(11)
「いやー、なんか見苦しいところ見せちゃって、ゴメンナサイ」
「いえいえ。こちらこそ急にお邪魔してしまい……」
あらためて、広報同好会。
パイプ椅子に座らされた習玄の目の前に、可愛らしいマカロンと紙コップにそそがれた濃い渋茶がふたり分置かれた。
ちなみにマカロンが習玄の持ってきたもので、渋茶はその部屋の主、九戸社の魔法瓶から移されたものだ。
「手前ではなく、彼女の側からコップはとれよ。相手が相手だからな。毒が盛られるかも」
自分の頭に響く、瑠衣の忠告を習玄は無視した。
手前の紙コップを手に取り、一気に飲み干そうとしてにヤケドした。
むせ込みながら、かるく周囲を見渡した。
「同好会、たいへんみたいですね」
「ほんっとそうなんですよっ! なにしろ部員は私だけっ、部にも昇格できないし、部費はほぼ自腹だしっ、あれやこれやしてなんとか最低限の施設と同好会としての存続をみとめられたんですから」
「それは大変でしたね」
息巻いて苦難を語る社は、マカロンを頬張ってお茶で流し込む。
それを見届けたあとで、習玄もまた自ら手に取った濃茶に改めて口づけた。
「んっ? このお茶いけますね」
「でしょ? 蒸らしが違いますよ、蒸らしがね」
でも、と。
上級生は習玄の目の前でうすく微笑んで言った。
「わざわざお茶飲みに来たワケでもないんでしょ?」
お茶のうまさ、あたたかさ、茶菓子の甘さに緩みかけていた習玄の頬は引き締まった。
パイプ椅子に押しつけていた背筋を伸ばし、改めて、社の顔をまざまざと見た。
「実は、依頼です。調べてほしい人物がいます」
「誰です?」
「牧島無量……という男です。知ってますか?」
反応をそれとなくうかがいながら、習玄は彼女にその名を出した。
「あーあー! はいはいはい! あの巷で有名なフリーランスのニンジャさんですねっ」
その荒唐無稽な相手の正体は、新田前からも昼頃に教えられていた。
一般的な女子高生が知れるような素性ではなかったはずだが、まぁそれはいまに始まったことでもないし、隠している様子もなさそうだ。
特別な反応もない。
「この界隈で暴れてるのは、ヤシロウェブもキャッチしてますよー? でも、さすがニンジャ! って感じで、なかなか移動ルートや活動パターンが割り出せないんですよねぇ」
「出現場所の見当ならついてるんですけど、その先がなかなか」
「……なんですって?」
「牧島氏が現れる場所です。もしや、そちらではつかんでなかったとか」
「いーえいえいえいえ? ただ情報を出し惜しみしてただけですけどー?」
「出し惜しみではなく、負け惜しみだな」
すこし眉をヒクつかせながらうそぶく少女に、瑠衣が辛辣な評価をくだした。
その声は、彼女に届いているのだろうか。
「……彼は、先日うちの新田くんと戦りあいましてね。報復かどうかはしりませんが、時折下校先の公園に現れるそうです」
「ソースはわたし@ちゃんねるだ!」
習玄はマカロンをつまみながら、九戸社を見た。
薄く目をほそめた情報通は、
「そうですか」
と、短く歯切れ良くつぶやいただけだった。




