れへと投げとばす。


 最初に刀をくり出した敵が起き上がる。習玄は立ち直るよりもはやく穂先をひるがえした。袈裟懸けに叩き斬り、空いたほうの手で、中途半端にぶら下がった首根を完全に引きちぎった。


 進路にまきびしがバラまかれる。

 慎重に歩けば通行は困難ではなさそうではあった。ただ、強行突破はできそうにもない。その鉄の罠をへだてた先で、罠をしかけたモノたちが短刀を逆手に構えて待ち受け、あるいは時代がかった弓矢をつがえていた。


 ――もっとも、強行突破自体は考えてはいなかったが。


 習玄は穂先を横にし、壁に突き立てすりつけた。

 彼の意思によって生じた障壁に、習玄は左手をかけ、右足をかけてそこへと乗りつけた。


 足場と化した半透明の障壁が、彼の体重分だけつけ根から傾く。

 だが構わない。構っていられない。せめて数歩、まきびしのゾーンを抜けるだけの距離を稼げればよかった。


 習玄はその『床』をつよく踏みしめた。

 跳躍し、敵全体の背後に躍り出る。


 彼らが振り向くよりも、習玄が体勢を立て直して鍵をねじ回すほうが早かった。


《Checkmate! Knight!》


 王手宣言とともに紫紺の穂先に銀光が集まる。

 片手で槍を突き出せば、その輝きは巨大な矢となって廊下を抜け、そこにはびこる魔人たちを焼き払いながら、最奥の壁まで突き破った。


「お見事、いやはや相変わらずムダも躊躇もないね。君」


 胸ポケットからの瑠衣の賞賛は無言で流し、習玄は伸ばした腕を引き戻した。

 蒔かれた鉄菱やら散らばった武器やらが、チリにかえった。


 習玄はそれを見届けると、槍の持ち手を短くした。くるりとその矛先を変えると、教室の扉に向けて突き立てた。

 反応も、声もない。ただ引き戸を破壊しただけだった。

 無言で引き抜き手応えをたしかめ、そして習玄は思案した。


 ――やはり、こちらが分散した頃合を狙ってきたか。敵は二十体前後と聞いていたが、こちらの割り振り分がそれにしても多い……。ほんとうはもっと数が多いのか? 新田くんと戦ったときは手を抜いていた? ……いや、違う。例の『鏃』の影響か。


 ともあれ、ここまではおおむね予想どおりだ。


「どうするね? 予定を変更して合流するか?」


 敵忍者の数に、瑠衣も異常を感じ取ったらしい。

 だが人形の提案には、「いえ」と習玄は首を振った。


「新田くんたちならなんとか誘導してくれるでしょう。俺はこの通路の伏兵を殲滅して安全を確保、次にそなえる。不安要素は……あの忍森冬花嬢ですが、どうにも彼女はその場しのぎのような裏切りはしないように思えます。裏切りの時機は、すくなくとも牧島との戦いより後です」

「そういう君はどうかね?」

「俺、ですか?」

「なんか、すごく愉しそうだな。ぶっちゃけ浮かれてるよ」


 そう指摘されて、はじめて習玄はおのれの唇がつり上がっているのを自覚した。


「そこに油断はないと、言い切れるかな?」

「油断は、していません。新田くんの時とおなじですよ」

「牧島無量を好敵手認定か? ンハハン、新田が妬くぞ?」


 おちょくるウサギに肩をすくめて見せて、


「敵がどうというよりかは……なんというか環境というべきか……し、しつ」

「シチュエーション?」

「そう、それです」


 喉元まで出かかった横文字がサラリと出されて、習玄はつよくうなずいた。

 それからすこし困ったような微笑を浮かべ、耳の裏に手をやりながら、彼は歩き出した。


 槍で突き刺した引き戸の前を通過した、その直後だった。

 何かが引き戸をやぶって、廊下に転がり出てきた。

 紺色の忍装束をまとった、カオのない男。ドアの裏側で伏せていた、敵兵。


 習玄の朱槍に貫通された痕を残したままに、紺色の装束の魔人は苦無片手に飛びかかってきた。


「我ながら業の深いことですが……」

 と前置きしてから、習玄は槍を天井高くへと吊り上げ、飛びかかる忍者を迎撃。

 今度こそ、完全に脳天を叩き割り、敵を左右に切断した。



「真剣勝負も良いですが、やはりこういう戦いが好きでして」

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