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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第三章「騎士になれなかった騎士」
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自警団、みたびっ!?/其の弐


「あのぉ~そろそろ帰っていいですかね?」



 僕を逮捕できないっていうだけでしょぼくれる大人。

 それもどうかと思うけど、第一怪盗ケヴィン……じゃなくて、デメトリオさんがなんの根拠もないのに逮捕しようするのが悪い。




 にもかかわらず、僕が悪いみたいなこの状況。




 一応、デメトリオさんの部下のお二人が慰めている……こんな上司を持つ2人も大変そうだなぁ~。

 僕は帰りづらい状況に様子を見ている以外に選択肢はなかった。



 しばらくして、デメトリオさんは元に戻った。

 部下のお二人のおかげというべきかもしれない。しかし、デメトリオさん本人は復帰早々、僕を逮捕するぞと息巻いている。


 ……あぁ~あ、こりゃ当分帰れそうにないな。


 などと思っていると、デメトリオさんが話しかけてきた。



「さあ再開しようじゃないか、我が愛しの容疑者よ」


「あの、僕やっぱり容疑者なんですか?」


「当たり前に決まっておろう」


「さようですか……」



 僕は途方に暮れ、天を仰ぐしかなかった。しかし、そんな空を眺めていると徐々にこちらへと近づいてくる物体があることに気付いた。





 ……あれ? この展開って前にもあったような。





 デメトリオさんたちを無視し、空から降ってくる物体に目を凝らす。



「もしかして、またリズ?」



 いや、間違いない――降ってきているのはリズだ。

 段々近づいてくるにつれ、その姿がハッキリとしてきた。しかも、この前みたいに魔法のほうきを操りきれていない様子。



 さらにその姿はもの凄いスピードで大きくなっている――



 このままだとぶつかっちゃう……と思ったけど、よくよく観察してみてみると今回ぶつかるのは僕じゃなさそうだ。

 すぐに落ちてくる角度からも判断できたよ。




 じゃあいったいどこかっていうと――その答えは簡単。



「うぎゃぁぁぁああっ!」



 落ちたのは、デメトリオさんたちが立っていた場所でした……よかったぁ~僕じゃなくて。ついでにリズも助かってよかったよ。



 うん、これで万々歳だね。

 あの人たちには悪いけど、日頃から僕を付け狙うようなことするから悪いんだ――いい気味だよ。


 僕はデメトリオさんたちを哀れむことなく、その背中に乗るリズの元へ向かった。



「いたたた……」


「大丈夫、リズ?」


「ええ。今度はほうきの調子が悪かったみたい――最悪だわ」


「なんだか魔法使いも大変だね」



 と言って、リズに手を差し出す。


 リズはすぐに僕の手を取って身体を起こした。それから、そばにある橋ゲタに腰掛けて痛みが退くのを待ち始めた。



「そういえば、聞いたわよ」


「えっ、なにが?」


「ディートリッヒ伯爵が率いる白薔薇騎士団に入団したんですって?」


「……ああ、その話ね。うん、少し前にテレジアさんに誘われて入ったんだよ」


「そっかぁ~よかったじゃない?」


「ありがとう」


「これで騎士になる第一歩を踏み出したわけね」


「まあそうなんだけど……。でも、僕がなりたいのは公国騎士団の騎士なんだ」


「そんなに公国騎士団がいいの?」


「もちろんだよ」



 それを口にしたとたん、僕はセシルが言っていたことを思い出してしまった。




 セシルがされたこと、公国騎士団の腐敗――――信じたくはないけど、現にそういうことがあるんだってことを教えられた。




 それでも、僕は王様に仕える騎士になりたい。

 確かに教会を守るための騎士もアリなのかもしれないけど、叙勲されて立派に務めを果たせるのがホントの騎士なんだと僕は思う。



 だから、僕はリズに対して胸を張って言いたかった。



「白薔薇騎士団に入れてくれたテレジアさんには感謝してるよ。だけど、僕のなりたい騎士は王様に剣の忠誠を誓ってみんなを守る騎士なんだ。それを実現するためには、やっぱり公国騎士団に行かなきゃって思うんだ」


「……ステキな夢ね……」


「そういうリズこそ将来はシーデルさんみたいな魔法使いになりたいんでしょ?」


「もちろん――と言いたいところだけど、まず大きな壁があるからなぁ~」


「……なに? その壁って?」


「ううん、なんでもない。だけど、なりたいのは事実よ。私は魔法が戦争やモンスターを倒すだけの技術じゃないことを先生と一緒に証明したいの」


「なら、リズにとってはそれが夢なんだね」


「ええそうよ。お互い違う夢に向かって歩いているけど、一緒にガンバりましょ!」


「そうだねっ!」



 ……なんだか夢を語り合うって楽しいかも。


 確かにリズは僕とは違う夢を抱いているかもしれない。けれども、目標に向かって突き進むという点では一緒だから同じ苦しみや楽しさなどを共有できる。



 それってスゴイことなんじゃないかな……?



 とっさにリズが腰掛けていた橋ゲタから降りる。


「――さてと。そろそろ学校に戻るわ」


「もしかして、授業中だったの?」


「ええ……。ただ私1人のほうきに関する居残り授業なの」


「……ああなるほど、道理で上手に乗れないワケだ」


「な、なによ~っ!?」


「いやぁ~。だってリズってば、ほうきに振り回されてばっかりじゃないか」


「それはグリフィンドールのせいだったり、ほうきのせいだったりするわけで私のせいじゃないわ!」


「気持ちはわかるけどさ。結局、リズの管理の悪さも相まってのことじゃないの?」


「もうっ、ジュリアンの意地悪っ!」


「……ゴメン、ゴメン。だけど、そんなつもりはないんだ」


「じゃあどんなつもり?」


「う~ん、どんなつもりって言われると……」


「ほらやっぱり……。ただの意地悪じゃない?」


「ゴメンっ、僕が悪かったよ」


「まあいいわ。確かに私の管理の悪さもあるしね」


「……ホントにゴメン」


「もう気にしてないから、そんなに謝らないで」


「わかった、次から気をつけるよ」


「とりあえず、そろそろ帰るわね」


「おやすみなさい、リズ」


「おやすみ、ジュリアン」



 そう言うと、リズは新市街の方向へ去っていった。



 僕はリズの後ろ姿が見えなくなるまで手を振ると、再びアルマの家である靴屋オリーヴェに向かって歩き出した。






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