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鏡塔学園戦記 〜ウサギと独鈷杵と皆朱槍〜  作者: 瀬戸内弁慶
第四話:鏡塔忍法帖 ~彼女は如何にして漁夫の利を得たか?~
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(15)

 十二月二十三日の祝日、早朝から多くの生徒が学校に集まっていた。

 授業はなし。すでに終業式も済んで、冬休みに入っていた。


 集まった生徒たちは、トンカチや紙細工を持って、それぞれの部の指導者の下に、廊下を駆けずりまわっていた。


 第五回鏡塔学園聖夜(せいや)祭。

 まだ若いこの祭典は、部活動や同好会のメンバーがメインとなって、それぞれの成果をあらためて披露したり、表彰される場であった。


 名目上はミッション系の学校としての行事の一環とされているが、実質は二ヶ月前の学園祭でブースを確保されなかった部活の救済措置だった。


 そこで未来の部員を確保するため、準備に力を注いで来ていたのだ。

 来る明日にそなえてラストスパートをかけるべく慌ただしい中、ひときわ動きのない部屋がひとつ、片隅にポツンとあった。


「広報同好会」


 と銘打たれた申し訳程度の看板の立てられた戸の向こうで、三人の男女と一体のウサギ人形が神妙に顔を向かい合わせていた。


「……この状況下で、人混みの中であの男……仕掛けてくるっていうのか?」

「確かなのですか?」


 新田前と桂騎習玄。この少年ふたりを呼びだした張本人、九戸社はいつものJKの『フリ』をかなぐり捨てて、大まじめに頷いた。


「木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中っていうのが忍にはありまして……これを見てください」


 と、少女は壁に立て掛けたポシェットを手にとって、白紙を広げた机の上で逆さにした。

 中から色とりどりの米粒が散らばり、少女は指先で一粒一粒動かしていく。


「こんな感じで、今朝連絡が入りました」

「いや、どんな感じだよ……っつーか何だよ、これ」

「なるほど五色米、ですか」


 ある程度の法則性をもって並び替えられたそれをのぞき込みながら、納得がいったように習玄が言った。

「そのとおりです」と、嬉しそうに社は顔を笑みほころばせる。


「は!? 五色米!?」

「草の者が使う暗号の一種だ。米の色と並び順に置くことで、相手に伝言をつたえる」

「いや、そーゆーことじゃなくてだな……っ」


 五色米という言葉への違和感がぬぐい切れず、なお言い募ろうとするゼンの背後で、コンコン、とガラスを叩く音がする。


 あわてて振り返った三人の目に飛び込んできたのは、茶褐色の巨大な鳥だった。

 りりしい顔立ちにするどいツメとクチバシ。たとえそれが翼をたたんだ立ち姿であったとしても、威容を保ちつづける勇姿は、少年心を否応なしにくすぐられる。


 ……問題があるとすれば、いかに山間部の学校でも、現れるはずもない猛禽類であるということか。

 そんな、鷹なんてものが、平然と文明社会に降り立つはずがない。


「むっ、飛丸(とびまる)!?」


 一番最初に反応したのは、社だった。

 窓を開け放つと、鷹は翼を広げて彼女の腕の上へと飛び移り、ちいさく鳴いて頭部を白い首筋にすりつける。


 くすぐったげに愛情行動を甘受しながら、その足首にくくりつけられた円筒から、紙片を引き抜いた。


「使いにやっている鷹です。……前日、師兄が葉月幽と接触したみたいです。……やっぱり今日仕掛けてくる可能性が高いかと」

「……おかしいから。さすがにおかしいからなッ!?」

「……たしかにおかしい。なぜ今になって見つけられた? ……いや、わざと見つかりやすいように、彼女は無量に接近したとしか……」

「いやいや、オレが言ってる『おかしい』っての、そーゆーことじゃないから! 連絡なら携帯で良いだろうがっ」


 ツッコミどころ満載のなか、ごく当たり前に話は進行していく。

 マトモなのは自分だけか。そう煩悶しながら疑問をぶつけるゼンに、瑠衣が首を振った。


「『忍者王』のNINJAとしての腕はともかく、わたしのかけたプロテクトを突破してデータをパクるようなヤツだ。ソフトにはけっこう精通していると見たほうが良い。通話だと傍受される可能性がある。こうした馬鹿げた手段のほうが、かえって効率的だな」

「……なんか、釈然としない。あんたにマジレスされるのもふくめて」


 そう言ってから、ふたりは黙りこくった。しばらくして「なぁ」と感情のない人形をゼンは見下ろした。


「最近、なんか口数少なくないか?」

「別に? 興味のない話題がつづいてるだけさ。というか君らはだなぁ、もっと学生らしく頭空っぽにしてシモネタ合戦すべきだと思うよ? それが健全な男子高校生ってもんだろう?」

「……っていうか、やっぱりアンタ」


 その先を言おうとして、ゼンはぐっと顔をしかめた。

 気配を感じて戸に目を向けた瞬間、そこに立っていた女子生徒と目が合ったから。


 メガネの変装は外して、優等生の仮面は取り払われて、ニヤニヤと、イヤミったらしい笑みを浮かべていた。


「あれ? ひょっとしてパーティー出遅れちゃったァ?」

 忍森冬花が、そこに立っていた。



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