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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第四章「僕が僕であるために」
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決闘。セシルVSジュリアンっ!/其の弐


 それから、3日後。

 僕たちの決闘は大勢の観衆が集まった凱旋広場で始まった。



 最初、僕は改めてこの決闘の意義を問いかけた。だけど、セシルは「男に二言はない」と言って目の前で剣を引き抜いてみせた。

 それが本気であることを知り、僕は覚悟を決めざるえなかった。



「どうしてもやらなきゃダメなんだね?」



 その問いにセシルは黙って頷く。


 僕はそれを見て、セシル同様に剣を引き抜いた。




 相対するセシルが正眼の構えを見せる。僕は呼応するように同じく剣を真っ正面に構え、攻めるがタイミングをうかがった。


 さすが僕の剣の師匠というべきか、セシルにはまったくスキがない。むしろ、こっちが蛇にニラまれたカエル……いや、もっと誇張して虎にニラまれたウサギといった感じかな?

 それぐらいセシルは僕なんかより剣術に秀でていたし、なにより強かった。





 だから、この戦いでできることは一矢報いること。





 僕はとっさに剣を持って駆け出した。

 そして、セシルも前まで行くと力強く剣を振り下ろした。当然、セシルがそんな一撃でやられるようなヤツじゃないことは知っている。



 さらに連続して鋼鉄の刃を叩きつける。



 そのたびに鋭利な音が響いて、相対する僕らの激しい戦闘を演出して見せた――が、それは僕の思い込みだった。




 次の瞬間、僕の剣はセシルが放った一撃によってなぎ払われた。




 それにより、連続して打ち込み続けていた僕の勢いは失われ、反対にセシルから猛るような切り返しの反撃を食らってしまう。

 僕はそれを受け止めるのに精一杯になった。



 最中、セシルが話しかけてくる。



「どうした? 毎日鍛えてるときの威勢の良さはどこに行ったっ!?」


「……くっ」


「オマエの実力はそんなもんかっ?」


「ま、まだ……!」


「それとも騎士になりたいという夢そのものがそんなモノだったのか?」


「……違う……僕の夢はそんなに安くない……」


「だったら、俺を打ち負かせてみろっ!! 俺を倒してみろよっ!! オマエの夢が本物であるんだって、きっちり証明してな!」


「わかってるよ、そんなのっ!!」



 半ば僕たちの会話は言い争いだった。


 僕は未だにセシルがどうして決闘しようなんて思ったのかわからない。僕たちはお互い同じ道を歩んでいく仲間だったはずなのにたった一度の失態でこんなにも違えてしまった。



 いったいどうしてなんだろう――どうして僕はセシルと戦っているんだ……?



 僕はその疑問が解けないまま剣を振るうしかなかった。


 やがて、セシルが全身を使ってタックルしてくる。その勢いに負けた僕は後方へのけぞる形となり、完全にバランスを崩してしまった。

 慌てて体勢を整えようとする――が、それより早く銀色に輝く刃が左の目元に現れる。





 セシルの手にした剣の切っ先だった。





 僕は目の前に現れたその冷たい鋼に押し黙った。

 「すぐにでも顔を切り裂いてやる」と言わんばかりの剣先はセシルの獲物を狩る虎のような目つきも相まって、ゾッとするような恐怖を覚えさせられた。まるで僕と稽古してたときは、子供に優しく物事を教えていたみたいでいまの顔つきは別人のモノのように思える。





 ……これ、ホントにセシルなの?





 僕は我を疑った。

 これが本気になった騎士の顔、これが本気になったセシル。それを考えるだけで、僕は尋常じゃないモノと相対してるんだってことを教えられた。



 ふとセシルが剣を退く。なぜだかはわからなかったけど、ただ1つセシルがまだ僕を許していないことだけはわかる。



 僕はすぐにその意味を問いかけた。



「なんで剣を退いたの……?」


「言わなくてもわかるだろ。俺はこれで終わらせるつもりはない――オマエの自信を完膚無きまでにたたき壊して、騎士になるなんて夢から目を醒まさせてやるんだ」


「……どうしてセシルがそんなことをしなきゃいけないんだよっ!? 騎士になる夢は僕のモノだ……それを他人であるセシルが壊していいわけないじゃないか」


「壊しちゃいけないだって……? 笑わせるな、あれだけ命令されておきながら自分勝手に行動してホントに許されると思ってたのかよっ!?」


「そ、それはマルティンさんを助けたい一心で――」


「それに関してもヴェラさんに一任すると約束しただろ? 隊長からは待機を命じられてたんだろ――なのに、なんでなに1つ約束を守れないんだよ!」


「…………」


「結局、オマエは自分の勝手で動いたんだ。騎士としてではなく、ただのジュリアン・ベーレンドルフとして勝手に行動したんだ」


「ち、違うっ! 僕は騎士として正義の名のもとに……」


「そんなつまんねえ正義なんか捨てちまえっ!」



 そう言われた瞬間、僕の中でなにかが壊れた気がした。


 それは僕にとってかけがいのないモノで、それを持っているだけでいつまでも夢を追い続けられると思えた。



 スゴくかけがえなくて、スゴく大切なモノ――「希望」。



 子供の頃、ただ遊んで大人になるんだと思っていた僕に夢をつかむすばらしさを教えてくれたその光はいつまでも煌々と前を照らしてくれているんだと思ってた。






 だけど、壊されちゃった……






 それがあったから、夢の場所までたどり着けると思っていたのに僕の謝った行動のせいで輝きを失ってしまったみたい。



 ……ハハハ、なんだろ? この残念な結末は。



 とたんに力が入らなくなり、僕は打ちひしがれるようにその場で膝を突いて倒れ込んだ。さらに脱力した手から抜け落ちた剣が無情な音を響かせた。

 それを聞いただけで、自分はもう戦えないことを知った。



 ……いや、いまの僕にそれは必要ない――いまは虚無感に包み込まれてればいいんだ。



 そう思ったら、なんだか悲しくなってきちゃった。

 僕の夢っていったいなんだったんだろう?



「どいてっ!」



 突然、聞き覚えのある声が聞こえてくる。


 それは目の前に現れるまで誰だかわからなかった。だけど、現れた人影がアルマだってわかった瞬間、僕は自分のふがいなさを笑いたくなった。



 だから、アルマに向かって自嘲しながら言ってみせた。



「やあアルマ。結局負けちゃったよ」


「しっかりしなさいよ、この馬鹿ジュリアンっ!」


「…………」


「ホントにここであきらめちゃうの?」


「……あき……らめる……?」


「ホントにこれでいいの……? アイツに負けても悔しいとか思わないの?」


「あれ? 僕、セシルに負けて悔しいのかな……?」



 わからない――


 しかも、よくよく考えると戦わずにただ理由を聞けばよかったんんじゃないか?

 なんだよ、これ……ホント自分の馬鹿さ加減がイヤになる。



 そうしてあれこれ考えていると、急にあたりが暗くなった。

 たぶん、視界が覆われたんじゃなくて、単純に意識が遠いのいたんだろう。目の前ではアルマとセシルとおぼしき2人が騒いでいる。



「ジュリアンっ!?」


「やめておけ」


「……セシル……アンタ……」


「もうソイツになに言っても無理だ――所詮、夢は夢。階級社会のこの世の中で田舎の貧乏貴族が夢だけ語って上京してくるなんざ、結局自分への甘えでしかないんだ」


「なにもそこまで言わなくてもいいでしょっ!」


「そういう君には夢はあるのか?」


「私? 私はいまを生きてるので精一杯よ。でも、ジュリアンみたいな人が夢を追いかけ続けてるのってたいしたものだと思うわ」


「アルマ、君は現実的だね。確かに夢はすばらしい」


「ええ、私もそう思うわ」


「けれど、破れたときは残酷だ。技量もチャンスも恵まれないモノが何年もあがいても、最終的に騎士になるのは川辺の石ころの中から小さなダイヤを見つけるようなモノだ」


「…………」


「それをわかっててジュリアンは志した――そのことに関しては敬意を表するよ」


「……ジュリアンを馬鹿にしてるの?」


「馬鹿にしてなんかいねえよ。でもな、なれない現実だってあるってこともこれでわかったはずだ。特に彼の場合、功を焦って自らなれるチャンスを踏みにじってしまった。それではなんの意味もなかったってことだろ?」



 やめろ、やめろ、やめろっ!

 人が考え込んでる前でそんな話をするな!



 セシルの放つ言葉が耳にいたい、胸に突き刺さる、まるで心臓に無数の針が刺さったみたいだ。




 その針にもがき苦しみ、自ら耐えている――いまの僕の心境はそんな風な感じ。おかげで見たくもない現実に引き戻されちゃった。




 僕は心の痛みに耐えかね、おもわずセシルに向かって叫んだ。



「もうその話はやめてくれっ!」



 気でも触れたのかとでも思ったんだろう。

 ニラみつけて見るセシルとアルマは呆然と立ち尽くしていた。


 どうせセシルは最初から僕を馬鹿にしてたんだ……。この際、ハッキリ言ってもらった方がスッキリする。

 僕はじっとセシルを見ながら話をした。



「セシル、ハッキリ言ってくれ――僕は騎士になれると思うかい?」


「なれない……いや、オマエみたいなのはなっちゃいけない」


「そっか……なっちゃいけなかったのか……」


「やめて、ジュリアンっ! ソイツの言うことをまともに聞いちゃダメ」


「……いいんだよ……アルマ……ホントにもういいんだ……」



 これでスッキリした。

 所詮、僕の夢は夢でしかなかったんだ――それをハッキリわかっただけでも良かったと思う。




 僕はゆっくりと立ち上がり、地面に落ちた剣を拾って鞘に収めた。それから、腰元に据えると一路オリーヴェに向かって歩き出した。



 とっさに後ろからセシルに話しかけられる。



「おいコラ、逃げるのか……?」



 僕はその答えに少し迷った。

 でも、セシルの勝ちにわかりはなかったので、振り返ることなく足を止めて答えた。



「……君の勝ちでいいよ。僕はもう騎士になる夢をあきらめたから」



 気付けば、あたりが静まりかえっていた。しかし、そんな静寂を気にすることなく、僕は再びオリーヴェへと帰る両足をゆっくり動かした。





   

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