強さと弱さ
前回から空き過ぎですね。すみません。
「まだ、負けを引きずってるとか、ナゼグ、カッコ悪い。しかも酒に溺れてるとかオッサンみたい。」
一がすごい怒った形相で睨みながら言った。
「うるひゃい。何回やっても勝てないジレンマを、少しは、一もわかってふれひゃい。とりあえず、マスターおかわり。」
俺は酔ってることもあり、呂律が回らない回答をした。お金の工面をしている一になんてひどい言葉をぶつけるのだろうか?わかっていても、ついつい、言ってしまう。
マスターも、心底呆れた感じだった。何回やってもアッシュに勝てない俺は、酒に完全に溺れていた。
負けが続けば、結局、士官学校の人たちの耳に入る。結果から言えば、動かせても、使えない人間扱いだ。なぜならば、勝てない人間を馬鹿にする人間が多いからだ。この酒場に来てから、動かせない時よりも、更に、ダメ人間ぶりが悪化した状態だった。散々、乱闘もしてしまった。マスターにも一にも申し訳ない。だが酒は止まらない。
マスターが重い口を開いた。
「ナゼグさん。あなたは恵まれている。今はそう思えないかもしれないが。あなたには一さんがいるし、天才と名高いアッシュ殿とも戦う機会を持てている。」
俺は俯きながら静かに口を開いた。さっきまでの酔いが覚めてしまったみたいだ。
「動かせれば・・・動かせさえすれば、皆に認めてもらえると思っていた。だけど思ったより現実は甘くなかった。むしろ動かせない時にはなかった絶望感さえ、感じる・・・。どうしたらいいのか、自分でも、全然わからない。」
マスターは今まで見たことのない顔で笑っていた。
「ナゼグさんの弱さは、ドルロイドを動かせないことではなく、人に愚痴を言えないことです。でもそれは、ナゼグさん自身が一人で生きてきたことで、身に付いた強さでもあります。
恵まれているだけの人間もいません。しかし、同時に恵まれていないだけの人間もいません。それをナゼグさんも頭でわかっていても、今は疲れて、考えられなくなっているだけです。
ですから、気分転換してみてください。かの有名な英雄も言っております。人生で一番、重要なのは休憩時間にどれだけ得点が得られるかであると。」
英雄の話になると、英雄と歴史に最近興味津津(?)の、一が嬉しそうに語りだした。
「その人は吾輩の辞書に・・・っていうほうが有名だよね?マスター。」
昔、文献で見た歴史好きな歴女に一は、なったのかなあと思いながら、俺は様子を見ていた。
「いっちゃん、よく知ってるねえ。そうそうマスターも昔憧れたもんだ。」
マスターも嬉しそうに話はじめた。この男も歴史好きか。さて、俺は退散するかな。
「ナゼグ、どう思う?」
「ナゼグさんはどちらだと思いますか?」
ぼんやり聞いていた俺に、急に二人が、話をふった。テーマは武田勝頼が有能かどうからしい。いつのまにか日本という国があった世界の、戦国時代の頃まで話が膨らんでいたようだ。
「勝頼は民衆の話を聞き入れるってことに関しては優秀だと、思うけど、戦場で部下を動かせないのは、問題あるかなあ?」
俺がそう言うと、一とマスターがいたずらっ子が、いたずらをする前のような顔でこちらを見た。一が嬉しそうに話した。
「ナゼグと一緒だね。勝頼さんも、きっと、動かしたかったけど、動かせなかったんだよね?部下を動かしたかったから、民衆の話を一所懸命聞いて、部下や周りに認められたかった。」
マスターも口を開いた。
「勝頼殿とこれからはナゼグさんをお呼びしましょうかね?」
「一もそれで問題ない。ナゼグもきっと問題ない。間違えた。勝頼殿だった。」
よく見たらこいつら酒で出来上がってるのか・・・。俺は都合が悪いので寝たふりをした。一は俺と繋がっているから、俺の寝たふりは、バレたようだ。
「勝頼殿、撤退はダメでござるう!」
一が、何やら騒いでいるが、俺は睡魔に負けた。今日は悪夢を見なくて大丈夫そうだ。それくらい深い眠りになりそうな感覚だった。
次の話がラストです。