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ドルロイド~禊萩~  作者: 志野蒼介
7/7

流星群

少しシリアスになってしまいました。

ナゼグ、また君か。根性は一人前、腕は三流。でも僕はそんな君が大好きだけど。」

俺がアッシュに挑むのは、とうに百を超えている。動かしてから四ヶ月目に入る。ほぼ毎日アッシュと演習している。もはや決闘になっている。まさに死闘のはずが私闘になってしまっていた。ギャラリーも増えてきていた。決闘というと、先人たちに申し訳ないと思うが、決闘と呼ぶことにした。しかも毎回秘策を用意してくるが、全部失敗している。才能の違いかもしれないと思う。しかし、ここで諦めたら、今までの努力が、無駄になるような、気がした。だからガムシャラに挑んでいた。

「お前の方から話しかけてくるのは、最初の決闘以来だな。今日は雨が降るな。」

強がりを言うくらいしか出来ない自分が悔しかった。でも言い返さないよりはマシだと思った。

「さて今日は、どんなドルロイドの転び方を披露してくれるんだい?それともいつも酒が入っていて、転んでいるのかい?

おや?今日は酒飲んでないのかい?最近呂律おかしかったのに、今日は呂律が回っていて素面っぽいじゃないか。」

こいつ(アッシュ)といつも戦っていて気づいたことがある。この男皮肉が三度の飯より好きなサドスティックな性格だ。

そんなことを考えていたら、一が機械化を通して意識を読み取って、心に話しかけてきた。

「何度も戦って、それしか考えられないナゼグに失望!でもしてない絶望!いつもガチガチなのに今日はリラックスしてるから、勝てるかもの希望!」

一のラップに思わず吹いてしまった。一は最近、人間らしくなってきた。姉のような、母のような、でも妹のような、不思議な感覚を覚える。

「ナゼグ、今日もギャラリーいるから、もし勝てたら大金星。」

嬉しそうに一が俺の心に話しかける。

「最近俺の決闘も人気出てきたよな?一。」

「ナゼグ、今日はとても余裕あるね。一も今日は、みんなをギャフンと言わせる秘策を披露するよ!」

アッシュがイライラし始めた。そりゃアッシュには聞こえてないからな。

「ナゼグ、僕から仕掛けるよ!」

アッシュが慢心と焦りから、決闘で初めて自分から、仕掛けてきた。

「それを待っていた!一!」

「あいあいさー!」

 一が跳躍して、一というドルロイドが高く浮いた。初めて、アッシュの攻撃が空を切った。しかし、アッシュは崩れた姿勢から、落下地点を予測して、銃を撃ってきた。当然アッシュの攻撃は当たり、またアッシュの白星だと、誰もが思った。ナゼグと一を除いて。

「なに?当たらない?どこだ?まさか・・・飛んでいる?馬鹿な。ドルロイドに飛行能力などないはず!」

アッシュが経験したことがない、空からの狙撃。アッシュのドルロイドは頭部を破壊された。しかしアッシュは、そこで終わらなかった。頭部で視界が絶たれたにも関わらず、上空にいる一の翼を撃ち抜いた。航空能力を失くした一が落下する。

「まだだあ!一、行くぞ!」

「ナゼグ、落下地点修正完了!いつでも行けるよ!」

一は、落ちながら槍を構えた。視界が絶たれたため、撃墜したと思い込んでいるアッシュの機体に突っ込んだ。しかし、アッシュもこちらの狙いに気づいた。直感だろう。気づいたらお互いに槍を機体に貫きあっていた。しかしアッシュの機体の方が、反応が遅れたため致命傷のようにみえた。しかし、ドルロイドの本体にはダメージがないようで安心した。

「やりやがった。」

誰かが呟いた。そのあと拍手が起こった。最初は小さな拍手が、どんどん大きくなっていく・・・。

「ありがとう、一。俺はやっと・・・。あのアッシュに勝てた。これは二人の勝利だ。」

 反応がない。感動しすぎたのか、声が返ってこない。

「どうした?一。言葉が出てこないのか?もうお前ってやつは。」

おかしい。機械化してから、一の声が聞けないことは、初めてだ。

「おい、一、聞こえないのか?」

コックピットから出てきたアッシュが叫んだ。

「僕のドルロイドが爆発する。脱出したほうがいい。残念ながら、君のドルロイドは助からない。傷は浅いが、古い型だから、僕のドルロイドの槍に耐えられなかったみたいだ。ドルロイドのパイロットなら誰もが経験する愛機との別れだ。そのドルロイドはおそらく助からない。」

アッシュの言葉に、俺は頭が真っ白になった。

「一、嫌だ。こんな別れ方。これからだろ。これから楽しくなっていくんじゃないのか?返事をしてくれ・・・一!」

この日、俺は生まれて初めて家族を失った。親の顔を知らない俺にとって、初めての家族。

村はずれの広場にいる、アッシュの機体に貫かれた一を見上げる。アッシュの機体は爆発してなくなったが、一は形を残していた。雨が降っているせいか、動かなくなったドルロイドが、一が、涙を流しているようにみえた。見上げていた俺の涙を雨が流した。泣き声も雨音が消した。




数年後、俺はドルロイドの整備士になった。戦争はあっさり終わった。誰もが分かり合えない世界で、一と理解し合えた経験が、俺を統一者にした。

アッシュ撃墜の功績から、俺は覇王と呼ばれた。そんな称号のために一を失った。そして機械化は未だ解けない。それが一が最後に残してくれた力だった。俺は寿命は人より長い。人より長生きする。他の人より時間がある。この世界は救えたのかもしれないが、本当に守りたいものを失ってしまった。それでも世界は回っていく。今日も世界は静かだ。願っていた世界になったはずなのに、いつも胸が締め付けられる。もう涙も出なくなっていた。それでも・・・この目に映る世界は美しさで満たされているように思えた。


今日は流星群が観測できるらしい。こうやってドルロイドのない時代から皆、自分の人生に疲れると、空を見上げ、頑張っていたのだろう。一との思い出がある。今はそれだけでいいと思えるようになれた。この星が生まれてから、ずっと生物は進化を繰り返してきた。それならいつか星の一部の生物の進化という過程の途中で、再び一と出会えることがあるのかもしれない。

誰にだって出来ることがあるのかもしれない。でも出来ないのかもしれない。なにも出来なくたって生きていけばいい。一が教えてくれた、なにも出来ない、ナゼグという人間に出来ること。空を見上げたら、流れ星が降ってきた。枯れたはずの涙が、流れ星と同時に流れていった。




小説を書いた経験が、ほとんどない中での、自分の稚拙さに悩まされました。しかし書きたいものは書けました。次もロボット(?)のようなものが出てくる小説を書きたいと思ってます。

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