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鏡塔学園戦記 〜ウサギと独鈷杵と皆朱槍〜  作者: 瀬戸内弁慶
第四話:鏡塔忍法帖 ~彼女は如何にして漁夫の利を得たか?~
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(10)

「ここかぁ」


 放課後の校舎の窓に、夕日が差し込む。

 それを背に受けながら、桂騎習玄は北棟の最上階の、そのまた片隅の一室の前に立っていた。


 資料室、とは名ばかりの物置。

 そこが、『広報同好会』に貸し与えられた活動拠点だった。


「ここかぁ」


 とくり返す呟きには、万感の思いが込められていた。

 小一時間、ここを探していた。


 近くまで来ては、まさかここではないだろうと通り過ぎ、さんざん迷ったあげくに通りがかった生徒に教えてもらい、ようやくたどり着いた。


「ありがとうございます。津々里さん」

「いえいえっ! しっかしおどろきましたっ、新田くん、ちゃんとトモダチ、作ってたんですね」

「俺のほうとしても、学級で孤立してないか不安でしたけど……西原さんのような学友がいるだけで安心できます」

「ではではっ、私はバイトですのでこれにてドロン、っです!」


 ぼさぼさと収まりの悪い黒髪を振り乱した案内人は、まるで黒い子犬ようにも見える。


 手をブンブン振って去っていく津々里鳥乃(とりの)を習玄は笑顔で見送った。

 新田前は、いい級友にめぐまれたようだった。


「86、55、87。すばらしいプロポーションだ。おまけにそれに無自覚に跳ね回るのがたまらない。色々弾んでわたしの心臓も弾む。ないけど。あぁ~、この身体を活かして侵入できないかな、あの制服、お胸の中に」


 とつぶやくウサギは、望みどおりに胸ポケットの奥へと押しやった。

 だがすぐに這い出てきては、


「で、我々はこの『隠れた名店』にやってきたわけだが……中には、いるようだな」


 一転して、シリアスなことを言う。

 その豹変ぶりに半ば呆れながら、習玄は引き戸をノックした。


 返事はない。

 が、中から物音は聞こえてきた。


 ――さては、こちらの意図に気がついて逃げようとしているのか。


 と思ったら、習玄の行動は早かった。

 戸を開けて踏み込む。

 目の前に広がった光景は、決して広くはなかった。

 やや長細い感じのスペースに、目の前にパソコンが一台、プリンターが一台。そしてそれを操作する人間が、一人。


 あとは、プリントミスの紙くずだの、上着だけのジャージだの、電気ストーブだの。


 そして少女が着ているのはドテラであった。

 ふだんは『ソイラテ』だとか『クレープ』だとか、女子力あふれるワードを発する口にくわえているのは、ドラッグストアで箱詰めされているような栄養ドリンクだった。


 近視なのか、ディスプレイのスレスレにまで目を近づけて、キーボードを打って記事を作っている。


 その血走った目が、習玄を向いた。視線がかち合った。

 少年はそろそろと後退し、そっとドアを閉ざした。


 直後に、ドッタンバッタンという破壊的なおとが、中から聞こえてくる。


「逃げるんじゃないのかね」

 瑠衣が尋ねた。

 習玄は、人形の懸念に首を振った。


「内装はすでに把握しました。窓はないし、この出入り口以外は逃げる手段も持たないでしょう。それに」

「それに?」

「……あの醜態を直視しない分別は、俺にもありますよ」


 待つこと二分程度。

 内から扉を開けて現れたのは、


「はいはいっ! お待たせですっ! 乙女の秘密の宝庫、広報同好会へようこそ!」


 バッチリ小物をめかし込んで、キラッキラしながら現れた九戸社を、習玄は微妙な笑みを浮かべて出迎えた。

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