プロローグ end
暫く膝の上に乗せて可愛さを堪能していたが、化け狐なのだろうこの白狐の突然の行動が気になってきた。
「どうしぃした?急に」
背を撫でていた手を止めて、抱き上げてそう問う。正面から見た狐の顔はどことなく不服そうだ。ブランと垂れ下がっている今の状況が不満なのかもしれない。
少し意地の悪い笑みを浮かべた。
「まさか、撫でさせた代わりに空に返せなどとは申しんせんでくんなまし」
そう少し意地の悪く見えるであろう笑みを浮かべて言うと、グッと狐の顔が近くなって、短く柔らかい毛が唇に触れた。
瞬間。
ボワンッ
狐を抱えていた手が重みに耐えられなくなって外れてしまう。目の前には紫煙が濃密に充満し、視界が囚われる。突然の出来事に片手で目元をガードし、目を瞑ってしまった。
何が……。何が起こったのか分からぬまま、数瞬経ち状況を把握する為にハッと瞼を開けた。
まだ薄く紫煙の漂う中、視界で確認出来るものは殆どない。だがそれでも、先程までは目の前になかった存在感がすぐ傍にあった。
驚きに身を取られていた一瞬の内に紫煙は霧散し、視界が明らかとなっていく。
光沢の有る銀糸、上質な白い生地に、赤い色彩。そして狐と同じ色である筈の頭部に嵌った黒曜石は、忍び込んできた陽光に照らされて濃紫に光った。
「礼を言おう、名を何という」
目の前に、まるで人間とは思えぬ美貌を持った艷男が床に手をついて此方に迫っている姿が見えた。
現代では有り得ない、PCも携帯も電波もある、鬼火だって科学で解明されたこの時代に、
私は狐に、化かされた。