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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
エピローグ「我が主に剣の誓いを!」
45/45

そして、日常へ/其の壱


「――ジュリアン・ベーレンドルフ。汝、我らが勇みし神ソーアの御心のままに救国の徒とならんこと、誠に大儀である。よって、本日ここに我が国最高位の褒章『ホーリーザグローリアス』を授けん――いざ面を上げて前に出よ」



 公王様の横にいた宰相とおぼしき人に請われ、立ち上がってゆっくりと玉座の前に出る。

 視線を外すと左右縦列になった近衛兵たちの中にはテレジアさんやセシルたちがいて、じっと僕の様子を見守っていてくれているようだった。




 さらに目線を玉座の横へと移す。




 そこにはリズが座っていて、いつものマントとローブの格好ではなく、きらびやかな宝冠と豪華なドレスを身にまとったお姫様らしい格好をしていた。



 ……改めてこうしてみると、リズはホントにお姫様なんだなぁ~。



 そう思わせるぐらいキレイだった。


 視線を戻し、公王様の前で静止する。

 すると、立ち上がった公王様が宰相らしき人から褒章を受け取り、目の前にスッと差し出してきた。僕は促されるまま軽く胸を突き出し、それをくくりつけてもらった。

 それから、小さな声で「勲功誠に大義であった」と言われたので短く返礼をかえした。



「私からも感謝を言わせて」



 ふとその声に右を見る――そこには、いつのまにかリズが立っていた。



「コラッ、リーザロッテ! 授与式の最中でだぞ」


「堅いこと言わないで、お父様。ジュリアンはわたくしの大切なお友達なんです」



 と怒られたことも気にせず、リズはニコニコと僕の前に立っている。それどころか、いつものリズらしく親しみを持って僕の手を握ってきた。

 僕はそうしたリズの行為に戸惑いを覚えた。



「あ、あのリーザロッテ王女殿下」


「もう面倒ね。前も言ったけど、いままで通りリズでいいわよ」


「ですが、このような場でいつもみたいな話し方は――」


「いいったら、いいの! 私がお願いしてるんだから、フツーに話してちょうだい」


「わ、わかりました」


「じゃあそういうことで――改めてみんなを救ってくれてありがとう」


「こちらこそ。こんなに凄い褒章もらえてうれしいよ……でも、どうして爵位じゃなくて褒章なの?」


「うーん、まあ『騎士の位は自分でガンバって』ってことで!」


「つまり、これぐらいじゃ簡単にあげないってことなのね……」


「そういうこと――ホントは聖騎士の称号を上げたいくらいだったらしいんだけど、私からお父様に頼み込んでその話もナシにしてもらったの。だから、改めて騎士としての夢を叶えるために努力してね――ジュリアン」


「アハハ……」



 リズも意地悪だなぁ~。

 どうせならこのまま騎士として叙勲してくれればよかったのに。でも、まあ僕も騎士のなんたるかをわかったつもりはないし、従士としてガンバるっきゃないよね。

 話題を変え、僕はリズにあることの顛末を問いかけた。



「そういえば、エンゲラーってどうなったの?」


「エンゲラー子爵……? 彼はアナタに負わされた傷を治療したあとに牢屋行きになったわ。どのみち襲撃計画の全容を吐かせて国家反逆の罪で死刑でしょうね」


「そっかぁ~。でも、アイツは確か東レウル帝国がどうとか……」


「そちらも公国騎士団が警戒に当たってるわ。一時期はファルナギアの防衛線付近まで兵を進めてきてたらしいけど、モンシアの襲撃の失敗の影響もあって撤兵したみたい」


「じゃあまだ問題は解決してないの?」


「そう思うでしょ? でも、昨日突然東レウル帝国から特使がやってきて、『今回のことは帝国内部でくすぶっていた派閥争いによる暴発だ』と言って謝罪と賠償の受け入れを申し出てきたの」


「えっ!? どういうこと?」


「おそらく何年も掛けて練った作戦を思わぬイレギュラーによってつぶされたことで引かざるえなくなったのね」


「イレギュラー?」


「アナタのことよ、ジュリアン」


「え、僕っ!?」



 唐突に名指しされたことに驚く。




 僕がイレギュラー?

 いや、確かに愛戦士としての力を覚醒したのは間違いないけど、それがいったいどうして奴らの情勢を買えてしまうことになるんだろう。




 僕はおもわずそのことをリズに尋ねた。



「いったいどういうこと?」


「アナタの力の発現は限定的だったかもしれないけど、最期の局面であのアレクシアとかいう女傭兵と黒幕だったエンゲラーを倒して見せた。つまり、この事実があるだけでも我が国の兵士には士気を高めるきっかけになったの」


「そんなことないよ。僕なんか全然役立ってないって」


「謙遜しないで。アナタの行為はそれだけ多くの人を救ったの――だから、誇り思っていいのよ」


「う~ん、そう言われても……」



 ハッキリ言って僕に英雄だとか、国の宝だとか、そんなことを言われても実感がない。

 僕はただ必死で騎士を志すモノとしてみんなを助けたかったんだ。そう思うとリズが僕を騎士にしてくれなかったのはある意味正しかったのかもしれない。



「まあ騎士としては名誉なことだよね……でも、僕はまだそれだけのことをしたって実感がないから、リズの言うとおりしっかり従士としてガンバってみるよ」


「うん、その調子よ。なら、私も本気で魔法使い目指しちゃおうかしら?」


「……そのつもりじゃなかったの?」


「この前も言ったでしょ? 1つだけ大きな壁があってなれないかもって」


「そういえば……」


「公女って身分さえなければ、なんとでもなるのよねぇ~」


「両立は無理なの?」


「それができてたら苦労はしないわ……でも、ジュリアンの言うことも一理あるかもね」


「だったら、最初から諦めてないでガンバってみようよ。僕も夢は違うけど、リズの夢を応援するよ――って、こんなこと言うのは無責任か」


「ううん、ありがとう。色々考えることはあるけど、私なりになんとかやってみるわ」



 そう言うとリズが握手を求めてきた。

 僕はその手をしっかりと握り、改めてお互いの夢に向かって頑張ろうと誓い合った。





 それから、授与式のあと――





 僕とアルマは共にオリーヴェへ戻ってきた。

 さすがに緊張しまくったせいか、身体がどっと重く感じる。おかげですぐに部屋に上がってベッドに横たわらざるるえなかったよ。


 僕は布団の上で深くため息をついた。



「はぁ~疲れたぁ~」



 ……王宮に上がるってことはいつもあんな感じなのかなぁ~? そうなると騎士になってからもああいうことを何度も経験するのかも。


 そう思うと胃が痛くなりそうだった。



「ほら、そのままの状態で寝ちゃうとせっかくの上等な服が台無しよ」



 唐突に僕の癒やしの時間を壊すような声が聞こえてくる。

 入り口の方を振り向くとアルマが着替えを持ってやってきていた……何度も言うようだけど、アルマってホントお母さんみたいなこと言うんだよね。



「わかってるよ。すぐ着替えるって」


「そう言って、ゴロゴロしててそのまま寝ちゃうなんてことあるんだからしっかりしなさいよ」


「もううるさいなぁ~。いちいち言わなくても別にいいじゃないか」



 グチグチ言われるのはたまったもんじゃないよ。


 僕は起き上がって、自らの方から羽織ったマントを脱ごうとした――が、とたんにあることを思い出し、それをアルマに告げることが先だと思った。



「ねえアルマ」


「なに?」


「出かける前に聞きそびれたんだけど、僕の騎士としての姿ってどう思う?」


「ジュリアンの騎士としての姿?」


「だから、この衣装のことだよ――どう? 似合ってるかな……?」


「もちろんよ。なんだかジュリアンもいっぱしの騎士になったみたいだわ」


「なったみたいじゃないよ! これからホントになるんだってば」


「フフフッ、冗談よ。でも、次にこれを着るのは騎士になるときなのよねぇ~」


「……そうだね」


「なんだかジュリアンが敵を倒しただなんて、未だに信じられないわ――夢みたいな話ってこういうことを言うのかしら?」


「う~ん、どうだろう? でも、倒しちゃったのは事実なんだし、少しは僕のことを認めてくれるよね」


「はぁ? また居候のくせになに言っちゃってんのよ、このおバカ」


「バカは余計だよ……確かに居候なのは事実だけど」


「でしょ? まだまだ半人前なんだから、私をギャフンと言わせようなんて10年早いのよ」


「い、いつかその言葉ソックリ返してあげるよ! そのときはちゃんと僕のこと認めてよね」


「はいはい、わかりました」


「ホントのホントだよ?」



 と念押しで言ってみる。


 でも、内心はそのときはアルマにきっと恩返しをしたいと思ったんだ。

 そのことを口にしなかったのはなんとなく小っ恥ずかしいかったから。まあそれをアルマに直接言ったところで「なにを一丁前に言ってるのよ」って反応されるに決まってる。



 だから、代わりに以前から考えていたことを話すことにした。


「あのさ、アルマ」


「今度はなに?」


「実を言うとね、ずっと前から騎士になったらここを出て行こうと思ってたんだ」


「え? ど、どうしたのよ急に……」


「いや、いま話した方がいいかなって思って」


「だとしても、どうしてそんな話をするのよ」


「だって、元々行く当てがなかったからここに居候させてもらってたんだもん。いつか一人前になったら出て行くのが当たり前だよ」


「そんなのジュリアンが勝手に思ってたことでしょ。私もお父さんもアンタと一緒にいて楽しいし、家族が増えたみたいでうれしかったのよ。だから、ずっとここにいても構わないのよ?」


「そういうわけにはいかないよ。僕が一人前になったら、ちゃんと騎士らしくしないといけない気もするし、なによりまたアルマに迷惑をかけちゃう」


「迷惑だなんて思ってないわよ」


「それでもいつかは出て行かなきゃ行けないんだ――でも、それは先の話。まあそれは置いておいて、1つお願いがあるんだけど……」


「お願い? いったいなによ?」


「ちょっといまから叙勲式の真似事をしてみない?」



 僕の提案にビックリしたんだろう。

 アルマは目を丸くして不思議がってた……当然だよね、僕がどういう意図を持ってそんなことをしようと言ったのかわからないんだもん。


 だけど、僕には確かな意図があった。





 それはある意味、アルマへの感謝の気持ち――

 僕がいま唯一できる最大限の敬礼なんだ。ゆえに僕はアルマを当面の主として認め、敬わなくちゃいけないと思った。



「え? 叙勲式の真似事?」


「そう。アルマにこの姿を見せるのも、当面先になるだろうし。だから、いまここでアルマに騎士としての僕の姿を見てもらいたいなぁ~って思ったんだ」


「別にいいけど、そんなのいまやらなくたって……」


「いや、いまじゃなくちゃダメなんだ。僕が決意を新たにする意味でも、またしばらくここに居候させてもらう意味でも大事なことだから」


「居候? じゃあいまの出て行くって話は……」


「だから言ったでしょ? 『まだずっと先の話』だって」


「なら、叙勲式の真似事をする意味はなんなのよ?」


「もちろん、家の主である君を守るって意味さ。だからさ、ちょっと叙勲式の真似事に付き合ってよ」



 と言うと、僕は公王様からいただいた高そうな剣をアルマに手渡した。

 けれども、女の子であるアルマにとってはとても思いモノだったのか、すぐに鞘に収まった剣の切っ先を床に立てちゃった。

 それでも叙勲式の真似事には付き合ってくれるらしい。


 直後、アルマが困った表情を見せる。



「えっと、なにをすればいいのかしら……?」


「まず鞘から剣を引き抜いて。そして、それを跪く僕の左肩に載せて『従士ジュリアン・ベーレンドルフ――汝を我が騎士とする。汝の身体、汝の剣を持って、我がすべての守り手となれ』って口上を言ってみて」


「わかったわ」


「それから、左肩と右肩に交互に2回剣先を当てて、最後に抜身を鞘に収めて両手で僕に手渡して欲しいんだ」


「オッケー、じゃあやってみるわね」


「うん、お願い」



 と言うと、僕はアルマの前で右足を立てて跪いた。

 そして、深々と頭を下げて叙勲が行われるのをいまかいまかと待ち続けた。






 刹那、左肩に冷たい感じがするモノが当てられる――






 ほどなくして、緊張をほぐそうとするアルマの呼吸が聞こえてきて叙勲式は始まった。



「ジュリアン・ベーレンドルフ――汝を我が騎士とする。汝の身体、汝の剣を持って、我がすべての守り手となれ」



 と言って、アルマが両肩に交互2回ずつ剣の切っ先を当ててくる。


 その厳かな雰囲気は、古い木材の壁を大理石と金と赤の草柄模様が入ったカーテンに変えてしまったかのような錯覚をおぼえさせる。まるでホントに玉座の間で叙勲を受けているんじゃないかと見間違うほどで、僕はそうした雰囲気に身が引き締まる思いがした。




 やがて、刀身がゆっくり鞘に収められる音が聞こえてくる。

 さらに頭上に差し出される感覚がして、叙勲されたことを無言で伝えてきた。僕はその言葉に対して、支えるようにしっかりと両手で受け取って答えた。



「謹んで拝命いたします、我が(マスター)。わたくしジュリアン・ベーレンドルフは全身全霊この剣に持って、我が(マスター)をお守りすることをここに誓います」



 これでいい。

 僕の騎士としての人生はここから始まるんだ――だから、いまはアルマに衣食住を含めたすべてを預けておこうと思う。


 その考えに従い、顔を上げて晴れ晴れとした気持ちで笑いかける。



「今日から君が僕の我が(マスター)だよっ、アルマ!」



 その言葉にアルマはどう思っただろう?

 しばらく顔を真っ赤にして僕のことを見ていたようだけど、不意にプイッと明後日の方向を向いて背けられちゃった。

 僕はその意味がわからなかった。



「どうしたの、アルマ?」


「……な、なんでもないわよ!」


「おかしなアルマだなぁ~」





 こうして、再び僕の騎士を目指す居候生活が始まった。





 とはいえ、ゴールはまだまだ先。

 ちゃんと立派な騎士になれるかどうかですら微妙だよ。だけど、確かなことは僕が真の意味で我が主となる人に永遠の剣の誓いを捧げるってこと。



 だから、そのためにはもっともっと精進しないとね――よぉ~し行くぞっ、僕の騎士道!



 了






 初めまして&こんにちは、丸尾累児(まるおるいじ)です。

 HN.は本名じゃございません――某土管工兄弟をアナグラム的な意味で合わせて作ったペンネームです(笑)



 さて、拙作「我が(マスター)に剣の誓いを」いかがでしたでしょうか?

 本作のテーマは読者の皆さんにお説教がましい事柄ですが「夢と現実」でした。僕もこのテーマを選ぶに当たって、「作家になりてぇ~」なんて淡い夢を描いている現実に直面しているわけですが、そういう「夢」がなんでこの世に存在するかなんてことを考えながら、このテーマを挿入させていただきました。



 拙作をご一読いただいた通り、この物語の登場人物で4つのタイプの「夢」を描いている人物たちがいます。





 1人目は「いつ叶うともしれない夢に向かってバカ正直に突き進むジュリアン」、2人目は「夢らしい夢はないが、現実的な生き方ができればそれでいいというアルマ」、3人目は「夢は叶えたが、ある問題点から妥協せざるえなかったセシル」、4人目は「夢の形は違うが、1つの目標に向かって突き進む同志であるリズ」の4人です。




 それぞれ違う「夢」を描きながらも、現実に生きていく様を描いたつもりですが、皆さんにはどう映ったでしょうか? 




 この話のテーマを考えた理由は、僕が社会人になってから個々の理由から一緒に上京した数人の友達が数年経っていつのまにか地元に戻っていたという経験を思い出してのことです。

 いまそれを思い返すとおそらく個々になんらかの「夢」があって上京したのかもしれません。



 しかし、それをあきらめてしまった――憶測ではありますが、何らかの「壁」があってそれを乗り越えられずにあきらめてしまったことが原因なのでしょう。



 僕はというと、まあ最初は別の夢を追いかけていていましたが、やっぱり夢が変わってもその夢に向かってバカ正直に突き進んでいくジュリアンのようにあきらめきれずにいます。

 かと言って、簡単にあきらめることもできず、いまに至るのでそうした事柄を糧にして今回のテーマとさせていただきました。





 長々と書き連ねましたが、拙作をおもしろおかしくご一読いただければ作者としてこの上ない喜びでございます。





 なお、続編については特に予定しておりません。

 もしかしたら、番外編的な形で短編を2~3本執筆するかもしれませんが、本編の更新はしない予定です。




 次回はラブコメを予定しております。

 またそちらでお会いしましょう!




 それでは、ごきげんよう――さよなら、さよなら、さよなら!

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