親から贈る初めてのもの
これは単なるジョークです。(ブラックかもですが)
陣痛の場面がでてきますので、苦手な人は回避してください。
※台本風。ほぼ会話のみ。
とある総合病院の一室。
一人の女が椅子の様なベッドの様な不思議な形のものに体を縛られている。
奇妙に膨らんだ腹にはコードが取り付けられ、コードの先の機械からは規則的な音が鳴る。
時折、女は苦しそうに呻き、叫び声をあげている。
その横に立っている年老いた女は、真っ白な紙をひらひらと舞わせ、寝ている女にちらつかせている。
陣痛室と呼ばれるそこには、看護師も助産師も医者も誰もいない。
初産の女では出産も長丁場。思い出したように子宮口の広がり具合を確認しに看護師がくるだけだった。
「ったぁいっ!」
「はいはい、そんなのまだまだよ。これからもっと痛くなるんだから今のうちに決めてね」
「……お母さん。いったい何しに来たの……っつぅ」
「だから叫んだって泣いたって、出産が終わるまでは続くんだからさっさと諦めて。少しは考えたの?」
「もうっ!お母さんは黙って! 一成さんは、まだなの?」
「一成さんねえ……連絡が付かないのよ。嫁が陣痛で苦しんでるってのに、いったいどこにいるんだか」
「……はっあぁ……ああ、引いた」
「あら、丁度よかったじゃない。これで少しは考えてくれるんでしょ?」
「だから、まだ生んでいないからいいじゃない。一成さんが来てから決めても」
「あのね、生まれる直前になってもまだ名前を決めてないなんて、おかしいでしょ」
「別におかしくなんてないわよ。生まれた子の顔を見てから決めたいんだから」
「じゃあ候補くらいあるんでしょ? なんて名前にするの?」
「もちろんあるわよ。女の子ならぁぁっ、ちょ、ちょっと、ま……て」
「ほら、ひっひっふー、ひっひっふー」
「……で、きない……って!」
「何言ってるの、できるわよ。まだ余裕そうだし」
「だれっがっ、余裕よぉっ!!」
「まだ話ができるんだから、余裕だっていうのよ。それだけ余裕があるなら名前も決めれるでしょ」
「だ、からっ!一成さんっ、と」
「やあねえ。来れない旦那さんを待ってても仕方がないわよ。だいたい……」
「う……うっ、るさいっ!お母さ、ん、って、何のためにここにいるのっ!!」
「あらひどい。もちろんあなたのことを思って居るのよ?」
「ああぁぁっっも、うっっ!」
「ん~、ちょっと陣痛が強くなったかしら?」
「ほん、と。…………ふぅ……。ね、え、少しは口を閉じたら?」
「おさまったみたいね。で?候補は?」
「しつこい」
「候補は?」
「……ありえる」
「……は?」
「だからっ!泡の姫ってかいて泡姫なの!」
「……他にはないの?」
「きてぃ」
「……漢字はどうするの?」
「姫に夜空の星で姫星」
「……あー、うん。他には?」
「ぷりん」
「一応、漢字はどうするのか聞こうかな」
「姫に凛とした佇まいって使われているにずいの凛……あ、あ、ちょ、っと」
「あ、え?あー、はいはい。ひっひっふー」
「う、もう、だまっ……て」
強くなる陣痛にもだえ苦しむ娘。
その横でそういうものだから諦めてとぬるい目線を送る母親。
しばらくすると痛みの波はひき、あからさまにほっとする娘。
「……とりあえず、姫という文字は使いたいのね」
「うん、そう」
「真姫とか、美姫は?」
「ありきたり」
「じゃあ珠姫とか、姫花とかはどう?」
「……どうっていわれても、決めるのは産んだ後だし、一成さんと決めるし……っつつっぅ!」
「だってあなた。候補の名前はどうかと思うわよ。ねえ、聞いてる?」
「ったぁぁああいぃぃっ!!」
徐々に陣痛が短くなりはじめる。
母親は時計を取り出し波の間隔を計っている。
「そろそろ五分かしら」
「……っああっ!も、もう、呼んっでっ!」
「そうねえ。あと一回くらい待ってみてもいいかもねえ」
「お、っかあさんっ!?」
「あ、引いたみたいね。で、ちょっと確認したいんだけど、どうしてそんな名前を考えついたの?」
「だって、苗字が平凡だから被らない名前がよかったし、ありえるとかきてぃとか可愛いじゃない」
「そうねえ、確かにあなたの苗字はよくあるけれど。流行っているアニメからとる名前って、そのアニメが廃れたらどうするの」
「廃れるって……、そんなわけないわよ。天下のDずにぃよ?百年経っても大丈、夫っっぅあああっ!」
「はい、ひっひっふー。でも止めた方がいいわよ。おばあちゃんになって『ありえるさ~ん』とか『きてぃさ~ん』とか、看護師さんに呼ばれたりするのって、苦痛だと思うけれどねえ」
「……っで、でもっ!海、外ぃぃっじゃあ、あたりっっ前のぉっ!」
「まあねえ、外国なら当たり前の名前だけどね。ここ日本よ?それに子供になんて説明するのよ。尤もらしい理由づけするにもいかにもDずにぃフリークだってばれてる名前じゃないの」
「ぁぁぁああっっ!!も、だっ!!」
「小学生なら可愛いって言われるけど、思春期こえると恥ずかしいって思うようになるわよ?よくある苗字なんだから、先生や友達からは下の名前で呼ばれるだろうしね。あ、落ち着いたわね」
「……じゃあ、お母さんはなんて名前がいいと思うのよ」
「そんなの知らないわよ。あなたや一成さんが子供につけるんでしょう?だけど、あまり思い入れが強すぎたり、非凡すぎる名前はつらいわよ?あなたたちがつけたい名前を自分がつけられたらどうかって考えたことあるの?」
「っっ!!だ、だけどっ!」
「……ああ、間隔が短くなったわねぇ」
「じゃ、っあっ!なな、な、ななでいいからぁっあああああっあっああっっ!!」
「あらやだ、頭がみえてきたわ。ちょっとまってて。看護師さーん、助産師さーんっ!頭が見えてきましたよ。早く来てくださいな。……ああ、やだあなたったら、もう頭がでてきたじゃない」
「ぁぁぁあああっ!!う、うまれるぅっ!!」
「やだちょっとまってよ!まだ助産師さんきていないんだから」
「む、むりぃぃぃっっ!!」
「おめでとうございます。かわいい女のお子さんですよ」
「おんぎゃぁ、おんぎゃあ、おんぎゃあ」
「はいはい、ママはどこにいったのかしら。今度はおむつですかねえ。それともさっき飲んだばかりだけれどお乳かしら?
ほらほらそんなに顔を赤くして必死でなかないの。
おばあちゃまが抱っこしてあげますからねえ、
―――――――――――――――名無ちゃん」




