(14)
習玄は駆け寄って、先輩に肩を貸した。
肉体ごと作りかえられていた服部には、戦闘における外傷は残っていなかった。心臓も動いているし呼吸も正常だ。まずはそこに安堵する。
「じゃ、帰るとするか」
ほい、と気軽に手渡されたのは白い鍵だった。
そこはかとなく重厚で鈍い輝きを持つそれは、城塔の形をしている。
大雑把ながらもそれと分かる最低限のデザインだった。
「『コモン・キー』。これで現世との回廊を再び繋ぐ。要領は行きと同じだ。快適な時空の旅を、お楽しみあれ」
「楽しむも何も一瞬でしたし、純粋に堪能したいと思えるものでもなかったですよ」
《Check! Rook!》
ドライバーへの挿入と共に、電子音が高らかに響く。
槍の穂先がひとりでに輝きを見せ始め、鎌首をもたげる。
抵抗する間も無かった。天を突く形となったその先から月光にも似た銀の光が迸り、やがて三人を覆い包んでしまった。
その刹那の旅路は、往路ほどに刺激はなかった。
あまりに目まぐるしいあの快不快の応酬は、行きだけのものだったのか。それとももう身体が慣れてしまったのか。
ただ、夢を見た。
矛盾した感想だとは習玄も感じたが、一瞬間に、走馬灯にも似た長い夢を見た。
自分のものではない誰かの、断片的な回想。
聞き慣れない声があり、見知らぬ人々がいて、唐突に場面は転換する。
そしてこれらはきっと、『彼』にとって人生を左右した重要な記憶であるはずだった。
「……今日の午後未明、剣道の服部選手が……に刺され……」
「かわいそうに。曽路くん、まだ中学生でしょう?」
「……でも、あの服部選手が、ねぇ」
「ふつうの高校生に刺されて、って……」
「仮にも有段者なんだから、もう少しなんとかならなかったのか」
「しょせん、武道って言ってもスポーツってことなのかね」
――だとすれば……
と学生服を喪服代わりにした、面影のある少年は雨天に問うた。
――剣とは、武とは……いったい……なんのために?




