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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第四章「僕が僕であるために」
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夢は終わらない/其の弐


 道中、街のあちこちで繰り広げる戦闘を見た。



 僕は背中越しにリズに問いかけた。



「物凄い数だね……狭い路地の中で乱戦になってる」


「ヴィエナは強固な守りを固めるために古い場所はわざと狭く作られてるから」


「でも、これは勝ってるの? 負けてるの?」


「たぶん、負けてるわ……こんなに敵が流入してるなんてありえないもの。どっかの誰かが事前に手引きしてたとしか言いようがないわ」


「じゃあ敵もかなり準備して攻めてきたってわけ?」


「おそらくそういうこと。私にはどこの誰かは見当は付かないけど……」


「……どこの……誰か……」




 そう言われたとたん、僕の中である人物の名が浮かんだ。




「ねえリズ。僕に1人だけ心当たりがあるんだ」


「えっ、誰なの?」


「ノルベルト・エンゲラーって子爵を知ってる?」


「エンゲラー子爵って……もしかして、私が生まれてすぐに爵位を受けたっていう人物?」


「うん、そう。ソイツが犯人だよ」


「じゃあその男がこの事件の犯人なの?」


「間違いないと思う。きっとアルマがお城に連れ込まれたのもマルティンさんを働かせるための駒にするつもりなのかも」


「そしたらますます城へ急がなきゃ行けないわね」


「……うん。だから、もう少しスピードを上げ――」



 と僕が言いかけた直後のことだった。





 ヒュッ――そんな音と共に1本の細長いなにかが真横を通り過ぎた。





 とっさに地面の方を向く。すると、敵兵らしき連中がこちらに向かって矢を放とうとしているのが目に飛び込んできた。



「まずいよっ、見つかっちゃった!」



 僕は大声でリズに呼びかけた。




 すぐさまリズがスピードを上げる。




 それによって、魔法のほうきがさらに加速して飛び始めた。耳をかすめる風音は、さっきより激しくなってまるで鼓膜が痛くなるんじゃないかってぐらい強まった。


 やがて、目の前にお城が見えてきた。



「ここまでね……」



 ところがなぜか魔法のほうきがゆっくりと降下し始める。

 僕は突然のことにその理由をリズに尋ねた。



「どうしたの? もう少しでお城だよ?」


「違うの。これ以上は無理なの」


「え? どうして……?」


「よく見て。城壁のあちこちに大砲が顔を覗かせてるのがわかる?」


「……大砲?」



 そう言われ、僕はお城の方を向いて目を細めた。


 すると、リズの言うとおり城壁の見張り部分にズラリと大砲が並んでいるのが見えた。あの中に攻め入った敵がこちらの存在にまだ気付いてないと思うけど、もし気付いていてお城の中をあらかた占領しているようならひとたまりもない。


 僕はリズが懸念した理由に気付かされた。



「確かにあれじゃあ近づけないね」


「ええ。だから、ここからは歩きよ。できるだけ敵に見つからないように進みましょ」


「わかったよ」



 とリズの提案に同意して、狭い裏路地に降り立つ。


 その際、用心のために周囲を見回した。

 こういうところを敵に見つかったら、本当にやっかいなことになるからね。



 それから、僕とリズは敵に見つからないようにしてお城までの道をひた走った――が、路地を出て少し走ったあたりでバッタリと敵の兵士と遭遇してしまった。



「貴様ら市民かっ!?」


「ヤバいっ! 逃げよう!」



 僕はおもわずリズの手を引いて、お城とは逆方向に駆けだした……まあどのみちお城の方向に行けば、敵に遭遇する確率が高いんだ。

 上手に逃げ回って、どうにかたどり着くしかないよね。




 そう思って走り出した直後のことだった。



「ぐわっ!」



 と、さっきの敵の兵士らしき男の悲鳴が上がる。


 僕はその声に足を止めて振り返った。

 すると、見慣れた2つの顔がそこにあることに気付かされた。しかも、その2人は鎧に剣という出で立ちをしている。



 僕はおもわずその姿に「あ!」と声を上げてしまった――なぜなら、そこにいたのがロッテさんとヴェラさんだったからだ。



「ロッテさんっ!? ヴェラさんっ!?」


「あれ? ジュリアン君?」


「ジュリっち? こんなところでチョビなにやってるッスか?」


「それはこっちの台詞ですよ? 2人はいったいここでなにを?」


「なにをって……見ての通り敵と戦ってるのよ。そしたら、市民が敵にさらわれそうになってたから、助けてみたらジュリアン君だったってわけ」


「というか、ジュリっちはアルマっちと一緒じゃなかったんスか?」


「あ、そうだった! 実はいま襲ってきてる敵の勢力にアルマが捕まったんです!」


「え? アルマさんがっ!?」


「それホントッスか?」


「――はい。それで僕たちお城に連れ去られたと聞いて、一緒に連れ戻しに行くところだったんです」


「なるほど……。でも、お城はいま公国騎士団と敵の勢力がひしめき合っていて、剣を持っていない人間が近づけるような状況じゃないわ」


「そんなにマズい状況なんですか……?」


「いま現在公国騎士団が公王様のいる離宮をなんとか守ってる状況ッス……。でも、それも戦力不足のせいで破られそうなんスよ」


「なんとかならないんですかっ!?」


「落ち着いて。私たちもアルマさんのことは心配だわ。だから、これから私とヴェラで救出に向かうわ」


「ちょ……ロッテ。それ大丈夫なんッスか?」


「仕方ないでしょ? アルマさんが捕まっちゃった以上、助けてあげないわけにもいかないじゃない」


「とはいえ、セシルがいない状況で……」


「……セシル?」



 とおもわず僕はヴェラさんの言葉に反応してしまった。




 そう――セシルのことだ。




 なぜこの場にセシルがいないのか?

 確かに戦闘をしていれば、はぐれてしまう可能性だってあるかもしれない。だけど、白薔薇騎士団きっての精鋭3人が揃わないなんておかしい。


 僕はそのことについて聞いてみた。



「そうだ……セシルは? セシルはどうしたんですか?」


「セシルは隊長の補佐役として城へ行ったわ。残った私たちはほかの教会騎士団の連中と敵勢力の掃討に当たっていたの」


「そうだったんですか」


「こっちはなんとか片付いてきてはいるの。でも、どこからか湧き水のように沸いて出てくるから切りがないのよ」


「沸いて出てくる?」


「そうなの。だから、こんなにヴィエナが騒々しくなっちゃったってわけ」


「なるほど……」


「それより、アルマさんを救い出す方を急ぎましょ。おそらく隊長やセシルとも向こうで合流できるはず」


「あのっ! 僕たちも連れてってくれませんか?」


「ジュリっち。それはまたこの前みたいなことに――」


「もう勝手な行動はしません! ロッテさんとヴェラさんのお手伝いをするだけでもいいですから、一緒に行かせてください!」



 僕の言葉に2人はどう思っただろう……?


 2人は前みたいに戸惑ったような顔をしている。そして、いつも共にいるせいなのか互いに顔を見合わせて無言で意思を確かめていた。

 僕はそんな2人をうらやましく思いつつも、救出の手助けができるのかどうか返事を待った。


 ところが――



「教会騎士団ディートリッヒ隊所属の両隊員にリーザロッテ・マリア・フォン・アメルハウザーが命じます。ジュリアン・ベーレンドルフを私の従者として認め、城までの案内とアルマ・アーベルの救出をお願いします」



 突然、横に立っていたリズがそんな言葉を発する。

 僕はビックリしてリズの方に顔を見遣った。



「リズっ!? 身分を明かしちゃっていいの?」


「そんなこと言ってられる状況? いま私たちが論争することはそんなことじゃないでしょ?」


「いや、そうだけど……」



 リズも大胆だなぁ~。

 少なくとも高位にある人間だってことは自覚してるだろうし、そのせいで危険にさらされることだってある。それを踏まえて、きっとアルマのために自らの正体をさらしたんだ。

 手放しに賞賛せざるえないよ。


 僕がそんなことを考えていると、とっさに別の事柄が発生していた。それはさっきまで同じように立っていたヴェラさんとロッテさんが急に跪いて頭を地面に向けていたからだ。



「以前よりもしやと思っていましたが、やはり公女殿下あられましたか」


「先日の技巧祭のときは大変失礼な態度を取って申し訳なかったと思ってるッス」


「えっ? えっ? 2人ともどうしてそんなにかしこまっちゃうんですか?」


「馬鹿っ! 公女殿下の御前よ? ジュリアン君も早く頭を下げなさい」


「そうッスよ!」


「いや、だけど僕は……」


「いいから早くっ!」


「は、はいっ!」


 ……って、僕はタメ口でいいって言われたばっかりなんだけどなぁ~。にもかかわらず、2人の勢いに負けてひれ伏しちゃった。


 しかし、それをなだめるようにリズが「3人とも顔を上げて」と言ってきた。



「いまはリズ・マーガレッタという魔法使いを目指す少女なの。城内以外で私にかしずくのは禁止ね」


「し、しかし……。殿下はいま王女としてご命令されたではありませんか」


「それはそれ、これはこれよ――ともかく2人ともジュリアンと同じようにタメ口でしゃべってちょうだい。これじゃあ私の方が話しにくくてしょうがないわ」


「……わかったッス」


「うっ……。そう言われちゃったら仕方ないわよね……私も了解しました」


「ありがとう。わかってくれれば結構よ」



 なんかスゴい! リズが2人を納得させてるところをみるととても頼りになる気がする……もちろん、普段頼りないとかそういう意味じゃないよ?



 リズはずっと魔法使いになりたくてガンバってるんだし、そういう意味で努力家だよね。



 僕は2人を説得してくれたことを感謝した。



「ありがとう、リズ」


「気にしないで。そんなより早く行きましょ」


「うん、わかってる!」



 僕は軽快な返事をして、みんなと一緒にお城へと駆けだした。





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