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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第四章「僕が僕であるために」
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ジュリアン、故郷に帰る?/其の壱


 早朝、僕ははかない夢をナップサックに詰めて帰郷することにした。


 きっと今頃アルマは夢の中だろう。

 起こすと悪いし、喧嘩のこともある。なんだか謝って帰るなんてのが気まずくて、僕はアルマに別れを告げずに帰郷することにした。



「さよなら、アルマ」



 ポツリとアルマへの別れを告げる。




 それから、吹き抜けになっているアーベル家全体を見回して、ここで過ごした数ヶ月間を思い返す。




 浮かんでくるのは、マルティンさんが真剣な表情で靴の制作に取り組んでる姿とそこへアルマがお茶を持ってやってくる姿。

 さらに僕が外から帰ってきて、2人に「おかえり」と出迎えられる。

 そして、3人で楽しい1日を過ごし、楽しい一日を終える毎日がいまではいとおしい。僕にとって、まぶたの奥で蘇る日々はわずかな時間だったけど、とてもかけがえのない時間だったと思う。






 けれども、もうお別れしなくちゃいけない――目を開けて、ベッドから起き上がらなきゃ。






 僕は扉を開けてアーベルの家をあとにしようとした。



「――ジュリアン」



 ところが背中越しに呼び止められてしまう。

 僕は突然のことに呼応して、足を止めざるえなかった。



 でも、声の主は確認しなくてもわかる――アルマだ。



 声の調子からすると、僕が出て行こうとしていることに驚いて、おもわずつぶやいてしまったように見える。少なくとも背中越しに伝わるアルマの声はそうした感じだった。



「……起きてたんだ……ね……」


「どこ行くの? ねえまさかは思うけど、その荷物……」


「その通りだよ、アルマ」


「ウソ……でしょ……どうして……よ……っ!?」


「……どうしてもこうしても、僕はもう騎士になる夢をあきらめたから」


「たった一度セシル様……じゃなくて、セシルのヤツにボロクソに言われたからって、そんなに簡単にあきらめちゃうの?」


「そんなこと言われてもなぁ~、セシルの言ってること自体間違ってはいないんだよ? 正直僕は夢に対して甘く見すぎてたんだ」


「そんなことないっ! ジュリアンは夢に対して一生懸命だったじゃないっ!?」


「……ありがとう、アルマ」



 なんかうれしい。


 一昨日まで喧嘩してたはずなのに、こんなに優しくしてくれるアルマはホントいい子だよ。確かに僕より年下ではあるけれど、しっかりしてて頼りがいがある。そのうえ、お母さんみたいだから、きっといいお嫁さんになれるよね。




 でも、僕は決めたんだ――アルマがなんと言おうともう夢をあきらめる。




 だから、僕はアルマに対して別れを告げることにした。



「もう決めたことなんだ――この数ヶ月間、いろいろとありがとね」


「ダメよっ、ジュリアン! まだあきらめちゃダメ!」


「……ううん、ホントにもういいんだ。だから、もうこれでお別れだよ」



 そう言って、僕は一方的に会話を打ち切った。

 すぐに外へと出て扉を閉める。そして、アーベルの家を振り返ることなく、ヴィエナの街中を通り抜けて故郷に繋がる一本道を歩き出した。




 もちろん、悲しくなかったわけじゃない。実際、僕は何度も後ろを振り返りそうになった――でも、こらえた。




 だって、いま後ろを振り返っちゃったら、騎士になるという夢をあきらめきれずに戻ってしまいそうだったんだもん。そんな気持ちをいまさら心の奥底から掘り返すなんて虫が良すぎるじゃないか。






 ホントはあきらめちゃったことを嘆きたいよ? 泣き叫びたいよ?






 でも、それをしたら僕があきらめたことまで否定することになる。だから、僕は拳を握って後ろを振り返らないよう我慢することにしたんだ。



 その覚悟を胸にひたすら歩き続ける。



 気がつけば、僕はヴィエナが遙か遠くで小さくなって見える街道に立っていた。振り返って眺めるヴィエナは町中にいたときの大きくて広いというイメージを一変させた。

 それは僕の夢と同じくしぼんでしまったかのようだった。



「……ここから見ると、なんて小さいんだろ?」



 あの中にいたときは「すごく大きな街だなぁ~」と感じていたのに……って、いかん、いかん。これ以上感傷に浸っちゃうと戻りたくなっちゃうよ。



 僕は足を翻して再び街道を歩き始めた。



 ところが数メートル歩いたところで、前方に2つの人影に気付く。

 2人のいた場所は沿道の田畑を耕すための半ば休憩所のような場所になっていた。それを見て僕は畑仕事にいそしむご夫婦が休憩しているのかなと思った。


 だけど、近くまで寄ってその姿を確かめると見覚えのある姿形だったことに驚かされた。



「エフィさんっ!?」



 そう、そこにいたのはフクロウの止まり木亭のエフィさんだった。しかも、隣に立っているのは以前エフィさんの恋人と疑ってしまった男性だ。



 ……あれ? ってことは、2人はやっぱり付き合って――



 いや、そういう雰囲気じゃない……目の前で接する2人からは別のなにかを感じる。


 僕がそうして考え込んでいると、エフィさんの方から話しかけてきた。



「――久しぶりですね、ジュリアン君」


「どうして、こんなところに……?」


「そんなの簡単ですよ。アナタが来るのをずっと待っていたんですもの」


「待ってた……? 僕を?」


「ええ。正直驚くかもしれませんが、私はアナタのことを影からずっと見守っていたんですよ」


「どうしてエフィさんが僕を見守る必要があるんですか?」


「……どうしてでしょうね? ただなんとなくアナタを見ていると応援してあげたいという強い気持ちに駆られるんですよね」


「は、はあ……」


「まあそんなわけもありまして。私もこれから本国へ帰還しなければならないということもあって、個人的なわがままといいますか、最後にアナタに言っておきたいことがあってここに来たんです」


「僕に……ですか……?」


「ええそうです。つまり、私が言いたいのはそんなに簡単に夢をあきらめてしまっていいんですかということですよ」


「それは……」



 確かにエフィさんに言うことはもっともだ。


 でも、僕は一度あきらめた人間――


 さっきまでそう思って、故郷に帰ろうと思ってたんだ。でも、そんなことを言われたら、心のどこかで後ろ髪を引かれる思いがしてたことを気のせいにできないじゃないか。



 だから、僕はエフィさんになにごともなかったかのように笑って返答した。



「い、いやだなぁ~もう騎士なんて未練ないですよ~。だから、僕は大人しく実家に帰ったら領地の畑で農作業でもしようかと思ってたところなんです」


「ホントにそう思ってるんですか……?」


「当たり前じゃないですか。自分の正義振りかざして騎士になるなんてごっこ遊びは終わりにするんです。故郷に帰ったら農夫ジュリアン・ベーレンドルフですよ!」


「ホントのホントにいいんですか?」


「もうっ、しつこいなぁ~。ホントに未練なんてありませんって」



 僕はとっさに愛想笑いを浮かべた。




 なぜかって……?




 そりゃもちろん夢への想いがぶり返しそうになったからだよ。エフィさんがしつこく「ホントですか」なんて聞くから、おもわず首を横に振りそうになったじゃないか。



 ホントにいいんだ、もう終わったことだし……………………うん。



「ですけど、ジュリアン君はどうしてそんなに悲しそうなんですか?」


「……え?」



 なにを言ってるの、この人。

 僕が悲しんでるって……んな馬鹿なぁ~、あるワケないじゃない。この通り夢も吹っ切って、身体も飛び跳ねたくなるぐらいピンピンだよ。



 それを証明しようとエフィさんの前で飛び跳ねて見せた。



「なに言ってるんですか。僕は全然元気ですし、ちっとも悲しくなんてないですよ」



 どう? この跳ね上がりっぷりは。


 身体の調子が言い分、助走なしでこの跳躍時間だよ。自画自賛だけど、おかげで近年まれに見る飛びっぷりを披露できた気がする。




 僕はそれをエフィさんに誇ってみせた。



「ほら、この通り……じぇんじぇん元気らないでぇすがぁ~」


「無理しなくていいですよ。アナタ、さっきから涙を流すまいとこらえてるじゃないですか」


「ぞんなばけありばぜ――」


「ジュリアン君、悔しかったらもう泣いていいんですよ」


「う"わ”ぁぁぁあああああ~んっ!!」



 ……やっぱり、訂正。





 ああ悔しいよっ、悲しいよ!!

 すっげえ夢なんて諦めたくねえよ!!





 だけど、どうして……どうして僕は言い訳なんかしてるんだ? 自分勝手な行いをして、セシルに決闘に負けて、ホントはそれで諦めるつもりなんかなかったのに。



 でも、あのときあのツラさをもう味わいたくないって思っちゃった……どうしようもなく、もう辞めるって思っちゃったんだよ。

 だから、全部吹っ切ってここまで来たのに……エフィさんの意地悪。




 そう思ったら、涙が止まらない。

 気がつけば、僕は膝をついて道ばたで大泣きしていた。






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