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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第一章「主を求めて三千里」
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白薔薇の騎士とお気楽自警団/其の参

 その帰り。

 僕はアルマの手伝いをするため、来た道を戻っていた。



「……それにしてもテレジアさんは騎士だったのかぁ~」



 ホントにビックリしたよ。マルティンさんも出かけてくれる前に一言教えてくれればよかったのに。

 でも、よくよく考えると僕にテレジアさんを会わせるため、マルティンさんが一計を案じてくれたのかもしれない。


 僕は「帰ったらマルティンさんに聞こう」と思いながらも、ひたすら市場への道を歩いた。



「おい、そこのオマエ」



 ところが道ばたで誰かに呼び止められた。



 振り返ってみると、丸みを帯びたガーターが取り付けられた黄銅製の安っぽい甲冑を着た三人の男たちが立っていた。



「え? 僕ですか?」



 僕はおもわず人差し指を自分に向けて聞き返した。



 出たよ、また怪しい連中――

 まったくアルマに絡んだ筋肉モリモリマッチョマンの変態といい、この人たちといい、いったいこの町の治安はどうなってるんだ?



 こういうのは無視して帰るのが一番。



 僕は再度市場に向かって歩き出した――が、とたんに三人組の二人に前を行く手を阻んできた。

 不快のあまり声に出して抗議してみる。



「ちょっと! なんなんですかっ、アナタたちは?」


「我々は自警団である!」


「なのである!」


「自警団……?」


「そうだ。このヴィエナには住民によって組織された自警団、都市経済同盟(ハンザ)の利益を守る警護団、国と教会によって運営される警吏(けいり)の3つがある。そのうちの1つ、自警団のデメトリオ様とは私のことだぁ~っ!」


 と急に叫ぶデメトリオとか言う人。


 なんかいまにも「カッ!!」って文字が出そうな勢いだよね――ってか、絶対狙ってかっこつけてるよね、うん。


 僕は呆れつつもデメトリオさんに用件を尋ねた。



「――で、その自警団の方が僕になんのご用ですか?」


「貴様、悪だな?」


「はい……?」



 なに言ってるんだ、オマエは?



 おもわず突っ込みたくなる一言――

 いや、むしろこの人の頭狂ってるのかな? いきなり現れて悪とか言い出すなんて尋常じゃないよ。


 すぐさま僕は言葉を返した。



「あのぉ……。言ってる意味がよくわからないのですが……」


「なにっ!? わからんだと!」


「貴様! デメトリオ様が悪だと仰ったらオマエは悪なんだぞ?」


「それによく見ると、いかにも腹黒そうだしな」


「やめてくださいっ! 人を見かけだけで判断しちゃダメって、お母さんに言われませんでした?」


「……言われたな」


「俺も言われたことあるぞ?」


「惑わされるな! 我らには証拠があるっ!」


「証拠?」



 そんなモノどこにあるって言うんだ? だけど、悪だと言い張るんだから、「ただそれだけ」で済まなそうな予感。



 ……なんだかエラい目に遭いそうだなぁ~。



「いったいどこにそんなモノがあるんです?」


「よくぞ聞いてくれた――ならば、オマエの背中を見てみろっ!」


 とカッコ付け気味にいうデメトリオさん。


 僕は言われるがまま、自分の背中を確認してみた。すると、なにやら紙のようなモノが張ってあるのに気付いた。

 すぐにはがして手に取ってみる。



「こ、これは――」



 それを見たとたん、僕は瞬時に立ちくらみを覚えた。



「……悪だ」



 紙に書かれていたのは『悪』の1文字――たったそれだけだった。


 というか、なんでこんなモノが背中に張ってあるわけ? 当然、僕が自作自演のためにこんなモノ張るわけがない。



 とっさに目線をデメトリオさんの方へ移す。すると、デメトリオさんは勝ち誇ったように両手を腰に当てて高笑いをしていた。



「それ見たことか! やはり、貴様は悪なのだ。すなわち、我が信念である『悪即斬』により、このデメトリオ=バルバート様の名において貴様を逮捕する!」


「ちょっと待って下さい! こんなモノいつ貼られたのか、まったくわからないんです。とにかくこれは誤解なんです!」


「……ほう。いつ貼られたか知らないだと?」


「そうです! 誰かが僕をおとしめるために貼ったんだと思います」


「なるほど、確かに貴様ではないかもしれんな」


「ホントですよ。まったくいい迷惑です」


「――だが、私は誰が貼ったかを知っているぞ?」


「えっ? そうなんですか?」


「ああ、もちろんだ」


「いったい誰なんです?」


「それはな……」



 とデメトリオさんが出し惜みするように黙り込む。



 もうっ、いったい誰なんだよ? 僕にこんな悪さをするヤツは。

 僕はデメトリオさんが答えるのを待ち続けた。




 すると――



「さっきコッソリ張ったんだよぉ~ん」


「じゃあアナタが悪いんじゃないですかっ!」




 ちょっとぉぉぉぉぉおおおおおおおっ! ここまで出し惜しみしておいて、推理する側の人間が「犯人は私です」って言ってるようなもんじゃないか!




 どういうことなんだよっ!



 けれども、そんなデメトリオさんにわるそびれる様子なんてぜんぜんなかった。むしろ、笑いの種にするつもりで完全に開き直ってた。



「背中に悪って書いてあるんだしぃ~。別に問題ないじゃん!」


「ちょ……」



 最悪の答え――ホントにこの人に自警団なんかやらせて大丈夫なの?

 僕はあんぐりと口を開けて、呆然と立ち尽くすしかなかった。



「そういうわけだ! おとなしくお縄を頂戴しろ!」



 僕の思いをよそにデメトリオさんが僕を捕まえるよう部下AとBに命じる。

 もちろん、僕だって捕まりたくはない。とっさに腕を押さえようとする二人に抗って、デメトリオさんに反論した。



「ですから、そんなデタラメな根拠で捕まえるなんて間違ってます!」


「ええい、黙れ! それ以上口答えするようなら貴様の罪を重罪と見なすぞ?」


「そんなのおかしいですよっ、デメトリオさん!」


「問答無用! 悪は悪らしくお縄に付くのだ!」



 ダメだ、この人……早くなんとかしないと。


 とは言ったものの、デメトリオさんはいまさっき出会ったばかりの赤の他人。しかも、僕を捕らえようと、今度は三人がかりで捕まえよう遅いがかってきている。



 ……ええいっ、やむなしだ。



 僕はたまらず三人の間にできたわずかな隙間を縫って逃げた。そして、何度も道行く人にぶつかりそうになりながらも、がむしゃらに突っ走った。






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