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(15)

「遅いご帰還だったな。てっきり死んだかと思って死亡手当を振り込むところだったぞ」


 現実世界に戻った2人が、開口一番ウサギに浴びせられた一言が、これだった。

 自分たちの苦労も知らず、とは流石の習玄も言いたくなったが、そもそもあの死闘を演じたのは自分たちだけで、コレに対してあれやこれやと語ってみせても同情はしてもらえないだろう。


 赤、緑、白。まるでイタリア国旗のトリコロールのような3色の駒を自分の手の内に戻し、ようやく習玄は緊張の糸を緩ませた。

 スタジアムの中央、芝生に腰を下ろした2人の前に、そのウサギは降り立った。


「さて、それではカツラキ君の気も済んだことだし、なかなか面白いものも見られた。……では新田前くん、君の会にお引き取りいただこうか」

 そして両者の意志や経緯を無視したことを、何気ない感じで口走った。


「ちょ、ちょっと待てよ!」

 つけたばかりの尻を持ち上げ、いきり立ったは良いものの、新田前の口からはそれ以上の言葉が出てこなかった。

 確かにこの現世においてはここまで共闘を拒んできた手前だ。今更仲間にしてくれと言うことには勇気が要ることだろう。

 唇を薄く噛む彼を庇うように、習玄は起き上がった。


「……俺には彼との約束があります。それを破れと、貴方は言いますか」

「約束? そもそも背信行為をくり返していたのは、そこの新田だろう。今更こちらが欺いたところで、良心の呵責なんて感じないほどにな。……知ってるかねカツラキ君、そいつはな、そもそも『吉良会』からの正式なエージェントじゃないんだ」


 びく、ゼンの双肩が大きく揺さぶられる。


「本来さっさと別の人間にドライバーを手渡すはずだったのに、ソレはほぼ無断でこの場に居座っている。そもそも、ここまでの働きでさえ、ヤツの功績じゃあないのさ。ヤツをえらく気に入っている老人が組織の幹部にいてね、自分のハニーにハクをつけてやろうと、出しては名ばかりの武名を挙げさせ、そのお気に入りのカラダに傷ができないうちに引っ込ませる。それがいつもの手口さ」

「黙れ……っ」


 おそらく九戸社から仕入れた情報だろう。情け容赦のない真実が、美少年の表情を曇らせ、頭を沈ませる。


「おおかた、そんな環境に嫌気が差したんだろう。今回の事件を利用し、本当に手柄を立ててそれを元手に独立しようとしていたか? あるいはわたしに恩を売って後ろ盾にしようとしたか?」

「…………」

 習玄の指は小刻みに動いていた。じっと目を閉じ、時州瑠衣の言葉を、あくまで理性的に吟味する。

 

 ――だが……


「で、実際はどうだね? 戦闘では足を引っ張る。後始末ひとつマトモにできずに悪態だけは一人前。あげく自分が龍脈に取り込まれて手をわずらわせる。そんな弱い人間を、何故わたしが『吉良会』との関係を悪化させてまで匿ってやらなきゃならんのかね? こいつはさっさと組織に引き渡してしまうに限る。政治の話さ。カツラキ君は後ろめたさなんぞ覚えず、わたしの指示どおりに」


 ガン! ……と、強い金属音が夜の競技場に響いた。

 新田前がその音に引きずられる形で、顔を上げた。

 その瞳に映ったものはおそらく、人形をスポンサーの広告看板に叩きつけ、その脇に拳を叩きつけた、桂騎習玄の姿だったろう。





「いい加減にしろよお前(・・)

 桂騎習玄は、面と向かってそう言った。

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