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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第一章「主を求めて三千里」
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市場にて/其の参


 しばらくて、女の子は服に付いたほこりを払って立ち上がった。

 それから、かぶっていた帽子を脱ぐと僕の前で深々と頭を下げていた。



「ぶつかっておきながら、暴漢だなんて言ってごめんなさいっ!」


「……いや……僕も疑われるような体制だったし……その……ゴメン……」



 不可抗力だったのになんで誤ってるんだろう? とはいえ、結果的に女の子に誤解されてしまったんだ……まあしょうがないよね。

 僕は右の手のひらを開いた状態で左右に振り、女の子に問題ないことを示してみせた。 ところが女の子は納得しなかった。



「私にできることならなんでもしますから、なんでも言ってください」


「いや、そこまでしてもらう必要はないよ。落ちてきたのも、疑われるような姿勢になったのもお互い様だし」


「で、でも……」


「こだわるなぁ~」



 う~ん、これはどうしたらいいんだ?

 女の子はとても必死だし、正直どう対応したらいいのかわからないや。それにこんな可愛らしい女の子とぶつかるってことも初めて経験したし。


 そんなとき、また上空から声が聞こえてきた。



「リ~ズ~? どこなの~?」



 今度は中老のおばさんの声。

 名前らしきモノを叫んで、誰かを探しているみたい。

 空を見上げて周囲を探ってみると、その姿はすぐに見つかった。僕が見つけた女の人は、目の前にいる女の子と同じ格好をしてほうきにまたがっていた。

 もしかしたら、リズっていうのが目の前にいる女の子の名前なんじゃないかな?

 なにより、ほうきにまたがるおばさんは女の子の名前を叫んで人を探している。



 きっと女の子の知り合いに違いない――



 そう思って、僕はその人に向かって叫んだ。



「ここで~す!」



 当然、女の人はすぐに気付いたみたい。

 ゆっくりとした勢いでこっちに向かって降りてくる。それから、女の人は僕らの近くまで来るとまたがってたほうきから降り立った。

 女の子の外套とは素材も色も違うとにかく上等そうな代物。

 それに身を包んだ女の人は、やや小太りでだいたい160センチ半ばぐらいの身長をしていた。



「リズ、怪我はないの?」



 僕たちの前に降りてきて早々。

 女性はリズと呼んだ女の子を心配し始めた。おそらくだけど、この二人はなにかの師弟関係にあるんじゃないかな?

 僕はそのことを女性に確かめた。



「えっと、お二人はどういったご関係なんですか?」


「……あら、いけない。挨拶もせずにゴメンなさいね。私の名前はヘンリエッテ・シーデル。この教え子、リズ・マーガレッタの魔法学の教師をしているの」


「魔法学?」


「簡単に言ってしまえば、私たちは魔法使いなのよ」



 魔法使い――その言葉を聞いて、僕はビックリした。

 なんでかって、ホントに実在するなんて思ってもみなかったからさ。

 そりゃあ僕は田舎育ちで農夫の方が詳しいよ? でも、ホントのホントに魔法使いがいるなんて思いも寄らなかったんだ。



「魔法使いって、存在したんだぁ~」


「そんなに魔法使いを見るのは初めて?」


「ええまあ……」


「なら、今度うちの学校に遊びにいらっしゃい。それより、状況から察するにアナタとリズで何かあったのね?」


「実は空から落ちてきた彼女とぶつかってしまって……」



 そう僕が言うとシーデルさんは「そうなの?」とリズという名前の女の子に聞いていた。

 すぐに返事を返す女の子。



「はい、先生……。実はグリフィンドールが市場の活気に惹かれて、猛スピードで飛んで行ってしまったのを追いかけていったら、そこの男の子とぶつかっちゃいました……」


「なるほど、そういうわけだったのね」


「ごめんなさい。勝手に飛行訓練の授業を抜け出したりしてしまって」


「仕方ないわ。グリフィンドールは好奇心旺盛なんですもの。ただし、今後はアナタがきちんとしつけること」


「肝に銘じておきます」



 どうやら、僕の無実は証明されたらしい。

 女の子はシーデルさんに事情を話して反省しているようだった。

 そして、外套の内側からまるで最初からそこにあったみたいに鳥かごを取り出して、ちょうど飛んできたグリフィンドールと呼んでいたフクロウをかごに収めた。

 次の瞬間、女の子が僕の方を振り向いて話しかけてきた。


「えっと、名前聞いていいかしら……?」


「僕はジュリアン」


「リズよ。よろしくね、ジュリアン君」


「こちらこそ」



 と言って、僕らは握手をする。

 ……やれやれ、これで一件落着だ。ホント、なんでこんな目に遭ったんだろ?

 とっさに口からため息が漏れた。



「なんだか物凄い勘違いしてしまって申し訳ないわ……」


「いやまあ……。さっきも言ったけど、僕にも非があるわけだし、そう自分を責めないでよ」


「やっぱり、なにかお詫びさせて!」


「だから、いいってば!」


「それじゃあ私の気が済まないのっ!」



 う~ん、これはなんとしてもお礼がしたいみたいだ。

 とはいえ、そこまでしてもらうのは正直気が引ける。ここは妥協して、リズの納得しそうな落としどころを探すしかないや。

 僕は取り繕うようにリズに言った。



「なら、今度なにか一食おごってよ」


「食事? そんなのでいいの……?」


「うん。あまり欲張ってもバチがあたりそうだし、そこまでしてもらうのも気が引けるよ」


「……そんなんでいいなら……いいんだけど……」



 意外な提案にリズも呆気にとられている。

 んまあ、このあたりがホントに落としどころだと思うんだけどね。リズとしては、もっと高価なものを要求されても仕方がないと思ってたらしい。

 そんなことを思っていたら、突然シーデルさんが口を開いた。



「さっ、二人が和解したところで後片付けをしましょう!」



 ……ん? 後片付け?


 僕はその一言に周囲を見渡した。

 そして、そこで見たモノに唖然とする。



「……あ」



 どうやら、グリフィンドールを捕まえようとした余波で周りのお店をぐちゃぐちゃにしちゃったらしい。

 言うまでもない――これは僕の自業自得だ。

 市場の人たちのにらみつける視線がとても痛く感じる……ホントどうしよう。

 ところが困惑する僕をよそにリズが声を上げた。



「これぐらいだったら、なんとかなるわ」



 なにやら自信ありげなご様子。

 僕はそのわけを尋ねた。



「なんとなるの?」


「まあ見てて」



 とリズがさっきと同じように外套の中から小さな棒状のモノを取り出す。

 それはいわゆる魔法のステッキというヤツで、同じくシーデルさんもそれを手にしていた。

 そして、二人同時にその場でヒョイッと振ってみせる。

 すると、どうだろう?

 まるで積み木を組み合わせるみたいに壊れたテントや陳列台があっという間に元通りにしてしまった。


「すごいっ!」


 あまりの光景におもわず声を上げて驚いちゃったよ。

 でも、それはアルマも一緒だったみたい。僕の横で周囲を見回しながら、魔法の力で元通りになっていくさまを見ている。

 それだけ二人の魔法が珍しいモノだったってことなんだろうけどね。

 やがて、すべてが元通りになった。とたんにリズとシーデルさんに向けて歓声と拍手が送られ、二人の周りに人だかりができていた。

 やっぱり、ほかの人たちにも魔法使いという存在は珍しかったんだろうなぁ~。通りがかりのお年寄りから子供までが集まってきちゃったよ。

 僕はその光景を見ながら、二人の功績をたたえる拍手に音を合わせた。


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